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第六章 冒険編 記憶の森

エルフの里(後編)

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 「……という訳でして、行き場の無い奴隷さん達を私が保護しているんです」



 かつて人間の奴隷として酷い目に合ったエルフ。そんなエルフと似た境遇の奴隷をぶつける事で同情を誘い、何とかエルフの里に滞在出来る様にするリーマの作戦。



 「本来ならカルド王国で保護して貰うのが適切なのでしょうが、生憎ここからカルド王国まではかなり距離があります。そこでお願いがあります。カルド王国からの使者が来るまで、この里で保護して貰えないでしょうか?」



 リーマの提案に対して頷く者もいれば、眉間にシワを寄せて不服そうな表情を浮かべる者もいた。そんな中で族長のユグジィが口を開く。



 「勿論良いとも。リーマちゃんには何かとお世話になっておるからのぉ」



 「本当ですか!? ありがとうございます!!」



 「それじゃあ……「ちょっと待って下さい」……ん?」



 快く受け入れたユグジィの言葉を遮るエルフ。



 「どうした?」



 「百歩譲って招き入れるのは認めました。ですが、この里に滞在させるのは反対です。こんな得体の知れない連中と深く関われば、一族に災いが訪れます」



 真緒達滞在に反対意見のエルフ。彼に同調する様に数人のエルフが側で頷く。



 「災いって、そんな大袈裟な……」



 「族長、お忘れですか!? 一千年前に起こった“悲劇”を!! 一人の旅人が我々エルフ一族を破滅に追いやったあの日の事を!!」



 「…………忘れる訳が無い……」



 “悲劇”という言葉にユグジィは悲しそうな表情を浮かべ、思わず俯いてしまった。



 「……そう言えば、リーマちゃんにはまだ話していなかったな」



 そんな様子に心配を寄せるリーマを察して、ユグジィが説明し始める。



 「一千年前、ある一人の若きエルフが一人の“道化師”に会ったんじゃ」



 「「「「!!?」」」」



 “道化師”という言葉に一同驚きの表情を浮かべる。その人物は恐らく、真緒達と最も関わりの深い人物であろう。



 「その若きエルフはエルフでありながら魔法を扱えなかった。そんな若きエルフに対して里の者達は、まるで腫れ物を扱う様に接した。すると若きエルフは里の者達から迫害されていると勘違いし、心を閉ざしてしまった。そんな若きエルフの心情を利用したのが道化師だった。道化師は巧みな話術で若きエルフを懐柔し、里を壊滅する様に仕向けた……」



 ユグジィの目に写るのは一千年前の光景である。里が火の海に包まれ、家族や友達が次々に殺されて行く。同族の死体の山で高笑いを浮かべる若きエルフの姿が今でも鮮明に浮かび上がっていた。



 「結果、一族は殆ど殺されてしまった。僅かに残ったエルフ達は命からがら逃げ出し、各地へと散った……わしが仲間達と供にこの森を見つけたのが七百年前……数える程しかいなかった仲間達も漸く安定し始めた……」



 「ごめんなさい……私全然知らなくて……」



 「リーマちゃんが気に病む必要は無いんじゃよ。これはわし等の問題……そろそろ前に歩む時が来たのかもしれないのぉ……リーマちゃん、しばらくの間その奴隷さん達とこの里で暮らしなさい。後で泊まれる場所に案内しよう」



 「族長!!?」



 ユグジィの独断に声を荒げるエルフ。



 「何も言うな……七百年……ずっと外界との接触を避けて来た……それが一年前、一人の少女によって破られた……少しずつ時代が変わる様に、わし等も考えを変えなくてはならないのかもしれないのぉ……」



 「…………っ!!」



 反対派のエルフは無理矢理自身の意見を飲み込む。しかしその表情は非常に不服そうであった。



 「あ、あの……」



 「気にする事は無い。そうじゃ、折角じゃから奴隷さん達にエルフの里を案内しようじゃないか。付いて来なさい……ええっと、名前は……?」



 「真緒です」



 「ハナコだぁ」



 「フォルスだ」



 「マオさんにハナコさんにフォルスさんじゃな。よしよし、これからこの里を案内しよう」



 「族長、それなら私達が……」



 里のトップであるユグジィにそんな事をさせる訳にはいかないと、取り巻きのエルフ達が案内役を率先する。



 「いやいや、最近運動不足でな。良い機会じゃ、案内がてら運動する事にするよ。それじゃあ、行くとするかのぉ」



 「あっ、はい……」



 が、その申し出を拒否するユグジィ。取り巻きのエルフ達をその場に残し、真緒達を連れて里を案内し始めるのであった。







***







 ユグジィの案内を受ける真緒達。木材同士を組み合わせ、葉で周囲に溶け込ませている住居。木製のバケツにロープをくくり付け、真下にある湖から水を汲んでいる給水所。侵入者の有無を確かめる為に建てられた監視台など、それら全てが元々森にあった材料で作った代物ばかりであった。そんな中、真緒達が最も目を引いた物は……。



 「そしてここが子供達の遊び場じゃ」



 「遊び場?」



 真緒達の目の前には複数の木から生えている枝が何本も重なり合って出来た一つのアスレチックがあった。更に枝それぞれにはターザンロープが垂れ下がっていた。



 「自然を最大限利用した遊び場となっている。勿論、安全面も考慮して下には落下防止の網が張ってある」



 下を覗き込むと確かにロープを何重にもして出来上がった網が設置されていた。



 「言い方は悪いかもしれないが、今のエルフにとって子孫は何より価値のある宝……怪我でもしたら大変じゃからのぉ」



 「子供の事を第一に考えるのは立派だと思います」



 「……そうじゃ、良かったら少し遊んで行くか?」



 「えっ!? そ、そんな泊めて貰う身なのに悪いですよ!!」



 「遠慮する事は無い。寧ろ遊んで行って欲しいんじゃよ。最近この遊び場もマンネリ化して来てのぉ……もう子供達も遊ばなくなって来た……だから久し振りに誰かが遊んでいる光景を目にしたいんじゃよ」



 「そ、そう言う事でしたら……」



 遊んで欲しいとお願いされた真緒達は、ユグジィの願い通りアスレチックで遊び始める。



 「うぉ!? おおおおおお!!!」



 普段、空を飛んでいるフォルスだがターザンロープは初めての為、揺れるロープに思わず声を上げる。



 「こっちこっち!!」



 「マオさん、ちょっと待って下さいよ!!」



 まるで猿の様に枝を渡り歩く真緒。その後を必死に追い掛けるリーマだが、足場が狭い為、思った様に動く事が出来ない。



 「どわぁあああああ!!! 落ぢるだぁああああ……あ?」



 ターザンロープの移動に失敗したハナコは勢い良く落下するが、途中の落下防止の網に引っ掛かる。



 「うんうん、やっぱり子供は元気が一番じゃのぉ」



 アスレチックを遊ぶ真緒達を暖かい目で見つめるユグジィ。頷きながら柔らかな笑みを浮かべるのであった。







***







 「いやー、遊んだ遊んだ」



 「こんなに体を動かしたのは久し振りですね」



 「最近、目立った戦闘が無かったからね」



 「偶には運動じないど駄目だぁ」



 「ふふっ、そうだね」



 一通り遊び終えた真緒達は、ユグジィの元へと戻った。日は沈み掛けており、辺りはオレンジ色の夕焼けに包まれていた。



 「お疲れ様、楽しかったかな?」



 「はい、お陰様で」



 「それは良かった。それじゃあそろそろお主達が泊まる場所に……「ユグジィ様!!」……ん?」



 ユグジィが真緒達の泊まる場所に案内しようとしたその時、一人のエルフが血相を変えて駆け寄って来た。



 「そんなに慌ててどうした?」



 「“火事”です!! 何者かが森に火を放ちました!!」



 「何じゃと!!?」



 「「「「!!!」」」」



 目を凝らしてよく見て見ると、オレンジ色の夕焼けに混じって、オレンジ色の炎が燃え上がっていた。火の手はどんどん広がり、大規模な火災になっていた。



 「いったい誰が……いや、そんな事より今は消火するのが最優先じゃ!! 女性と子供は近くの湖に避難させ、残りの者達は消火活動に当たらせるのじゃ!!」



 「はい!!」



 指示を受けたエルフは、慌てて他のエルフ達に声を掛ける。



 「あの!! 私達にも何か手伝わせて下さい!!」



 「それならお主達は他の者達と協力して消火活動を行ってくれ!!」



 「分かりました!!」



 「くれぐれも怪我の無い様にな」



 「「「「はい!!」」」」



 突然見舞われた火災。真緒達は消火活動を余儀無くさせられるのであった。
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