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第九章 冒険編 蘇る英雄達

真緒パーティー VS ヘグレル(前編)

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 「今、何て言った?」



 「だからー、君達をエジタス様の島に招待するんだよー」



 「エジタス様って、懐の広い人だよね。これまであなた達にされた事は、全部水に流すって言ってくれたんだよ」



 「ふざけるな!! 全部水に流すって、そもそもあいつが蒔いた種じゃないか!? 自業自得だ!!」



 エジタスの言葉を代弁するヘグレルに対して、怒りを剥き出しにするシーラ。それも当然、エジタスが真緒達に殺されたのはエジタス自身に原因があるのだ。検討違いも甚だしい。



 「落ち着け。そうムキになるな。相手の思う壺だぞ」



 「っ……!!」



 そんなシーラを宥めるフォルス。確かに本人でも無い双子に怒りをぶつけても意味が無い。



 「それにあれはまるで、わざと相手をカッとさせる様な言い回しだった。恐らく頭に血が上りやすいお前に手を出させ、合法的に潰すつもりだったんだろう」



 「へぇー、凄いねー。そこまで分かっちゃうなんてー」



 「年の功が成せる冷静さ……っと言った所かしら?」



 「いや、俺だけじゃないさ」



 そう言うフォルスの言葉に頷く真緒達。どうやらシーラとエレットを除いた四人だけは初めから気が付いていた様だ。



 「相手を煽ってその気にさせる。師匠らしいやり方ですね」



 「まぁ、エジタスさんが思い付きそうな事ではありますね」



 「相変わらず小ズルいだぁ」



 「ふーん、何かつまんない。もっと逆上してくれたら面白かったのに……それで? 招待を受けるの? 受けないの?」



 思った反応を得られず、ふてくされるヘグレル。心なしか聞き方も雑に感じた。



 「そりゃあ勿論……」



 真緒達は顔を見合わせる。答えは既に決まっていた。



 「お断りします」



 「そっ。じゃあエジタス様に報告して迎えを……って、今何て言ったの?」



 「だからお断りします。私達は招待を受けません」



 「嘘でしょ……」



 聞き間違いかと思い、再度聞き返したが、結果は同じ。予想外の返答に戸惑いを隠せないヘグレル。



 「信じられない。エジタス様の島に行けるのに、その誘いを断るだなんて……そこは罠でも本拠地に乗り込むのが常識でしょ?」



 自分で罠と暴露してしまう辺り、ヘグレルはどんな形であれ、真緒達は招待を受けると思っていた模様。それがこんな結果となってしまい、真緒達の考えてる事が分からなくなってしまった。



 「仕方ないよヘグレル。エジタス様が言ってたでしょー? この人達は、一筋縄では行かないってー」



 「……そうだった。ねぇ、もう一度聞くけど、本当に招待を受けるつもりは無いの?」



 「無いよ。例え師匠が自ら誘ったとしてもね」



 「そっか……それじゃあ仕方ないね。作戦変更、この場で殺して向こうで蘇らせよう」



 「「「「「「!!!」」」」」」



 ヘグレルの殺害宣言に、真緒達は武器を構える。



 「ほら、お兄ちゃん殺るわよ……お兄ちゃん?」



 「うーん、今日はパスかなー。あまり気が乗らないっていうかー。もう既に沢山殺したから充分っていうかー。兎に角面倒臭いから……おやすみ……」



 が、ヘゼンルーテは死体の山でひっくり返って目を瞑る。



 「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!」



 「終わったら起こしてよー」



 そう言うと静かな寝息を立てて、寝てしまった。



 「もうお兄ちゃんったら……こうなったら意地でも起きないからな……まぁ、別に良いか。この程度の相手なら、私一人でも充分でしょ」



 「へぇ、随分と大口を叩くじゃないか。それならお手並み拝見と行かせて貰おうか!!」



 「…………」



 先に仕掛けたのはシーラだった。槍を構え、ヘグレルとの距離を一瞬で詰める。そして流れる様に槍を突き出す。



 「っ!!?」



 しかし、怪我を負ったのはシーラの方だった。慌てて身を引くシーラ。体には何かに突き刺されて空いた穴が“五つ”あった。



 「シーラさん!!」



 「こ、これは……!!?」



 「へぇ、中々速いね。けど、それよりも私の方がもっと速いかな」



 そう言うヘグレルの右手の指それぞれには、血に濡れた鋭利な“刃物”が取り付けられていた。俗に言う鉤爪と呼ばれる武器だった。



 「どうしたの? もしかしてもう終わり?」



 「このガキ!!!」



 「待て!! 早まるなシーラ!!」



 挑発され、頭に血が上ったシーラは、フォルスの制止を振り切り、ヘグレルに襲い掛かる。



 「スキル“ヤマタノオロチ”!!」



 怒涛の八連撃。例え相手がどんなに速くとも、これら全てを避けるのは困難。



 「……つまんない」



 「なっ!!?」



 だがそれは八連撃を打てた場合の話。何とヘグレルは初撃の軌道を見抜き、鉤爪で受け止めたのだ。



 「じゃあ死んで」



 するとヘグレルは、反対側の左手に取り付けていた鉤爪でシーラを突き刺そうと、勢い良く突き出した。



 「スキル“鋼鉄化”!!!」



 「「!!?」」



 その間に割って入るハナコ。全身を鋼鉄に変化させ、シーラに迫る鉤爪から身を呈して守った。



 「“ウォーターキャノン”!!」



 続いてリーマの魔導書から放たれる水の塊が、真っ直ぐヘグレルに迫る。しかしヘグレルは素早くその場を離れ、水の塊を回避する。



 「そこに来るのは読んでいたぞ!! “ブースト”!!」



 ここでフォルスによる追撃。空中から目にも止まらぬ速さの矢が、ヘグレル目掛けて襲い掛かる。



 「へぇ、そう。だけど私も矢が飛んで来る事を読んでたよ」



 しかしヘグレルは、驚異の反射神経で矢を片手でキャッチする。



 「なら、この攻撃は読んでたかな?」



 追撃からの更なる追撃。雷魔法で自身の速度を上げていたエレットは、ヘグレルの背後に回り込んでいた。



 「うん、勿論読んでたよ」



 「なっ!!?」



 が、それも無駄に終わった。ヘグレルは背後に回り込んでいたエレットをノールックでもう片方の鉤爪で突き刺していた。



 突き刺されて出血するエレット。痛みに耐えながら前のめりに倒れる。その隙を狙って、とどめをさそうと振り返る。しかしそこには何と真緒が立っていた。



 「嘘!!? な、何で!!?」



 「さすがにこれは読めなかったみたいだね」



 ヘグレルの背後に回ったエレット。実は一人じゃなかった。エレットと重なる様に真緒も付いて来ていたのだ。エレットが倒れた事で障害物は無くなり、目の前のヘグレルに向けて渾身の一撃を放てる様になった。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「ぐっ……きゃあああああ!!!」



 この攻撃にはさすがのヘグレルも避けられず、まともに食らってしまった。衝撃で勢い良く吹き飛ばされ、仰向けになって倒れる。



 「げほっ!! げほっ!! ごほっ!!」



 しかし傷は浅かったのか、直ぐ様起き上がった。それでもそれなりのダメージは当てる事が出来た様で、苦しそうに胃液を吐いていた。



 「(この子……強い)」



 そして一撃入れた真緒は、ヘグレルの強さを実感していた。



 「(完全に入ったと思ったのに……あの瞬間、わざと自分の足を引っ掻ける事で仰向けに転び、ギリギリ直撃を防いだ)」



 「大丈夫、エレット?」



 「シーラ先輩……な、何とか……」



 「よし、この調子なら何とかなりそうだな」



 「油断しないで下さい。相手は師匠が選んだ英雄達の一人なんですから」



 「分かってるよ」



 「はぁ……はぁ……ちょっとイライラして来ちゃったか……も!!!」



 すると突然、ヘグレルは服を破り捨て、下着姿へとなった。



 「えっ!!? ちょ、何してるの!!?」



 さすがの真緒達も、ヘグレルの奇行に驚きの表情を隠せなかった。そして次の瞬間……。



 「くっ……ぁあああああ!!!」



 「「「「「「!!?」」」」」」



 ヘグレルは両手の鉤爪で、自身の体を傷付けた。十本の傷跡から血が流れ落ちる。



 「い、いったい何をしているの!!?」



 「気でも狂ったのか!!?」



 「……私の能力は……ちょっと不便でね。こうしないと発動しないんだ……」



 その時、ヘグレルの体に変化が起きる。小さくて愛らしい子供の体に、みるみる内に“筋肉”が増強されていく。それに伴い、体も大きく変貌していく。



 「こ、これは……!!?」



 「これが私の能力……自分で傷付ければ傷付ける程、より強くなる……スキル“ペイン・ストレンクセン”!!」



 真緒達の目の前には先程までの愛くるしい少女の姿は無く、ムキムキの筋肉ゴリラが立っていた。
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