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 篠崎が寝室を出るのを見送りテディを抱き込む。
 もう、セックスしたいと思っていることは確信していた。篠崎とセックスをしたい。篠崎に抱かれたい――けれど勃起すらないまま十数年経ってしまっていて、本当にできるのだろうか。途中で怖くなってしまったら?途中で過去を思い出してしまったら?セックスしましょうとなって、いざ股間に触れられて、そのときに同級生の顔が頭に浮かんでしまったら。
 盛り上がった篠崎の気持ちも無駄にさせてしまう。それだけは避けたかった。自分はセックスをしたいという気持ちを最後まで持ち続けることができるのだろうか。
 そう思う一方で、先ほどの篠崎の艶っぽい声が頭の中で響いていた。いつもより少し低い声。熱い視線。裸をあんな目で見られたら。身体を撫でられながらあの声で可愛いと言われたら。
 思い出したらまた勃起してしまった。

「諒」
 いつの間に入室したのだろう。気付かなかった。
「ぁ……」
「やはり眠れなかったか。大丈夫か」
「今何時ですか」
「二時だよ」
「……遅くまでお疲れ様です」
 ありがとうと言いながら篠崎がベッドに入ってくる。
「おいで」
「あの……」
「ん?」
 篠崎はもういつもの状態と変わらない。当たり前だ、仕事を終えたところなのだ。
「……なんでもないです、おやすみなさい」
「諒、おいで」
「……え、と……」
「起ってる?」
「……はい……」
「辛くないか」
「はい……」
「出したいとは?」
「その、よくわからなくて」
「そうか」
 射精したいとは思わなかった。でもそれはきっと困惑しているからだ。この憂いがなくなったらきっと射精したいと、させてほしいと思うようになるのだろう。でももうそれが怖いとは思わなかった。
「ならいいだろう。いつもみたいに抱っこで寝よう」
 篠崎はいいのだろうか。安西は勃起に触れられたくないと思っているわけではない。ただ何となく気後れしてしまって。
「おいで」
 あぁ、いいのだ。篠崎は大丈夫。きっと気にしないでくれる。気にしないふりを通してくれる。
 素直に擦り寄るといいことまた褒められた。抱きしめてもらって御礼を言わなきゃいけない立場なのに、褒められてしまう。でもそれが嬉しかった。
 腕の中にいると途端に睡魔が襲ってくる。色々考え過ぎて少し疲れてしまったのかもしれない。
「しのざき……」
「うん……おやすみ」
 おやすみなさい、と言えたかどうかはもう覚えていなかった。

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