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第十章 冒険編 反撃の狼煙

欲をかく

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 「懐かしいですね~、あの時のあなたの目は今でもよく覚えていますよ~。この男を必ず殺してやるという、復讐に燃える魂が宿った目でしたからね~」



 腹から血を流しながら、ロージェとの出会いを振り返り、物思いに耽るエジタス。



 「あの日から、ずっとお前に復讐する事だけを糧に生きて来た。私も馬鹿じゃない。当時の弱い私じゃ、寝首すらかけない事は分かっていた。だから何十年も掛けて、己を鍛え続けたんだ。それなのに……」



 そう言いながらロージェは、真緒達を睨み付ける。



 「一年前、お前達がこの男を殺してしまった事で、私は生きる目的を見失ってしまった。本当は私の……私の役目だったのに!!」



 悔しそうに両手に握り拳を作るロージェだが、ふっと怒りが抜けた様に一瞬で、握り拳を解いた。



 「だが、私は幸いにもエジタスから話を聞いていた。この……“死者復活の紙”の存在を!!」



 するとロージェは、エジタスが持っていた死者復活の紙を無理矢理奪い取った。



 「そしてエジタスが死んでからしばらくして、私の前にエイリスが姿を現した」



 「エイリスが!?」



 「恐らく、エジタスの日記から私の事を知ったのだろうな。奴はエジタス復活に手を貸せと言って来た。私としても、復讐相手であるエジタスが蘇るのは好都合だった。今度こそ、この手でエジタスを仕留められると思ったからだ!!」



 ロージェは怒りに任せて、倒れているエジタスの胸を思いきり足で踏み付けながら、腹に刺さった剣を引き抜いた。同時に、ポキポキとあばら骨が折れる音が聞こえる。



 「痛いですよ~、重傷者なんですから、もっと丁寧に扱って下さいね~」



 「黙れ!! これまで散々苦しめられて来た者達の報いを受けるがいい!!」



 吹き飛ばない様、踏み付けている足でエジタスの体を固定し、もう片方の足でエジタスの頭をまるでボールの様に蹴り飛ばした。



 「酷いな~、脳出血したらどうするんですか~」



 「これから地獄の苦しみを味わいながら死ぬんだ。脳出血位、大した事じゃ無いだろう」



 「確かにそうですね~、こりゃあ一本取られてしまいました~」



 正論を叩き付けられ、エジタスは手で自身の頭をコツンと叩き、ケラケラと笑って見せた。



 「笑うな!!」



 今度は顎を蹴り飛ばすロージェ。その拍子に舌を切ってしまったのか、エジタスが被っている仮面の口から血が流れ出て来た。



 「良い機会だ。お前の醜い素顔を晒して、惨めな想いのまま殺してやる」



 「いや~ん、ロージェさんのエッチ~」



 仮面を外されまいと、両手で仮面を押さえるエジタスだったが、負傷している上に、足で体を押さえ付けられている為、抵抗虚しくロージェに仮面を無理矢理外されてしまった。



 「改めて見ても、醜い顔をしているな」



 露になったエジタスの素顔。相変わらず焼き爛れ、くっついてしまった皮膚が痛々しく、とても直視する事は出来なかった。



 「うっ……うっ……こんな汚されてしまっては……もうお嫁に行く事が出来ませんわ……」



 「気色悪い演技は止めろ。虫酸が走る」



 しおらしく両手で顔を隠し、泣いて見せるエジタス。そんなエジタスの両腕を剣で斬り付け、動かない様にする。



 「あらあら~、こういうシチュエーションは、お嫌いでしたか~?」



 「何処まで私をコケにするつもりだ? お前の命を握っているのは私なんだぞ? もっと泣き叫んだり、命乞いをしたらどうなんだ?」



 「いやいや~、だってどうせ殺すつもりなんでしょ~? そんな人に命乞いをしてもね~」



 「っ!!」



 正論で叩き付けられたエジタスは、お返しと言わんばかりに正論で叩き返した。



 「煩い!! 口答えするな!!」



 エジタスの顔を集中的に蹴るロージェ。元々、醜い顔だったのが、蹴られて腫れ上がった事で更に醜くなった。



 「…………」



 「マオぢゃん、どうがじだだがぁ?」



 「えっ、あっ、いや、何でもないよ……」



 実はさっきから、ずっと違和感を感じている真緒だったが、それがいったい何に対する違和感なのか、全く分からなかった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 蹴り疲れて汗だくになるロージェ。蹴られ続けたエジタスの顔は、パンパンに腫れ上がっていた。



 「ふふ……ふふふ……」



 それでも尚、笑い続けるエジタス。歯茎は剥き出している為、イマイチ笑っているという事は伝わりにくかった。



 「いい加減に……!!」



 「おい、少し落ち着いたらどうだ?」



 怒りで我を忘れそうになっているロージェ。そんなロージェを呼び止めるフォルス。その言葉に動きを止めるロージェ。



 「……何だと?」



 「お前はエジタスのペースに嵌められている。そういう時こそ、冷静にならないと最後の最後で泣く事になるぞ」



 「ふん、実体験とでも言いたげだな。生憎だが、私はお前達みたく甘くは無い。情けなど掛けず、徹底的に苦しめて殺してやる」



 フォルスの制止に耳を傾けず、ロージェは蹴るのを再開した。そして今度は真緒達の声が届く事は無かった。



 「無理矢理でも止めた方が良いんでしょうか?」



 「そうは言ってもな。あんな話を聞かされた後じゃ、どうも止めに入る気が起きない……」



 「オラ達も、エジタスざんを倒じに来だ身だがらなぁ……」



 「これがエジタスの最後か思うと……何とも言えない気持ちになるね……」



 「最後まで見守ろう。それが私達の義務であり、責任でもあるから……」



 蹴って、蹴って、蹴り続ける。やがて笑い声すら聞こえなくなるが、それでもロージェは蹴るのを止めなかった。そして蹴り過ぎて、足から血が流れ始めた頃、漸く蹴るのを止めた。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 ピクリとも動かないエジタスを見下ろしながら、ロージェは額に浮かび上がった汗を拭った。



 「やっと……終わった……この手でエジタスを殺したんだ!! 私はやった!! やり遂げたんだ!! 後はこの死者復活の紙で両親を蘇らせて……」



 『そうか、やはりそれが本当の狙いだったか』



 「!!?」



 その時、ロージェは自分の耳を疑った。それはエジタスでも、真緒達でも無い。別の誰かの声だった。ロージェが慌てて声のした方向に振り返る。



 「あっ……」



 次の瞬間、ロージェの体は貫かれていた。突然、目の前に現れた黒いローブを着た謎の人物の“腕”によって……。



 「ロージェさん!!!」



 真緒達も、目の前でいったい何が起こったのか理解出来なかった。エジタスを殺したと思った矢先、黒いローブを着た謎の人物によって、体を貫かれてしまっていた。



 「あ……ああ……」



 「欲をかいたな小娘。お前のミスは、死者復活の紙を完成まで導いてしまった事……阻止していれば、こんな結末にはならなかっただろうな」



 そして黒いローブを着た謎の人物は、貫いたロージェの体に、もう片方の腕を突っ込み、勢い良く引き裂いた。それにより、ロージェの体は上半身と下半身の二つに分かれ、床に転がった。



 そして黒いローブを着た謎の人物は、ロージェが最後まで離そうとしなかった死者復活の紙を奪い取った。



 「全く……だから言っただろう。くれぐれも足元をすくわれない様にと……ほら、さっさと立て」



 黒いローブを着た謎の人物は、死んだと思われるエジタスの体を軽く蹴った。すると途端に動き始め、まるで何事も無かったかの様に起き上がった。



 「いや~、私もまさかこの局面で裏切られるとは思っていませんでしたよ~」



 「……お前のアホさ加減には、ほとほと愛想が尽きた……」



 「そんな酷いわ!! あなたと私は体を重ね合わせた仲じゃない!! それなのにそんな言い方、酷過ぎるわ!!」



 「か、体をか、重ねた!!?」



 「え、えぇ!!?」



 エジタスと黒いローブに肉体関係があったという事実に、真緒達は驚きの表情を隠せなかった。特に真緒とサタニアは少しショックを受けていた。



 「誤解を招く言い方は止めろ。重ね合わせるも何も……俺とお前は……」



 そう言いながら黒いローブを脱ぎ捨てる。



 「文字通り“一心同体”だろうが」



 「「「「「!!?」」」」」



 黒いローブを脱ぎ捨て、現れたその姿は、仮面を外したエジタスと瓜二つの顔をしていた。
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