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しおりを挟む「ありがと…」
しばらく経ち、イヌの涙が止まったのを見ると狼はその大きな舌でイヌの唇を一舐めし、のそりと横になった。犬の伏せのような体勢ではなく、ごろりと横になり脇腹を地につけ四本の足を投げ出している。
そしてじっとイヌを見つめる。その目はまるでイヌにおいでと言っているようで、イヌはそっと狼に近づいた。すると狼は上になっている右前足と後ろ足をあげた。
「いいの…?」
イヌは狼の横に寝転がると上げられた足の下に潜り込んだ。まるで腕枕をされているような姿勢で嬉しくなる。そしてイヌの身体の上に、上げられていた足が優しく下ろされる。
(抱きしめられてるみたい……)
抱きしめてもらえるなんて、初めての経験だった。嬉しくて嬉しくて、イヌは狼の身体にすり寄った。お腹側の毛は外側の毛と違って柔らかく、ふわふわしていた。色も外側の灰色とは違い優しい白色。
「ふわふわ……あったかい……」
裸のままで冷えた身体を擦り寄せても狼は嫌がることなくイヌのしたいようにさせてくれた。優しい狼。
狼の胸や腹に身体を押し付けると、そのぬくもりと柔らかさ、そして安堵感から意識が遠くなっていく。
こんな穏やかな眠りは生まれて初めてだった。
目が覚めたとき、イヌは目の前の柔らかい白いものがなんだかわからなかった。けれど徐々に脳が働き始めるとそれが狼で、自分は主の元から逃げ出したのだと思い出す。
「あ……」
イヌが身体を起こすと、狼は優しい眼差しでイヌを見ていた。
「……お、おは……」
寝ている間に主が来なかったかと不安になったけれど、自分は狼の腕のなかで眠っていたし、きっと狼は主が来たら身体を動かしただろう。だからきっと来なかったのだ。
狼の腕の中から抜け出して、顔の前に座る。
「よか、た……」
もし、主が猟銃を持っていたら。マタギを連れてきたら。狼はイヌをかばったせいで殺されてしまうかもしれない。
イヌは狼をぎゅっと抱き締めた。
(ああ、でもこの怪我じゃ逃げられない)
この場所はもう主にばれてしまっている。あれからどのくらい眠っていたのかはわからないけれど、外はまだ明るい。そんなに時間は経っていないはずだ。
ということは、今まさに狼を狩るための、自分を捕まえるための準備をしているかもしれない。
自分はいい。けれどこの狼を巻き込みたくはなかった。でもきっと、この狼は走れないだろう。
「動け、る?主が、くるか、もしれな……から、今、う……ちに逃げて」
自分がここから離れたところで、狼がここにいればきっと主に殺されてしまう。
「痛、の、に…ごめ、ね、けどに、げて。主がく、る前に」
先程は言葉が通じているのではと思ったりもしたが、やはり通じるはずもないのか狼は動こうとはしない。
「お、かみさん…」
助けてもらった。それに、とても優しい眠りもらった。自分のせいで狼が傷付くのは絶対に嫌だった。
「……かわ、で足、洗、て、お水、のも?」
狼の耳がピクリと動いた。やはり、言葉がわかるのだろうか。
イヌは狼が立ち上がるのを待ったが、やはり狼は動こうとはしない。でもきっと、反応したということは傷を洗いたいか、喉が乾いているはずだ。
「待って、ね」
イヌは狼に言うと四つん這いで川へ向かった。もう自分は二足歩行で進むのは厳しいと分かったのだーー本当は認めたくない。でも今は気にしていられなかった。だって何より急がないと。四つん這いだって、何年もそれで生活していれば、それなりに早く歩くことも出来る。
先程の川で水を口に含み、狼の元へ急ぐ。
狼はまだ穴の中にいた。こちらをじっと見ている。
逃げていてほしかった、とも思うけれど、いてくれてよかった、とも思う。
先程と同じように狼に飲ませようと顔を近づけると、やはり喉が乾いていたのか狼は自ら口を開いた。そこに顔を近付けゆっくりと流し込む。
全てを飲み干すと狼は横になり、また脚を上げた。
イヌは逃がすことを諦め、その中に横になった。
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