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最終章 笑顔の絶えない世界

パニック

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 エジタスの骨肉魔法により、世界中に存在する肉と骨が、かき集められる。その時、世界の至る所でパニックが起こっていた。







***





 

 オオラカ村。真緒達が旅を始めて、最初に立ち寄った村。真緒達の活躍によって、笑顔を取り戻した村長の娘“アメリア”は不安に駆られていた。



 「お父さん…………」



 いつも通りの日常。その筈が、空一面が突然真っ赤に染まり始めたのだ。



 「大丈夫……大丈夫だよ……」



 村長が、娘のアメリアに言い聞かせていると、真っ赤に染まった空一面が徐々に晴れて来た。



 「ほ、ほら!!お空も元に戻った!!心配する必要……「おい!!あれを見ろ!!」……えっ?」



 安心したのも束の間、村人の誰かが叫び声を上げた。村長とアメリアは、村人達が向いてる方向に顔を向ける。



 「な、何だあれ…………」



 そこには、巨大な生物が地平線を越えた先で立っていた。遠目からでもハッキリとしたその姿は、村人全員の心を恐怖で震撼させた。



 「きょ、巨大な化物だぁあああ!!!」



 「この村まで来ないよな!?」



 「終わりよ!!この世界の終わりが来たのよ!!」



 「お、お父さん…………」



 「…………」



 突如現れた巨大な生物に、パニックを起こした村人達。そんな中、村長は娘のアメリアを強く抱き締め、安心させるのであった。







***







 「おーくさん!!」



 「おそらがまっかっか!!」



 「皆、一ヶ所に集まるんだ。決して、離れるな」



 広大な荒野。そんな荒野の中に立つ、一軒の孤児院。真緒達が去った後、オークは行き場の無い子供達の為に、孤児院を建設していた。しかし、完成間近といった所で突然、空一面が真っ赤に染まった。子供達は怯え、オークは子供達を側に寄せる。



 「…………あれ、おそらもどった?」



 「まっかっかじゃなくなった……」



 しばらく身を寄せていると、真っ赤に染まった空一面が、徐々に晴れて来た。



 「何だったんだ……いったい……っ!?」



 「わぁー、おおきいー!!」



 「おーくさん、なにあれー!?」



 真っ赤に染まった空が、晴れたかと思ったその瞬間、巨大な生物が地平線を越えた先に姿を現した。



 「…………ふ、震えているのか?……こんな遠くからなのに……」



 遠目。近づいてもいない筈なのに、その姿を見ただけで、両足の震えが止まらなかった。オークは、震える自身の両足を掴んで必死に震えを抑える。



 「いったい……あっちで……何が起こっているんだ……」







***







 水の都。人魚の町に住む人魚達にも、パニックが起こっていた。



 「女王様!!海が……海が……赤く染まってしまいました!!」



 何と、海全体が赤く染まってしまっていたのだ。見渡す限りの赤、美しかった青い海は見事に無くなっていた。若い人魚が大慌てで、女王のいる城へと駆け込んで来た。



 「分かっています!!しかし……どうして突然海が赤く…………もしかして、地上で何かあったのでは!?」



 元々、海が青く見えるのは光の性質が大きく関わっている。太陽の光は白く見えるが、本当は虹の七色。その七色の内、青色の光が一番良く海の水の中を進んで行く。他の色の光は、海の水に吸収されてしまう。つまり、青色の光だけが海の水にすい取られないで、いろいろな方向に散らばる為に、その光が目に入って海は青く見える。しかし今回、青から赤に突然変色してしまった。それはつまり、地上で太陽の光を遮る程の何かが起こっているという事、そう考えた女王は、護衛も付けずに単独で城から飛び出した。



 「じょ、女王様!?どちらへ行かれるのですか!?」



 「一度、海中から海上へと出ます!!海上からなら、地上の様子が分かるかもしれません!!」



 「お一人では危険です!!私達もついて行きます!!」



 そう言うと女王を先頭に、数人の人魚が後からついて来た。



 「あ、あれ?……女王様……海の色が……戻っていきますよ?」



 「えっ?」



 周囲を確認すると、まるで流れる様に赤から青へと、元の海の色に戻り始めていた。



 「……ですがやはり、一度海上に出ます!!少しでも情報を得ます!!」



 「分かりました!!」



 女王の進言を受け、数人の人魚達は女王と供に、海上へと顔を出した。



 「ん?女王様じゃないか。やっぱりあんたも気になって出て来たか……」



 「ジェドさん!!良かった、先に海上に出ていたのですね!!」



 海上に出た女王達が周囲を見渡すと、すぐ側にジェドが乗る海賊船を発見した。海賊船に乗っていたジェドも、海中から出た女王達に気が付き、声を掛けた。



 「いったい何が起こったのですか?」



 「…………あれを見て見ろ」



 「…………な、何ですか……あれは…………!?」



 女王達は、ジェドが指差した方向に顔を向ける。指差した地平線の先には、海上からでも見て取れる程の、巨大な生物が立っていた。



 「空一面が真っ赤に染まり……それが戻ったと思ったら、今度は地平線の先に巨大な生物が現れた……くそっ、頭がパンクしそうだ……」



 「ちょっと待って下さい……あっちの方向って……もしかして!?」



 「あぁ……マオ達が向かった“クラウドツリー”の方角だ…………こりゃ、本格的に不味い事になったな……」



 「皆さん……」



 女王とジェドは、巨大な生物を見ながら、真緒達の安否を心配するのであった。







***







 鳥人の里。ヘルマウンテンの麓に住む彼らも、この異変に戸惑いを隠せずにいた。そんな中でも、フォルスの幼馴染みであるククとビントの二人は、トハの命令により真っ赤に染まってしまった空を、飛びながら近くで調査していた。



 「…………間違いないな……」



 「そうね……早い所、里に戻ってトハさんに伝えましょう」



 ククとビントは、空の調査を終えると急旋回して、里へと着陸した。里では、トハと鳥人の族長が二人の帰りを待っていた。



 「戻ったね……それで、どうだった?」



 「トハさんの思った通り、空一面を覆い尽くしているのは、肉と骨だ……」



 「それも色んな種族の肉や骨……近づいたら死臭がする事から、そのどれもが死肉や遺骨だと思う……」



 「やっぱり…………問題は、どうして急にこんな事が起こったのか……」



 「ほぅ……困りましたな……これでは、幼い小鳥達が怖がって外に出られない……何とかして、元に戻せれば良いのだが…………ん?」



 四人が頭を悩ませていると、空一面を真っ赤に染めていた肉と骨が、徐々に無くなり晴れ始めた。



 「元に戻ったのか……何故急に?」



 「ほほ、何だかよく分かりませんが、結果良ければ全て良し。これで小鳥達が安心して……ほほっ!?」



 ホッとしたのも束の間、目線を向けると突如、地平線の先で巨大な生物が姿を現した。族長は、あまりの驚きに羽毛を大きく膨らました。



 「どうやら……ここからが本番の様じゃな…………」



 「嘘でしょ……あの化物……ヘルマウンテンよりも大きいわ……」



 突如現れた巨大な生物によって、鳥人の里は恐怖と動揺が増長する事となった。







***







 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 雪女のスゥーは、突如消え去ってしまった炎の王冠を取り返す為、犯人と思われるエジタスを走って追い掛けていた。



 「飛び出したは良いけど……いったい何処に行けば良いのか……はぁ……はぁ……はぁ……」



 しかし、エジタスを追い掛けようにも今現在、エジタスが何処にいるのか、全く分からなかった。唯一の情報は、“クラウドツリー”に向かっているという情報だけである。



 「……いつの間にか、空も真っ赤に染まっているし……この世界に……何が起ころうとしているの…………考えても仕方無い……取り敢えず、“クラウドツリー”に向かって見ましょう……あらっ?」



 スゥーが“クラウドツリー”に向かって走り出すと、真っ赤に染まっていた空が、徐々に晴れ始め元に戻った。



 「良かった……空が元に戻っ……えぇえええええ!!?」



 安心も束の間、“クラウドツリー”の先に突如、巨大な生物が現れた。また、今までの人達よりも距離が近かった為、よりその大きさが理解出来る。



 「“クラウドツリー”よりも遥かに大きい…………ぐっ、そ、それに……この臭いは…………!?」



 死臭。鼻は曲がり、気が遠くなる程の臭いに、思わずスゥーは鼻を摘まんでしまった。しかし、まだ臭かった。口から吸ってもその臭さは、充分に理解出来る物であった。



 「ちょっ、ちょっと待って……あの雰囲気……雪女である私の背筋が凍り付く程の寒気……間違いない……“アイツ”だ!!」



 突如現れた巨大な生物を見たスゥーは、その雰囲気でいったい誰なのか直感的に感じ取った。



 「そう……やっぱり人間じゃ無かったんだ……待ってなさいよ……必ず、炎の王冠を取り返して見せる!!」



 そう言うとスゥーは、鼻を摘まみながら現れた巨大な生物に向かって走り出すのであった。







***







 「……この腐った世界と共に、お前達を葬り去る為のな!!!」



 こうした世界中でパニックが起きている中、エジタスは肉と骨をかき集めて大きくなったのだ。しかし、その事をこの場にいる誰も知らない。いや、考える余裕も無いのだ。



 「師匠……」



 「エジタス……」



 「さて、宣言通りにお前達を葬ってやろう…………ん?」



 エジタスが動こうとしたその時、何処からか叫び声が聞こえて来た。しかもそれは一人では無く、複数人の叫び声であった。



 「な、何だあの化物!!?」



 「魔王城をぶっ壊したぞ!!」



 「逃げろ!!あんなのに踏み潰されたら、一貫の終わりだぞ!!」



 「きゃあああああ!!!」



 「うわぁあああああ!!!」



 「………………」



 それは、魔王城の近くに存在していた魔族の町だった。そこに住む魔族達が、突如として現れたエジタスを見て、悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。



 「……煩いな……」



 そう言うとエジタスは、体全体を大きく捻った。



 「おい、エジタス!!何をするつもりだ!!?」



 「……せっかくだ……ここら一帯を静かな舞台に整える……」



 するとエジタスは、捻った体を利用して右腕を魔族の町目掛けて、大きく振りかぶった。

 「「「「「「「「!!!」」」」」」」」



 その瞬間、エジタスの振りかぶった右腕の衝撃波によって、魔族の町は跡形も無く消滅してしまった。



 「う、腕を軽く振っただけで……」



 「町が……消滅した……」



 「……よし、静かになったな……さぁ、それじゃあ改めて……始めようか」



 「これは……さすがに無理かもしれない…………」



 腕を軽く振っただけで、町を消滅させられるエジタス。その場にいる全員の脳裏には、敗北の二文字しか浮かび上がらなかった。
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