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 関東地方のとある田舎。山の手前、小さな盆地。閉鎖的なそこは昔から代々地主が権力を振りかざしてきた。
 町民は逆らえず、地主の暴挙にも耐えるのみ。
とは言えインターネットが普及した現代では昔ほどの暴挙もなく、ただとにかく、地主のすることについて見て見ぬふりをするだけ、という状態だった。
 現在の地主は四十歳半ば。地主が三十歳を過ぎた頃両親が事故で急逝し、跡を継いだ。その地主の飼っているペットは人間だった。衣類を纏うことを許されぬ少年。実年齢は十八歳であったが健全な生活を送れない故にその体は小さく、中学生と見間違うほどであった。

「イヌ、餌の時間だ」
 イヌ、と呼ばれた少年は四つん這いで主の元へ進んだ。
 毛足の長い絨毯はリビングやダイニングだけでなく廊下や階段など屋敷の全てに丁寧に敷かれている。そのため手や膝の痛みは驚くほど少ない。
 床に置かれた犬用の皿には白米に味噌汁がかけられただけのものが乗っている。しかし食事を与えられるだけで幸運と思っているイヌは不満を持つこともなく、まるで本物の犬のように皿に顔を突っ込み咀嚼した。
 四つん這いのままの食事のせいで、その裸の尻は無防備だった。主によって性器と化されたアナルは綺麗な赤色をしており、永久脱毛を施された陰部には一本の毛もなく陰嚢が揺れている。ここへ連れてこられたときはまだぺニスの皮すら剥けていなかったというのに。
「美味いか」
「はい」
 話し掛けられたときのみ、そして従順な返事のみならば言葉を発することが許された。イヌは従順な生き物だからと主は言う。だから、逆らってはいけないと。余計な口もきいてはならぬと。
 食べ終えたイヌの顔は米と汁で汚れている。しかし汚れた顔を拭くのは人間の行為であり犬の行為ではない。イヌは黙って主を見上げた。
「汚い」
 主はタオルを床に投げ捨てた。イヌはそのタオルに顔を擦り付け汚れを落とす。そしてもう一度主を見上げた。
「……散歩の時間だ」
 怒られずに済んだ、とイヌは内心ホッと息を吐く。汚れが残っていようものならお仕置きをされるのだ。――痛いことも、苦しいことも、気持ちよすぎることも。

 主がイヌの首輪にリードをつける。散歩は外の空気を吸う唯一の時間。しかし主の歩みに遅れれば首が苦しくなる。それは避けたい。
 絨毯のない地面は、初めは手のひらも、手首も膝も痛くてたまらなかったけれど八年も経てばもう慣れた。地に触れる部分の肉が硬化し、今ではほとんど痛みはない。尖った石や、何かの破片のようなものさえなければ怪我をすることもない。
 リードを持つ主の横を必死について行く。今日はどこへ行くのか。広大な敷地を持つこの屋敷の庭はもちろん、私有地である裏山に立ち入る人間はいない。そのため裸のまま散歩することができるのだ。屋敷の人間もこの時間は散歩の時間と心得ているため部屋からは出ることはない。完全に主とイヌの二人だけのための時間。
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