27 / 75
3-5
しおりを挟む「…………何がいい」
篠崎の、間。そこに何か含むものがあるような気がしてしまった。
「あ……いえ、」
特にこれといって何か具体的なものを考えていたわけではないし、指輪の遠回しなおねだりというものでもない。けれどただ、何となくはしゃいでしまっただけだ。それに篠崎を見る女の子たちを見て、少し不安になってしまっただけ。
「何か旅行に来た記念にキーホルダーでもと思ったんですが、考えてみたらキーホルダーなんてつけるところもないですよね。あ、あれ美味しそう!」
篠崎の気持ちを信じられないわけではない。だってまた京都に来ようという言葉一つ、お願いという言葉一つであんなにも嬉しそうな顔をしてくれるからだ。だから好かれている、愛してもらえているという自信はあった。けれど、どうしても先ほどの間が気になってしまった。やはりいい年してお揃いなんて嫌だっただろうか。でも嫌ならそう言ってくれれば無理強いなんてしないし、家の中に飾っておくとかしまっておいたって構わなかったのだけれど。
「諒」
後ろからの呼びかけを無視して歩を進め、店先を覗き込む。日本酒ソフトクリーム。話を逸らすために寄ったつもりだったけれど、本当に美味しそうだった。
「……諒」
列に並んでいると篠崎が隣に立った。その声には少しだけ怒りが滲んでいて怖くなってしまう。
でも怒るのも当然だ。呼び掛けを無視したのだから。もし自分が篠崎に無視をされたらーー想像するだけでも嫌だった。
「しの……」
でも何と言ったらいいのだろう。複雑な気持ちが入り乱れ、言葉の整理がつかなかった。
「……諒、美味しそうだな」
篠崎はがらりと空気を変えて言った。
「日本酒か。諒は食べたことがあるのか」
「い、いえ……」
どうしたのだろう。お揃いのものがほしいと言ったときの間。そして僅かに怒りを含んだ呼び声。それから明るい今。
「あの、」
「はい、お待たせしましたー!」
何でもいいから話しかけようと思ったときに間が悪く順番が回って来てしまった。ひどく場違いに聞こえる明るいお姉さんの声。でも急がないと。後ろにはたくさんの人が並んでいる。
「日本酒ソフトを一つ」
「あ」
注文したのは篠崎だった。いつの間に出していたのか、代金まで支払ってしまう。
「おおきに!」
ソフトクリームを受け取り、混雑した店先から離れた。
「あの、篠崎」
「うん?」
篠崎の様子はいつもと変わらない。どういうことなのだろう。
「……いえ、買ってもらってすみません。いただきます」
「あぁ」
篠崎は歩調を普段より緩めて歩いてくれた。食べ歩きへの配慮だろう。でもどうやらどこかに向かっているような足取りだった。お土産屋さんがたくさん並んでいるのにどこも見ようとせず、しっかりとした足取りで歩いている。
「篠崎?」
どこか目当ての店でもあるのだろうか。京都旅行は楽しみにしていたようだし、自分で気になる店を調べていた可能性もあるのだけれど、なんとなく違う気がした。篠崎なら「行きたい店がある」と言ってくれる気がしたのだ。
それにどんどん人気がなくなっていく。歩いて五分程度なのに、もう周りに観光客は見えなくなった。道の先、行き止まりになったところで向かい合う。
「篠崎、あの」
ソフトクリームは味を楽しむ間もなく食べ終えてしまった。せっかく買ってもらったのにもったいない。そう思うのに、味を気にする余裕なんて全くなかったのだ。無駄にしないようにと思うだけで精一杯。
「諒、見たのか」
「え?」
突然どうしたのだろう。篠崎は真剣な様子だった。
「見たのか」
「え?あの、何を?」
一体何を言っているのだろう。話が全く見えなかった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
アムネーシス 離れられない番
山吹レイ
BL
諸富叶人は十七歳、高校生二年生、オメガである。
母親と二人暮らしの叶人はオメガという呪われた性に負けずに生きてきた。
そんなある日、出会ってしまった。
暴力的なオーラを纏う、ヤクザのような男。
その男は自分の運命の番だと。
抗おうとしても抗えない、快感に溺れていく。
オメガバースです。
ヤクザ×高校生の年の差BLです。
更新は不定期です。
更新時、誤字脱字等の加筆修正入る場合あります。
※『一蓮托生』公開しました。完結いたしました。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
『白薔薇』のマリオネット
龍賀ツルギ
BL
ここは政財界や高級官僚などが顧客の少年奴隷専門の高級SM倶楽部『白薔薇』
ここでマゾ奴隷として働かされる少年達の哀しい運命。
今宵も哀泣を流しながら健気に奴隷としての務めを果たす美しい少年達。
少年達の名前は
ミチル(16)綾人(16)ヒカル(17)トモ(18)
優(16)ソラ(15)貴也(17)風太(15)ヒロ(18)ジュン(16)カオル(16)和希(15)
元々は別のサイトに書いたものを小説風にまとめて投稿する事にしました。
花と蛇と言う作品が有ります。令夫人や美女や美少女などが悪人達にマゾ奴隷調教されてしまう作品。
日本のSM小説の古典中の古典と呼ばれる団鬼六先生の名作です。日本中のSMものを書いている作家さんで影響を受けている方も多数いるでしょう。
白薔薇のマリオネットは花と蛇にインスパイアされました。
美女や美少女を美少年に置き換えて書いていきます。
団先生の作品が好きなのは、緊縛され辱められる美女達が恥じらいを忘れず優しい心を持ち、情感に耐える姿がただ美しい事❤️
だから僕も少年奴隷達、皆恥じらいを忘れず、何よりも仲間達を大切に想い合うキャラとして愛情を持って書いて行こうと思います💙
僕の作品の登場人物は皆ハイソックスを履いてるんですが、僕がハイソフェチなのでご容赦下さい😅
【R18】蜜を求める人魚姫
ロマネスコ葵
恋愛
とある昔話で、人魚姫は人の精を体内に取り込むと人間に生まれ変われるという話があった。
人魚界では、誰も人間界へ近寄りたくない者ばかりが集っている中で唯一、リベラというマーメイドが人間になりたいと考えている。その理由は――――
「人間の精を絞りきって、あたしの理想としている真の美貌を手に入れてみせるわ!!」
そう、人の精を蓄えられれば人間に生まれ変われるだけでなく、理想の美貌さえも手に入れる事ができる!
人魚界では誰からも愛されながらも、地上では貧相な女扱いされるリベラが徐々に精を吸い付くしながら、周りの男そして女をも虜にさせていく話。
★複数の人とセックスをします。苦手な方はご注意ください。
★バイ寄りの主人公なのでGL回有り。基本はNL。
★10話以内で終わらせようと考えている作品ですm(_ _)m(あれ? 終わりそうにない……)
★蜜を求める牢獄のサブストーリーになりますがメイン読んでなくても読めます(^^)
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
誰にも止められない
眠りん
BL
永瀬君は小倉君達のグループに毎日輪姦されています。
永瀬君は嫌がって泣いていますが、クラスの人達は小倉君が怖いので黙っています。
これはいじめです。
許せません。
正義感の強い人、偶然巻き込まれてしまった人、中途半端に首を突っ込んでしまった人、邪な気持ちで助けようとした人……。
様々な人がこのいじめに巻き込まれていきます。
だけど誰も止める事も、助ける事も出来ません。
彼らはどうなってしまうのでしょうか。
※SM、乱交、輪姦、小スカ、苦痛、リバなどがあります。
※拘束、監禁、盗撮、盗聴、ストーカーなどの犯罪行為も普通にあります。これらの行為を推奨しているわけではありません。
※二章はエッチシーン少ないです。
苦手な方、受け付けない方はご注意ください。作中では特に注意書きはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる