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第九章 冒険編 蘇る英雄達

大混乱

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 遥か上空。族長の手助けによって危機を何とか脱する事が出来た真緒達。追っ手が無い事を確認すると、背負っていたサタニアをドラゴンの背中に下ろした。



 「ありがとう族長、助かった」



 「ほぅ、何を言っておる。困った時はお互い様だろう」



 助かった事に安堵する一同であったが、直ぐ様険しい顔付きに変わる。それは助けた側の族長にも同じ事が言えた。



 「族長……あのフェニクスが……」



 「わしも目を疑った……何せわしがまだ小さな小鳥だった頃には、既に伝説上の鳥人として崇められていたからな」



 「そんなに凄い人を……師匠は蘇らせたんですね……」



 最早、エジタスが蘇らせたのは明白であった。カルド王にフェニクス、決して相見える事の無かった者達が、この同じ時代に蘇った事は奇跡とも言える。



 「そう言えば、族長はどうして俺達を助けに来たんですか?」



 それは素朴な疑問であった。真緒達は今回の件は出来る限り、周りには知らせずに動いていた。ロストマジックアイテムの存在が世間に知られれば、多くの者が我先にと争う事が予想されていたからである。にも関わらず、族長はわざわざ目立つドラゴンに乗ってまで真緒達を助けに来た。



 「確がにぞうだぁ……」



 「いったい……何があったんですか?」



 「……今、世界中が大混乱に陥っているんだ」



 「「「「「えっ!?」」」」」



 「君達が出会ったカルド王、フェニクス、彼ら二人と同等の力を持つ存在。所謂、英雄と呼ばれる者達が次々と姿を現しているんだ」



 「あの二人以外にもですか!?」



 「実際に見て貰った方が分かるだろう……ちょっと下を覗いて見てくれるか?」



 「……下?」



 族長に言われた通り、真緒達はドラゴンの背中から身を乗り出し、地上の光景を覗いて見る。



 「あ、あれは!!?」



 そこには超巨大なクレーターが広がっており、何かが燃えたのか周りが炭で黒くなっていた。



 「つい数日前、あそこには小規模の国があったんだ。それがたった“半日”で跡形も無く消え去ってしまった」



 「“半日”!!?」



 信じられなかった。いくら小規模の国だとはいえ、たった半日で全ての建物が消えて無くなってしまうなど、物理的に不可能である。



 「王や国民も含めて……な……」



 「そんな……」



 「今度は向こうを見てくれ」



 「向こうは確か……“グラフィス大森林”がある方向ですよね?」



 グラフィス大森林。それはエジタスとサタニアが初めて会った特別な場所。カルド王国とヘラトス魔族国家の中心に位置する巨大な森。



 「いったい何が……って、あれ?」



 が、あるべき筈の方向にグラフィス大森林は存在しなかった。綺麗な地平線が広がっているだけだった。



 「あ、あれ? いったい何処に行っちゃったんですか!?」



 「まさか……グラフィス大森林も消えて無くなってしまったのか!?」



 「そんな!!?」



 「まぁ、そう慌てるな。その方向のまま、少し上を見て見るんだ」



 「上って……えぇえええええ!!?」



 そこには目を疑うべき光景が広がっていた。消えて無くなったと思われたグラフィス大森林の木々は全て空中に浮いていたのだ。



 「これ……これ……え、えぇ!!?」



 そのあまりに規格外な出来事に、頭の整理が追い付かない真緒達。更によく見ると木々だけで無く、そこに生えていた茸などの食物や、住んでいた動物達もが一緒に浮いていた。



 「驚くのはまだ早い。今の二つ以外にも、今世界中で同規模な異常現象が引き起こされている」



 「この一週間で何が起こったんですか!?」



 「それじゃあつまりこう言う事か? 族長は俺達を助けた訳じゃなく、俺達に助けを求めたという事か!?」



 「……その通りだ」



 逆だった。助けられたと思っていたのが、実は助けを求めに来ていた。



 「で、でもまぁ、結果的には助かった訳ですし……」



 「待て、族長がここにいるって事は……里は!!? 鳥人の里は無事なのか!!?」



 フォルスは興奮した様子で族長に掴み掛かる。そんなフォルスを落ち着かせようと真緒達が側に歩み寄り、掴んでいる手を離す様に説得する。



 しかしそれでも、周りが見えなくなってしまっているフォルスは、一向に掴んでいる手を離そうとしない。すると族長は、ゆっくりと口を開く。



 「フォルス、落ち着くんだ。里なら大丈夫だ」



 「そ、そうか……」



 その言葉で冷静さを取り戻したフォルス。掴んでいた手を離し、一歩後ろへと下がる。



 「わしらの里はヘルマウンテンの麓にある。そのお陰で大抵の者は近付く前に熱さで倒れてしまう。更にわしらの里には守護神であるドラゴンもいるからな。何も心配はいらない」



 「悪かった……少し頭に血が登ってしまったみたいだ」



 「気にするな。それよりも、問題は“あの町”の方だ」



 「“あの町”?」



 「君達も一度行った事があるだろう。海の底にそびえる水の都……」



 「それってまさか人魚の町ですか!!?」



 それは一年前、真緒達が海賊船の船長“ジェド”と供に訪れた人魚達が住む町の事であった。



 「確かそこの女王とジェドが結婚したんだよな」



 「そうですよ!! あんなに幸せそうだったのに……あの二人に……人魚の町に何があったんですか!!?」



 「…………」



 「族長?」



 族長は眉間にシワを寄せ、言いづらそうな表情を浮かべていた。しかし、すぐに決意を固め、真緒達に衝撃の事実を告げた。



 「……消滅した」



 「……は?」



 「昨日の事だ。人魚の町が一瞬で消えてしまったんだ」



 「嘘……」



 「嘘じゃない。唯一生き残った“ライア”という女性が知らせに来たんだ」



 「ライアが……」



 ライアは人魚の町に住む人魚の一人。海賊船の船員である人間のルーと恋仲になり、一緒に幸せに暮らしている筈だった。



 「それじゃあ女王様は!!? ジェドは!!? ルーは!!?」



 「…………」



 黙って首を横に振る族長。そのあまりの悔しさから、真緒は両手に握り拳を作りながら、歯を食い縛っていた。そして同時に怒りを覚えていた。



 「いったい……いったい誰がそんな酷い事をしたんですか!!?」



 「……君達もよく知っている人物さ……その人は自ら築き上げた町を自らの手で終わらせた」



 「えっ、それって……」



 元々、水の都自体がある一人の人物の手によって作り出された物であり、実質人魚の町の誕生はその人物による切っ掛けが大きい。そして真緒達はその人物の事をよく知っている。一年前、エジタスとの戦いで最後の最後まで一緒に戦ってくれた。死して尚、ゾンビ状態で一時的に蘇ったその人はエジタスを倒した後、未練無くあの世に旅立った。



 「大魔法使い“アーメイデ”様だ」



 真緒達を鍛え上げてくれた恩師であり、最もエジタスに力を貸すとは思われなかった人物。そんなアーメイデが、自身が築き上げた水の都を人魚の町ごと、跡形も無く消し去ってしまったのだ。
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