55 / 275
第三章 冒険編 私の理想郷
裏庭
しおりを挟む
「裏庭はどっちだ!?」
「こっちです!! こっちから館の裏手に回る事が出来ます!!」
メユとソンジュの魔の手から何とか逃げ出し、館の外へと脱出する事が出来た三人。しかし一息つく暇も無く、足早に裏庭へと向かう。
「追い掛けて来ませんね……諦めたんでしょうか?」
「どうだろうな……あの女が簡単に諦めるとは思えないが……何だか嫌な予感がする。急ぐぞ!!」
「はい!!」
「分がっだだぁ!!」
一抹の不安を抱きながら、三人は館の裏庭へと回り込む。
「うがぁ……あぐがぁ……」
「「「!!!」」」
しかし、その行く手を遮る存在が目の前に現れた。目は虚ろ、口からは涎が垂れており、更に猫背で背骨が異常に発達した生物。
「アレリテさん……」
「あがぁ……ぐごが……」
それは誰であろうアレリテだった。真緒達との戦いで、メユによって肉体改造されたアレリテが、裏庭に向かう三人の行く手を遮っていた。
「アレリテさん!! 私の声が聞こえますか!!? アレリテさん!!」
「うぅ……うぅ……」
するとリーマの声に反応したのか、突然頭を抱えて唸り声を上げる。
「アレリテさん……?」
「うぅ……うごぁあああああ!!!」
「「「!!!」」」
そして次の瞬間、低い叫び声を上げ、半ば狂乱した様に目の前にいる三人目掛けて襲い掛かって来た。
「アレリテさん!!」
「無駄だリーマ!! アレリテにもう自我は存在していない!! ここで殺るしかない!!」
「で、でも……」
「辛いのは分かる!! だがここで殺らないと、俺達が殺られる事になるぞ!! そうなったら、俺達に託したマオの想いを踏み潰す事になるんだぞ!!」
「…………分かりました。私、殺ります!!」
「うごがぁあああああ!!!」
「アレリテさん……すみません!! “ウインドカッター”!!」
覚悟を決めたリーマは魔導書を開き、魔法を唱える。すると鋭い風の刃が生み出され、迫り来るアレリテ目掛けて勢い良く放たれた。
「あぐぅ!!?」
勢い良く放たれた風の刃は、アレリテの首を通り過ぎる。そして瞬く間にアレリテの首は地面へと落下し、首を切り落とされた体は俯せになって倒れるのであった。
「アレリテさん……安らかに眠って下さい……」
「よし、先へ急ぐぞ」
「…………ぐぉ」
「うん? な、何だ?」
行く手を遮る物が無くなり、先へ急ごうと倒れているアレリテの横を通り過ぎ様としたその時、切り落とされた首が俯せになって倒れている体にくっ付いた。
「ぐ……ぐ……ぐぉおおおおお!!!」
そしてゆっくりと立ち上がり、三人の行く手を再び遮る。
「おいおい、いくら治ると言っても早過ぎるだろ!!」
「それだけ、メユさんの強化が影響しているって事でしょうか!?」
「今はそんな事、どうでもいい!! 兎に角急ぐぞ!!」
「で、でも倒しても倒しても直ぐに治ってしまうんじゃ、どうしようも……」
「……オラが食い止めるだぁ」
「ハナコ……」
「ハナコさん?」
リーマとフォルスが狼狽える中、ハナコが二人よりも一歩前に踏み出した。
「オラが食い止めでいる間に、二人は先に行っでぐれだぁ」
「ハナコ……お前……」
「何も、三人で一緒に行ぐ必要なんが無いだぁ。ごの中の誰が一人が、裏庭に辿り着げれば良いんだがら……先に行っでぐれだぁ」
「ハナコさん……」
「うごぉおおおおお!!!」
ハナコを置いて、先に進むのを戸惑っていると、完全に立ち上がったアレリテが、三人目掛けて両拳を振り下ろそうとする。
「スキル“インパクト・ベア”!!」
拳が振り下ろされそうになった次の瞬間、ハナコが地面を蹴り空中へと跳んだ。そして無防備なアレリテ目掛けて渾身の一撃を叩き込んだ。
「ごぁあああああ!!!」
強い衝撃にバランスを崩したアレリテは、仰向けになって勢い良く倒れる。
「ざぁ!! 今の内に早ぐ行ぐだぁ!!」
「ハナコ……恩に着る」
「ハナコさん、ありがとうございます」
ハナコの想いを胸に、リーマとフォルスの二人は先を急ぐ。
「ぐぅ……あぁああ……」
するとアレリテは、横を通り過ぎ様とする二人の足を掴もうと両手を伸ばす。
「スキル“鋼鉄化(腕)”」
「ごぁあああああ!!?」
しかしその両手は二人の足を掴む前に、両腕を鋼鉄に変化させたハナコによって叩き潰されてしまった。
「悪いげど、二人の後は追わぜない。ごごがら先を通りだげれば、オラを倒ずだぁ」
「ぐっ……ぐぐっ……!!!」
この時、行く手を遮っていた筈のアレリテの立場が逆転する事となった。
***
「はぁ……はぁ……ふぅ……どうやらここが裏庭の様だな……」
「こ、これって……」
アレリテという肉壁を掻い潜り、何とか裏庭へと辿り着く事が出来た二人。しかしその表情は何処か暗く、決して良いとは言い難かった。
「この中から“本命”を見つけ出さないといけないらしいな……」
「で、でも……こんなにも沢山“墓石”があっては、どれが本命かなんて分かりませんよ!?」
二人がやっとの思いで辿り着いた裏庭。それは墓地であった。塀に囲まれ、短く手入れされた草の上にズラリと立ち並ぶ墓石。その片隅には一本の木が生えており、木の太い枝には紐が括り付けられ、先端に横長の板が付けられていた。所謂簡易ブランコである。そして、墓石のそれぞれに“メユ”と刻み込まれていた。
「どうやら……既に対策されていた様だな……」
「こんなの一つ一つ調べていたら、日が暮れてしまいますよ……そしたらハナコさんは……」
絶望。リーマは目の前の現実に、思わず両膝が地面に付いてしまう。
「嘆いてたって始まらない。時間が許す限り、探すしかないだろう」
「……そうですよね。こんな所で挫けていたら、マオさんやハナコさんに笑われてしまいますもんね!! 私、頑張ります!!」
「その意気だ。それじゃあ始めるぞ」
「はい!!」
フォルスに元気付けられたリーマは、やる気を取り戻した。そして二人手分けして、それぞれの墓を掘り返し始めるのであった。
「……くそっ、こっちには無い!!」
「こっちにもありません!!」
墓を掘り返す二人だが、その中には誰もいなかった。
「次だ!! 次行くぞ!!」
「はい!!」
掘る、掘る、掘る、掘り続ける。気が付けば、裏庭は掘り返された土によって酷く汚れてしまっていた。
「はぁ……はぁ……探すしかないとは言ったものの……これじゃあ切りが無いぞ……」
「はぁ……はぁ……も、もう指が限界です……」
掘るのは勿論手作業である。魔法やスキルで掘る事も出来るが、使い過ぎてしまった時に追跡者が現れた場合、対処する事が出来なくなってしまう。そうした考えを配慮しながら、手作業で掘り続けていたが、流石に限界が近付いていた。
「くそっ……どうすればいい……どうすれば…………ん?」
その時、フォルスはこの裏庭にある違和感を覚える。
「(そう言えば……どうしてこんな墓地に、ブランコなんか置かれているんだ?)」
それは純粋な疑問だった。例えどんな強靭な精神の持ち主でも、大量の墓石が並ぶ中、ブランコで遊ぶなど常識的に考えられない。
「(墓石が立てられる前に作られた? だがそれなら、もっと朽ち果てても良さそうだが……もしかして!!?)」
「フォルスさん?」
何かに感づいたのか、フォルスは慌ててブランコの側へと駆け寄る。
「…………あっ」
ブランコの側に駆け寄ったフォルスは、ブランコが括り付けられている木の周りを探し始める。すると木の影に隠れる様に、埃まみれの古ぼけた墓石が立てられていた。他の墓石と比べると非常に小さく、全く手入れはされていなかった。そしてそんな古ぼけた墓石にも、“メユ”と刻み込まれていた。
「あった……あった!! あったぞ!!」
「えっ!? 本当ですか!!?」
フォルスの大声に反応して、リーマも慌てて側へと駆け寄る。
「あぁ、恐らくこの墓の下にある筈だ」
「急いで掘り返しましょう!!」
「何を掘リ返スって?」
「「!!?」」
二人が目的と思われる墓を掘り返そうとしたその時、背後から聞き覚えのある……いや、少し異質に変化した声が聞こえて来た。途端に背筋が凍り付く。そのあまりの恐怖に、思わず唾を飲み込む。
「ソれとコれ……落チていタから、拾ってアげタわよ」
「「……!!!」」
二人が振り返るよりも早く、二人の間を物体が勢い良く通り過ぎる。物体はそのまま塀にぶつかり、地面に叩き付けられる。その物体はボロボロであり、見るも無惨な形をしていた。しかしそれは見覚えのある……いや寧ろいつも見ている物……。
「「ハナコ!!!」」
アレリテを食い止めると言って分かれたハナコ。そんなハナコが、血塗れの状態で二人の目の前に現れたのだ。二人は慌ててハナコの安否を確かめる。
「ハナコ!! ハナコ!!」
「ハナコさん!! ハナコさん!!」
「…………」
激しく揺すっても、二人が呼び掛けても反応しない。
「そんな……嘘だろ……」
「嫌ですよ……ハナコさん……こんな……こんな別れは嫌ですよ!! 目を開けて下さい!! ハナコさん!!」
「悪いんだけど、あなた達に悲しんでいる隙は無いわよ」
悲しみに暮れる中、再び背後から声が聞こえる。二人は涙を流しながらも、ゆっくりと振り返る。
「化物め……」
「許さない……許さない!!」
「許さない? それはこっちの台詞よ!!」
そこにいたのはメユだった。しかしその姿は明らかにこの世の生物では無かった。足はムカデの様に小刻みに動いており、体は蝶の様に大きな羽が生え、両手はカマキリの様に鋭く、そして顔は特に異様であり、丸い輪郭にスイカ並の大きな目玉が一つ付いているだけだった。鼻や口などの他のパーツは存在していなかった。しかし、声だけは何故か聞こえて来ていた。
「さぁ、思い知らセてアげる。圧倒的な絶望を!!」
「こっちです!! こっちから館の裏手に回る事が出来ます!!」
メユとソンジュの魔の手から何とか逃げ出し、館の外へと脱出する事が出来た三人。しかし一息つく暇も無く、足早に裏庭へと向かう。
「追い掛けて来ませんね……諦めたんでしょうか?」
「どうだろうな……あの女が簡単に諦めるとは思えないが……何だか嫌な予感がする。急ぐぞ!!」
「はい!!」
「分がっだだぁ!!」
一抹の不安を抱きながら、三人は館の裏庭へと回り込む。
「うがぁ……あぐがぁ……」
「「「!!!」」」
しかし、その行く手を遮る存在が目の前に現れた。目は虚ろ、口からは涎が垂れており、更に猫背で背骨が異常に発達した生物。
「アレリテさん……」
「あがぁ……ぐごが……」
それは誰であろうアレリテだった。真緒達との戦いで、メユによって肉体改造されたアレリテが、裏庭に向かう三人の行く手を遮っていた。
「アレリテさん!! 私の声が聞こえますか!!? アレリテさん!!」
「うぅ……うぅ……」
するとリーマの声に反応したのか、突然頭を抱えて唸り声を上げる。
「アレリテさん……?」
「うぅ……うごぁあああああ!!!」
「「「!!!」」」
そして次の瞬間、低い叫び声を上げ、半ば狂乱した様に目の前にいる三人目掛けて襲い掛かって来た。
「アレリテさん!!」
「無駄だリーマ!! アレリテにもう自我は存在していない!! ここで殺るしかない!!」
「で、でも……」
「辛いのは分かる!! だがここで殺らないと、俺達が殺られる事になるぞ!! そうなったら、俺達に託したマオの想いを踏み潰す事になるんだぞ!!」
「…………分かりました。私、殺ります!!」
「うごがぁあああああ!!!」
「アレリテさん……すみません!! “ウインドカッター”!!」
覚悟を決めたリーマは魔導書を開き、魔法を唱える。すると鋭い風の刃が生み出され、迫り来るアレリテ目掛けて勢い良く放たれた。
「あぐぅ!!?」
勢い良く放たれた風の刃は、アレリテの首を通り過ぎる。そして瞬く間にアレリテの首は地面へと落下し、首を切り落とされた体は俯せになって倒れるのであった。
「アレリテさん……安らかに眠って下さい……」
「よし、先へ急ぐぞ」
「…………ぐぉ」
「うん? な、何だ?」
行く手を遮る物が無くなり、先へ急ごうと倒れているアレリテの横を通り過ぎ様としたその時、切り落とされた首が俯せになって倒れている体にくっ付いた。
「ぐ……ぐ……ぐぉおおおおお!!!」
そしてゆっくりと立ち上がり、三人の行く手を再び遮る。
「おいおい、いくら治ると言っても早過ぎるだろ!!」
「それだけ、メユさんの強化が影響しているって事でしょうか!?」
「今はそんな事、どうでもいい!! 兎に角急ぐぞ!!」
「で、でも倒しても倒しても直ぐに治ってしまうんじゃ、どうしようも……」
「……オラが食い止めるだぁ」
「ハナコ……」
「ハナコさん?」
リーマとフォルスが狼狽える中、ハナコが二人よりも一歩前に踏み出した。
「オラが食い止めでいる間に、二人は先に行っでぐれだぁ」
「ハナコ……お前……」
「何も、三人で一緒に行ぐ必要なんが無いだぁ。ごの中の誰が一人が、裏庭に辿り着げれば良いんだがら……先に行っでぐれだぁ」
「ハナコさん……」
「うごぉおおおおお!!!」
ハナコを置いて、先に進むのを戸惑っていると、完全に立ち上がったアレリテが、三人目掛けて両拳を振り下ろそうとする。
「スキル“インパクト・ベア”!!」
拳が振り下ろされそうになった次の瞬間、ハナコが地面を蹴り空中へと跳んだ。そして無防備なアレリテ目掛けて渾身の一撃を叩き込んだ。
「ごぁあああああ!!!」
強い衝撃にバランスを崩したアレリテは、仰向けになって勢い良く倒れる。
「ざぁ!! 今の内に早ぐ行ぐだぁ!!」
「ハナコ……恩に着る」
「ハナコさん、ありがとうございます」
ハナコの想いを胸に、リーマとフォルスの二人は先を急ぐ。
「ぐぅ……あぁああ……」
するとアレリテは、横を通り過ぎ様とする二人の足を掴もうと両手を伸ばす。
「スキル“鋼鉄化(腕)”」
「ごぁあああああ!!?」
しかしその両手は二人の足を掴む前に、両腕を鋼鉄に変化させたハナコによって叩き潰されてしまった。
「悪いげど、二人の後は追わぜない。ごごがら先を通りだげれば、オラを倒ずだぁ」
「ぐっ……ぐぐっ……!!!」
この時、行く手を遮っていた筈のアレリテの立場が逆転する事となった。
***
「はぁ……はぁ……ふぅ……どうやらここが裏庭の様だな……」
「こ、これって……」
アレリテという肉壁を掻い潜り、何とか裏庭へと辿り着く事が出来た二人。しかしその表情は何処か暗く、決して良いとは言い難かった。
「この中から“本命”を見つけ出さないといけないらしいな……」
「で、でも……こんなにも沢山“墓石”があっては、どれが本命かなんて分かりませんよ!?」
二人がやっとの思いで辿り着いた裏庭。それは墓地であった。塀に囲まれ、短く手入れされた草の上にズラリと立ち並ぶ墓石。その片隅には一本の木が生えており、木の太い枝には紐が括り付けられ、先端に横長の板が付けられていた。所謂簡易ブランコである。そして、墓石のそれぞれに“メユ”と刻み込まれていた。
「どうやら……既に対策されていた様だな……」
「こんなの一つ一つ調べていたら、日が暮れてしまいますよ……そしたらハナコさんは……」
絶望。リーマは目の前の現実に、思わず両膝が地面に付いてしまう。
「嘆いてたって始まらない。時間が許す限り、探すしかないだろう」
「……そうですよね。こんな所で挫けていたら、マオさんやハナコさんに笑われてしまいますもんね!! 私、頑張ります!!」
「その意気だ。それじゃあ始めるぞ」
「はい!!」
フォルスに元気付けられたリーマは、やる気を取り戻した。そして二人手分けして、それぞれの墓を掘り返し始めるのであった。
「……くそっ、こっちには無い!!」
「こっちにもありません!!」
墓を掘り返す二人だが、その中には誰もいなかった。
「次だ!! 次行くぞ!!」
「はい!!」
掘る、掘る、掘る、掘り続ける。気が付けば、裏庭は掘り返された土によって酷く汚れてしまっていた。
「はぁ……はぁ……探すしかないとは言ったものの……これじゃあ切りが無いぞ……」
「はぁ……はぁ……も、もう指が限界です……」
掘るのは勿論手作業である。魔法やスキルで掘る事も出来るが、使い過ぎてしまった時に追跡者が現れた場合、対処する事が出来なくなってしまう。そうした考えを配慮しながら、手作業で掘り続けていたが、流石に限界が近付いていた。
「くそっ……どうすればいい……どうすれば…………ん?」
その時、フォルスはこの裏庭にある違和感を覚える。
「(そう言えば……どうしてこんな墓地に、ブランコなんか置かれているんだ?)」
それは純粋な疑問だった。例えどんな強靭な精神の持ち主でも、大量の墓石が並ぶ中、ブランコで遊ぶなど常識的に考えられない。
「(墓石が立てられる前に作られた? だがそれなら、もっと朽ち果てても良さそうだが……もしかして!!?)」
「フォルスさん?」
何かに感づいたのか、フォルスは慌ててブランコの側へと駆け寄る。
「…………あっ」
ブランコの側に駆け寄ったフォルスは、ブランコが括り付けられている木の周りを探し始める。すると木の影に隠れる様に、埃まみれの古ぼけた墓石が立てられていた。他の墓石と比べると非常に小さく、全く手入れはされていなかった。そしてそんな古ぼけた墓石にも、“メユ”と刻み込まれていた。
「あった……あった!! あったぞ!!」
「えっ!? 本当ですか!!?」
フォルスの大声に反応して、リーマも慌てて側へと駆け寄る。
「あぁ、恐らくこの墓の下にある筈だ」
「急いで掘り返しましょう!!」
「何を掘リ返スって?」
「「!!?」」
二人が目的と思われる墓を掘り返そうとしたその時、背後から聞き覚えのある……いや、少し異質に変化した声が聞こえて来た。途端に背筋が凍り付く。そのあまりの恐怖に、思わず唾を飲み込む。
「ソれとコれ……落チていタから、拾ってアげタわよ」
「「……!!!」」
二人が振り返るよりも早く、二人の間を物体が勢い良く通り過ぎる。物体はそのまま塀にぶつかり、地面に叩き付けられる。その物体はボロボロであり、見るも無惨な形をしていた。しかしそれは見覚えのある……いや寧ろいつも見ている物……。
「「ハナコ!!!」」
アレリテを食い止めると言って分かれたハナコ。そんなハナコが、血塗れの状態で二人の目の前に現れたのだ。二人は慌ててハナコの安否を確かめる。
「ハナコ!! ハナコ!!」
「ハナコさん!! ハナコさん!!」
「…………」
激しく揺すっても、二人が呼び掛けても反応しない。
「そんな……嘘だろ……」
「嫌ですよ……ハナコさん……こんな……こんな別れは嫌ですよ!! 目を開けて下さい!! ハナコさん!!」
「悪いんだけど、あなた達に悲しんでいる隙は無いわよ」
悲しみに暮れる中、再び背後から声が聞こえる。二人は涙を流しながらも、ゆっくりと振り返る。
「化物め……」
「許さない……許さない!!」
「許さない? それはこっちの台詞よ!!」
そこにいたのはメユだった。しかしその姿は明らかにこの世の生物では無かった。足はムカデの様に小刻みに動いており、体は蝶の様に大きな羽が生え、両手はカマキリの様に鋭く、そして顔は特に異様であり、丸い輪郭にスイカ並の大きな目玉が一つ付いているだけだった。鼻や口などの他のパーツは存在していなかった。しかし、声だけは何故か聞こえて来ていた。
「さぁ、思い知らセてアげる。圧倒的な絶望を!!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄ですか? 無理ですよ?
星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」
そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。
「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」
それはそれは、美しい笑顔で。
この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。
そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。
それでは、どうぞ!
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる