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第十章 冒険編 反撃の狼煙
生と死の境
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懐かしい匂いが鼻をくすぐる。懐かしい光景が目を焼き付ける。冷たい風が体を駆け抜ける。
ここは鳥人の里。フォルスはそのど真ん中で突っ立っていた。いつ、どうやってここに来たのか思い出せない。
それに懐かしいと言ったが、鳥人の里にはちょくちょく顔を出している為、懐かしいと言う程、懐かしくは無かった。にも関わらず、何故か懐かしいと感じてしまう。
それはフォルスのよく知る里の光景とは、全く異なっていたからだ。いつものヘルマウンテン麓では無く、高い山脈に切り立った崖の上。そう、ここはフォルスが生まれた前の里だったのだ。
「どうして俺はここに……?」
フォルスの呟きは崖の下へと落ちていった。辺りを見回すも、人影は無かった。何故という疑問は残るが、こうしてじっとしていても埒が明かないと思い、フォルスは久し振りの故郷を歩き始める。
「不思議だ。この里は生まれてからすぐ離れた筈なのに、どの家も見覚えがある」
喧嘩してはすぐに仲直りするおしどり夫婦が暮らす家。自分を孤高の一匹狼だと自称するハードボイルドな鳥人が暮らす家。子供達から妙な人気があった博識な鳥人が暮らす家。
どれも初めて見る筈なのに、誰が住んで、どんな生活を送っていたのか、鮮明に覚えている。幼き日に刻まれた記憶が甦っているのだろうか。
里をある程度歩き回った所で、ふと足を止める。
「ここが前の里だとしたら、もしかして……!!」
何かに気が付いたフォルスは、走り出した。そして崖の上から飛び降り、両手の翼を大きく広げて空高く舞い上がった。上空から里全体を見回す。
「確か……この辺りに……あった!!」
目標となる物を見つけたフォルスは、そこ目掛けて急降下する。そこは他と差ほど変わらない民家だった。しかし、フォルスにとってそこは今まで見て来た中で、最も思い出深い場所であった。そこは……。
「俺の……家……」
亡き母親と一緒に暮らしていた家。勿論、初めて見る筈なのだが、何故だか懐かしいと感じる。玄関の扉を開け、中へと入る。
中に入ると更に懐かしいと感じた。床、壁、テーブルに椅子、窓ガラスに至るまで触る全ての物から懐かしさを感じた。一通り触り終えた後、半開きの扉が目に止まる。
「あそこは……?」
ここまで見覚えのある光景が続いたフォルスだったが、その部屋については全く記憶が無かった。妙に気になったフォルスは、部屋に入ろうと半開きの扉に手を伸ばす。
「…………っ!!」
が、その瞬間酷い頭痛に襲われる。胸がムカムカし、吐き気にも見舞われる。まるで己の意思とは関係無く、本能がこの部屋に入る事を拒絶している様だった。しかし一度沸き上がった好奇心をそう簡単に抑える事も出来ず、結局フォルスは無理矢理扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れる。
「ここは……」
その部屋に生活用品は一切置いておらず、清潔感のある真っ白な壁に囲まれていた。そして部屋の中央には、唯一物が置かれており、それがフォルスの侵入を阻害していた物だった。それはフォルスにとって目を疑う物であり、恐らくフォルスが最も思い出したくない物であった。
「揺り篭……」
子供をあやす為に用いられる揺り篭。しかも店で売っている様な、ちゃんとした物では無く、有り合わせの物を組み合わせて作った手作りの揺り篭。それがゆらゆらと揺れている。
しかし、問題なのは揺り篭自体では無い。その揺り篭に誰が入っているかだ。フォルスは恐る恐る中を覗き込む。
「…………」
中には誰もいなかった。
喜ぶべきなのか、残念がるべきなのか。色んな感情がごちゃまぜになって、訳が分からなかった。
『やっぱり……ここにいたのね』
「……?」
そんなフォルスに誰かが声を掛ける。フォルスが振り返ると、そこには信じがたい人が立っていた。
「か、母さん……?」
「会いたかったよ」
フォルスの母親。もう二度と会える筈の無い存在に、フォルスは驚きの表情を隠せなかった。
「そんな!? いったいどうして!? も、もしかしてエジタスの死者復活の紙で蘇ったのか!? いや、違う。そうだ!! 俺は天災竜との戦いに敗れて死んだんだ!! つまりここはあの世なんだ!!」
「ちょっと落ち着いて」
錯乱するフォルスに対して、母親はフォルスの頬を両手で包み込み、落ち着かせる。
「残念だけど私は蘇っていない」
「じゃ、じゃあやっぱりここはあの世……」
「それも少し違う。今のフォルスは、生と死を彷徨っている状態。だからまだ完全に死んだ訳じゃないよ」
「そ、そうなのか……」
「けどこのままじゃ、死んでしまうかもしれないね」
「えっ!?」
「今、あなたの友達が必死に蘇生を試みているけど、あなた自身に生きる意志が無いと現世には戻れないのよ」
「生きる意志……」
「……ねぇ、ちょっと一緒に歩かない?」
***
フォルスと母親は、並んで外を歩いていた。二度と会えないと思っていた母親との再会、フォルスは何を話せば良いか分からず、終始黙り込んでしまっていた。すると母親の方から声を掛けて来た。
「そっちの生活は楽しい?」
「えっ、あっ、うん……楽しいよ」
「良かった。もしかして私が死んだのは、自分の責任だって思っていたらどうしようって不安だったの」
「……いや、一年前まではずっとそう思ってたよ」
「え?」
「俺が……俺がもっと確りしていれば、母さんも死なずに済んだんじゃないかって……自分を責め続けていた……」
「フォルス……」
「でもそんな時、仲間達が俺の事を支えてくれたんだ。そのお陰で俺は空を飛べる様になった。だから母さんが心配する様な事は無いよ」
「そう、素敵な仲間達に巡り会えた様ね」
「あぁ、本当に……俺なんかには勿体ないと思える程、良い仲間なんだ」
「どうせならその仲間の皆さんに、お礼が言いたかったわ」
「大丈夫、きっと母さんの気持ちは伝わってるよ」
「……着いたわ」
「えっ、ここって……」
そこは切り立った崖の上だった。しかも只の崖の上じゃない。母親がフォルスを守る為に犠牲となった、忌まわしき場所だった。
「な、何でこんな所に……」
「フォルス……あなたはどうしたい?」
「え?」
「今、あなたには二つの選択肢があるわ。一つはこの崖を飛び降りて、現世に戻る。もう一つはこのまま母さんと一緒にあの世で暮らす事」
「それって……」
「現世に戻れば、きっとあなたは耐え難い苦痛を味わう事になる。そしてまた戦いの火に身を投じる事になるでしょう。逆にあの世で暮らす事を選べば、辛い事も苦しい事も感じない。そしてもう二度と離れ離れになる事は無い。ずっと一緒にいられるわ」
「母さん……」
「あなたが自分の意思で選びなさい」
「…………」
フォルスは谷底を覗く。深く闇に覆われており、底が見えなかった。次に母親の顔を見た。穏やかで優しい母親の顔。このチャンスを逃せば、もう二度と拝む事は出来ないだろう。そんな予感がする。
「俺は……俺は……」
やがてフォルスの中で答えが出た。フォルスは両手で母親の両手を優しく包み込む。
「俺、母さんと一緒にいるよ」
「フォルス……本当に良いの?」
「あぁ、母さんに会ってハッキリ分かったんだ。俺には母さんが必要なんだって……物心が付く前に母さんを亡くして……ずっと寂しかった……迷惑かもしれないけど、今まで甘えられなかった分、甘えさせてくれないかな?」
「そんな……迷惑だなんて……とっても嬉しいよ」
「母さん……」
そう言うとフォルスは強く母親を抱き締める。また母親もフォルスを強く抱き締め返す。
「けど、本当に良いの? 現世にはあなたを待っている人達がいるんじゃないの?」
「あいつらなら大丈夫だよ。俺と違って、強い奴らだから。俺がいなくなった所で、問題無いよ」
「そうじゃなくて悲しまないかって、聞いてるのよ」
「心配し過ぎだよ。母さんが思っている以上に、あいつらは強い。悲しんではくれるだろうけど、きっとすぐに立ち直ってくれるさ」
「そう……ねぇ、フォルス……?」
「何だい、母さん?」
「私はフォルスの事を愛してるわ。フォルスは私の事を愛してる?」
「勿論、愛してるよ。他の誰よりも」
「良かった……それだけ聞けば、もう安心ね」
「母さ……っ!?」
その瞬間、母親は抱き締めていたフォルスを崖の上から突き落とした。慌てて翼を広げて飛び上がろうとするフォルスだったが、いつの間にか細い糸を巻き付けられており、上手く広げられなかった。恐らく母親が抱き締めた時に仕掛けたのだろう。羽ばたきが間に合わず、徐々に落下していく。そんな中でフォルスは母親に問い掛ける。
「母さん!! どうして!?」
「母さんね。仲間を悲しませる人が一番嫌いなの。ましてやそれが、悲しませない方法がある事を知った上で悲しませる人は大嫌いよ。私の息子をそんな畜生にはしたくないの。我が儘な母さんを許してね」
「でも!! でもそれだと母さんが悲しむ事になるじゃないか!!?」
「だから聞いたのよ。私の事を愛しているかって。そしてあなたは答えてくれた……愛しているって!! それだけ分かれば、母さんは何十年、何百年、何千年だって待っていられるわ!!」
「母さん!!」
遂に限界を迎えたフォルスは、羽ばたくのを止めてしまう。それにより勢い良く落下する。母親の姿がどんどん小さくなっていく。
「忘れないで!! 母さんもフォルスを愛してる事を!! そして絶対母さんよりも幸せな人生を送ってね!! 分かったわね!! 母さんとの約束よ!!」
「母さん!! 母さん!! 母さーーーん!!!」
やがて母親の姿は見えなくなり、フォルスは真っ暗な闇に包まれるのであった。
「!!!」
そしてフォルスは目を覚ます。
ここは鳥人の里。フォルスはそのど真ん中で突っ立っていた。いつ、どうやってここに来たのか思い出せない。
それに懐かしいと言ったが、鳥人の里にはちょくちょく顔を出している為、懐かしいと言う程、懐かしくは無かった。にも関わらず、何故か懐かしいと感じてしまう。
それはフォルスのよく知る里の光景とは、全く異なっていたからだ。いつものヘルマウンテン麓では無く、高い山脈に切り立った崖の上。そう、ここはフォルスが生まれた前の里だったのだ。
「どうして俺はここに……?」
フォルスの呟きは崖の下へと落ちていった。辺りを見回すも、人影は無かった。何故という疑問は残るが、こうしてじっとしていても埒が明かないと思い、フォルスは久し振りの故郷を歩き始める。
「不思議だ。この里は生まれてからすぐ離れた筈なのに、どの家も見覚えがある」
喧嘩してはすぐに仲直りするおしどり夫婦が暮らす家。自分を孤高の一匹狼だと自称するハードボイルドな鳥人が暮らす家。子供達から妙な人気があった博識な鳥人が暮らす家。
どれも初めて見る筈なのに、誰が住んで、どんな生活を送っていたのか、鮮明に覚えている。幼き日に刻まれた記憶が甦っているのだろうか。
里をある程度歩き回った所で、ふと足を止める。
「ここが前の里だとしたら、もしかして……!!」
何かに気が付いたフォルスは、走り出した。そして崖の上から飛び降り、両手の翼を大きく広げて空高く舞い上がった。上空から里全体を見回す。
「確か……この辺りに……あった!!」
目標となる物を見つけたフォルスは、そこ目掛けて急降下する。そこは他と差ほど変わらない民家だった。しかし、フォルスにとってそこは今まで見て来た中で、最も思い出深い場所であった。そこは……。
「俺の……家……」
亡き母親と一緒に暮らしていた家。勿論、初めて見る筈なのだが、何故だか懐かしいと感じる。玄関の扉を開け、中へと入る。
中に入ると更に懐かしいと感じた。床、壁、テーブルに椅子、窓ガラスに至るまで触る全ての物から懐かしさを感じた。一通り触り終えた後、半開きの扉が目に止まる。
「あそこは……?」
ここまで見覚えのある光景が続いたフォルスだったが、その部屋については全く記憶が無かった。妙に気になったフォルスは、部屋に入ろうと半開きの扉に手を伸ばす。
「…………っ!!」
が、その瞬間酷い頭痛に襲われる。胸がムカムカし、吐き気にも見舞われる。まるで己の意思とは関係無く、本能がこの部屋に入る事を拒絶している様だった。しかし一度沸き上がった好奇心をそう簡単に抑える事も出来ず、結局フォルスは無理矢理扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れる。
「ここは……」
その部屋に生活用品は一切置いておらず、清潔感のある真っ白な壁に囲まれていた。そして部屋の中央には、唯一物が置かれており、それがフォルスの侵入を阻害していた物だった。それはフォルスにとって目を疑う物であり、恐らくフォルスが最も思い出したくない物であった。
「揺り篭……」
子供をあやす為に用いられる揺り篭。しかも店で売っている様な、ちゃんとした物では無く、有り合わせの物を組み合わせて作った手作りの揺り篭。それがゆらゆらと揺れている。
しかし、問題なのは揺り篭自体では無い。その揺り篭に誰が入っているかだ。フォルスは恐る恐る中を覗き込む。
「…………」
中には誰もいなかった。
喜ぶべきなのか、残念がるべきなのか。色んな感情がごちゃまぜになって、訳が分からなかった。
『やっぱり……ここにいたのね』
「……?」
そんなフォルスに誰かが声を掛ける。フォルスが振り返ると、そこには信じがたい人が立っていた。
「か、母さん……?」
「会いたかったよ」
フォルスの母親。もう二度と会える筈の無い存在に、フォルスは驚きの表情を隠せなかった。
「そんな!? いったいどうして!? も、もしかしてエジタスの死者復活の紙で蘇ったのか!? いや、違う。そうだ!! 俺は天災竜との戦いに敗れて死んだんだ!! つまりここはあの世なんだ!!」
「ちょっと落ち着いて」
錯乱するフォルスに対して、母親はフォルスの頬を両手で包み込み、落ち着かせる。
「残念だけど私は蘇っていない」
「じゃ、じゃあやっぱりここはあの世……」
「それも少し違う。今のフォルスは、生と死を彷徨っている状態。だからまだ完全に死んだ訳じゃないよ」
「そ、そうなのか……」
「けどこのままじゃ、死んでしまうかもしれないね」
「えっ!?」
「今、あなたの友達が必死に蘇生を試みているけど、あなた自身に生きる意志が無いと現世には戻れないのよ」
「生きる意志……」
「……ねぇ、ちょっと一緒に歩かない?」
***
フォルスと母親は、並んで外を歩いていた。二度と会えないと思っていた母親との再会、フォルスは何を話せば良いか分からず、終始黙り込んでしまっていた。すると母親の方から声を掛けて来た。
「そっちの生活は楽しい?」
「えっ、あっ、うん……楽しいよ」
「良かった。もしかして私が死んだのは、自分の責任だって思っていたらどうしようって不安だったの」
「……いや、一年前まではずっとそう思ってたよ」
「え?」
「俺が……俺がもっと確りしていれば、母さんも死なずに済んだんじゃないかって……自分を責め続けていた……」
「フォルス……」
「でもそんな時、仲間達が俺の事を支えてくれたんだ。そのお陰で俺は空を飛べる様になった。だから母さんが心配する様な事は無いよ」
「そう、素敵な仲間達に巡り会えた様ね」
「あぁ、本当に……俺なんかには勿体ないと思える程、良い仲間なんだ」
「どうせならその仲間の皆さんに、お礼が言いたかったわ」
「大丈夫、きっと母さんの気持ちは伝わってるよ」
「……着いたわ」
「えっ、ここって……」
そこは切り立った崖の上だった。しかも只の崖の上じゃない。母親がフォルスを守る為に犠牲となった、忌まわしき場所だった。
「な、何でこんな所に……」
「フォルス……あなたはどうしたい?」
「え?」
「今、あなたには二つの選択肢があるわ。一つはこの崖を飛び降りて、現世に戻る。もう一つはこのまま母さんと一緒にあの世で暮らす事」
「それって……」
「現世に戻れば、きっとあなたは耐え難い苦痛を味わう事になる。そしてまた戦いの火に身を投じる事になるでしょう。逆にあの世で暮らす事を選べば、辛い事も苦しい事も感じない。そしてもう二度と離れ離れになる事は無い。ずっと一緒にいられるわ」
「母さん……」
「あなたが自分の意思で選びなさい」
「…………」
フォルスは谷底を覗く。深く闇に覆われており、底が見えなかった。次に母親の顔を見た。穏やかで優しい母親の顔。このチャンスを逃せば、もう二度と拝む事は出来ないだろう。そんな予感がする。
「俺は……俺は……」
やがてフォルスの中で答えが出た。フォルスは両手で母親の両手を優しく包み込む。
「俺、母さんと一緒にいるよ」
「フォルス……本当に良いの?」
「あぁ、母さんに会ってハッキリ分かったんだ。俺には母さんが必要なんだって……物心が付く前に母さんを亡くして……ずっと寂しかった……迷惑かもしれないけど、今まで甘えられなかった分、甘えさせてくれないかな?」
「そんな……迷惑だなんて……とっても嬉しいよ」
「母さん……」
そう言うとフォルスは強く母親を抱き締める。また母親もフォルスを強く抱き締め返す。
「けど、本当に良いの? 現世にはあなたを待っている人達がいるんじゃないの?」
「あいつらなら大丈夫だよ。俺と違って、強い奴らだから。俺がいなくなった所で、問題無いよ」
「そうじゃなくて悲しまないかって、聞いてるのよ」
「心配し過ぎだよ。母さんが思っている以上に、あいつらは強い。悲しんではくれるだろうけど、きっとすぐに立ち直ってくれるさ」
「そう……ねぇ、フォルス……?」
「何だい、母さん?」
「私はフォルスの事を愛してるわ。フォルスは私の事を愛してる?」
「勿論、愛してるよ。他の誰よりも」
「良かった……それだけ聞けば、もう安心ね」
「母さ……っ!?」
その瞬間、母親は抱き締めていたフォルスを崖の上から突き落とした。慌てて翼を広げて飛び上がろうとするフォルスだったが、いつの間にか細い糸を巻き付けられており、上手く広げられなかった。恐らく母親が抱き締めた時に仕掛けたのだろう。羽ばたきが間に合わず、徐々に落下していく。そんな中でフォルスは母親に問い掛ける。
「母さん!! どうして!?」
「母さんね。仲間を悲しませる人が一番嫌いなの。ましてやそれが、悲しませない方法がある事を知った上で悲しませる人は大嫌いよ。私の息子をそんな畜生にはしたくないの。我が儘な母さんを許してね」
「でも!! でもそれだと母さんが悲しむ事になるじゃないか!!?」
「だから聞いたのよ。私の事を愛しているかって。そしてあなたは答えてくれた……愛しているって!! それだけ分かれば、母さんは何十年、何百年、何千年だって待っていられるわ!!」
「母さん!!」
遂に限界を迎えたフォルスは、羽ばたくのを止めてしまう。それにより勢い良く落下する。母親の姿がどんどん小さくなっていく。
「忘れないで!! 母さんもフォルスを愛してる事を!! そして絶対母さんよりも幸せな人生を送ってね!! 分かったわね!! 母さんとの約束よ!!」
「母さん!! 母さん!! 母さーーーん!!!」
やがて母親の姿は見えなくなり、フォルスは真っ暗な闇に包まれるのであった。
「!!!」
そしてフォルスは目を覚ます。
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