上 下
53 / 275
第三章 冒険編 私の理想郷

真緒 VS エジタス(夢)

しおりを挟む
 「まさかこうした形で……再び師匠と戦う事になるとは思いませんでしたよ」



 「再び? 私とマオさんが戦うのは初めての筈ですけど~?」



 戦い前の世間話をしようとする真緒だったが、エジタスは首を傾げるだけで、会話は噛み合わなかった。



 「……そうでしたね。あなたは“偽物”であり、戦うのはこれが初めて……」



 「う~ん、その“偽物”っていう言い方……引っ掛かりますね~。確かに私は“夢の絵本”の力によって生み出されました~。ですが、私はこうして生きている!! 本物か偽物かという以前に私には、私という“個人”があるのです!! それを“偽物”の一言で片付けないで頂きたいですね~」



 「…………」



 「ん? どうかしましたか~?」



 熱く語ったは良いものの。当の真緒は目を丸くするだけで、全く反応を見せなかった。



 「あっ、いえ……喋り口調だけじゃなく、言い回しまで似ているなって……」



 「似ているも何も……さっきから申し上げている様に……私は“エジタス”、本物も偽物も無いのですよ……」



 「そうですね。本物も偽物も関係無い……私はあなたを道に立ち塞がる敵の一人として倒し、先に進ませて頂きます!!」



 「それじゃあお互い時間も惜しい事ですし、始めましょうか……」



 「えぇ、始めましょう……」



 静かに武器を構え、睨み合う二人。そして次の瞬間二人の姿が消えた。いや、正確には互いに目にも止まらぬ速さで一気に距離を縮め、ぶつかり合っていた。



 「はぁあああああ!!!」



 「ふっ!! はっ!! よっ!! あらよっと!!」



 真緒の休み無く続く連続攻撃を、エジタスは器用に食事用のナイフで受け流していく。



 「“ライト”!!」



 「!!?」



 攻撃が受け流されていく中、真緒は左手の掌をエジタスに向け、魔法を唱える。すると掌から目が眩む程の眩い光の玉が形成された。そのあまりの眩さに、エジタスは思わず腕で目を隠す。



 「隙あり!!」



 「ぐはぁ!!!」



 腕で目を隠した事で、致命的な隙が生まれた。その隙を突き、真緒はエジタスの胸を横一線で斬り付けた。



 「うっ、ぐっ、ぐぐぐ……なぁ~んちゃって!!」



 「!!?」



 斬られた胸を抑え、苦しむエジタス。しかし次の瞬間には、まるで何も無かったかの様に元気な姿を見せ付ける。



 「残念ですが、私の体は“夢の絵本”によって生み出されています。なのでいくら傷を付けようとも、こうして直ぐに治ってしまうので~す」



 そう言うとエジタスは、斬られた胸を見せ付ける。するとそこには、胸の傷が瞬く間に塞がっていく光景があった。



 「私を倒したければ、本物の“夢の絵本”を見つけ出さなければいけませんよ~」



 「……それだけですか?」



 「……はい?」



 「言いたい事はそれだけですか?」



 そう言い終わると真緒は、エジタスの下へと歩み寄り、躊躇無くエジタスの片腕を斬り飛ばした。



 「ん~? いったい何をしているんですか~? 話を聞いて無かったんですか~? いくら傷付けたとしても、直ぐに治るんですよ~」



 「そんな事、分かっていますよ。でも、治すのにもそれなりの時間を要する……違いますか?」



 「っ!!!」



 真緒の言う通り、胸の傷に対して斬り飛ばされた片腕は植物が成長するかの様にゆっくりとした動きで、元に戻るまで時間が掛かっていた。



 「……私は一刻も早く、皆の所に向かわないといけないんです。こんな所で、道草食ってる訳にはいかないんです!!」



 「な、何ですって!!? この私をみ、道草扱い!!?」



 「倒せないとしても、細切れにして治るのに時間を掛けさせる!!」



 「そ、そうはいきませんよ~!!」



 斬り掛かろうとする真緒に対して、エジタスは咄嗟に指をパチンと鳴らし、その場から一瞬で姿を消した。



 「…………」



 消えたエジタスに対して、真緒は静かに目を閉じる。



 「目を閉じるだなんて、隙だらけですよ~!!」



 目を閉じた真緒を絶好の機会だと思ったエジタスは、真緒の背後に姿を現し、そのままナイフで斬り付けようとする。



 「はぁあああああ!!!」



 「な、何ですって!!?」



 しかし、背後に姿を現すのを予測していたのか。エジタスがナイフを振り下ろそうとする前に、真緒が勢い良く振り返り、持っていた剣でエジタスの顔を斬り飛ばした。斬り飛ばされた頭は床を転がり、その衝撃で被っていた仮面が剥がれ落ちる。



 「悪いですが私は一年前、あなたなんかよりもっと凄腕の転移魔法を扱う人と戦っているんです。攻撃を振る前に声を出すあなたに負ける筈がありません」



 「……ちょ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!! この糞ガキがぁあああああ!!!」



 冷静な真緒に対して、仮面が外れた事で化物の顔を剥き出しにしたエジタスが、大声を発しながら斬り飛ばされた頭を拾い上げ、無理矢理体にくっ付ける。



 「仮面が外れた事による人格の変化……本当に師匠と似ていますね……でも、師匠は仮面が外れた位では、そんなに声を荒げたりしませんよ」



 「黙れ!! そんなのお前の個人的な価値観に他ならない!! 俺はエジタス、化物のエジタスなのさ!!」



 エジタスは、治りかけの片腕を何倍にも巨大に膨れ上がらせる。



 「まさか……“骨肉魔法”まで扱えるだなんて……」



 「驚いたか!! これからこの巨大化させた腕で、お前をペシャンコにしてやる!!」



 「……何だか、仮面が外れた事で人格だけじゃなく、知性まで変わっていませんか? 勿論、劣化しているという意味で……」



 「そんな悠長な事を言っていられるのも、今の内だぞ!!」



 するとエジタスは、巨大化させた腕を縦に回す様に振り回しながら、真緒目掛けて勢い良く突き出した。



 「死ねぇえええええ!!!」



 「……スキル“乱斬激”」



 迫り来る巨大な腕に、真緒は目にも止まらぬ斬激を繰り出すと、巨大化したエジタスの腕は細切れになった。



 「そ、そんな……お、俺の……俺の腕がぁあああああ!!!」



 「…………」



 腕が細切れになり、喚くエジタス。そんなエジタスに、真緒は冷ややかな目線を送っていた。



 「よ、よくも俺の腕を……絶対に殺してやるからな!!!」



 そう言うとエジタスは、もう片方の腕を巨大化させる。



 「へへへ……今度は油断しない……おらぁ!!!」



 「!!?」



 不気味な笑い声を上げるエジタス。すると次の瞬間、エジタスは床を思い切り蹴飛ばし、溜まっていた埃を舞い上がらせる。それにより真緒は、目が眩んでしまった。所謂、目潰しである。



 「貰ったぁあああああ!!!」



 「……スキル“ロストブレイク”」



 エジタスが放った渾身の一撃。しかし真緒は目を瞑りながらも冷静に、スキル“ロストブレイク”を発動し、巨大化したエジタスの腕を消し飛ばした。



 「……あ……ああ……あああ!!!」



 「…………」



 両腕が無くなり、慌てるエジタス。そんな様子のエジタスに、真緒は冷ややかな目線を送っていた。



 「よ、よくも……よくも俺の腕を!! 絶対に、絶対に許さないからな!!」



 「さっきから思っていたんですけど……腕が無くなったのなら、“再生”させれば良いじゃないですか……」



 「さ、再生……?」



 「そうでなくても“構築”すれば……あっ、いやもっと手っ取り早くするなら“集結”の方が良いか……」



 「構築? 集結? お前は……何を言っているんだ?」



 「えっ……あぁ、そう言う事ですか」



 真緒が何を言っているのか、訳が分からないエジタス。そんなエジタスに、何かを察した真緒。



 「所詮は“紛い物”……ここまでが限界という事です」



 「はぁ!? いったい何の事を言っている!? 一から説明しやがれ!!」



 「…………はぁー」



 頭が回らない喚き散らすだけのエジタス。そんなエジタスに真緒は、思わず溜め息を漏らす。



 「いいですか? あなたは夢の絵本から生まれた言わば空想の師匠。だけどその空想は、書いた人物の想像力によって強さが異なる。恐らくあなたを書いた理想郷の主は、師匠の転移魔法と骨肉魔法の一部分しか見ていない。だから書いて現実に出て来たとしても、その一部分しか使えない……という事です」



 「そんな……ふざけるな!! 俺はエジタスだ!! 本物のエジタスなんだ!! 一部分しか使えない訳あるか!!」



 「でも実際、あなたは“再生”も“構築”も“集結”も知らないんですよね?」



 「…………」



 「……それと一つ撤回させて下さい」



 「?」



 「あなたの事を師匠と似ていると言いましたが……それは大きな間違いでした。あなたは師匠なんかとはまるで違う。あなたは只の醜い化物ですよ」



 「……ふ、ふざけるなぁあああああ!!!」



 真緒の言葉に激怒し、まだ両腕も治っていないのに、エジタスは真緒目掛けて飛び掛かろうとする。



 「スキル“明鏡止水”」



 「!!!」



 その瞬間、まるで時が止まった様に動けなくなってしまった。意識はハッキリとしているのに、体が全く動かない。そんな状況の中、目の前にいる真緒が静かに穏やかに剣を構え、動けないエジタスをゆっくりと切り刻んでいく。何度も……何度も……何度も……何度も……そうして斬り終えた頃には、原型が分からなくなる程、細切れになっていた。



 「“明鏡止水”……この一年で私が編み出した技……“乱斬激”の様な荒々しいのとは対称的に、物静かに切り刻むこの技は、私の心の成長の証とも言える……本当は師匠に見せたかったけど、あなたで我慢してあげます……さようなら、醜い化物よ」



 冷たく落ち着いた態度を示しながら、真緒は先に出て行った三人を追い掛ける為、部屋を後にした。残された醜い化物は、少しずつ体を治していくが、相当な時間を要する事となるであろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい

青空一夏
恋愛
私、アグネスは次期皇后として皇太子と婚約していた。辛い勉強に日々、明け暮れるも、妹は遊びほうけているばかり。そんな妹を羨ましかった私に皇太子から婚約破棄の宣言がされた。理由は妹が妊娠したから!おまけに私にその妹を支えるために側妃になれと言う。いや、それってそちらに都合良すぎだから!逃れるために私がとった策とは‥‥

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?

来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。 パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」―― よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m ――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】 12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます! 双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。 召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。 国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。 妹のお守りは、もうごめん――。 全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。 「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」 内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。 ※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。 【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。

ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。

処理中です...