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最終章 笑顔の絶えない世界

道楽の道化師(中編)

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 「マオぢゃん!!大丈夫だがぁ!?」



 「う、うん……大した怪我はしてないよ」



 玉座の間へと辿り着いたリーマ、フォルス、ハナコの三人は急いで真緒の側へと駆け寄る。



 「本当か?無理しなくてもいいんだぞ?」



 「ありがとうございますフォルスさん。でも、本当に大丈夫です」



 「なら……良いんだが……」



 「それとリーマ、さっきは助けてくれてありがとう」



 「いえ、当然の事をしただけですよ」



 一方、同じく玉座の間へと辿り着いたゴルガ、シーラ、アルシアの三人も急いでサタニアの側へと駆け寄る。



 「マオウサマ、オクレテシマイ、モウシワケアリマセン」



 「私達がもっと早く駆け付けられていれば、怪我を負わなくて済んだのに……不甲斐ない私達をお許し下さい」



 「ゴルガ、シーラ、気にしないで。そこまで酷い怪我では無いよ。それに、こうしてちゃんと来てくれた。それだけで僕は嬉しいよ」



 謝罪の言葉を送る二人に対して、サタニアは気にする必要は無いと、温かい言葉を送った。



 「でも、魔王ちゃんがここまで追い詰められているだなんて……それだけ、エジタスちゃんは強いって事なのかしら?」



 「うん……それにまだ、エジタスは力を隠していると思う」



 「そこまで……でももう大丈夫よ!!こうして九人全員が合流を果たした。恐れる必要は無いわ!!」



 アルシアの言葉と共に、九人全員がエジタスの方へと顔を向ける。



 「皆よく聞いて……残り二十分以内に、玉座に座っているクロウトが被っているワールドクラウンを取り外さないと、人類が統一されてしまうんだ……」



 「成る程、まずはワールドクラウンを取り外す事に専念すれば良いんですね」



 サタニアの言葉により、九人全員の目標が定まった。



 「いよいよ追い詰められたな……エジタス!!」



 「追い詰められた?不思議ですね~?ラクウンさん如きに手こずっていたあなたが、どうしてそんな事が言えるのでしょうか~?」



 「てめぇ……」



 「落ち着けシーラ。エジタスさんのペースに嵌まるんじゃない」



 エジタスの煽りに怒りを剥き出しにするシーラだが、フォルスが宥める。



 「分かってるよ!!……私とフォルスがエジタスの注意を惹き付ける。その間に残りの全員で玉座まで走るんだ」



 シーラは、エジタスに聞かれない様に小声で作戦を伝える。その作戦に全員が頷き、同意を示した。



 「よし……行くぞ!!」



 「「「「「「「「おぉ!!」」」」」」」」



 シーラ、フォルスの二人がエジタスの元へと走り出し、残りの七人は真緒、リーマ、ハナコ、アーメイデの四人とサタニア、ゴルガ、アルシアの三人に分散すると、それぞれ二手に分かれて走り出した。



 「ほぉ~、そう来ましたか~」



 「エジタス、私と戦え!!」



 「いや、俺と戦え!!」



 また、エジタスの側に寄った二人はエジタスを中心にして左右に分かれた。そうする事で、判断を鈍らせて一秒でも長く注意を惹き付けられると考えたからだ。



 「残念ですが追い詰められたのは、皆さんの方ですよ~。三人しかいなかったあの時は使えませんでしたが……こうして、殺しても大丈夫な人物が増えた事で漸く使う事が出来ます……」



 するとエジタスは、右手の人差し指と左手の人差し指、それぞれの人差し指でフォルスとシーラを指差した。



 「スキル“一触即発”」



 「「!!?」」



 その瞬間、二人の心に殺意が湧き出した。しかし、それはエジタスに向けられた物では無く、フォルスはシーラ、シーラはフォルス、お互いに殺意を向けられていた。



 「な、何だこれ!?何故だか、シーラに対して無性に腹が立って来た……」



 「私もだ……何故だか分からないが……今とてもフォルスを殺したいと思っている……」



 すると二人はエジタスから離れ、お互いに殺し合いを始めてしまった。フォルスが放った矢を、シーラが弾き返す。



 「良いですよ~。そのまま殺し合って下さいね~。残りは四人……」



 そう言うとエジタスは、転移でその場から姿を消した。そして瞬く間に、玉座に向かっている真緒達の目の前へと姿を現した。



 「おっと、残念ですがここから先へは許可証が必要で~す」



 「エ、エジタスさん!?フォルスさんは、どうしたんですか!?」



 「フォルスさんは今、シーラさんと殺し合いをしていますよ~」



 「殺し合い!?どうじでだぁ!?」



 「それはね…………」



 狼狽えている真緒達に、透かさずエジタスは右手の人差し指と左手の人差し指、それぞれの人差し指でリーマとハナコを指差した。



 「こうしたからで~す。スキル“一触即発”」



 「「!!?」」



 「そ、そのスキルは!?」



 真緒は、そのスキルに思い入れがあった。真緒とエジタスが初めて会った頃、真緒自身が修行の為に、キラーフットと一緒に受けた事があったのだ。



 「な、何ですか……この感情は……」



 「何だが……腹が立っで来だだぁ……」



 「駄目!!二人供、怒りに飲み込まれないで!!」



 真緒は必死に呼び掛けるが、健闘虚しくリーマとハナコは、お互いに殺し合いを始めてしまった。



 「はぁあああああ!!!」



 「だぁあああああ!!!」



 リーマの魔法とハナコの豪腕、両者の攻撃がぶつかり合う。



 「そんな……二人供……止めて……止めてぇえええええ!!!」



 「エジタス……あんた……!!」



 「感情が支配された程度で殺し合ってしまうのですから、所詮はその程度の友情だった……という事ですよ~」



 「っ!!」



 エジタスの言葉に、アーメイデは強く睨み付ける。



 「おぉ~、怖い怖い。これは早い所、他の三人の方へと向かった方が良い様ですね~」



 そう言うとエジタスは、転移でその場から姿を消した。そして瞬く間に残りの三人、サタニア達の目の前へと姿を現した。



 「は~い、時間切れ~」



 「エ、エジタス!?」



 玉座まで後二メートル。ギリギリの所で、エジタスが現れてしまった。



 「フォルスちゃんの攻撃から逃れたと言うの!?」



 「えぇ~、こんな風に……ね!!スキル“一触即発”」



 「「!!?」」



 狼狽えているサタニア達の隙を突き、エジタスは右手の人差し指と左手の人差し指、それぞれの人差し指でゴルガとアルシアを指差した。そしてスキルを唱えた瞬間、二人の感情に殺意が湧き出し始めた。



 「コ、コレハ……!?」



 「感情の……支配……!!ゆ、油断した……わ……」



 「ゴルガ!?アルシア!?」



 ゴルガとアルシアは、その場で殺し合いを始めてしまった。



 「ウォオオオオオ!!!」



 「おんどりゃあぁあああああ!!!」



 ゴルガが拳を振るい、アルシアが両刀で迎え撃つ。



 「二人供、急にどうしちゃったの!?お願い、止めて!!」



 「無駄ですよサタニアさん、お二人の心は殺意で満たされています。しばらくの間、殺し合う事になるでしょう~」



 「そんな……」



 「それよりも……自分の身を心配した方が宜しいですよ~?」



 「!!!」



 突然の殺し合いに、状況整理が追い付かないサタニア。そんなサタニアを、エジタスが蹴り飛ばした。



 「がはぁ!!?」



 蹴り飛ばされたサタニアは、数十メートル先まで吹き飛ばされた。再び、玉座への道が遠退いてしまった。



 「サタニア!!大丈夫!?」



 「マオ……ぼ、僕なら平気だよ……」



 蹴り飛ばされたサタニアの側に、真緒とアーメイデが駆け寄って来る。



 「結局、三人になってしまった様だね……」



 「何とかして、皆を元に戻せないでしょうか?」



 「……それは難しいだろうね……あのスキル自体の効力が、どの位続くのかが分からない……下手に効力が切れるのを待っていたら、その間に時間切れになってしまう……」



 「そんな……いったい……どうすれば……」



 圧倒的有利な状況から一変、完全に不利な状況に陥ってしまった。



 「食らえぇえええええ!!!」



 「やぁあああああ!!!」



 「はぁあああああ!!!」



 「だぁあああああ!!!」



 「ウォオオオオオ!!!」



 「おんどりゃあぁあああああ!!!」



 三人の周りでは、助けに来た筈の六人が今も尚、殺し合いを続けていた。



 「皆……もう止めて……」



 「マオ……」



 「(……どうする……この絶望的な状況……もう……“あの手”を使うしかないのか……でも、そうしたら……コウスケ……)」



 各々の感情が入り乱れる。殺し合いを続けているフォルスとシーラの大声が聞こえて来る。



 「俺の矢を食らえー!!」



 「そんな矢など弾いてやるわー!!」



 「行くぞー!!」



 フォルスが矢を放つと、シーラは予告通りに矢を弾いた。弾かれた矢は、玉座からかなり右にずれて、壁に突き刺さった。



 「危ないじゃないかー!!弾いた矢が誰かに当たったらどうするんだー!!」



 「人に当たらなければいいのだろー!!!人に当たらなければー!!」



 「フォルス?」



 「シーラ?」



 何とも心の込もっていない言葉のやり取りに、三人は違和感を感じた。



 「私の魔法を食らいなさーい!!」



 「ぞんな魔法、避げでやるだぁー!!」



 「「!?」」



 すると、続けてリーマとハナコの大声が聞こえて来た。



 「行きますよー!!“ウォーターキャノン”!!」



 「避げるだぁー!!」



 リーマが放った水の塊を、ハナコは予告通りに避けた。放たれた水の塊は、玉座に座っているクロウトへと、一直線に飛んで行った。



 「おっとっと~、危ない危ない……」



 しかし、そんな水の塊をエジタスが食事用のナイフで斬り裂き無力化した。



 「もう~、危ないじゃないですか~。クロウトさんに当たったらどうするんですか~。う~ん、このスキルは便利ですが……動きまでコントロール出来ないのが難点ですね~。やっぱりもっと改良を加えるべきか……」



 エジタスは自身のスキルの難点に、ぶつぶつと独り言を始めてしまった。



 「くそー!!外れてしまいましたー!!今度はもっと凄い魔法を放ちますよー!!」



 「どんな魔法が来ようども、全部避げでやるだぁー!!」



 「リーマ?ハナちゃん?」



 「皆……いったい何を……?」



 フォルスとシーラに続き、リーマとハナコまでもが心の込もっていない言葉のやり取りをし始めた。三人は更に違和感を感じた。



 「オレノ、ガンセキヲ、クラエー!!」



 「そんな物、弾いてやるー!!」



 すると、ゴルガとアルシアの所でも、心の込もっていない大声が聞こえて来た。



 「イクゾー!!」



 「ちょっ、ちょっとゴルガちゃん!!大き過ぎるわよ!!」



 だがしかし、心の込もっていない言葉を発するゴルガと反して、アルシアの声は慌てていた。ゴルガは体の一部をもぎ取ると、アルシア目掛けて投げつけた。それに対して、アルシアは両刀で斬り裂いた。



 「あんな大きな岩を弾いたら、クロウトちゃん自体が潰れちゃうじゃない。もう少し小さい岩を投げてよね。そうじゃないと、あの王冠を上手く狙えないわ……」



 「ス、スマナイ……」



 「「「!!!」」」



 その時のやり取りは小声だったが、真緒、サタニア、アーメイデの三人にはハッキリと聞こえた。



 「まさか……あなた達……殺し合いながらも……間接的に王冠を破壊しようとしていたの?」



 アーメイデの言葉に、殺し合いをしている六人はウィンクをした。



 「その事を僕達に伝える為に……わざと大きな声を……」



 「皆……ありがとう……」



 例え感情が殺意で満たされ様とも、それぞれの想いは一つである。実力者の六人だからこそ、エジタスにバレない様に手加減しながら殺し合えていたのだ。



 「皆……私達で師匠の計画を止めるんだ……その為にも……」



「「「「「「「「“目標の敵”を倒す!!」」」」」」」」



 “目標の敵”、九人全員はワールドクラウンに狙いを定めるのであった。



 「行こう!!!」

 「「「「「「「「おぉ!!!」」」」」」」」



 人類統一まで……残り十分。
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