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最終章 少女と道化師の物語

意外な正体

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 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「スキル“闇からの一撃”!!」



 真緒のブレイブソードが白く輝き始め、サタニアのティルスレイブが黒く輝き始める。二人によるコンビネーションアタックが本体目掛けて放たれる。



 「スキル“不滅の盾”」



 「「「「!!!」」」」



 しかし次の瞬間、本体の目の前に透明感のある紫色の盾が出現し、真緒とサタニアが放った渾身の一撃を意図も容易く防いで見せた。



 「思った通り、あなたには自我があるみたいですね」



 「…………」



 「いったい誰なんですか? 三人の内の誰かですか? それともまた新しい人格ですか?」



 「……いや、私はそのどれにも当てはまりません」



 性別が分からない中性的な声。礼儀正しい口調は、道化師のエジタスとはまた違い、嫌みっぽさが感じられなかった。それどころか、何の感情も感じられなかった。まるで機械的、魂が宿っていないみたいだった。



 「じゃあ、あなたはいったい……「残念ながら」……!!」



 「それをあなた方が知る事は永遠にありません」



 本体が右腕を一振りしたかと思うと、それまでサタニアのシャドウロックによって、動きを封じられていたエジタス達が一斉に動き出し、真緒達目掛けて襲い掛かって来た。



 「しまった!!」



 「どっちを相手にすればいい!?」



 目の前の本体か、背後から迫り来るエジタス達か。どちらを優先すべきか、真緒達は判断に迷ってしまった。



 その時、先行していた数人のエジタス達が突如として炎に包まれ、そのまま焼け死んだ。



 「これは!?」



 真緒達が驚いていると、真緒達とエジタス達の間に大きな人影が割り込んで来た。



 「シーラ!!」



 「後ろの雑魚どもは任せな!! あんた達は思う存分、その薄気味悪い奴の相手をしてやるんだ!!」



 「ありがとう、シーラ」



 シーラの活躍により、謎多き本体との戦いに集中する事が出来た。改めて真緒達が本体と対峙すると、本体は真緒達に向けて両手の掌を向けていた。



 「「「!!!」」」



 「“滅びの波動”」



 すると本体の掌から、黒い波紋がいくつも重なり合いながら、真緒達目掛けて放たれた。



 「嫌な予感がする!! 皆、避けて!!」



 咄嗟に避ける真緒達。黒い波紋は真緒達の横を通り過ぎ、シーラの横も通り過ぎ、迫り来るエジタス達の内の一人に着弾した。その瞬間、当たったエジタスは全身が真っ黒に変色し、やがてボロボロに砕けて塵と化し、風に吹かれてしまった。



 しかし悲劇はまだ終わらなかった。当たった黒い波紋は、反射してこちら側に戻って来たのだ。



 「絶対に触るんじゃないぞ!!」



 「“滅びの波動”」



 「「「!!?」」」



 戻って来た黒い波紋に気を取られていた真緒達。そんな中で本体は、新しい黒い波紋を真緒達目掛けて放った。



 前方と後方の両方から迫り来る黒い波紋。少しでも触れればどうなるか、先程その様子を見ていた為、想像するのは容易だった。



 「いや、これは逆にチャンスだよ!!」



 そんな中でサタニアが、この状況をチャンスだと言い出した。



 「このまま避けて、黒い波紋同士をぶつけ合わせるんだ!!」



 サタニアの言う通り、真緒達は再び丁寧に黒い波紋を避ける。それにより、前方から迫り来ていた黒い波紋と、後方から迫り来ていた黒い波紋が互いにぶつかり合い、そして跡形も無く消滅してしまった。



 「やった!!」



 「不思議です。何故、あなた方は喜んでいるのでしょうか? 状況は何一つ好転していないというのに……」



 そう言う本体は、本当に不思議そうに顔を傾けていた。



 「“千年以上”生きていますが、こんな人種は初めてかもしれません」



 「“千年以上”?」



 「おっと、口が滑ってしまいました。どうも言葉というのは難しいですね。相手に物事を伝えようとするあまり、余計な事まで喋ってしまう」



 「何を言ってるんだ?」



 言葉が難しい。それは生きとし生ける者達にとって不自然極りない。段々と目の前にいる本体が不気味に思えた。



 「あなた方が気にする様な事ではありません。“生命無き者”の戯れ言と思って頂いて結構です」



 「「「“生命無き者”!!?」」」



 「……もう口を開くのを止めた方が良いのかもしれない……」



 そう言うと本体は口を手で覆い隠し、手を離すとそこに口は綺麗さっぱり無くなっていた。しかし、一度口にした言葉を無かった事には出来ない。



 “生命無き者”、そのワードは明らかにこの謎多き本体の正体を解き明かす重要な言葉である。



 「相手の正体が気になる所ですが、今は一秒でも早く倒しましょう」



 「まずは俺が仕掛ける。お前達はタイミングを見計らって攻撃してくれ」



 フォルスは翼を広げ、空高く舞い上がった。それを目で追う本体。そしてフォルスは敢えて本体の背後に回り込み、死角から矢を何本も放った。



 口を消してしまった本体だが、今度は無言のまま透明感のある紫色の盾を出現させた。



 「今だ!!」



 「「はぁあああああ!!!」」



 フォルスの合図と共に真緒とサタニアの二人は、一斉に本体目掛けて剣を振り下ろす。



 が、それを難なく二本の腕で受け止められてしまう。そんな中、真緒はもう一本のブレイブソードを引き抜き、本体の腕をすり抜け、体目掛けて勢い良く突き出した。



 「なっ!!?」



 しかしその攻撃も空しく、本体の体から新たに三本目の腕が生え、真緒が突き出した剣を掴み、防いで見せた。



 「これならどうだ!!」



 するとフォルスは、その場で勢い良く回転し始めた。徐々にスピードが上がっていき、やがて大きな竜巻と化した。そんな竜巻から大量の矢が放物線を描きながら縦、横、斜めと本体目掛けて放たれる。



 対して本体は、当たるであろう箇所に透明感のある紫色の盾を出現させ、フォルスの攻撃を完全にガードしていた。



 「“シャドウロック”!!」



 するとサタニアが本体の影に黒い針を突き刺した。それにより、本体は動けなくなった。



 「マオ!!」



 「サタニア!!」



 そして二人は持っていた剣から手を離し、両手に魔法で生成した槍を携えた。



 「“ホーリーランス”!!」



 「“ダークランス”!!」



 二人による四本の槍攻撃。身動きが取れない本体は、二人の攻撃をまともに食らうが、何故か一滴も血は出なかった。



 「ダメージは与えたと思うけど……血が出ないだなんて……ますます不気味だ……」



 「…………」



 「マオ? どうかしたの?」



 そんな時、真緒はずっと本体の正体が気になっていた。これまでの状況を整理する中で、ある一つの可能性が真緒の脳裏を過っていた。



 「もしかしたら……」



 「「?」」



 「もしかしたら……正体、分かったかもしれない……」



 「「!!?」」



 真緒の予想外の言葉に、サタニアとフォルスは驚きを隠せなかった。



 「本当なの!?」



 「あくまで想像だけどね……まず、最初に疑問に思ったのは、千年以上生きているという点……」



 「こいつが口を滑らせた奴だな」



 「千年も生きているとなると種族は限られる。魔族、エルフ、ダークエルフ、そして……」



 「エジタス……」



 「けど、その考えは次の言葉で全て否定された」



 「生命無き者……」



 「そう、生命が無い生き物だなんて聞いた事が無い。そもそも、命が無いのに生きている時点で矛盾している」



 「じゃあいったいこいつは何者なんだ?」



 「……たった一つだけ、この条件に当てはまる存在がいる……」



 「「!!?」」



 「私がいた元の世界では、物が百年以上大切にされ続けると、いつしか物に自我が宿ると言われていたんだ」



 「それってまさか……」



 「名を“付喪神”……あなたはエジタスが取り込んだ“ロストマジックアイテム”に自我が生まれた存在!! だからあなたは千年以上生きているし、更に生命も無いと言える!! 違いますか!!」



 真緒が導き出したとんでもない答え。それは物に宿りし存在である付喪神。目の前にいる存在が、ロストマジックアイテムその物だと言うのだ。



 このあまりに突拍子も無い答えに、さすがのサタニアとフォルスも困惑していた。いくら真緒の言葉でも、到底信じられる物では無かった。目の前の本体が口にするまでは……。



 「…………」



 すると本体は、消した口の部分を再び手で覆い隠した。手を離すと、そこには消した口が戻っていた。そして戻した口で喋り始める。



 「……まさか、その答えに辿り着ける生命体がいるだなんて……素晴らしいです」



 「「!!!」」



 「じゃあ認めるんですね?」



 「はい、私は“ロスト”。あなた方、生命体が私利私欲の為に作り出し、大切に育てられた事で自我に目覚めた魂の無い“ロストマジックアイテム”でごさいます」



 そう言うとロストマジックアイテム事ロストは、深々と御辞儀をするのであった。
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