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閨の練習相手10
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* * *
突然、ノックもなくドアが開いた。
「っわ、えっ」
ドアのそばにはレオンの姿。
「なんだ、起きてたか」
「はああああああ? あんたね、失礼すぎない?! 嫁入り前の乙女の部屋を勝手に開けるんて!」
着替え中じゃなくてよかった。それでもバスローブ姿というのには抵抗があるけれど。
「昨日は寝ていただろう」
「それは――まあ、そういうこともあるわよ」
「普通、初日の方が緊張で眠れないものだと思うけどな。乙女なら」
行くぞ、と言ってレオンが踵を返した。
これはゲームで、すべては全クリのため。そう思っていたのに、やっぱりこの男と今からベッドに入ると思うと平常心ではいられなくなってしまう。
(むっかつく!)
部屋に入ると、ソファに王子が一人ぽつんと座っていた。レオンとアリスの姿を認めるとすぐに腰を上げて笑みを作る。
「やあ」
「チェンジで!」
「え?」
「こいつ! 以外で!!」
レオンを指しながら言うと、王子は腹を抱えて笑い始めた。
「振られたね、レオン」
「こいつがガキなんです」
「はああ? じゃあガキならお役御免よね?! もっと大人な人を呼び直せば! っていうかさ、最初の説明では『結婚をする前に異世界から女性を召喚して相手をしてもらう決まりになって』るってことだったじゃない! なのになんでレオンなのよ!」
「あ、それを言ったのは僕だよね。ごめんね。僕が結婚をする前に教育係の相手をしてもらうって意味だったんだよ」
それならそうと最初から言えよ! と言いたかったが、優しい上に王子のルイに文句はつけられなかった。胸に溜まった不満をギギギと歯を食いしばって口内に留める。
「普通の神経をしていたら、言わなくてもわかると思ったけどな。どう勘違いしたら王子がお前に触れると思うんだ」
「なんかもうびっっっっくりするほど散々な言われようですけど?! でもこっちはこの世界のことなんかまったくわからないんだから、そっちが最初に懇切丁寧教えるべきだったのでは?! こちらがか・ん・ち・が・いする余地もないくらいに! 自分のやるべきこともやらずに相手を責めるってどういう了見なわけ!? そもそも勝手に呼び出したのはそっちなんだから、お相手をしてくださいお願いいたしますって床に額こすりつけて頼んだら!? この常識知らず!」
言いたいことを一気にぶちまけてすっきりした。
しかし、我に返ったところでルイの前で言うべきではなかったと焦る。
「あっ、これはレオンに対してであって、別に王子に対しての文句とかじゃないので……」
その場しのぎにへらへらっと笑ってみる。しかしもう遅かった。
「ううん。全部アリスちゃんの言うとおりだと思う。申し訳ありませんでした」
土下座こそされなかったけれど、王子に頭を深々と下げられて思わず焦る。
「やっ、その、ほんとそんなつもりじゃ――そもそもレオンの説明不足のせいですから!」
「ううん。そうだったとしても、レオンにきちんと説明するように言わなかった僕が悪いです。ごめんなさい」
「や……もういいですから」
王子が謝っているというのに、どうしてレオンは何も言わないのだろう。それどころか澄ました顔で窓の外を見ている。
(子どもかよ!)
自分の失敗で上司に頭を下げさせておきながら!
レオンの横顔をねめつけると、ふいとアリスに向き直った。
「王子に頭を下げさせて気は済んだか」
「はあああああああああ?」
「こらこらレオン」
「あんたね! 誰のせいで王子が頭を下げたと思ってんのよ!」
「お前だろう」
「こいつ……!」
「ふふ、仲いいねえ」
「は?」
ついレオンに対する勢いのまま王子を見てしまった。しかし王子は楽しそうに笑っている。
「今日はもうそういう雰囲気じゃないよね。とりあえずさ、言いたいこと言って仲良くなろうよ」
「レオンと仲良くなれる気がしないのでチェンジで」
「親交を深めるのは業務内容に含まれておりません」
「私は給料だって――そうだ、お金! お金払いなさいよ! ちゃんと!」
レオンに向けて手のひらを出す。
「これじゃ買い物もできないんだけど!」
「必要なものは揃っているはずだ」
「あんたほんと女心をわかってないわね。プラスアルファよ! 街に出て買い物したいの!」
「だめだ」
「なんでよ! そんな自由もないってわけ!?」
「迷子になって戻ってこられなくなるだろう」
ならねえよ!
心のなかで言い返すが、たしかにここの土地勘はない。
「じゃあさ、二人で行ってきたらいいじゃない。デートデート」
王子に暴言は吐けない。無言のままレオンを見ると、彼もまた眉間にしわを寄せてアリスを見ていた。
「お小遣いは僕からレオンに渡しておくよ。アリスちゃんはレオンから買ってもらって」
「いえ、私は一人で――」
「女の子の一人歩きは危ないよ」
にこにこしながら言われると、その顔の良さが際立ってさらに何も言えなくなる。
「さ、ほら、さっそく行っておいで。今ならまだ屋台もやってるし。夜の街を歩くのも楽しいよ。レオンが一緒なら絶対に安全だから」
(一番危険な男がこいつなんですけど)
しかしにこやかな顔に見送られ、レオンと廊下に出ることになってしまった。
突然、ノックもなくドアが開いた。
「っわ、えっ」
ドアのそばにはレオンの姿。
「なんだ、起きてたか」
「はああああああ? あんたね、失礼すぎない?! 嫁入り前の乙女の部屋を勝手に開けるんて!」
着替え中じゃなくてよかった。それでもバスローブ姿というのには抵抗があるけれど。
「昨日は寝ていただろう」
「それは――まあ、そういうこともあるわよ」
「普通、初日の方が緊張で眠れないものだと思うけどな。乙女なら」
行くぞ、と言ってレオンが踵を返した。
これはゲームで、すべては全クリのため。そう思っていたのに、やっぱりこの男と今からベッドに入ると思うと平常心ではいられなくなってしまう。
(むっかつく!)
部屋に入ると、ソファに王子が一人ぽつんと座っていた。レオンとアリスの姿を認めるとすぐに腰を上げて笑みを作る。
「やあ」
「チェンジで!」
「え?」
「こいつ! 以外で!!」
レオンを指しながら言うと、王子は腹を抱えて笑い始めた。
「振られたね、レオン」
「こいつがガキなんです」
「はああ? じゃあガキならお役御免よね?! もっと大人な人を呼び直せば! っていうかさ、最初の説明では『結婚をする前に異世界から女性を召喚して相手をしてもらう決まりになって』るってことだったじゃない! なのになんでレオンなのよ!」
「あ、それを言ったのは僕だよね。ごめんね。僕が結婚をする前に教育係の相手をしてもらうって意味だったんだよ」
それならそうと最初から言えよ! と言いたかったが、優しい上に王子のルイに文句はつけられなかった。胸に溜まった不満をギギギと歯を食いしばって口内に留める。
「普通の神経をしていたら、言わなくてもわかると思ったけどな。どう勘違いしたら王子がお前に触れると思うんだ」
「なんかもうびっっっっくりするほど散々な言われようですけど?! でもこっちはこの世界のことなんかまったくわからないんだから、そっちが最初に懇切丁寧教えるべきだったのでは?! こちらがか・ん・ち・が・いする余地もないくらいに! 自分のやるべきこともやらずに相手を責めるってどういう了見なわけ!? そもそも勝手に呼び出したのはそっちなんだから、お相手をしてくださいお願いいたしますって床に額こすりつけて頼んだら!? この常識知らず!」
言いたいことを一気にぶちまけてすっきりした。
しかし、我に返ったところでルイの前で言うべきではなかったと焦る。
「あっ、これはレオンに対してであって、別に王子に対しての文句とかじゃないので……」
その場しのぎにへらへらっと笑ってみる。しかしもう遅かった。
「ううん。全部アリスちゃんの言うとおりだと思う。申し訳ありませんでした」
土下座こそされなかったけれど、王子に頭を深々と下げられて思わず焦る。
「やっ、その、ほんとそんなつもりじゃ――そもそもレオンの説明不足のせいですから!」
「ううん。そうだったとしても、レオンにきちんと説明するように言わなかった僕が悪いです。ごめんなさい」
「や……もういいですから」
王子が謝っているというのに、どうしてレオンは何も言わないのだろう。それどころか澄ました顔で窓の外を見ている。
(子どもかよ!)
自分の失敗で上司に頭を下げさせておきながら!
レオンの横顔をねめつけると、ふいとアリスに向き直った。
「王子に頭を下げさせて気は済んだか」
「はあああああああああ?」
「こらこらレオン」
「あんたね! 誰のせいで王子が頭を下げたと思ってんのよ!」
「お前だろう」
「こいつ……!」
「ふふ、仲いいねえ」
「は?」
ついレオンに対する勢いのまま王子を見てしまった。しかし王子は楽しそうに笑っている。
「今日はもうそういう雰囲気じゃないよね。とりあえずさ、言いたいこと言って仲良くなろうよ」
「レオンと仲良くなれる気がしないのでチェンジで」
「親交を深めるのは業務内容に含まれておりません」
「私は給料だって――そうだ、お金! お金払いなさいよ! ちゃんと!」
レオンに向けて手のひらを出す。
「これじゃ買い物もできないんだけど!」
「必要なものは揃っているはずだ」
「あんたほんと女心をわかってないわね。プラスアルファよ! 街に出て買い物したいの!」
「だめだ」
「なんでよ! そんな自由もないってわけ!?」
「迷子になって戻ってこられなくなるだろう」
ならねえよ!
心のなかで言い返すが、たしかにここの土地勘はない。
「じゃあさ、二人で行ってきたらいいじゃない。デートデート」
王子に暴言は吐けない。無言のままレオンを見ると、彼もまた眉間にしわを寄せてアリスを見ていた。
「お小遣いは僕からレオンに渡しておくよ。アリスちゃんはレオンから買ってもらって」
「いえ、私は一人で――」
「女の子の一人歩きは危ないよ」
にこにこしながら言われると、その顔の良さが際立ってさらに何も言えなくなる。
「さ、ほら、さっそく行っておいで。今ならまだ屋台もやってるし。夜の街を歩くのも楽しいよ。レオンが一緒なら絶対に安全だから」
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