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第九章 冒険編 蘇る英雄達

一週間後

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 ここはカルド王国やゴルド帝国がある本島から離れた位置に浮かぶ小島。島の中には人は一切おらず、豊かな自然に囲まれ、清らかな小川が流れている。



 しかし、それも今や昔の話。豊かだった自然は殆ど伐採され、清らかな小川も上流で塞き止められてしまった。そして水を独占するかの様に、その周囲を大きく外壁が取り囲む。



 平和な小島に小さな町が建設されたのだ。既に幾つかの家が建てられており、人が生活している様子が伺えた。そんな中、町の一番奥に構える立派な屋敷から、ゴリ……ゴリ……ゴリ……と、何かを削る音が町中に響き渡っていた。



 屋敷の中は落ち着いた内装に仕上がっており、一言で表すとすれば“和”というのが適切であった。洋風な外観に対して和風な内装と、非常にアンバランスな作りとなっている。そんな屋敷内では相変わらず、ゴリゴリという音が聞こえて来る。



 そんな奇妙な音を出しているのはエジタスであった。とある一室にて、一心不乱に作業していた。



 「ここにいたのか」



 すると部屋の扉が開かれ、ロージェが中へと入って来た。しかしエジタスはロージェの存在を気にも止めず、黙々と作業に没頭していた。



 「そろそろ行くぞ。皆、もう集まっている」



 「……あぁ、もう少しで終わるからそこで待ってろ」



 「……いったい何をしているんだ?」



 只、黙って待っているのも退屈だった為、エジタスがいったい何の作業をしているのか気になったロージェは、何気無く聞いて見た。



 「もう俺の“役目”は殆ど完了したからな。こっからは“あいつ”に任せようと、その為の準備をしている所だ」



 「準備……あぁ、成る程、そう言う事か」



 何かに納得したロージェはその後、素直に黙って待ち続ける事にした。そんなエジタスがいったい何を作っているのか、答えは“仮面”である。



 以前、エジタスの中に道化師としての人格が生まれた際、育て親であったオモトの頭蓋骨を削って仮面を作った。そして今回も首だけ持ち帰ったエイリスの頭蓋骨を削り、仮面を作っていたのだ。



 「(望み通り、永遠に一緒にいてやるよ。曲がりなりにも、お前は“あいつ”の姉だったんだ。これ位の願いは聞き届けてやる。但し……)道具としてだがな」



 そう言いながらエジタスは、エイリスの頭蓋骨から削り出した仮面を上に掲げながら、じっくりと眺める。



 「完成したのか?」



 「あぁ、完璧だ」



 仮面は以前よりも一層不気味に笑みを浮かべていた。まるでエイリスの生き霊が乗り移っているかの様に。そしてエジタスは完成した仮面をゆっくりと、自分の顔に嵌める。



 「……さて、それじゃあ行きましょうか~」



 「あぁ」



 「そう言えばロージェさん、こうして会うのは久し振りですね~。何年振りでしたっけ~?」



 「無駄話してないで行くぞ」



 「そんな冷たい事、言わないで下さいよ~。せっかくの再会、もっと喜びを噛み締めましょう~」



 「いいから速く付いて来い。置いて行くぞ」



 「せっかちな人ですね~。分かりましたよ~」



 いつもの口調に戻ったエジタスを引き連れて部屋を後にするロージェ。部屋に残されたのは、無惨に骨の一部を切り取られたエイリスの頭蓋骨であった。







***







 師匠が蘇ってから一週間が過ぎた。この一週間、特に変わった出来事は起こっておらず、不気味な程に平和な時間を過ごしていた。



 私達は一旦、カルド王国に戻り、今後について話し合う事にした。だけど、師匠がいったい何処で何をしているのか、全く情報が掴めずにいた。



 会議室。今日も私達は、サタニア達を交えて話し合っていた。



 「やはり今すぐ行動を起こすべきだと俺は思う。このまま黙って手をこまねいていても仕方がない。こちらから仕掛けるべきだ」



 「だからそうしようにも、肝心のエジタスが何処にいるのか分からないって、何度も言ってるよね?」



 「そんなの分かっている。だが、何もせずにじっとしているより、血眼になって探し出した方が良いんじゃないかと言っているんだ」



 「そんな安易な方法で、あのエジタスが見つかる訳が無い」



 フォルスは、形振り構わずにエジタスを探し回った方が良いと意見を出すが、サタニアはそんなの時間の無駄だと完全否定する。



 「じゃあいったいどうするって言うんだ?」



 「…………待つしか無い」



 「またそれか」



 「近い将来、必ずエジタスは何らかの動きを見せる筈……それまでにこっちは、万全な準備を整えるんだ」



 「だからそれはいつ起こるって言うんだ!? 一年先かもしれない。十年先かもしれない。下手したら百年先だって考えられる。そうなったら、寿命の短い俺達は戦えずに死んでしまう。魔族の基準で決めるんじゃない!!」



 「だけどまだ百年先だって決まった訳じゃ無いだろう!? もう少し待って見てからでも遅くは無い筈だ!!」



 「そんな希望的観測で物事を見ていたら、いざって言う時に動く事が出来ない!! やはりここは今すぐ行動を起こすべきなんだ!!」



 「だからそれは無鉄砲だって言ってるよね!!」



 もう少し様子を見るべきだと言うサタニア。そんな悠長な事をしている余裕は無いと、フォルスは意見を否定する。そんな二人の様子を少し離れた位置から眺めている他の五人。



 「はぁ……またあの調子だ。これじゃあ、昨日と全く同じだね」



 「どちらの意見も間違っていないからこそ、互いに譲る事が出来ないですよね」



 「コノカイギガ、モットモジカンノムダダ」



 「げどオラ達じゃ、あれ以上の意見を出ぜないがらなぁ……何も言えないだぁ……」



 「…………」



 各々が口を開く中、真緒だけが何処か遠くを見つめ、別の考え事をしていた。



 「マオぢゃん? どうがじだがぁ?」



 「……えっ、あっ、い、いや何でも無いよ」



 「マオさん、どうかしましたか?」



 「本当に何でも無いから、気にしないで……」



 真緒には一つ気掛かりな事があった。エジタスは去り際に『もっと戦力を整えなければ』と述べていた。そして“死者復活の紙”。



 「(もしも……もしもあのロストマジックアイテムが、文字通り死者なら誰でも蘇らせる事が出来るとしたら……)」



 その時だった。突然会議室の扉が勢い良く開かれ、一人の魔族が血相変えて飛び込んで来た。



 「た、大変です!!」



 「いったい何があったの!?」



 「そ、それがぁああ……あ……」



 次の言葉が発せられる事は無かった。何故なら、その魔族の頭部に鋭い剣が突き刺さったからだ。



 「全く……いったいいつからこの国は魔族の国になった?」



 「あ、あなたは……」



 そこに立っていたのは想像も付かない人物であった。そのあまりに意外な人物の登場により真緒達、サタニア達は驚きの表情を隠せなかった。



 「ここは人の国……いや、“俺”の国だ」



 一騎当千。その昔、たった一人で魔族の軍団と渡り歩き、そのあまりの強さ故に、一般兵士から王にまで成り上がった。その最後はエジタスの指示により、大臣として潜入していた“ラクウン”に殺されるという、正に伝説の英雄と呼ぶべき存在。名を…………。



 「カルド・アストラス・カルド……だけどこれは……」



 初代カルド王国国王にして、シーリャとリリヤの父親。そして更に驚く事に、白髪の長髪は黒く短髪になっており、それまで生えていた長い顎髭は綺麗さっぱり無くなっていた。



 「若返っている……?」



 その場にいる全員が突然の状況に困惑している中、カルド王はフッと不適な笑みを浮かべるのであった。
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