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第八章 冒険編 血の繋がり

自惚れ

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 この場にいる全員、いったい何が起こったのか理解するのに時間を要した。



 リップの策略により、ロストマジックアイテムの儀式が執り行われ、エイリスが生け贄として捧げられると思われた矢先、ロージェの剣がリップの体を貫いた。



 「残念だけど、生け贄になるのはあなたよリップ」



 「ロ、ロージェさん……どうしてここに……あなたは……魔王と戦っていた筈……」



 「サタニアと!!?」



 リップから聞かされた事実に驚きの声を上げる真緒。



 「サタニアと戦っていた筈のロージェが、この場にいるという事は……まさか……」



 最悪の考えが頭に浮かぶ。



 「そんな話、今はどうでもいい。私が成すべき事は只一つ……」



 そんなリップの問い掛けを無視し、ロージェはリップが持っていた死者復活の紙を取り上げる。



 「この紙を手に入れる事だ」



 そう言うとロージェは、刺していた剣を一気に引き抜く。それによってリップの体から血が溢れ出した。



 見る見る内に顔が真っ青になっていく。息遣いも荒くなり、血が抜けていく寒さから全身が震え始めた。



 「返せ……それは……私がエジタス様に直接与えられた物だ……それを使ってエジタス様を蘇らせるんだ……」



 「本当に頼まれたのか?」



 「勿論だ……」



 「本当に? 本人から直接、“蘇らせて欲しい”と頼まれたのか?」



 「……え?」



 その言葉にリップは、当時の記憶がフラッシュバックする。まるで走馬灯の様にハッキリと見える。







 “エジタス様、これは?”



 手渡されたみすぼらしい紙切れ。それがいったい何なのか皆目検討が付かず、思わず首を傾ける。



 “これは死者復活の紙です。今は何の能力も持たない只の紙切れですが、世界中に散らばっている六つのロストマジックアイテムをそれぞれ捧げる事で、初めて真の能力が発揮される仕組みになっています”



 “そ、そんな凄い物を私に!?”



 自分がとんでもない物を持っている事に、持ち手が震える。



 “えぇ、そしてもし私に何かあった時はその紙を、他のロストマジックアイテムと一緒に捧げて、能力を目覚めさせて下さい”



 “目覚めさせるって……まさかエジタス様!!?”



 “頼みましたよ”



 リップの言葉にエジタスは一言を添えると、そのまま指をパチンと鳴らし、一瞬にして姿を消してしまった。



 “……お任せ下さいエジタス様、この私が必ず蘇らせて見せます”



 エジタスの思いを受け取ったリップは、必ず遂行して見せると決意するのであった。







 「ほら見ろ、頼まれていないじゃないか」



 「で、でもエジタス様は能力を目覚めさせて欲しいって……」



 「そう、能力を目覚めさせるだけ……蘇らせて欲しいなど、一言も言っていない……」



 「だ、だけど……」



 確かにロージェの言う通り、直接エジタスに頼まれた訳じゃない。だが、鍵となる死者復活の紙を渡されたのは事実であり、それは間接的に蘇らせて欲しいという要求に繋がるのではないかと考えていた。



 しかし頭がボーッとして、上手く考えを纏める事が出来ない。段々と目もボヤけ始める。



 「それに貴様は、エジタスの素顔を見た事が無いだろう?」



 「へ?」



 「エジタスは信用する人物にだけ、その証として自身の素顔を見せる事実、各ロストマジックアイテムの守護者達は全員エジタスの素顔を知っていた。それで? 貴様は知っているのか? エジタスの素顔を?」



 「…………」



 知らない。思い返せば、一度もエジタスに素顔を見せて貰った事は無かった。リップ自身、特に見たいという感情は湧かなかった。



 だがもし、ロージェが言っていた通りエジタスは信用する人物にだけ、その素顔を見せているとしたら、それはつまり自分は信用されていなかったという事になる。



 「あ……ああ……あ……」



 出血多量による血液の不足により、とうとうリップは力無くその場に倒れる。そして僅かに残った力を振り絞り、ロージェに問い掛ける。



 「ロージェ……君はいったい……何者なんだ?」



 「……良いだろう、冥土の土産に教えてやろう。私はかつてエジタスに仕えていた三人、ラクウン、エピロ、ジョッカーと同じく仕えていた四人目の存在。貴様達の立場で言うならば“第三勢力”と言った存在だ」



 「「「「第三勢力!!?」」」」



 ロージェの言葉に真緒達が反応する。何故ならその言葉を、以前聞いた事があったからである。



 「という事は、魔王城の残骸から見つかった日記の切れ端って言うのは、あなたが書いた物だったの!?」



 「そうか、あれを無事に見つけてくれていたか。時が経てばいずれ私の存在はバレてしまうからな。その前にわざと仄めかし、怪しい動きをするであろうリップを第三勢力だと勘違いしてくれればと思って仕掛けたんだが……上手く行って良かった」



 「まさか、あれはわざと置いたって言うのか!?」



 「当然だ。あんな瓦礫の山から紙が一枚だけ出て来るなんて不自然だろう」



 全ては最初から仕組まれていた事だった。ロージェはヘッラアーデだけじゃなく、真緒達やサタニア達も騙していたのだ。



 するとロージェはその場にしゃがみ、倒れているリップに声を掛ける。



 「そしてリップ、貴様の役割はエジタスを蘇らせる事じゃない」



 「…………」



 「貴様の役割は私という存在を隠す為の餌……つまり隠れ蓑だ」



 「!!!」



 「まさか本当にエジタスの仲間だなんて思っていないよな? もし思っていたとしたら、それは酷い自惚れだ」



 「……ははは……」



 ロージェの言葉に対して、リップはか細く渇いた笑いを発した。しかしその目からは涙が流れていた。



 「いったい……いったい何の為に……生きて来たんだ……」



 「最初に言っただろう。貴様は生け贄として捧げられるのだ」



 「あ……がぁ……あぁ……」



 そう言うとロージェは倒れているリップ目掛けて剣を突き刺し、息の根を止めた。



 「さて、さっさと始めてしまおう」



 「っ!! そうはさせません!!」



 死者復活の紙を取り出し、エジタスを蘇らせようとするロージェ。そんなロージェを止めるべく、真緒達は慌てて祭壇へと駆け寄ろうとする。



 が、その行く手を謎の人影が立ち塞がった。



 「悪いけど、この先は行かせないよ」



 「サ、サタニア!!?」



 謎の人影の正体は、ロージェと一戦交わっていた筈のサタニアだった。供にエジタスの復活を阻止しようと約束したサタニアが剣を構え、真緒達の前に立ち塞がった。



 「何やってるの!!? そこを退いてよ!!!」



 「悪いけど退くつもりも無いし、行かせるつもりも無いよ」



 「どうして!!?」



 「ごめんね、マオ。やっぱり僕、エジタスに会いたいんだ……」



 「サタニア……」



 そうこうしている内に、ロージェは死者復活の最終段階に入っていた。リップの死体を目の前に、死者復活の紙に書かれた文章を読み上げる。



 「“死は終わりであり、また始まりである。死は恐怖であり、また永遠の安らぎである。死者を蘇らせる事は罪である。誰が決めた。誰がそう定めた。神か、人か。神は人が責任逃れの最後の言い訳として用意した只の概念である。生まれる筈だった命、生まれて間も無く亡くなってしまった命、そんなかけがえの無い命に対して人は、悲しみを誤魔化す為にこう言う『最初から死ぬ運命だった。そう神が定めた』冗談じゃない。愛する家族、恋人、友人にもう一度だけ会いたいと思う事が果たして本当に罪なのか。もしそれでも罪だと言うのなら、私は神に唾を吐き捨てよう”」



 神をも恐れぬ言葉の数々。エジタスの死という存在に対する考え方が詰まっていた。また、人々が今まで思っていたが、誰も口に出して来なかった事を代弁している様にも捉える事が出来た。



 更にロージェ、もといエジタスの言葉は続く。



 「“そして私が新たなる神となり、終わる事の無い命を与えよう。死は終わりでは無い、また死は始まりでも無い。死は恐怖では無い、また永遠の安らぎでも無い。今ここに、死という概念の撤廃を宣言する!!!”」



 この最後の言葉を発したその時、リップの死体が真っ赤な炎に包まれた。やがて原型が分からなくなる程、その身を焦がした。そして次の瞬間、信じられない光景を目にした。



 焼け焦げた筈のリップの死体がゆっくりと起き上がったのだ。それだけじゃない。よくよく見ると、その体はリップの体とは異なる体型をしていた。



 「そ、そんな……まさか……」



 「あぁ……やっと……やっと会えるんだね……」



 いち早く気付いた真緒とサタニア。ずっと近くで見続けた体。見間違える筈が無い。それは正しく、エジタスの体その物であった。



 完全に立ち上がると、閉じていた目を静かに開いた。自身の体を見回し、右手の指を開いたり閉じたりなど、動作を確認する。そして深い溜め息を漏らす。



 「……戻って来たぞ」



 一年という時を経て、道楽の道化師エジタスが蘇ったのだ。
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