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第三章 冒険編 私の理想郷

ややこしい話

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 「考えだと? どうしたマオ、急に改まった言い方をして……」



 「マオぢゃん、いっだいどうじだだぁ?」



 「その考えって、水を掛けてからじゃ駄目なんですか?」



 「駄目だよ。もしここで残り最後の水を掛けてしまったら、一生後悔する事になる」



 「後悔? どう言う意味だ?」



 「ハッキリ言います。ここにいるレーヴさんは、理想郷の主ではありません」



 「「「!!?」」」



 真緒の言葉に、明らかな動揺を見せる三人。そんな中、真緒はフォルスから取り上げた給水袋の口を閉じる。



 「いったいどう言う事だ!? ここにいるレーヴが理想郷の主じゃないのか!?」



 「訳が分がらないだぁ……」



 「ちゃんと説明して下さい!!」



 「分かってるよ……まず疑問に思ったのは警備の手薄さ」



 「「「……?」」」



 言っている意味が上手く理解出来ず、首を傾げる三人。



 「二階の廊下から、この部屋に来るまでの間、誰一人として見張りに出くわさなかった。もし、レーヴさんが本当に理想郷の主だとしたら、水を掛けられない様に見張りを置いて警戒している筈だよ」



 「成る程……だが、たまたま出くわさなかった可能性もあるだろう?」



 「(やっぱりこれだけじゃ、納得はしてくれませんか……それなら……)」



 警備が手薄だけの理由では納得しない三人。しかし真緒はそれを見越して、説明を続ける。



 「そうだとしたら、尚更おかしいよ」



 「どう言う意味ですか?」



 「皆も見たでしょ? 百人近くいる街の住人達を……」



 「あぁ……」



 「そんな百人近くが、全員一階だけしか捜索せず、二階には一切手を付けないと思う?」



 「そ、それは……」



 あり得ない。百人という大群に対して、捜索する範囲が狭過ぎる。客観的に見ても、明らかに不自然である。



 「それに理由はまだある。皆、メユちゃんと対峙した時にメユちゃんが言った言葉……覚えてる?」



 「ま、全ぐ覚えでいないだぁ……」



 「す、すまん。俺もあんまり覚えていない……」



 「私もです……すみません……」



 「……あの時メユは……『私こそが理想郷の主だ』って、ハッキリ言っていた」



 「えっ? でも実際の所、あのメユは偽物だったじゃないか」



 「最後まで聞いて……その後、ソーニョさんに匿って貰ったけど、その時ソーニョさんは……『私の本当の名前は“メユ”』って、言っていた。



 「あぁ、そう言えばそうでしたね。結局、何を言っているのか分かりませんでしたけど……」



 「確かに、一見すると訳の分からない言動に思える……でももし、今の言葉が全ての真相の核心部分だけを突いた言葉だとしたら?」



 「……何が言いたい?」



 「私は……メユちゃんとソーニョさん……いや、ソンジュさんやここにいるレーヴさんも含めて、一人の個人じゃないのかって言ってるんです!!」



 「「「!!?」」」



 真緒による衝撃の考察。しかし、あまりにも現実離れしている内容に、三人は酷く混乱した表情を浮かべる。



 「つまりお前は……メユ、ソーニョ、ソンジュ、レーヴの四人が同一人物だって言いたいのか……?」



 「……はい」



 「……はぁ……」



 「マオさん……」



 「マオぢゃん……」



 あまりに突拍子も無い内容に、思わず溜め息が漏れる。他の二人も、呆れた表情で真緒を見つめる。



 「……それを裏付ける証拠はあるのか?」



 「ううん、特に無いよ。これはメユちゃんとソーニョさんの話を聞いた私が、勝手に考えた事だから」



 「……百歩……百歩譲って、お前の言う通り四人が同一人物だとしよう。だがそれでどうして、レーヴが理想郷の主じゃ無いって言い切れるんだ!?」



 「それは……立場ですよ」



 「立場……?」



 「ここにいるレーヴさんは、師匠の娘という立場。ソンジュさんは孫という立場。そしてソーニョさんとメユちゃんは曾孫という立場……」



 「それが? 何だって言うんですか?」



 「ここで思い出して欲しいのは、ソーニョさんが理想郷の主に対して、何故言うのを拒んだか……もしも理想郷の主がレーヴさんだとしたら、そのまま言ってしまえば済む話じゃないですか」



 「そ、それは……きっと寝た切りのお婆ちゃんが理想郷の主だなんて言ったら、俺達が混乱すると思って……」



 「既にメユちゃんとの攻防で、酷く混乱しているというのに? 今更、躊躇すると思いますか?」



 「た、確かにそうだが……」



 「それならどうして、ソーニョさんが言うのを拒んだのか、分かるって言うんですか!?」



 「……恐らく、その人物の正体は、自分達の事実に大きく踏み込んでいるのだと思う。だから、話したくても話せなかったんじゃないかな?」



 「事実って……人の名前を話すだけの事なのに、大袈裟過ぎませんか?」



 「大袈裟……か……それが、他人には聞かれたくない隠し事だとしても?」



 「マオ……お前は知っているのか? ここにいるレーヴじゃない。ソーニョが言うのを拒んだ本当の理想郷の主が誰なのか?」



 「……その事を話す前に……皆、メユちゃんが師匠に対して言った事……覚えてる?」



 「確か……“夫”って……」



 「うん……でも不思議に思わなかった? メユちゃんは立場上、師匠の曾孫……夫はあり得ない」



 「そりゃあ……まぁ……」



 「これは恐らく、さっき言った同一人物の話と関係している。そして私が嫉妬しているのを見て、更なる屈辱を与えようと、思わず言ってしまった言葉なんだと思う」



 「それはつまり、今の立場を忘れて一時の感情に流されてしまった結果、言ってしまった言葉だと?」



 「そう……そしてそれこそが、メユちゃん……いや、メユの本来の立場を示す言葉だった」



 「うぅーん? オラ、何だがよぐ分がらなぐなっで来だだぁ……」



 話の難しさとややこしさに、ハナコの頭はパンク寸前であった。首を傾げ、頭を掻きむしるハナコ。



 「俺もそろそろ情報の整理が追い付かなくなって来た。取り敢えず、結論から述べてくれないか?」



 「そうですね。私も回りくどい言い回しだと感じて来た所です……私の考えは論理ばかりで、決定的な証拠が一つも無い。でも考えれば考える程、そうとしか思えなくなってしまう……結論から言うと、理想郷の主は今現在の立場で師匠の嫁となっている人物です」



 「今現在の立場……まさか……それって……」



 「……ぁあああアアアアア!!!」



 「「「「!!?」」」」



 漸く結論を述べた真緒。その瞬間、それまで静かに寝ていた筈のレーヴがベッドから飛び起き、両手で真緒の首を締め上げ始めた。



 「あがっ……ぐっ……がっ……!!?」



 「「「マオ!!!」」」



 「こノ……糞ガキが……気付いテはいけナい事に気付いてしまったナ!!」



 レーヴは老婆とは思えない怪力で、真緒を空中に持ち上げる。床に足が着かなくなり、必死にもがき苦しむ。



 「マオぢゃんがら離れるだぁ!!」



 突然の出来事に動揺し、上手く動けなかった三人だったが、逸早くハナコが首を締めているレーヴを突き飛ばし、真緒を救出する。



 「げほっ!! げほっ!! げほっ!!」



 「マオぢゃん、大丈夫だがぁ!?」



 「マオさん、大丈夫ですか!?」



 「う、うん……何とか……でもまさか……寝た切りだと思っていた人が起き上がるなんて……」



 「どうやら……マオの考えは当たっている様だな。息の根を止めようとして来たのが、決定的な証拠だ」



 「あんた達に……あんた達に“私達”の気持ちが分かる筈無い!! 一人の男を愛したが故に、人生を棒に振ってしまった!! もう私達には……この“夢の絵本”しか無いんだよ!!」



 そう言うとレーヴは、ベッドの上に置かれている夢の絵本を手に取るとページを開き、撫でようとする。



 「させるか!!」



 「……っ!!?」



 しかし、レーヴがページを撫でようとした瞬間、フォルスが逸早く行動を起こし、レーヴの両手を蹴り飛ばし、夢の絵本を遠くに吹き飛ばした。



 「こ、この糞鳥がぁあああ!!」



 「スキル“インパクト・ベア”」



 半ば発狂しながら、フォルスに掴み掛かろうとしたレーヴ。しかしその間をハナコが割って入り、レーヴの胸目掛けてスキル“インパクト・ベア”を放った。



 「ぐはぁ!!!」



 勢い良く吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その強さから壁にはひびが入り、気絶してしまった。



 「助かった。ありがとうな」



 「当然の事をじだだげだぁ」



 「突然起き上がって来たのには驚きましたが、これで誰が本当の理想郷の主か分かりましたね」



 「そうだな……だが、未だに信じられないぞ……」



 「例え信じられないとしても、それが事実なのは変わりません」



 「エジタスさんのロストマジックアイテムの影響なんでしょうか?」



 「分からない……でも、そうだとしたら早く回収しないと……そうじゃないとメユは、一生捕らわれたままだよ……」



 「なら、早く行かないとな」



 『あら? 何処に行くつもり?』



 「「「「!!!」」」」



 安堵したのも束の間、突如天井が渦巻き状に歪み始める。そして次第に床へと伸びて行き、人の形を取り始める。



 「あなた達を、あの場所に行かせる訳にはいかないわ……エジタス!!」



 「はいは~い!! ここにいますよ~」



 そこに現れたのはメユだった。夢の絵本を広げ、エジタスの名前を呼ぶと、瞬く間にメユの隣に姿を現した。



 「不味いな……この狭い部屋で戦うのは無理があるぞ……」



 「何とか……エジタスさんとメユさん……それぞれに分ける事が出来れば……」



 「……皆、先に行って」



 「「「えっ!?」」」



 危機的状況の中、真緒が三人に先へと行く様に指示する。



 「私がどちらか一方を抑えるから、その間に皆は部屋を抜け出して」



 「でもマオさん……」



 「大丈夫、倒し終わったらすぐに向かうから……私を信じて……」



 「……分かった……先に行ってる。二人も、それで良いな?」



 「……はい、分かりました」



 「わ、分がっだだぁ。オラ、マオぢゃんを信じるだぁ」



 「ありがとう皆……フォルスさん、これを……」



 すると真緒は、給水袋をフォルスに手渡す。



 「……確かに受け取った」



 「皆……必ず……必ず、生きてまた会おう!!!」



 「「「おぉ!!!」」」



 「な、何!!?」



 「ほぉ~、これはこれは……」



 決意を新たに、真緒達は二手に別れた。真緒一人がメユとエジタスに戦いを挑み、残りの三人がその隙を突いて部屋の外へと抜け出す。



 「しまった!! エジタス、あなたはここでマオを対処しなさい!! 私は残りの三人を追い掛ける!! 良いわね!!」



 「はいはい、了解しました~」



 その場をエジタスに任せたメユは、夢の絵本のページを撫で、床をまるで波の様に操り、その波に乗りながら慌てて部屋を抜け出した三人を追い掛ける。



 「……さて~、それじゃあ私達も始めましょうか~?」



 「…………」



 二人きりとなった真緒とエジタス。エジタスは指をパチンと鳴らす。すると何も無い所から食事用のナイフが現れる。そんな食事用のナイフを握り締めながら、エジタスは真緒に向けるのであった。
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