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第十章 冒険編 反撃の狼煙

魔王の最後

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 「何が……起こった……?」



 初代魔王は自身に何が起こったのか、未だに理解出来ていなかった。体に大きく空いた風穴から、冷たい風が吹き抜ける。



 言うまでも無いが、初代魔王の体は相当硬い。仮に真緒が単体で放てる最強の技“フィーリングストライク”を直撃で当てられたとしても、肉が抉れるだけで風穴が空く程まではいかないだろう。



 そんな初代魔王の体を意図も容易く貫いた二代目魔王の攻撃。あまりに規格外の強さに初代魔王、そして真緒も驚きを隠せなかった。



 「ぐっ、くそっ!!」



 そんな中、初代魔王は風穴が空いた体に炎属性魔法を当て、傷口を焼いて止血した。



 「はぁ……はぁ……まさか二つマジックアイテムを取り込んだだけで、ここまで強くなるとは……だが、知性無き貴様に、この我が負けるなどあり得ない!! “カース・スカル”!!」



 「あれは!!? ヘラトスさん、危ない!!」



 その瞬間、初代魔王の背後に大きな紫の頭蓋骨が出現した。慌てて助けに入ろうとする真緒だったが、それよりも早く二代目魔王目掛けて魔法が放たれてしまう。



 「ぷぅ」



 その時、二代目魔王は両手のハサミから自身の体液を発射した。すると紫の頭蓋骨を貫通し、そのまま初代魔王の右腕を吹き飛ばした。同時に紫色の頭蓋骨も煙の様にフワッと消えてしまった。



 「がぁあああああ!!? な、何だと!!?」



 体に風穴を開けられ、今度は右腕を失った。炎で傷口を焼いて止血するが、痛みはある。それでも立っていられるのは、これまで培って来た並外れた精神力のお陰だと言える。



 「ど、どうして? 確か光でしか消せない筈じゃ……」



 「まさか……我以上の魔力で“カース・スカル”を掻き消したとでも言うのか? 認めぬ……認めぬぞ!! あんな出来損ないが我よりも強いなど認めぬ!! スキル“ヘルブラスト”!!」



 そう言うと初代魔王は、二代目魔王に接近し、燃え盛る拳を勢い良く突き出した。



 「こきぶぅ」



 その攻撃に対して、二代目魔王は両手のハサミでガードして見せた。その瞬間、凄まじい衝撃波と爆音が周囲に鳴り響いた。が、二代目魔王のハサミは傷一つ付いていなかった。



 「こ、こんな馬鹿な!? スキル“ヘルブラスト”!! “ヘルブラスト”!! “ヘルブラスト”!!」



 左手を使い、何度も殴り付ける初代魔王。だが、それでも二代目魔王のハサミには傷一つ付かなかった。



 「凄い……」



 「くっ……こうなったら最終手段だ!!」



 すると初代魔王は、二代目魔王と距離を取り始めた。そして残った左腕を高く掲げた。



 「本当は、エジタスや初代勇者を消し去る時に使う予定だったんだが、そうも言ってられない。我が持っている全魔力を一点に集中させ、一気に放つ究極奥義!!」



 掲げた左手に魔力が集まり始める。それはどんどんと大きくなり、遂には天井を突き破る程、大きくなった。



 「このままじゃ、ヘラトスさんが……いったいどうすれば……コウスケさんからブレイブソードを託されたのに、結局私は何も出来ないままなの……?」



 完全なお荷物と化している事に、悩まされる真緒。その時、二本のブレイブソードが青白い光を放った。



 「…………」



 本来なら何を意味するのか分からないだろう。しかし、何故か今の真緒にはブレイブソードが何を伝えたいのか、直感的に分かった。



 「消し飛べ!! “エンデ・アンファング”!!」



 その時、巨大な魔力の玉から極太の光線が二代目魔王目掛けて、一直線に放たれた。



 「うぉおおおおお!!!」



 その間に真緒が割り込み、二本のブレイブソードでガードする。



 「ははは、遂に気が狂ったか!! 丁度良い、出来損ないもろとも消し飛ばしてくれるわ!!」



 「ぐっ……うぅ……!!!」



 必死に耐えるも、次第に押され始める。このままでは、押し負けてしまう。すると後ろにいた二代目魔王が、真緒の体を支えた。知性を無くしても、やるべき事は分かっている様だ。



 「ヘラトスさん……ありがとうございます。はぁあああああ!!」



 「な、何だ!!?」



 すると二本のブレイブソードが強い光を放ち始め、初代魔王が放った魔力を吸収し始めた。



 「そんなあり得ない!! まさかこの短時間でブレイブソードの真価を発揮させたというのか!?」



 「魔力が蓄えられていく……」



 「止めろ……止めろぉおおおおお!!!」



 初代魔王の叫び声が虚しく響き渡り、遂に全ての魔力を吸い取ってしまった。その光景に初代魔王は両膝を床に付いて、ガックリと項垂れる。



 「やりました!! やりましたよヘラトスさん!!」



 「あぷぅ、くぴぃ」



 「えっと……何て言っているか分かりませんが、喜んでいるって事ですかね」



 「きゅ、ぱぴぃ」



 言葉が喋れなくなり、見た目も化物になってしまった為、いまいち感情が読み取れなかったが、真緒の言葉に反応している辺り、喜んでいるという事なのだろう。



 「後は初代魔王にサタニアの首輪を外して貰うだけ……あれ?」



 サタニアの首輪を外して貰おうと、初代魔王の方に顔を向ける真緒。だが、そこには先程まで項垂れていた筈の初代魔王の姿は何処にも無かった。



 「い、いったい何処に!!?」



 「こっちだ!!」



 「!!!」



 声のした方向に振り返ると、そこにはサタニアを人質にしている初代魔王の姿があった。



 「はぁ……はぁ……こいつの命が惜しければ、我の言う事を聞くんだな……」



 「あなたは……本当にどうしようもない人ですね!! 操られて無抵抗な人を人質に取るだなんて!!」



 「黙れ!! 我は魔王だ!! 勝つ為なら、例えどんなに汚い手だって使ってやるのだ!! ふふふ、ははははは!!!」



 「最低最悪の魔王ですね……」



 「さぁ、大人しく武器を捨てて貰おうか。さもないと、こいつの命は無いからな!!」



 「…………くっ……」



 サタニアの為、真緒は大人しく武器を手放した。



 「よし、次に……な、何だ!!?」



 「ヘラトスさん!?」



 「くぴぶぅ」



 その時、二代目魔王が初代魔王へと近付いて行った。



 「おい、それ以上近付くな!! 人質がどうなってもいいのか!!?」



 「ヘラトスさん!! 止めて下さい!! サタニアがいるんですよ!!」



 「あぴぃ」



 「「!!?」」



 二人の制止を振り切り、二代目魔王は初代魔王の方へと手を伸ばした。が、襲い掛かったのは初代魔王の方では無く、何とサタニアの方だった。



 ハサミで掴み取ると、ネバネバした体の中へと取り込んだ。



 「ちょ、何しているんですか!!?」



 「……は、ははは!! 敵味方見境無く襲うとは、これは傑作だ!!」



 「ヘラトスさん!! 早く吐き出して下さい!!」



 サタニアを取り込み、モゾモゾと動く二代目魔王。やがて動きが収まり、ガムを吐き捨てるみたく、サタニアを外へと吐き出した。



 「サタニア!! 大丈夫……って、首輪が外れてる!?」



 「何だと!!?」



 驚くべき事に、吐き出されたサタニアの首には、首輪がされていなかった。



 「そうか、ヘラトスさんはサタニアを襲った訳じゃない。首輪を外す為に助けたんだ!!」



 「いや、それは違うな。知性を無くした奴が、そんな細かい事を出来るとは考えにくい。恐らく、マジックアイテムを取り込む為に襲ったんだろう。こいつにあるのは最早、本能的な欲求のみだ」



 「だとしても、サタニアを助けた事に変わりは無い!!」



 「ぷぴぃ……っ!! にさやにさやたかゆまわはなふあらまかほらなか!!!」



 「!!?」



 首輪を取り込んだその瞬間、二代目魔王の体は激しい痙攣を起こし、言葉にならない叫び声を上げた。



 「ど、どうしたのいったい!!?」



 「限界だ」



 「限界?」



 「そもそもマジックアイテム二つで、こんな化物になったのだ。三つ目を取り込めば、体の方が持たない」



 次第に二代目魔王の体は、肥大化し始める。咄嗟に真緒はサタニアを背負い、後退りし始める。が、壁にぶつかり退路が塞がれてしまう。



 「どうしたら……はっ!!」



 その時、真緒は閃いた。先程、初代魔王の“エンデ・アンファング”により、空いた天井の穴から脱出する事を。



 「大丈夫、サタニアは私が絶対に守って見せる!!」



 一か八か、真緒は肥大化し続ける二代目魔王の体を駆け上り、天井の穴目掛けて跳び移ろうとした。



 「やぁああああああ!!!」



 必死に手を伸ばすが、ギリギリの所で届かず、重力に従って落下して行く。



 「(ここまでか……)」



 そう思った次の瞬間、伸ばしていた真緒の手を誰かが掴んだ。



 『マオぢゃん、助げに来だだよぉ!!』



 『マオさん、大丈夫ですか!? 今、引っ張り上げます!!』



 「あ……あぁ!!」



 そこにいたのは、ずっと会いたいと思っていた“二人”だった。



 「ハナちゃん、リーマ!!」



 偶然、上の部屋にいたハナコとリーマの二人は、真緒を引っ張り上げる。それにより、何とか避難する事が出来た。



 「ありがとう……ハナちゃん、リーマ……『ぐぁあああああ!!!』……!!?」



 真緒が二人にお礼を言っていると、下の方では初代魔王が、二代目魔王に取り込まれそうになっていた。



 「こんな……こんな……出来損ないなんかに……この魔王である我が……あり得ない……くそっ……」



 そうして、初代魔王は情けなく最後を迎えるのであった。そして肥大化し続けていた二代目魔王だったが、今度は逆に縮み始めた。反動を受けるかの様に、急速に縮んでいき、遂には消えて無くなってしまった。



 「ヘラトスさん……ありがとうございました……どうか、安らかに眠って下さい……」



 そして真緒は、最後まで立派に戦った二代目魔王に感謝を告げるのであった。
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