25 / 25
25.絶対に捕まえてみせる
しおりを挟む
「ん……、すきぃ……」
呼吸を整える合間に呟く藍音の頬に、驚くほど優しいキスが降ってくる。ナツが求めているのは藍音自身ではなく体に宿す精気なのに。愛されていると錯覚しそうな口づけはズルい。
しかも、
「すっげー満たされた……。もうアイネがいないと生きてけない」
そんなことをご機嫌な顔で言うものだから、紛らわしい事この上ない。
それでも抱き締める腕を解くことなんか出来ないこの身は、状況を受け入れるほうが良いのだろう。
執着の対象が精気でもいい。そう、今はまだ。藍音もナツも、未来はまだまだ長いのだから。
「他の子を食べたら、もう二度と精気あげないんだから……」
「食べないって。そんなに不安なら本格的に契約してやるよ。アイネこそいいのか? 本当に俺を独り占めしたい?」
「契約は考えとくけど……。したい」
天使が上位に立つ隷属魔法は別だが、悪魔との契約なんて立場上あり得ない。
だけど独り占めしたいに決まっている。再度の確認なんかしないでほしい。
むうっと眉を寄せて見上げると、赤い目がホッと緩む。
「そっか、よかった」
今まで見たことがないほど無防備な笑顔は反則級だ。それだけで単純な藍音もつられて笑ってしまいそうになるから、何もかもが本当にズルい。
緩んでしまいそうな顔を誤魔化すためにプイと横を向く。そうすると頬にキスが落ち、はむはむとくちびるで柔らかなほっぺを挟まれた。
甘いじゃれつきというより、まさに食べ物扱いされている気がする。
それでも甘えるような仕草は嫌ではない。むしろ可愛いなんてときめく胸は末期である。
くすぐったさに肩をすくめたら、べろりと舐められて再びしっかりと抱き寄せられた。
というより、がっちりと捕まえる腕は絶対に抜けられそうにない。どことなく不穏な予感がする。
「あの……、ナツくん?」
「藍音がそう言ってくれて本当によかった。俺、大食いなんだよな」
「んん?」
大食い。頭の中で繰り返した藍音の顔がひくひく引きつった。
そういえば藍音の知識上、淫魔は数か月ほど精気を得なくても生きていけるはず。
ナツが実際にどれくらいの頻度で獲物を狩っていたのかは知らないけど、何度も違う女性を連れていたことは知っている。
(大食いって……。いや、無理でしょ……)
ナツの安堵した笑顔の意味がわかり、藍音は無意識に腕から逃れようとする。
藍音だけを見て、藍音だけを求めて欲しいし、他の女に渡すなんて絶対に嫌だ。だけど体力的な問題はまた別の話である。
しかし強固なナツの腕は離れることを許してくれない。これが甘い理由なら喜んで身を任せるのだが。
「もちろん満たしてくれるんだろ? 期待してるよ、アイネ」
囁く声は甘いのに、漠然とした恐怖で背中が震えた。
それでも上級天使である藍音が本気で対抗すればナツを調伏することは可能だし、彼が付けた印ですらおそらく消すことは容易だ。
でもそんな選択はこの先訪れることはない。雁字搦めに捕まっているのは自分の意志だから。
「私だって……、絶対に捕まえてやるんだから。愛してるとか、好きとか、たっくさん言わせてやるわ。覚悟してよね」
精気だけじゃなく、藍音自身に執着させて、ドキドキさせて、嫉妬もさせて、ひと時も離れたくないと思わせてやる。
気まぐれなナツを翻弄するのはおそらく至難の業だろう。しかし、こちとらロクでもない男にばかり惚れてきた歴を持っている。
今までの経歴を思い返せば、契約という奥の手があるナツは一番信用できるのかもしれない。
悔しい目でジトリと眺める藍音を、厄介な男は面白そうに見つめ返す。
「ふーん、面白そうだな。それも期待してるよ」
「なによぉ。余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。こっちにはとっておきの隷属魔法だってあるのよ。約束破ったら強制的に主従契約を結んでやるわ」
「こわ……。天使ってやっぱ性格悪いよな」
明確な断りなどなく魔法を作動させたくせに、ナツは本気で嫌な顔をする。
勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしで、気まぐれで、しかも悪魔。
だけど勝負は手強いほうがいい。長期戦は覚悟の上だ。それに藍音の勘はよく当たる。
いつか来るであろう勝利の予感にニンマリ笑った藍音は、お返しとばかりに滑らかな頬を甘く噛んだ。
呼吸を整える合間に呟く藍音の頬に、驚くほど優しいキスが降ってくる。ナツが求めているのは藍音自身ではなく体に宿す精気なのに。愛されていると錯覚しそうな口づけはズルい。
しかも、
「すっげー満たされた……。もうアイネがいないと生きてけない」
そんなことをご機嫌な顔で言うものだから、紛らわしい事この上ない。
それでも抱き締める腕を解くことなんか出来ないこの身は、状況を受け入れるほうが良いのだろう。
執着の対象が精気でもいい。そう、今はまだ。藍音もナツも、未来はまだまだ長いのだから。
「他の子を食べたら、もう二度と精気あげないんだから……」
「食べないって。そんなに不安なら本格的に契約してやるよ。アイネこそいいのか? 本当に俺を独り占めしたい?」
「契約は考えとくけど……。したい」
天使が上位に立つ隷属魔法は別だが、悪魔との契約なんて立場上あり得ない。
だけど独り占めしたいに決まっている。再度の確認なんかしないでほしい。
むうっと眉を寄せて見上げると、赤い目がホッと緩む。
「そっか、よかった」
今まで見たことがないほど無防備な笑顔は反則級だ。それだけで単純な藍音もつられて笑ってしまいそうになるから、何もかもが本当にズルい。
緩んでしまいそうな顔を誤魔化すためにプイと横を向く。そうすると頬にキスが落ち、はむはむとくちびるで柔らかなほっぺを挟まれた。
甘いじゃれつきというより、まさに食べ物扱いされている気がする。
それでも甘えるような仕草は嫌ではない。むしろ可愛いなんてときめく胸は末期である。
くすぐったさに肩をすくめたら、べろりと舐められて再びしっかりと抱き寄せられた。
というより、がっちりと捕まえる腕は絶対に抜けられそうにない。どことなく不穏な予感がする。
「あの……、ナツくん?」
「藍音がそう言ってくれて本当によかった。俺、大食いなんだよな」
「んん?」
大食い。頭の中で繰り返した藍音の顔がひくひく引きつった。
そういえば藍音の知識上、淫魔は数か月ほど精気を得なくても生きていけるはず。
ナツが実際にどれくらいの頻度で獲物を狩っていたのかは知らないけど、何度も違う女性を連れていたことは知っている。
(大食いって……。いや、無理でしょ……)
ナツの安堵した笑顔の意味がわかり、藍音は無意識に腕から逃れようとする。
藍音だけを見て、藍音だけを求めて欲しいし、他の女に渡すなんて絶対に嫌だ。だけど体力的な問題はまた別の話である。
しかし強固なナツの腕は離れることを許してくれない。これが甘い理由なら喜んで身を任せるのだが。
「もちろん満たしてくれるんだろ? 期待してるよ、アイネ」
囁く声は甘いのに、漠然とした恐怖で背中が震えた。
それでも上級天使である藍音が本気で対抗すればナツを調伏することは可能だし、彼が付けた印ですらおそらく消すことは容易だ。
でもそんな選択はこの先訪れることはない。雁字搦めに捕まっているのは自分の意志だから。
「私だって……、絶対に捕まえてやるんだから。愛してるとか、好きとか、たっくさん言わせてやるわ。覚悟してよね」
精気だけじゃなく、藍音自身に執着させて、ドキドキさせて、嫉妬もさせて、ひと時も離れたくないと思わせてやる。
気まぐれなナツを翻弄するのはおそらく至難の業だろう。しかし、こちとらロクでもない男にばかり惚れてきた歴を持っている。
今までの経歴を思い返せば、契約という奥の手があるナツは一番信用できるのかもしれない。
悔しい目でジトリと眺める藍音を、厄介な男は面白そうに見つめ返す。
「ふーん、面白そうだな。それも期待してるよ」
「なによぉ。余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。こっちにはとっておきの隷属魔法だってあるのよ。約束破ったら強制的に主従契約を結んでやるわ」
「こわ……。天使ってやっぱ性格悪いよな」
明確な断りなどなく魔法を作動させたくせに、ナツは本気で嫌な顔をする。
勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしで、気まぐれで、しかも悪魔。
だけど勝負は手強いほうがいい。長期戦は覚悟の上だ。それに藍音の勘はよく当たる。
いつか来るであろう勝利の予感にニンマリ笑った藍音は、お返しとばかりに滑らかな頬を甘く噛んだ。
2
お気に入りに追加
25
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる