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最終章 少女と道化師の物語

無茶苦茶な作戦

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 「スキル“乱激斬”!!」



 「スキル“闇からの一撃”!!」



 「“ギガフレイム”!!」



 『ほほいっと!!』



 三人による同時攻撃。更に道化師のエジタスの転移魔法で、三人それぞれの攻撃タイミングと場所を変える。



 「…………」



 が、慣れてしまったのか、真緒達が何処でどのタイミングで現れるのか、既に知っているかの様に次々と攻撃が防がれてしまう。



 『この野郎!!』



 真緒達の攻撃に合わせて、化物のエジタスが超巨大なエジタスの体から、数本の触手を伸ばし、ロスト目掛けて口から赤い液体を発射した。しかし、赤い液体がロストに当たる直前、ロストは超巨大なエジタスの肉を盛り上げ、目の前に肉の壁を生成した。それにより、化物のエジタスが発射した赤い液体は防がれてしまった。



 『今だ!! 殺れ!!』



 が、それは単なる囮だった。真の目的は肉の壁によって視界が狭まった隙を突き、道化師のエジタスによる転移魔法で真緒達を完全な死角に移動させ、確実に攻撃を当てる事にあった。



 そしてこの時、真緒達は静かに口を閉じていた。攻撃する際、声を上げれば一瞬で居場所がバレてしまい、これまでと同様に容易く防がれてしまうだろう。



 それだけ警戒しなければいけない相手に対して、真緒達は勢いのままロスト目掛けて攻撃を放った。



 「……どんなにやっても無駄ですよ」



 「「「!!!」」」



 だが、真緒達の作戦は脆くも崩れ去った。完全な死角からの攻撃。声は勿論、物音一つ立てなかったのにも関わらず、まるでロストは真緒達の居場所を分かっていたかの様に、攻撃を防いで見せた。



 「それとお返ししますね」



 気が付くと真緒達の周りは、無数の触手に囲まれていた。その口からは例の如く、赤い液体が垂れていた。そして次の瞬間、真緒達目掛けて一斉に赤い液体が発射される。



 「転移魔法は、一人ずつしか移動させる事が出来ない!!」



 「このままじゃ……間に合わない!!」



 「……くそっ!!」



 絶体絶命のピンチ。するとその時、シーラが自らを犠牲にして真緒とサタニアを庇った。



 「がぁああああああ!!!」



 「シーラ!!」



 シーラから細胞が大量に死滅していく音が聞こえる。その間に道化師のエジタスが真緒達を離れた場所に転移させる。



 「うぐぅ……」



 「マオ、ポーションを早く!!」



 「わ、分かった!!」



 サタニアに急かされながら、真緒はシーラの溶けてしまった皮膚の部分にポーションを掛ける。それにより溶けるのは無事に止まったが、既に溶けてしまった部分はポーションでは治す事は出来ない。



 「シーラ、大丈夫……?」



 「問題……ありません……まだ、戦えます……」



 既に虫の息だった。目は虚ろで今にも倒れてしまいそうな程、弱々しかった。



 「…………」



 その姿にサタニアも黙っている訳にはいかなかった。立ち上がろうとするシーラを、サタニアは無理矢理寝かせる。



 「魔王様?」



 「シーラはそこで休んでいて。後は僕とマオの二人でやるから……」



 「そんな!!? いけません!! 相手は人知を越えた存在……只でさえ戦力が足りないというのに、二人だけだなんて無謀です!!」



 「シーラ、ハッキリ言わせて貰うけど、今の君は足手まといにしかならない。黙って見守っていてよ」



 「っ…………」



 そう言い残し、サタニアは足早にその場を離れた。それでもシーラは追い掛けようとするが、サタニアの来るなと語る背中を見て、悔しそうに項垂れてしまった。



 「サタニア……本当に良いの?」



 「あのまま戦えば、確実にシーラは殺られる。シーラは最後に残った唯一の部下であり、友達なんだ……」



 「…………」



 そう言いながら悲しい表情を浮かべるサタニア。そんなサタニアを見て、真緒は何も言う事は無かった。ハナコ、リーマ、フォルス。全ての仲間を失った真緒だからこそ、失いたくないというサタニアの気持ちは痛い程伝わった。



 「……シーラの言う通り二人だけじゃ、勝つのは厳しい。だけど可能性が一つある。マオ、君と僕とで……」



 「まさか……そんな事をすれば、私達だってどうなるか分からないんだよ?」



 「でも、それしか方法が無いんだ」



 「……分かった。やろう」



 「それで? お話は済みましたか?」



 「バッチリだよ。もう負ける気がしないね」



 「私達を敵に回した事、後悔させてあげますよ」



 サタニアが何をしようとしているのか、察した真緒はその作戦に乗る事にした。そして二人だけとなった真緒とサタニアは、目の前に現れたにロスト目掛けて一気に距離を詰める。



 「はぁああああああ!!!」



 「うおりゃあああああ!!!」



 真緒とサタニアによる真正面からの連続攻撃。が、意図も容易く弾いて見せるロスト。



 「何をするかと思えば、力によるごり押しですか……嘆かわしいですね。スキル“永久の牢獄”」



 「「!!!」」



 その瞬間、真緒達の真後ろに黒いスライム状の物体が出現し、真緒達目掛けて襲い掛かって来た。



 「このっ!!」



 真緒が剣で斬り付けるも、スライム状の柔らかい体に受け止められてしまった。更に剣を引き抜こうとするが、凄まじい圧力で抜けなくなってしまった。そして……。



 「ひ、引っ張られる……!!?」



 徐々に剣が取り込まれ始めていた。黒いスライム状の物体が、剣を取り込んで行き、どんどん真緒の方へと近づいて来る。



 「マオ!!」



 「くっ!!」



 咄嗟の判断で剣を手放すも、黒いスライム状の物体が剣を完全に取り込んだ瞬間、今度は真緒目掛けて飛び掛かって来た。



 『おっと危ない危ない』



 「「!!!」」



 それを道化師のエジタスが、転移魔法で何処かに飛ばしてしまった。



 「……邪魔ばかりしますね」



 『マオさん達が殺られては、私達も困りますからね~』



 「師匠、助かりました」



 『礼には及びませんよ~、それより倒す算段は付いたんですか~?』



 「うん、バッチリだよ。エジタス、サポートよろしくね」



 『よろしくって言われても、まだ何をするか聞かされていないんですが……』



 すると真緒達は、道化師のエジタスの話を最後まで聞かず、再びロストに攻撃し始めた。



 『(聞いちゃいませんね……それにしても、二人はいったい何を……)』



 剣が一本になってしまった真緒だが、二本の時と変わらない動きでサタニアと一緒にロスト目掛けて攻撃する。真緒とサタニアそれぞれがロストを間に挟み、向かい合う形で攻撃を仕掛けていく。



 『(はは~ん、そういう事ですか。相変わらず無茶苦茶な事を考えますね~。良いでしょう、その無茶苦茶な作戦のサポートをしてあげますよ~)』



 道化師のエジタスは、真緒達の動きを見て、何をしようとしているのか理解し、その瞬間から真緒達の攻撃に合わせ、転移魔法でサポートし始めた。



 しかし、相も変わらずロストは転移して攻撃を仕掛ける真緒達の動きを完全に理解し、何処に転移して来るのか、分かっている素振りを見せた。



 「はぁ……はぁ……」



 「はぁ……はぁ……どうして転移して来る場所が分かるの……?」



 「……そうですね、別に隠しておく必要もありません。教えて差し上げましょう。それはエジタス……あなた方のお陰ですよ」



 『何だと?』



 『どう言う意味ですか~?』



 「エジタス……あなた方は約半分の力のコントロールを私から奪いました。ですがそのお陰で、あなた方が放つスキルや魔法の動きが読み取れる様になったのです」



 『『!!!』』



 「そう、つまり何処に転移させようとしているのか、どのタイミングで超巨大なエジタスの体を動かそうとするのか、私には手に取る様に分かるのです」



 『成る程、お前の自由を奪う為にした事が、結果的に裏目に出たという事か……』



 『う~ん、これはしてやられましたね~。でも……動きは読み取れても、考え方までは読み取れませんよね~?』



 「?」



 「マオ!!」



 「サタニア!!」



 その時、ロストの目の前で真緒とサタニアが互いに剣を構え、突き刺し合おうと勢い良く突き出していた。



 「(仲間割れ?)」



 真緒達の意味不明な行動に、ロストが混乱していると、真緒の剣とサタニアの剣がぶつかり合う。



 「感情を一つに!! “フィーリングストライク”!!!」



 「黒く染まる!! “ブラックアウト”!!!」



 その瞬間、二人のぶつかり合った剣を中心に、辺りは眩い光に包まれた。























 「……うぅ……マオ、大丈夫?」



 「な、何とか……でもどうして私達、無傷なんでしょうか?」



 真緒とサタニアによる一撃は、莫大なエネルギーの爆発を引き起こした。しかし、何故か真緒達は無傷であった。



 「確か……光に包まれる瞬間、エジタスの声が聞こえた気が……」



 「師匠の……転移魔法……」



 爆発に巻き込まれる直前、道化師のエジタスの機転により、真緒達は安全な場所まで転移させられたのだ。



 「やったのかな……?」



 「どうだろう……」



 爆発による煙が舞い上がる中、真緒達はロストがいた方向に顔を向ける。するとそこには……。



 「…………」



 「「!!!」」



 ぼろぼろの姿ではあったが、まだ辛うじて形を保っているロストが立っていた。



 「よくもやってくれましたね……」



 「そんな……」



 「僕達の行動は……全て無駄だったの……?」



 『いや、そんな事は無いよ』



 「「「!!?」」」



 その時、ロストの傷口からエジタスの声が響き渡る。しかしその口調は先程の二人より、とても穏やかであった。



 『君達の行動は無駄なんかじゃない』
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