上 下
115 / 275
第六章 冒険編 記憶の森

真緒パーティー VS ユグジィ(全盛期)(前編)

しおりを挟む
 「オラッ!! 行くぞぉおおおお!!!」



 かつての若々しい肉体を手に入れた自信からか、持っていた記憶の杖を遠くに放り投げ、荒々しい口調で真緒達目掛けて突撃して来た。



 「は、速い!!」



 「ごごは、オラに任ぜでぐれだぁ!!」



 ユグジィの行く手に立ち塞がるハナコ。両手を構えて、迎え撃つ姿勢を取った。



 「ほぉ、力比べか? 受けて立つ!!」



 ハナコの構えた両手に掴み掛かる様に、ユグジィもまた両手を突き出した。



 「「うぉおおおおお!!!」」



 互いの両手が重なり合う。純粋な力と力のぶつかり合い。真緒達は、そんな二人の戦いを固唾を呑んで見守っていた。



 「中々やるじゃないか。だが……」



 「うぉ!!? おおおおお……」



 実力は、五分五分と思われたが、徐々にハナコの方が押され始める。



 「ハナちゃん、負けないで!!」



 「ハナコさん、頑張って下さい!!」



 「負けるなハナコ!!」



 「ぐっ……ぐぉおおおおお!!!」



 仲間達の応援を糧に、ハナコは顔を真っ赤にさせながら、何とか押し戻す事が出来た。



 「おうおう、気張るねぇ。仲間の想いでパワーアップってか? そんなのはな……本や絵本の物語だけなんだよ!!」



 「!!!」



 しかし、それも束の間の出来事。瞬く間に押し返され、地面に叩き付けられてしまった。



 「……あのハナちゃんが力負けする所なんて、初めて見た……」



 「力に自慢がある様だが、その程度の実力じゃ、この俺に勝つのは百年早いぞ」



 「ぐぅ……」



 そう言いながら、鍛え上げられた肉体を、これ見よがしに見せ付けるユグジィ。



 「さて、次は誰が相手になってくれるのかな?」



 「「「……っ!!」」」



 「何なら、まとめて掛かって来ても、俺は一向に構わないぞ?」



 右側の口角だけをクイッと上げ、余裕な表情を浮かべて見せた。



 「あの野郎、調子に乗りやがって……」



 「それなら望み通り、まとめて相手になって貰いましょう」



 「そうだね、行こう!!」



 そう言うと真緒はユグジィ目掛けて走り出した。その合図と共に、空中にいるフォルスは弓を構え、地上にいるリーマが魔導書を開く。



 「威勢が良いねぇ。だけどさ……」



 するとユグジィは、両足に力を込め始めた。それにより、足元の地面がひび割れを起こした。



 「戦いにおいて、敵の言葉を鵜呑みにするのは、致命的だと思うぜ?」



 「「「!!?」」」



 その言葉と同時に、両足を一気に解放すると、一瞬にして真緒を通り過ぎ、リーマの目の前に移動して来た。



 「「リーマ!!」」



 「あ……あ……」



 「まずは一人!!」



 脇を締め、左手を前に突き出し、右拳を引く構えを取った。そして流れる様に、引いた右拳をリーマ目掛けて勢い良く突き出した。



 「……危ない……危ない……」



 「!!?」



 しかし、ユグジィの拳が直撃する事は無かった。それより前に、リーマの左手に握られた、潤いを持った青く丸い盾によって、受け止められていた。



 「“水の盾”」



 「防いだぞ!!」



 「凄いよリーマ!!」



 殴られる瞬間、リーマは“水の盾”を生成していた。そのお陰で、ユグジィの拳を受け止める事が出来た。



 「こ、これは……!!?」



 「いくら力に自慢があっても、水で威力を殺される様じゃ、ユグジィの力も底が知れますね」



 「く、糞生意気な餓鬼が……これならどうだ!!?」



 「っ!!?」



 すると、突き出した拳を引っ込め、その場で素早く回転したと思ったら、リーマ目掛けて後ろ回し蹴りを繰り出した。



 「“土の鎧”!! ごふっ!!」



 咄嗟の機転により、土で出来た鎧を身に纏った。強い衝撃と同時に、数メートル後方に吹き飛ばされる。



 「リーマ!! 大丈夫!!?」



 「げほっ!! ごほっ!! だ、大丈夫です」



 幸い、目立った怪我は負っていなかった。しかし、土の鎧には大きなひびが入っており、数秒後には粉々に砕け散ってしまった。



 「そんな……土の鎧が、たった一発で……」



 「おいおい、そんな呑気に休んでる暇があるのかな!!」



 「きゃあ!!?」



 自慢の鎧が意図も簡単に壊れてしまった事に、驚きの表情を隠せないリーマだが、間髪入れずに攻めて来るユグジィのせいで、感傷に浸っている暇も無かった。



 「どうした? さっきまでの威勢が感じられないぞ?」



 「避けるのに精一杯で、魔法を、唱える余裕が、うっ!!!」



 避けるのに夢中で、全く攻撃に移れず、徐々に追い詰められていた。そして遂に、足下がこんがらがり、尻餅を付いてしまった。



 「不味いぞ!! このままじゃ、リーマが!!」



 「リーマ!!」



 「時間は掛かったが、今度こそ一人目だ!!」



 「っ……!!!」



 助けに行こうにも、間に合わない。ユグジィが拳を構える。これから来るであろう痛みに備え、深く目を瞑るリーマ。



 「どりゃあああああ!!!」



 「「「「!!?」」」」



 その時、力負けてして地面に倒れていたハナコが、ユグジィの背後から現れた。



 「お、お前は!!?」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 「ぐっ……!!!」



 ハナコから放たれた渾身のスキルは、ユグジィを遠くに吹き飛ばしたが、背中が地面に接触する瞬間、両手でクッションを作り、更に遠く離れる事で地面と激突する際の衝撃を無にした。



 「リーマぢゃん、大丈夫だがぁ?」



 「ハナコさん、ありがとうございます。助かりました」



 「二人供、大丈夫?」



 「マオさん、フォルスさん、私は大丈夫です」



 ハナコのお陰で、大事には至らなかったリーマ。そんな二人の下に、真緒とフォルスが駆け寄る。



 「しかし厄介だな。肉体的能力に特化した相手が、ここまで強いとは……」



 「簡単に言えば、ハナコさんの上位互換ですね」



 「ぐうの音も出ないだぁ……」



 「いったいどうしたら……」



 「そうだ、それなら良い考えがあるぞ」



 「何ですか?」



 「リーマとあれこれやっている間に、これを拾っておいたんだ」



 「そ、それって……!!?」



 そう言いながら、フォルスが取り出したのは、ユグジィが放り投げていた記憶の杖だった。



 「これを使えば、ユグジィの体を元に戻す事が出来るんじゃないかと思ってな。元々、この杖の能力で全盛期の力を取り戻した訳だからな」



 「冴えてますよフォルスさん!! 老人になったユグジィになら、簡単に勝つ事が出来ます!!」



 「やっだだぁ!!」



 「…………」



 「どうした? マオ?」



 「マオさん?」



 「マオぢゃん?」



 そんな中、真緒だけが不満そうな表情を浮かべていた。



 「それってさ……本当に勝った事になるのかな?」



 「はぁ?」



 「確かに杖の能力で元に戻せば、簡単に勝てるかもしれないけど、それって端から見たら、一人の老人を複数人で痛め付けているだけで、本当の意味で勝ったとは言えないんじゃないのかな……」



 「マオ、今は綺麗事を言っている場合じゃないんだ。俺達には、やらなければならない使命がある。このロストマジックアイテムを回収するという、重要な使命がな」



 「分かっています。だけど、こんな事で苦戦していたら、これから先の戦いは乗り越えられないんじゃないかって……そう思うんです」



 「それは……」



 否定出来ない。状況によっては、ヘッラアーデの者達と戦う事になるかもしれない。もしかしたら、それらはユグジィより強いかもしれない。そうなってしまっては、最早真緒達に勝ち目は無い。



 「それに、このまま元に戻したら、勝ち目が無いから逃げたと思われてしまいますよ」



 「「「!!!」」」



 「そんなの悔し過ぎます。私は、あの筋肉男の泣きっ面を見るまでは、その杖を使いたくはありません」



 「「「…………」」」



 「身勝手な事だとは思います。でも、私は……」



 すると、言葉を遮る様にフォルスが真緒の目の前に、掌を突き出した。



 「皆まで言うな。確かにお前の言う通り、やられっぱなしってのは納得がいかない」



 「私も、逃げたなんて思われたくありません」



 「今度ごぞ、オラの方が力強い事を証明じでやるだぁ」



 「皆……」



 「ほら、行くぞ」



 「…………はい!!」



 結局、真緒達は記憶の杖を鞄に仕舞い込み、使わなかった。そして、全盛期のユグジィと対峙する。



 「折角のチャンスを不意にするとは……いったい何のつもりだ?」



 「別に、あんな杖に頼らなくても、充分倒せると思っただけですよ」



 「ふっ、ははははは!!! 己の命を無下にする狂人だったか……良いだろう。その判断がどれだけ愚かだったか、直接体に教えてやろう!!」



 これから起こるであろう戦いに備えて、真緒達は更なる高みを目指す為に、敢えて苦難の道を選ぶのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...