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第十章 冒険編 反撃の狼煙
双子の最後
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「君達も一度は経験した事があるんじゃない? 仲の良い友人や恋人に対してなら、言葉を交わさずとも自分の考えている事が伝わる事」
ヘゼンルーテは死体の一つを板代わりに、死体の山を滑り落ちる。下に降りる度に板代わりの死体からゴキッ、グシャ、という嫌な音が響き渡り、一番下の床に辿り着く頃には原型が分からない程、グチャグチャになっていた。
「そうした現象を言葉で表すとすれば、それは“共感覚”……特に僕達双子は共感覚が強く、互いに見た物や聞いた物を直接脳内で伝える事が出来るんだ」
そう言いながらヘゼンルーテは、ヘグレルの隣に立ち、手を繋ぐ。
「でもよく分かったね。君だけだよ、僕達の共感覚に気が付いたのは。前世では、一度も気付かれた事が無いんだよ」
「切っ掛けは、前の戦いでシーラさんに追い詰められたヘグレルが言った言葉でした」
***
『ふん、そう言う所はまだまだガキだな』
「何ですって!!? ちょっと図体がでかくなったからって、いい気にならないでよね!! 煩い!! ちょっと黙ってて!!」
「……?」
***
「あの時、シーラさんというより、別の誰かに声を掛けているみたいでした」
「あっちゃー、その時から疑われていたとは、ヘグレルはよく力に慢心する癖があったから、一度体制を立て直そうって、指示を送っていたんだけど……聞く耳を持ってくれなくて……全く我が儘妹だよ」
「だ、だって勝てると思ったんだもん……」
手をおでこに当てて、やってしまった感を出すヘゼンルーテ。そんな兄の様子に、ヘグレルは申し訳無いと思いつつも、言い訳を口にする。
「それで? まさかそれだけで僕達の秘密に気が付いたと言うの?」
「いえ、決定打になったのは先程の戦いです。私が死角から攻撃すると、ヘグレルは見事避けて見せました。しかしその時、奇妙な事を口にしていました。“ありがとう”って……」
「…………」
「敵の攻撃を避けてありがとう……どう考えてもおかしいですよね。でももし、あの感謝の言葉が別の誰かに向けられた物だとしたら……そうなると相手は兄であるヘゼンルーテだけに絞られる。そしてこう考えれば辻褄は合う。もしかしたらこの兄弟は言葉を交わさずに意志疎通が出来るのではないか」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
リーマが言い終わると、ヘゼンルーテは盛大な拍手を送り始めた。
「いやー、凄いよー。まさかそんな正確に言い当てられるとは、どうやら君は今まで出会って来た中で、最も分析能力が高いみたいだね。ちょっと尊敬しちゃったよ」
「秘密を暴かれたというのに、随分と余裕ですね」
「えー? そりゃあそうでしょ。例え僕達の秘密に気付けたとしても、君達に勝ち目は無いんだから」
するとヘゼンルーテは、両手の指の間それぞれに何本もの細長い針を挟み、持って見せた。
「針……?」
「ヘグレル、ここからは僕も参加するよ。いいね?」
「ちょ、ちょっと待ってよお兄ちゃん!! こいつらは私の獲物よ!! 手出しは無用よ!!」
秘密が暴かれた事により、ここからは一緒に戦おうとするヘゼンルーテだったが、ヘグレルがそんな兄を制止する。
「ヘグレル……僕達の秘密が明るみになった以上、一人で戦い続けるのはあまりにも分が悪いよ。それにヘグレル一人じゃ、あの二人には……」
「あぁ、うるさいうるさい!! お兄ちゃんは黙ってて!! どうせ寝た振りして監視するしか役に立たないんだから!!」
「…………あっ、そう。それなら好きにすれば?」
相変わらず聞く耳を持たないヘグレルに、ヘゼンルーテは呆れた様子で取り出した針を仕舞い、その場を離れて死体の山を背に、行く末を見守る事にした。
「ふぅ……これで邪魔物はいなくなったわ。それじゃあ始めましょう?」
「ハナコさん……行けますか?」
「大丈夫だぁ」
双子があれこれやり取りしている間に、リーマは負傷したハナコにポーションを渡し、傷を癒した。それによりハナコは完全な状態に戻った。
「もっと……もっと力を……」
そんな中、ヘグレルは鉤爪で自身の体を更に傷付けていた。傷口が増えていく一方で、ヘグレルの体はより大きく、筋肉はムキムキになっていった。
「ふ、ふふっ……これだれ傷付ければ、あんた達なんか一捻りよ!!」
そう言うとヘグレルは一瞬で距離を縮め、二人目掛けて拳を振ろうとする。その動きは以前よりも格段に速かった。
「「!!!」」
二人はこれを当たる直前で回避した。空を切った拳はそのまま床に直撃する。その瞬間、床には大きなひびが入る。
「どうやら力も一段と上がっているみたいですね」
「あんなのに当だっだら、一溜まりもないだぁ……だげど……」
「えぇ……ですが……」
「上手く避けたじゃない? でも今度のはどうかしら!?」
再び間合いを詰めるヘグレル。今度は両拳を使って、二人に攻撃を仕掛ける。
「「…………」」
が、振っても振ってもヘグレルの拳は一発も当たらない。運動神経の良いハナコは兎も角、魔法使いであまり運動神経の無いリーマにさえ、意図も簡単に避けられてしまう。
「な、何で!? どうして!?」
「…………」
焦るヘグレル。そんなヘグレルの様子を哀れんだ目で見つめるヘゼンルーテ。
「ハナコさん」
「分がっでるだぁ」
「このぉおおおおお!!!」
自棄になったヘグレルは、二人を捕まえて捻り潰そうと不用意に両腕を伸ばして来た。
その決定的な隙を二人は見逃さなかった。伸ばされた両腕を避け、逆に懐へと潜り込む二人。
「なっ!!?」
「スキル“獣王の一撃”!!」
「“ジャイアントフレイム・アーム”!!」
がら空きとなったヘグレルの腹目掛けて、ハナコは両手を縦に合わせ、まるで獣が牙を剥く様な構えで勢い良く突き出した。そしてリーマは炎の巨人の一部分である“腕”だけを生成し、勢い良く殴り飛ばした。
「あぐぁ!!!」
吹き飛ばされたヘグレルは壁に激突し、床に倒れ込んだ。
「やっだだぁ!!」
「やりました!!」
「……はぁー……」
「ぐぅ……うぅ……ちょ、調子に乗るんじゃないわよ……」
「「!!!」」
二人が喜んでいると、ヘグレルがゆっくりと立ち上がる。
「あんた達の攻撃なんか……屁でも無い……っ!!」
が、何故か直ぐに片膝を付いてしまった。
「あ、あれ……? 力が入らない……それに何だかふらふら……する……」
見るとヘグレルの指先は、ぶるぶる振るえていた。更に立ち上がろうとした瞬間、酷い目眩を起こした。
「終わりだよヘグレル」
「お、お兄ちゃん……?」
そんな哀れな妹を見かねて、兄であるヘゼンルーテが歩み寄る。
「おかしいの……力が入らないし、それに何だかふらふらする……」
「それは……“貧血”だよ」
「“ひ、貧血”!!?」
「血を流し過ぎたんだよ。“ペインストレンクセン”は自分を傷付ければ傷付ける程、強くなるけど……人間の血は無限じゃない……」
「だ、だけどこんな早く貧血になるだなんて……」
「勿論、いつもだったら大丈夫だった。けど、今回のお前はカッとなったり、激しい運動が多かった。だからいつもより多く血が流れたんだ」
「そ、そんな……じゃ、じゃあどうしてあいつらは私の攻撃を避けられたの?」
「確かにお前の攻撃は力も速度も上がった。けど、血が不足した事による注意力の散漫から、動き自体にキレが無くなった。単調で分かりやすい攻撃、避けられて当然だよ」
「そんな……」
「ヘグレル……ここは一度引き上げよう。今のままじゃ、確実に殺られちゃうよ」
「嫌だ……嫌だ!! 私は戦える!! 貧血だろうがなんだろうが、戦って見せる!!」
兄の忠告を無視し、無理矢理立ち上がろうとするヘグレル。しかし直後に目眩が彼女を襲い、それにより足がもつれてしまい、仰向けの状態で倒れてしまった。
「ほら、言っただろう。今のままじゃ、絶対に勝てない。ここは一旦、引き上げよう。今回負けたとしても、次回勝てれば良いじゃないか」
「うるさいうるさいうるさい!!」
「ヘグレル!! 我が儘言うな!!」
「お兄ちゃんの意気地無し!! だったらお兄ちゃん一人で逃げれば良いじゃない!! 私は逃げない!! お兄ちゃんみたいな腰抜けな行為は絶対にしない!!」
「ヘグレル……」
「もうお前は私のお兄ちゃんじゃない!! 弱虫の腰抜けはどっかに行ってろ!!」
「本気……じゃないよな?」
「もしかして怒った!!? でもそんなのちっとも怖くない!! 所詮、お前は私の腰巾着にしか過ぎないんだ!! さぁ、そこを退いて!!」
「…………」
そう言うとヘグレルは目眩を起こしながらも何とか立ち上がり、ヘゼンルーテを無理矢理押し退け、二人の下へと歩み寄ろうとする。
「あんた達、覚悟しなさい。絶対に殺して……やる……ん……だ……から……」
「「……?」」
突然、ヘグレルの動きが止まる。口で何かを訴えようとするが、声が出ない。眼球が震え、遂には白目になって前のめりに倒れた。
「こ、これは……!!?」
倒れたヘグレルの首には、大量の針が突き刺さっていた。これにより声が出せず、そのままヘグレルは息絶えてしまったらしい。しかし問題はヘグレルが亡くなった事よりも、誰がヘグレルを殺したのか。もう答えは出ていた。
「どうして……どうして家族を……妹を殺したんですか!!?」
殺ったのは兄であるヘゼンルーテ。その目は家族に向ける様な暖かい物では無く、冷めきった目だった。
「こいつは言った。“お前はもう私のお兄ちゃんじゃない”と、ならこんな使えない奴は必要無いだろう。だから殺した。いや、処分した……というのが正しいか」
「そんな……そんな理由で殺したんですか!!?」
「そんな理由だからこそだ。僕達双子はいつも一緒だった。どんな時だってずっと……僕がヘグレルを必要としている様に、ヘグレルも僕を必要としている……そう思っていたのに……そうじゃなかった……これは裏切りだよ」
「たった……たった一回の喧嘩で殺すだなんて……ヘグレルの言う通り、あなたは兄失格ですよ!!」
「だったらどうする?」
「あなたを……妹……ヘグレルの下へ送ります!! そしてそこで仲直りして貰います!!」
そう言うとハナコとリーマは、それぞれ武器を構える。
「悪いけど、僕はそこの筋肉馬鹿と違って、不利な勝負はしない主義なんだ。それじゃあね」
するとヘゼンルーテは、一目散に扉を開け、部屋から出て行ってしまう。
「待ちなさい!!」
慌てて二人も後を追い掛けるが、再び扉を開けた先は別の空間に変わっており、後を追い掛ける事は出来なかった。
「くそっ!!」
「リーマぢゃん……」
「絶対に許さない。あのクズだけは絶対に……」
「オラも……絶対に許ざないだぁ……」
無情にも妹を手に掛けたヘゼンルーテは、二人の前から姿を消した。かくして二人はヘゼンルーテに対する怒りを滾らせるのであった。
ヘゼンルーテは死体の一つを板代わりに、死体の山を滑り落ちる。下に降りる度に板代わりの死体からゴキッ、グシャ、という嫌な音が響き渡り、一番下の床に辿り着く頃には原型が分からない程、グチャグチャになっていた。
「そうした現象を言葉で表すとすれば、それは“共感覚”……特に僕達双子は共感覚が強く、互いに見た物や聞いた物を直接脳内で伝える事が出来るんだ」
そう言いながらヘゼンルーテは、ヘグレルの隣に立ち、手を繋ぐ。
「でもよく分かったね。君だけだよ、僕達の共感覚に気が付いたのは。前世では、一度も気付かれた事が無いんだよ」
「切っ掛けは、前の戦いでシーラさんに追い詰められたヘグレルが言った言葉でした」
***
『ふん、そう言う所はまだまだガキだな』
「何ですって!!? ちょっと図体がでかくなったからって、いい気にならないでよね!! 煩い!! ちょっと黙ってて!!」
「……?」
***
「あの時、シーラさんというより、別の誰かに声を掛けているみたいでした」
「あっちゃー、その時から疑われていたとは、ヘグレルはよく力に慢心する癖があったから、一度体制を立て直そうって、指示を送っていたんだけど……聞く耳を持ってくれなくて……全く我が儘妹だよ」
「だ、だって勝てると思ったんだもん……」
手をおでこに当てて、やってしまった感を出すヘゼンルーテ。そんな兄の様子に、ヘグレルは申し訳無いと思いつつも、言い訳を口にする。
「それで? まさかそれだけで僕達の秘密に気が付いたと言うの?」
「いえ、決定打になったのは先程の戦いです。私が死角から攻撃すると、ヘグレルは見事避けて見せました。しかしその時、奇妙な事を口にしていました。“ありがとう”って……」
「…………」
「敵の攻撃を避けてありがとう……どう考えてもおかしいですよね。でももし、あの感謝の言葉が別の誰かに向けられた物だとしたら……そうなると相手は兄であるヘゼンルーテだけに絞られる。そしてこう考えれば辻褄は合う。もしかしたらこの兄弟は言葉を交わさずに意志疎通が出来るのではないか」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
リーマが言い終わると、ヘゼンルーテは盛大な拍手を送り始めた。
「いやー、凄いよー。まさかそんな正確に言い当てられるとは、どうやら君は今まで出会って来た中で、最も分析能力が高いみたいだね。ちょっと尊敬しちゃったよ」
「秘密を暴かれたというのに、随分と余裕ですね」
「えー? そりゃあそうでしょ。例え僕達の秘密に気付けたとしても、君達に勝ち目は無いんだから」
するとヘゼンルーテは、両手の指の間それぞれに何本もの細長い針を挟み、持って見せた。
「針……?」
「ヘグレル、ここからは僕も参加するよ。いいね?」
「ちょ、ちょっと待ってよお兄ちゃん!! こいつらは私の獲物よ!! 手出しは無用よ!!」
秘密が暴かれた事により、ここからは一緒に戦おうとするヘゼンルーテだったが、ヘグレルがそんな兄を制止する。
「ヘグレル……僕達の秘密が明るみになった以上、一人で戦い続けるのはあまりにも分が悪いよ。それにヘグレル一人じゃ、あの二人には……」
「あぁ、うるさいうるさい!! お兄ちゃんは黙ってて!! どうせ寝た振りして監視するしか役に立たないんだから!!」
「…………あっ、そう。それなら好きにすれば?」
相変わらず聞く耳を持たないヘグレルに、ヘゼンルーテは呆れた様子で取り出した針を仕舞い、その場を離れて死体の山を背に、行く末を見守る事にした。
「ふぅ……これで邪魔物はいなくなったわ。それじゃあ始めましょう?」
「ハナコさん……行けますか?」
「大丈夫だぁ」
双子があれこれやり取りしている間に、リーマは負傷したハナコにポーションを渡し、傷を癒した。それによりハナコは完全な状態に戻った。
「もっと……もっと力を……」
そんな中、ヘグレルは鉤爪で自身の体を更に傷付けていた。傷口が増えていく一方で、ヘグレルの体はより大きく、筋肉はムキムキになっていった。
「ふ、ふふっ……これだれ傷付ければ、あんた達なんか一捻りよ!!」
そう言うとヘグレルは一瞬で距離を縮め、二人目掛けて拳を振ろうとする。その動きは以前よりも格段に速かった。
「「!!!」」
二人はこれを当たる直前で回避した。空を切った拳はそのまま床に直撃する。その瞬間、床には大きなひびが入る。
「どうやら力も一段と上がっているみたいですね」
「あんなのに当だっだら、一溜まりもないだぁ……だげど……」
「えぇ……ですが……」
「上手く避けたじゃない? でも今度のはどうかしら!?」
再び間合いを詰めるヘグレル。今度は両拳を使って、二人に攻撃を仕掛ける。
「「…………」」
が、振っても振ってもヘグレルの拳は一発も当たらない。運動神経の良いハナコは兎も角、魔法使いであまり運動神経の無いリーマにさえ、意図も簡単に避けられてしまう。
「な、何で!? どうして!?」
「…………」
焦るヘグレル。そんなヘグレルの様子を哀れんだ目で見つめるヘゼンルーテ。
「ハナコさん」
「分がっでるだぁ」
「このぉおおおおお!!!」
自棄になったヘグレルは、二人を捕まえて捻り潰そうと不用意に両腕を伸ばして来た。
その決定的な隙を二人は見逃さなかった。伸ばされた両腕を避け、逆に懐へと潜り込む二人。
「なっ!!?」
「スキル“獣王の一撃”!!」
「“ジャイアントフレイム・アーム”!!」
がら空きとなったヘグレルの腹目掛けて、ハナコは両手を縦に合わせ、まるで獣が牙を剥く様な構えで勢い良く突き出した。そしてリーマは炎の巨人の一部分である“腕”だけを生成し、勢い良く殴り飛ばした。
「あぐぁ!!!」
吹き飛ばされたヘグレルは壁に激突し、床に倒れ込んだ。
「やっだだぁ!!」
「やりました!!」
「……はぁー……」
「ぐぅ……うぅ……ちょ、調子に乗るんじゃないわよ……」
「「!!!」」
二人が喜んでいると、ヘグレルがゆっくりと立ち上がる。
「あんた達の攻撃なんか……屁でも無い……っ!!」
が、何故か直ぐに片膝を付いてしまった。
「あ、あれ……? 力が入らない……それに何だかふらふら……する……」
見るとヘグレルの指先は、ぶるぶる振るえていた。更に立ち上がろうとした瞬間、酷い目眩を起こした。
「終わりだよヘグレル」
「お、お兄ちゃん……?」
そんな哀れな妹を見かねて、兄であるヘゼンルーテが歩み寄る。
「おかしいの……力が入らないし、それに何だかふらふらする……」
「それは……“貧血”だよ」
「“ひ、貧血”!!?」
「血を流し過ぎたんだよ。“ペインストレンクセン”は自分を傷付ければ傷付ける程、強くなるけど……人間の血は無限じゃない……」
「だ、だけどこんな早く貧血になるだなんて……」
「勿論、いつもだったら大丈夫だった。けど、今回のお前はカッとなったり、激しい運動が多かった。だからいつもより多く血が流れたんだ」
「そ、そんな……じゃ、じゃあどうしてあいつらは私の攻撃を避けられたの?」
「確かにお前の攻撃は力も速度も上がった。けど、血が不足した事による注意力の散漫から、動き自体にキレが無くなった。単調で分かりやすい攻撃、避けられて当然だよ」
「そんな……」
「ヘグレル……ここは一度引き上げよう。今のままじゃ、確実に殺られちゃうよ」
「嫌だ……嫌だ!! 私は戦える!! 貧血だろうがなんだろうが、戦って見せる!!」
兄の忠告を無視し、無理矢理立ち上がろうとするヘグレル。しかし直後に目眩が彼女を襲い、それにより足がもつれてしまい、仰向けの状態で倒れてしまった。
「ほら、言っただろう。今のままじゃ、絶対に勝てない。ここは一旦、引き上げよう。今回負けたとしても、次回勝てれば良いじゃないか」
「うるさいうるさいうるさい!!」
「ヘグレル!! 我が儘言うな!!」
「お兄ちゃんの意気地無し!! だったらお兄ちゃん一人で逃げれば良いじゃない!! 私は逃げない!! お兄ちゃんみたいな腰抜けな行為は絶対にしない!!」
「ヘグレル……」
「もうお前は私のお兄ちゃんじゃない!! 弱虫の腰抜けはどっかに行ってろ!!」
「本気……じゃないよな?」
「もしかして怒った!!? でもそんなのちっとも怖くない!! 所詮、お前は私の腰巾着にしか過ぎないんだ!! さぁ、そこを退いて!!」
「…………」
そう言うとヘグレルは目眩を起こしながらも何とか立ち上がり、ヘゼンルーテを無理矢理押し退け、二人の下へと歩み寄ろうとする。
「あんた達、覚悟しなさい。絶対に殺して……やる……ん……だ……から……」
「「……?」」
突然、ヘグレルの動きが止まる。口で何かを訴えようとするが、声が出ない。眼球が震え、遂には白目になって前のめりに倒れた。
「こ、これは……!!?」
倒れたヘグレルの首には、大量の針が突き刺さっていた。これにより声が出せず、そのままヘグレルは息絶えてしまったらしい。しかし問題はヘグレルが亡くなった事よりも、誰がヘグレルを殺したのか。もう答えは出ていた。
「どうして……どうして家族を……妹を殺したんですか!!?」
殺ったのは兄であるヘゼンルーテ。その目は家族に向ける様な暖かい物では無く、冷めきった目だった。
「こいつは言った。“お前はもう私のお兄ちゃんじゃない”と、ならこんな使えない奴は必要無いだろう。だから殺した。いや、処分した……というのが正しいか」
「そんな……そんな理由で殺したんですか!!?」
「そんな理由だからこそだ。僕達双子はいつも一緒だった。どんな時だってずっと……僕がヘグレルを必要としている様に、ヘグレルも僕を必要としている……そう思っていたのに……そうじゃなかった……これは裏切りだよ」
「たった……たった一回の喧嘩で殺すだなんて……ヘグレルの言う通り、あなたは兄失格ですよ!!」
「だったらどうする?」
「あなたを……妹……ヘグレルの下へ送ります!! そしてそこで仲直りして貰います!!」
そう言うとハナコとリーマは、それぞれ武器を構える。
「悪いけど、僕はそこの筋肉馬鹿と違って、不利な勝負はしない主義なんだ。それじゃあね」
するとヘゼンルーテは、一目散に扉を開け、部屋から出て行ってしまう。
「待ちなさい!!」
慌てて二人も後を追い掛けるが、再び扉を開けた先は別の空間に変わっており、後を追い掛ける事は出来なかった。
「くそっ!!」
「リーマぢゃん……」
「絶対に許さない。あのクズだけは絶対に……」
「オラも……絶対に許ざないだぁ……」
無情にも妹を手に掛けたヘゼンルーテは、二人の前から姿を消した。かくして二人はヘゼンルーテに対する怒りを滾らせるのであった。
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