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第七章 冒険編 大戦争

戦争準備

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 新魔王城。一年前、エジタスによって全壊させられた魔王城だったが、サタニアの指揮の下、魔族達が力を合わせた事で完成まであと一歩まで迫っていた。



 「そこの木材をB班の所に回して!!

 そうしたら次はこの石材をG班の所に持って行って!!」



 「はい、分かりました!!」



 「…………」



 魔王であるサタニアが現場監督として、魔族達に的確な指示を出して行く中、その様子を後ろからじっと見つめるフォルスがいた。



 「よし、取り敢えず今出せる指示はこんな所かな。待たせちゃってごめんね」



 「いや、こっちも急ぎの用とは言え、頼みに来ている側だからな。ある程度は待てるさ」



 「立って喋るのもなんだから、一旦座ろうか」



 「あぁ、そうだな」



 そう言うとサタニアとフォルスの二人は、側に積み上げられていた丸太の上に座った。



 「戦争する間、国民を安全な場所に避難させたい。そしてその場所を魔王城にしたいと……君達の頼みはよく分かった……でも、何の相談も無しに勝手に決めつけるのは、随分と失礼な事だと思うんだけど?」



 「それは本当に申し訳無いと思っている。何せ、三日後には戦争が始まってしまうからな。悠長に考える暇が無かった」



 「それで? そんな身勝手な事をした本人はどうして来てないのかな?」



 サタニアは周りを見回し、真緒の姿がないか確かめる。



 「マオなら、カルド王国で戦争の準備を整えている」



 「準備って……まさか真っ正面から戦うつもりじゃないだろうね。たった数人で勝てる程、戦争は甘く無いよ」



 「そんなのは分かっている。準備と言っても、自分自身の事じゃない。国の外壁強化だ」



 「国の外壁強化って……国は犠牲にするって話じゃなかった? 犠牲にする前提なら、強化するのは無駄じゃない?」



 「俺もそう思っていた。その理由を聞くまではな……」



 「どう言う事?」



 「どうやらマオは、相手の心理を利用するつもりらしい……」



 そうしてフォルスが語り始めたのは、真緒が国民に避難誘導を指示した後の出来事であった。







***







 「それじゃあフォルスさん、先に魔王城に向かって、避難する国民を受け入れて貰える様、交渉して来て下さい」



 「一緒に来ないのか? お前も来た方が、受け入れてくれる可能性は高いぞ」



 「そうしたいのは山々ですが、三日しか猶予がありません。今は一秒でも時間が惜しい。それにフォルスさん一人なら二時間弱、空を飛び続ければ魔王城に辿り着けるじゃないですか」



 「それはそうだが……」



 「マオさん、そろそろ教えて下さい。国を犠牲にするとは、いったいどう言う意味なんですか!?」



 何も聞かされないまま、一方的に話が進んでしまっている為、各々不安と心配が溜まっていた。そしてとうとう我慢出来ず、リップが真緒に詰め寄った。



 「ごめんごめん。そうだよね、ちゃんと一から説明するね。結論から言うと、国を只明け渡す訳じゃない。“空からの要塞”を作り上げるんだよ」



 「「「「“空からの要塞”?」」」」



 「皆、もし敵陣に攻め込む際、守りが強固だったらどうする?」



 「打ち破る」



 「打ち破ります」



 「打ぢ破るだぁ」



 「…………」



 仲間達の見事な脳筋っぷりに、思わず引きつった笑みを見せる真緒。唯一、リップだけは真剣に考えてくれていた。



 「リ、リップだったらどうする?」



 「そうですね……無闇に攻め込んでこちらの戦力を減らす訳にはいきませんから……敵の食料が尽き、焦って指揮を誤るのを待ちます」



 「そう!! その通り!!」



 自身が考えていた答えと、全く同じ答えが出た事に喜んだ。



 「兵糧攻めという事か……」



 「守りが強固でも、食料補給の道を断ってしまえば、崩れるのは時間の問題……そう思う敵の心理を利用するんです」



 「どう言う事ですか?」



 「……そうか!! そう言う事か!!」



 何かに気が付いた様子のフォルス。一方、他の三人はまだ気付けていなかった。



 「フォルスさん、分かったんですか!?」



 「あぁ、マオの言う通り、これは正に“空からの要塞”だ」



 「私達にも教えて下さい!!」



 「つまりだな。兵糧攻めは食料補給の道を断って、敵の戦闘力を弱らせる作戦だ。しかし、もしその攻め込む場所に実は殆ど誰もいなかったとしたら?」



 「先に食料が尽きるのは自分達……!!!」



 「「!!!」」



 「そう、マオがこれからやろうとしているのは、逆兵糧攻めだ!!」



 自分達が追い詰めていると思わせておき、本当に追い詰められているのは自分達だと気付かせない。正に意表を突いた作戦と言える。



 「しかも相手の数は三十万以上だ。食料の減る早さは尋常じゃない」



 「お腹が減って、戦闘力が弱まれば私達にも勝機がありますね!!」



 「マオぢゃん、凄いだぁ!!」



 「これが勇者の知略か……」



 「そんな褒められると照れるな。それにこの作戦には、まだ続きがあるんだよ」



 「まだ何かあるのか!?」



 「守ってばかりじゃ戦争には勝てません。しっかり攻めないと」



 「だから敵軍の食料が尽きたら攻めるんじゃ……「違いますよ」……えっ?」



 「攻めるのは目先の軍じゃありません。本丸……ゴルド帝国です!!」



 「な、何だと!!?」



 「本気なんですか!!?」



 「信じられないだぁ!!」



 「そ、そんなの無茶ですよ!! こっちは数人しかいないんですよ!? いきなり本拠地を叩くだなんて……無謀です!!」



 「果たして本当にそう言えるのかな?」



 「何が言いたいんですか?」



 不適な笑みを浮かべた真緒は、得意気な表情で語り始めた。



 「敵の数は三十万以上、恐らく全勢力をこちらに向けているのでしょう」



 「えぇ、ゴルド帝国にとってカルド王国は、長年に渡るライバル的な存在ですからね。でもまさか、今まで渡り合えていた理由がカルド王一人の実力だとは夢にも思っていないでしょう」



 「カルド王はそんなに強かったのか?」



 「強いなんて物じゃありませんよ!! カルド王がいたから、カルド王国は東の大陸を治める事が出来たんです!! 有名な話では全盛期の頃、まだ一端の兵士だった時なんか、ゴルド帝国の大軍隊相手にたった一人で戦いを挑み、無傷で生還した伝説が残っている位なんですよ!!」



 「無傷で!!? そりゃ本当に人間なのか?」



 「一騎当千……出来ればその時の姿を見て見たかったです」



 「ちょっとちょっと、話がずれてるよ」



 真緒が両手を叩き、話の軌道を修正した。



 「あぁ、ごめんなさい。つい熱くなってしまって……」



 「話を戻すけど、そんな全勢力を向かわせているという事は、今ゴルド帝国は手薄って事だよね」



 「「「「!!!」」」」



 この言葉で、真緒が何をしようとしているのか、全て理解した一同。



 「成る程な、強敵と思っているからこそ、生まれてしまった死角。まさか敵も、たった数人で攻め込んで来るとは考えてもいないだろうからな」



 「それに万が一途中で気付かれたとしても、こっちとあっちでは進むペースが違いますから、決して追い付かれる事はありません」



 基本、団体行動は時間が掛かる。それは数が増えれば増える程、長い時間を要する。



 「中々の策士だな」



 「えへへ。さぁ、作戦内容も分かった所で、各々行動に移りましょう!! フォルスさん、交渉の方は頼みましたよ」



 「おぉ、任せておけ」



 「他の人達は、私と一緒に国の強化に入りましょう。出来るだけ強固に、ネズミ一匹入れない要塞にしましょう」



 「「「おぉ!!」」」



 かくして真緒達は戦争準備を、着々と進めて行くのであった。







***







 「そっか……そんな事が……」



 「正直、ここで頼みを断られたら、作戦が全て台無しになってしまう。だからお願いだ。事が収まるまでの間、これから避難して来る国民を保護してやってくれないか?」



 フォルスは深々と頭を下げ、サタニアに懇願した。



 「……分かった」



 「本当か!!?」



 「だけど期待はしないでね!! この一年、大半の魔族は人間と友好的な関係を築く様になったけど、まだ中には危険な思考を持っている輩もいるんだ。そいつらから守りきれる保証は出来ないよ」



 「それでも構わない。本当に助かった。心から礼を言うよ」



 「マオに伝えて、絶対に勝って戻って来いって」



 「あぁ、必ず伝える」



 「あれ? もしかして鳥人君?」



 無事、サタニアに頼み事を聞いて貰えたフォルス。すると遠くから手を振って近付いて来る人物がいた。



 「やっぱり鳥人君だ。久し振り……っていう訳でも無いか」



 「お前は……エレットか」



 それは魔王軍新四天王であるエレットだった。



 「どうしたのエレット?」



 「それがF班の連中、ちょっとした口喧嘩から殴り合いに発展しちゃってさ。止めて来て貰えないかい?」



 「また? しょうがないな……」



 「シーラはどうした? あいつがいれば、喧嘩なんか一発で収まるだろ?」



 シーラの名前を出したフォルス。すると二人は困った表情を浮かべた。



 「……その……今はいないんだ」



 「いない? 何処にいるんだ?」



 「それが……分からないんだ」



 「分からない? 分からないってどう言う事だ?」



 「半年以上前、シーラは更に強くなるって修行に出掛けたんだ」



 「何でそんな? 今でも充分、強いだろう」



 「どうやらエジタスとの戦いで、自分の不甲斐なさを痛感したらしくて……」



 「不甲斐ないって……あれは仕方無かった。皆で戦わなければ、倒す事は不可能だった」



 「僕もそう言ったんだけどね。本人が納得しなくて……」



 「そうか……」



 「まぁ、シーラの事だから無事だと思うけどね。じゃあ僕は喧嘩を止めて来るよ」



 そう言うとサタニアは、喧嘩しているF班の下へと走り去った。



 「魔王様も毎日大変だね」



 「お前も相変わらずの様だな」



 「まぁね。そうだ!! あんたに伝えておきたい事があったんだった!!」



 「何だ?」



 「ほら、以前あんた達が言っていた“リップ”っていう男がいただろう?」



 「あぁ……」



 「何処かで聞いた名前だなって、ずっと思い出そうとしてたんだけど、この間城の倉庫を整理してた時、漸く思い出したんだ!!」



 「?」























 真緒達が外壁の強化を進めている中、フォルスが戻って来た。



 「あっ、フォルスさんお帰りなさい。どうでしたか? 受け入れて貰えそうでしたか?」



 「あぁ、それなら大丈夫だ」



 「良かった。でもそれにしては、随分と浮かない顔をしてますね?」



 「リップ、ちょっと……良いか?」



 「えっ、僕ですか?」



 「話があるんだ……二人きりで話せないか?」



 「良いですけど、ここじゃ駄目なんですか?」



 「男同士で会話をしたいんだ」



 「……分かりました」



 リップは首を傾げながらも、フォルスの後を付いて行く。しばらく歩いた二人は、人気の無い場所へと辿り着いた。



 「それで話ってなんですか?」



 「……お前、“魔族”なんだってな」



 「…………え?」



 リップが呆気に取られる中、フォルスは真面目な表情を浮かべていた。
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