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最終章 少女と道化師の物語

拒絶反応

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 「無事だったんだな」



 シーラと再会した真緒達。巨大なドラゴンと化したシーラの背中に乗せて貰い、無事だった事を喜び合った。



 「あぁ、そこにいるゴルガのお陰でな」



 「どういう事だ?」



 「あの時……私は屋敷の外にあった木陰で体力を回復させていた。すると偶然にも、ゴルガが屋敷から出て来たんだ」



 「出られたんですね」



 「オマエタチト、エジタスガタタカイハジメタコトデ、ヤシキノメイキュウガトケタラシイ」



 「外に出たゴルガは、直ぐに私の存在に気が付いた。そんなゴルガが安否を確認しようと私の側に近付いたその瞬間、屋敷が眩い光に包まれ、気が付いたら瓦礫の下に埋もれていた。けど、不思議な事に私は無傷だった」



 「何?」



 「理由は直ぐに分かった。側で一緒に埋もれていたゴルガの姿を見て……。そう、こいつが私の身代わりになってくれたんだ」



 「そうだったのか……」



 よく見るとゴルガの体は、前に会った時よりもボロボロになっていた。しかしその姿には以前の様な怯えた様子は見られず、寧ろ仲間を命懸けで守れた事で、とても誇らしげであった。



 「それで? 聞くまでも無いと思うが、これからどうするつもりだ?」



 「勿論、エジタスを倒しに行きます。人類を滅ぼさせはしません!!」



 皆の想いは一つだった。最後の敵、エジタスを倒す。真緒の言葉にその場にいる全員が頷く。



 「あっちから凄まじい魔力を感じる……きっとあそこにエジタスはいる」



 そう言いながらサタニアは、地平線の彼方を指差した。見えにくいが、うっすらと赤く輝いているのが伺えた。



 「よし、急いで向かうぞ。飛ばすから確りと掴まっていろよ」



 そう言うとシーラは、飛行速度を急激に上げる。真緒達は振り落とされない様、確りと掴まる。



 「うぎぎ……」



 「凄い速さ……当たる風が痛い……」



 「もう少しの辛抱だ。我慢しろ」



 真緒達に掛かる風圧によって、顔の肉や髪の毛が吹き飛ばされそうになるも、何とか耐える真緒達。だが、長くは続かず、今にも手を離してしまいそうになる。



 「も、もう駄目……」



 「諦めるな!!」



 「ご、ごめんなさっ……!!」



 リーマの手が離れようとしたその時、シーラが急停止した。それにより、背中に乗車していた真緒達は前列に押し込まれ、渋滞を起こした。



 「ど、どうした!? 何か問題か?」



 「あそこ……見てみろ……」



 「「「「「!!?」」」」」



 シーラが見つめる視線の先には、大量の死体と血が浮かび上がっていた。遠くから見えていた赤い輝きは、太陽の光が血に反射していた物だった。



 「これはいったい……?」



 『礎だよ。新たな世界を構築する為の……』



 「「「「「「!!!」」」」」」



 上空から声が聞こえて来た。真緒達は、慌ててその場から少し距離を取り、声のした方向を見上げた。



 「エジタス……」



 そこにはエジタスの姿があった。四本の内、二本の腕で腕組みをして、残り二本は大きく広げていた。下半身の触手がうにょうにょと動いており、非常に気色悪く感じた。



 「新たな人類を作った時、二度と同じ過ちを繰り返してはならない為に、こうして旧人類の哀れな姿を空一面に残して置こうと思ったんだ」



 「新たな人類? 何を言っているんだ?」



 「何をって……それが僕の目的だからだよ。この世界を“笑顔の絶えない世界”にする為には、一度この世界をリセットしなくちゃ……」



 「“笑顔の絶えない世界”……自分の生きる目的を見出だす為じゃ無かったのか!?」



 「あれ……そうだっけ……?」



 フォルスに指摘され、四本の腕で頭を抱えるエジタス。見る限り、冗談では無く本気で困惑している様子だった。



 「可笑しいな……そんな事を言った記憶は無い筈なのに……あれ……そもそも僕はどうして……こんな事をしようと思ったんだっけ……」



 「何訳の分からない事を言っているんだ……?」



 「分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない……」



 ぶつぶつと分からないを連呼するエジタス。真緒達も、何が起こっているのか、全く分からなかった。



 「も、もしかして……」



 そんな中、サタニアが一つの可能性を導き出した。



 「三人で一人だったエジタスの人格を、無理矢理一つに纏めようとした事で、所謂拒絶反応が起こっているのかもしれない」



 「拒絶反応だって!?」



 「あくまで可能性の話だけどね。屋敷であったエジタスの一人称は“私”だったのに、今のエジタスは“僕”になっているから……」



 「い、言われてみれば……」



 「でも、そうだとしたらどうすればいいんですか!?」



 エジタスに最後の戦いを挑むと決意を固めた筈が、思わぬアクシデントにより、このまま倒して良い物か、躊躇する形になってしまった。すると真緒が静かに口を開く。



 「……どうもしないよ……」



 「マオ……?」



 「マオさん……?」



 「どうしたのマオ……?」



 「私達は決めた、エジタスを倒す!! 例え相手の調子が悪かったとしても関係無い!! もうエジタスは人類にとって、危険な存在になってしまった。その一振りで全てを終わらせる事だって出来る。そんな存在を野放しにする事は出来ない!! そうでしょ!!?」



 「……そうだな……」



 「行くべき道はもう決まっています……」



 「エジタスを倒して、世界を守って見せる!!」



 「行こう!! これが本当に最後の戦いだ!!」



 「「「「「おぉ!!!」」」」」



 未だに頭を抱えるエジタス。しかし真緒達は気にせず、攻撃を仕掛けようと近付く。そして開幕の一撃として、シーラが口を大きく開ける。



 「“ギガフレイム”!!」



 放たれたのは巨大な火の玉。真っ直ぐエジタス目掛けて飛んでいき、そして見事に命中し、凄まじい爆音と黒煙が舞い上がる。



 「どうだ!?」



 やがて煙が収まり、その姿が確認出来る。巨大な火の玉を食らったエジタスだが、大したダメージは受けていない様だった。しかし、先程まで頭を抱えていたのが、今は四本で腕組みをしていた。



 「悲しいな……そんな攻撃でこの“俺”を倒せると思ったか!!」



 「「「「「「!!!」」」」」」



 するとエジタスは、四本の腕をそれぞれ大きく広げる。



 「見せてやる。お前達が挑んでいるのが、絶対的な存在である事を!! 元よりお前達に勝ち目など皆無だった事を!! スキル“ゴッドウェーブ”!!」



 その瞬間、エジタスを中心に金色の波紋が三重になって周囲に広がり始めた。そして勿論、金色の波紋は真緒達目掛けて襲い掛かって来た。



 「不味い!! 避けるんだ!!」



 「っ!!!」



 フォルスの指示を受け、慌てて下降して避けるシーラ。しかし、尻尾の先が少しだけ触れてしまった。



 「シーラ、大丈夫!!?」



 「は、はい……何と……か!?」



 その時、シーラは自身の尻尾に違和感を感じた。目を向けると、尻尾の先の色素が抜けて真っ白になっていた。そして何より尻尾の先に全く力が入らなかった。それはまるで生命活動を停止してしまったかの様だった。



 「まさか今の攻撃で!!? とにかくこれ以上、当たる訳には……っ!!!」



 しかし、悲劇はまだ終わっていなかった。真っ白になった尻尾の先から、徐々に体に向かって色素が抜け始めた。そして真っ白になった部分は同様に全く力が入らなくなってしまった。



 「こ、このままじゃ不味いぞ!! どうする!!?」



 「くっ!!!」



 するとシーラは、白くなっていく尻尾を体から切り落とした。それにより、白くなる現象は止まった。



 「あ、危なかった……あのまま放って置いたら……確実に殺られていた……」



 「シーラの場合、尻尾だっから良かったけど……もし、僕達に少しでも当たっていたら……」



 「それで当たったのが頭とかだったら……その時点で終わりだ……」



 「そうだ、エジタスは!!?」



 シーラの一件に気を取られ、肝心のエジタスから注意を逸らしてしまった真緒達。既に次の攻撃が仕掛けられているのではと、慌ててエジタスの方に顔を向ける。



 「あがが……うがぐっ……あぁ……」



 そこにはまたも四本の腕で頭を抱えるエジタスの姿があった。



 「また拒絶反応が起こったのか!?」



 「ぐごがぁ……“私”は……“僕”は……“俺”は……ぐぁああああああああああああ!!!」



 「「「「「「!!!」」」」」」



 遂には頭を抱えながら、悲鳴を上げ始めるエジタス。頭を振り乱し、地上へと落下していく。



 「追いましょう!!」



 その後を追い掛ける真緒達。地上に到着すると、シーラの背中から降りる。エジタスが落下した地点には土煙が舞い上がっており、よく見えなかった。様子を伺う為、真緒がゆっくりと近付く。



 「気を付けろ。いきなり襲い掛かって来るかもしれない」



 「分かりました……っ!!」



 その瞬間、土煙が吹き飛び、エジタスが姿を現した。真緒達は緊張しながらも、武器を構える。しかし、どうにも様子が可笑しかった。姿を現したのだが、まるで生気が感じられなかったのだ。



 「エジタス……?」



 『……我らを称えよ……』



 「え……?」



 『我らを称えよ……我らこそ、全知全能にして、新世界に君臨する偉大なる“神”なり!!』



 「「「「「「…………」」」」」」



 この瞬間、真緒達とエジタスの間に何とも言えない空気が流れたのであった。
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