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第七章 冒険編 大戦争

殺戮ショー

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 「し、死者を蘇らせるだと……正気か!!?」



 エジタスの言葉に思わず声を荒げる長。



 「勿論、正気ですよ~? 寧ろ何故そんなに驚かれるのか、私には皆目検討が付きませんね~」



 そう言いながらエジタスは理解出来ないと言わんばかりに、両肘を曲げて両手の掌を上にすると、両肩を上下させる動きを見せた。



 「死んだ者を蘇らせるなど、神をも恐れぬ行為だぞ!!」



 「神ですか……神様は純粋な者を好み、悪しき者を拒むと言われていますが、死者を蘇らせる事は果たして悪しき行いと言えるのでしょうか~? 大切な人ともう一度再会したい、その両手で強く抱き締めたい。そんな純粋な想いを悪しき物と呼べますか~?」



 「そうかもしれない……だが、生ある者はいつか必ず死ぬ。そしてまた新たな魂として転生を果たす。そうした循環があるからこそ、世界は成り立っているんだ。それを無理矢理ねじ曲げるなど自然の摂理に反している!!」



 「私だって寿命で亡くなった方には文句は言いません。曲がりなりにも、人生を全うしている訳ですからね~。しかし皆が皆、寿命で亡くなった訳じゃありません。病気や犯罪、戦争によって意図せずその命が奪われてしまった者達。もっと生きたかったであろう方々に、本来生きる筈だった時間を与えてやりたい……只それだけなのですよ~」



 「……中には不運にも若くして亡くなった人達が沢山いるだろう。だけど、結局はその人達も死ぬ“運命”だっただけに過ぎないんだ。それを蘇らせようとするだなんて、そんなの自己満足に他ならないんだよ!!」



 「……運命……運命ねぇ……」



 その時、エジタスの雰囲気が一変する。先程まで陽気な声だったのに対して、暗く陰鬱な声に変わった。それはまるで“人が変わった”様であった。



 「俺はさぁ……運命っていう言葉が大嫌いなんだよ。最初からこうなる“運命”は決まっていた。だから仕方がない……じゃあ何か? 生まれた時から醜い奴は、そのまま醜く死ぬのが運命なのか!?」



 「エジタスさん……?」



 いったい誰の事を言っているのか。エジタスは両手を机に、思い切り強く何度も叩き付ける



 「例え!! 周りから!! 理不尽に!! 殺されたと!! しても!! 運命だから!! 仕方がないの!! 一言だけで!! 済ませる!! つもり!! なのか!!?」



 「だ、大丈夫かい……?」



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 エジタスの豹変に、戸惑いを隠せなかった。そして次の瞬間、エジタスの両腕が膨れ上がった。



 「……え?」



 その言葉を最後に、長の目の前は真っ暗になった。







***







 時を同じくして、長の家の周りには人だかりが出来ていた。



 「何かさっきから中が騒がしくないか?」



 家の中から聞こえる大きな物音が気にかかり、人が寄って来ていた。



 「中には確か、長とエジタスさんの二人しかいない筈だが……」



 二人に心配を寄せる中、しばらくすると物音はしなくなった。



 「……静かになったな……」



 それから程なくして、家の扉がゆっくりと開かれる。自然と皆の視線が集まる。



 「「「「……っ!!?」」」」



 そこに立っていたのは、上半身だけが異様に膨れ上がったエジタスだった。その両手には血まみれの長と、剥ぎ取ったであろう長の背中が握られていた。



 「「「「…………」」」」



 そのあまりに惨たらしい姿に、誰一人言葉すら上げられなかった。しかし……。



 「……い、いやぁあああああ!!!」



 一人の女性が上げた悲鳴を引き金に、人々は一斉にその場から逃げ出した。



 「あぁ、殺ってしまった……“仮面”を着けているのに出て来てしまった……未だに人格のコントロールが上手く行かない。もう千年位時間を掛ければ、完全にコントロール出来ると思うんだけどな……」



 『まぁまぁ、殺ってしまったのは仕方がありませんよ~。それにどうせロストマジックアイテムの情報を聞き出したら、皆殺しにする予定だったでしょ~? それが少し早まっただけですよ~』



 エジタスの側には誰もいない。しかしまるで誰かと喋っているかの様に振る舞っている。



 「それもそうだな。それじゃあさっさと片付けるとするか」



 『代わりましょうか~?』



 「いや、たまには運動しないと勘が鈍るからな。今回は俺が殺る」



 その言葉を機に、エジタスは両足に力を込める。そして逃げ惑う人々目掛けて、凄まじい跳躍力で跳んだ。



 「ひぃ!!!」



 「はい、お疲れさん」



 そう言うとエジタスは、男の顔面目掛けて拳を振るった。ぶちぶちと肉が引き千切れる嫌な音が聞こえたかと思うと、一瞬にして男の顔は体と別れを告げた。首から上が無くなった男の体は、血の噴水の如く噴き出しながら前のめりに倒れた。



 「さて、次はと……」



 「いやぁあああああ!!!」



 「や、止めっ……!!!」



 「助けっ!!!」



 まるで作業感覚の様に、淡々と殺戮を行っていくエジタス。集落の外に逃げようとしても、一瞬にして追い付かれてしまい、戦おうと武器を構えるも、構えた時には既に殺されてしまっていた。



 「うーん、只殺していくのにも飽きて来たな……そうだ!!」



 何かを思い付いたエジタスは、逃げ惑う一人の男性を捕まえた。



 「は、離せ!!」



 「こらこら、暴れるな。手元が狂ってしまうだろう?」



 「黙れ!! この薄汚い仮面野郎!! 前々からお前の事は怪しいと思っていたんだ!! とうとう正体を現しやがっ……「煩い」……ぁあ!!?」



 喚き散らす男性に対してエジタスは、両手で上半身と下半身を掴み、それぞれ反対方向に思い切り引っ張った。これまたぶちぶちと肉の引き千切れる音が響き渡る。やがて男性の体は上半身と下半身の二つに引き裂かれてしまった。その時の衝撃で血が広範囲に飛び散る。



 「……新しい殺し方としては40点っと言った所かな……ん?」



 ふと視線を横にずらすと、そこにはあの馬の絵を描いていた少女がいた。飛び散った血が顔に付着している上、恐怖でガタガタと震えていた。その右手には例のペンが握られている。



 「これはこれは……さっきぶりだな……お嬢ちゃん?」



 「おじちゃん……どうして……どうしてパパを殺したの……?」



 「ん? あっ、もしかしてこれお前のパパだった? ごめんごめん、ほら今すぐ返すよ」



 ぐちゃり、と少女の目の前に父親“だった”物を放り投げる。



 「あ……あぁ……パ……パ……うぅ……うぅ……」



 父親の死骸に泣き崩れる少女、その際に右手に握られていたペンが転がり落ちる。



 「……グズグズ泣くんじゃない。心配しなくても、すぐにお前も両親の下に送ってやるよ」



 そう言いながらエジタスは、少女の首に両手を伸ばす。



 「……おじ……ちゃん……」



 「…………」



 強く締め上げる。少女の暖かい体温が瞬く間に下がっていくのを両手から感じる。そしてエジタスが両手を外した時には、少女はぐったりと息を引き取った。



 「……何も感じない……幼子を手に掛けようとも、やはり俺の心には何も感じないな」



 少女の首を締めた両手をじっと見つめた後、エジタスは殺戮を再開した。その日、マジックアイテムの製作に長けたクイト一族は一人の道化師によって滅ぼされたのであった。そしてそれから数千年後、彼らの集落後に一つの国が建てられるのであった。







***







 「……これであたしの話は終わりさ……」



 「死者を蘇らせる……」



 「あぁ……ロストマジックアイテムを六つ作っている所を見ると、恐らく完成させたんだろうね」



 「それじゃあまさか、ヘッラアーデの目的って!!?」



 「神であるエジタスの復活……そんな所かね」



 「師匠が……蘇る……」



 嬉しい……筈なのに素直に喜ぶ事が出来ない。一年前、この手でエジタスを倒してから、真緒はエジタス無しでも歩み続けると決心した。しかしもし本当に蘇るとすれば、真緒はそれを止めるべきなのだろうか。



 「と、とにかく皆に早くこの事を知らせなきゃ!!」



 「そう慌てなさるな。例えヘッラアーデの目的が分かったとしても、肝心の場所が分からなければ何の意味も無いだろう?」



 慌てて皆の下に戻ろうとする真緒を老婆が呼び止める。



 「確かにそうですけど……じっとしてはいられないんですよ!!」



 「落ち着きなさい。あんたはもう既に、ヘッラアーデの場所を掴んでいるんだよ」



 「えっ!? 何処ですか!?」



 「そう言えばスープ代ありがとうね。この間の事といい、本当に優しい勇者様だ」



 「スープ代……この間……あっ!!」



 老婆の言葉でふと思い出した真緒は、鞄の中から以前老婆から買い取ったピンク色の液体が入ったフラスコ瓶を取り出した。



 「お婆さんこれって……」



 「それはあたし達一族が死の瀬戸際に残したロストマジックアイテムさ」



 「こ、これが!!?」



 手に持ったフラスコ瓶を少し揺らし、中のピンク色の液体を眺める。



 「それには“使用者の望みを叶える”能力がある」



 「……えっ、凄いじゃないですか!!? 今までのロストマジックアイテムとは比較にならないですよ!!」



 望みを叶えるというまさかの能力に、真緒は驚きの声を上げる。



 「最後まで話を聞きな!! 残念ながらあたし達全員の魔力でも、あのエジタスの魔力には到底及ばない。だから望みを叶えると言っても、精々望みが叶えられる“場所”が分かる程度さ」



 「場所……それじゃあ!!?」



 「あぁ、あんたが本当に望めば、ヘッラアーデの行き先が分かる筈だよ」



 「…………」



 真緒はフラスコ瓶の蓋を開けた。



 「いいかい、チャンスは一回。失敗は許されないからね」



 「はい!!」



 恐る恐るフラスコ瓶を傾け、口に運ぶ真緒。中身のピンク色の液体が真緒の口に注がれていく。やがて全てを飲み干した。



 「……どうだい?」



 「……今の所、特に……っ!!?」



 そう言い欠けた時、真緒の脳裏に見覚えの無い場所がフラッシュバックされる。そこは小さな村の光景だった。既に廃村と化している様だったが、後から付け足されたのか、中央に祭壇の様な建造物が建てられていた。祭壇には円を描く様に、それぞれ形の異なる六つの窪みが空いており、中央に向かって溝が掘られていた。



 「……はっ!!!」



 「大丈夫かい?」



 「お婆さん、分かりました……分かりました!! ヘッラアーデの行き先が!!!」



 「そうかい!! 成功して良かった!!」



 「これも全てお婆さん、いえクイト一族の皆さんのお陰です」



 「いや、あたし達は只償いをしたかっただけさ……世界をめちゃくちゃにしてしまった償いを……」



 「お婆さん……」



 「押し付けがましいかもしれないが、どうかあたし達の代わりに食い止めて欲しい。道楽の道化師の野望を……」



 一族全員が真緒に対して頭を下げた。



 「……分かりました、私に任せて下さい」



 「ありがとう……ありがとう……」



 死んだ筈の老婆は涙を流しながら、真緒に感謝を述べた。



 「ねぇねぇ」



 「ん?」



 すると真緒の側に一人の少女が駆け寄って来た。



 「はい、これあげる」



 そう言って少女は真緒に、一本のペンを手渡した



 「これって……?」



 「もし、おじちゃんに会ったら使って。おじちゃん、それで描いた馬の絵が大好きだから」



 「……うん、大事に使わせて貰うね」



 少女から受け取ったペンを、大事に鞄に仕舞う真緒。



 「そろそろ行きます。色々とありがとうございました」



 「こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう」



 「全てが終わったら、また必ず来ます」



 「そうかい、楽しみにしてるよ」



 「それじゃあ、さようなら!!」



 そう言いながら真緒はその場を後にした。去って行く真緒の背中を見つめながら、クイト一族は手を振る。



 「頼んだよ、勇者……マオ……」



 その言葉を最後にクイト一族は消えた。それどころか古びた井戸や民家など、先程まであった物が全て消えた。まるで幻の様に。そして気が付くとそこは、細い路地裏に変わっていた。老婆がいた場所には銀貨が五枚置かれているだけだった。
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