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過去編 二千年前

死を乗り越えて

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 「…………ん……んん……」



 目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。



 「こ、ここは…………」



 「おや~、どうやら目が覚めたみたいですね~」



 見知らぬ天井を目にして戸惑っていると、寝ている私の顔をエジタスが上から覗き込んで来た。



 「えっ!?」



 私は慌てて体を起こして、エジタスもとい周囲の状況を確認する。私が寝ている簡易的なベッドに、エジタスが座っている丸形の小さな椅子。どうやらここは宿屋の様だった。私は突然の出来事に戸惑いつつも、その場にいるエジタスに声を掛けた。



 「あ、あなた確かコウスケと一緒にいた…………」



 「はい、道楽の道化師エジタスと申しま~す!」



 エジタスは目を覚ました私に対して、両手を拡げ顔の横にやると、小刻みに振って改めて自己紹介をした。



 「いったい……何がどうなって…………痛!!」



 現在の状況について、いまいち理解出来ていなかった私は寝ているベッドから出ようと体を動かすが、体を動かした瞬間全身に激しい痛みが襲い掛かって来た。



 「おっと、そんな重傷な体で動こうとするのはあまりオススメしませんよ~。取り敢えず私は、アーメイデさんが目を覚ました事をコウスケさんに伝えて来ますね~」



 そう言うとエジタスは、座っていた椅子から立ち上がり、そのまま部屋を後にした。



 「…………確か……あの時……っ!!」



 私は、覚えている最後の記憶を思い出そうとした。その瞬間、自分の犯してしまった過ちによって両親が死んでしまった事が一気にフラッシュバックし始めた。







 “行け…………行けぇえええええええええええええええ!!!!!”



 “アーメイデ……逃げなさい……”







 「あ……ああ……あああ……!!」



 あの時の出来事を思い出した私は、瞬く間に恐怖と悲しみに心を支配された。それと同じタイミングで部屋の扉が開き、コウスケとエジタスが中に入って来た。



 「やぁ、エジタスさんから聞いたけど目が覚めて本当に良かった……よ?」



 「あああ……ああああ……あああああ…………!!」



 「…………アーメイデ?」



 私の異変に気が付いたコウスケが、呼び掛けるも私の耳には届かなかった。



 「い……いやぁあああああああああああああああああああ!!!」



 「「!!!」」



 両親の死を受け入れられ無かった私は、悲鳴を発した瞬間床から鋭く尖った結晶体が、コウスケ達に襲い掛かる様に次々と生成された。



 「エジタスさん!!これは!!?」



 「考えるのは後にして下さい!まず真っ先にするべき行動は、アーメイデさんを止める事ですよ!」



 「はい!!」



 アーメイデの突然の奇行に、思わず動揺してしまったコウスケだったが、エジタスの冷静な言葉により落ち着きを取り戻し、素早く動く事が出来た。



 「スキル“一騎当千”!!」



 コウスケは自身の腰に携えた純白に光輝く剣を抜き取ると、アーメイデが生成した結晶体目掛けてスキルを放った。すると先程まで床から生成されていた結晶体は、一瞬の内に全て砕け散った。



 「エジタスさん、今です!!」



 その言葉を合図に、エジタスは指をパチンと鳴らしてその場から姿を消した。そして次の瞬間、アーメイデの背後に現れた。



 「悪いですが、もう一度気絶して貰いますよ!」



 そう言うとエジタスは、アーメイデの首筋に手刀を当てて、気絶させ様とした。



 「ああああああああああ!!!」



 「「!!!」」



 しかし、アーメイデが再び悲鳴を発した途端、今度はエジタスの周りに鋭く尖った結晶体が生成された。



 「まさかこの魔法は…………!!?」



 「エジタスさん!!」



 突如として生成された結晶体は、エジタス目掛けて襲い掛かる。



 「…………っ!!」



 当たる直前、エジタスは指をパチンと鳴らしてその場から姿を消した。そして、コウスケの側へと転移した。



 「大丈夫ですか!?」



 「……何とか……それよりもこれは厄介な事になりましたよ……恐らくアーメイデさんが唱えているあの魔法は、空気状の魔力を結晶として固めている物だと思います…………」



 「えっ!空気状の魔力を…………!?」



 「えぇ、見た所アーメイデさんは悲鳴を発するだけで、実際に魔法の詠唱はしていません。そうなるとあの魔法はアーメイデさんの防衛本能が、無意識に働いているという事になります」



 「“無詠唱魔法”…………」



 エジタスの転移など、口から発する事無く自身の思うがままに唱えられる魔法、それが無詠唱魔法。これは魔法を極めた者であれば、どの属性においても唱える事が出来る。しかしそれでも、無詠唱魔法を唱えられるのは数える位しかいない。



 「どうしましょう……」



 「出来るだけ、アーメイデさんの感情を刺激しないで止めましょう」



 「そうですね…………」



 コウスケとエジタスは、アーメイデを刺激しない様に一歩ずつ、ゆっくりと近づいて行く。



 「ごめん……なさい……ごめんなさい……パパ……ママ……私のせいで……私のせいで…………」



 「!!」



 「コウスケさん!?何をしているのですか!?」



 アーメイデの独り言に、コウスケは突然走り出した。



 「私の……せいで……いやぁああああああああああああ!!!」



 コウスケが突然走り出した事で、アーメイデの感情が不安定に陥り、またしても悲鳴を発し、今度はコウスケの周りに鋭く尖った結晶体が生成された。



 「コウスケさん!避けなさい!!死にますよ!!?」



 「…………」



 エジタスの呼び掛けにも耳を貸さず、コウスケはアーメイデに駆け寄ると、その勢いのまま抱き締めた。



 「!!!」



 「アーメイデ、君のせいじゃない!!」



 「私の……私のせいで……パパとママは……」



 コウスケは、アーメイデを強く抱き締めて説得を試みた。しかし、思った以上に心の傷は深く、コウスケの声は届かなかった。



 「アーメイデ……聞いて欲しい……君のせいでご両親が死んだというのなら、君はその償いとして最後まで生き残るんだ」



 「…………生きる事が……償い……?」



 「!!!」



 アーメイデに声が届いた。この機を逃すまいと、一気に畳み掛ける。



 「そうだ!ご両親は君に生きていて欲しいと思ったから、君を出来る限り遠くへと逃がしたんだ。それこそがご両親が望んだ最後の願い、君はその願いに答えなければならない!!」



 「生きる……それがパパとママの願い…………うっ……うぅ……ああああ……ああああ……」



 アーメイデは泣いた。先程の悲鳴とは違い、とても静かに涙を流した。落ち着きを取り戻したお陰で、コウスケの周りに生成された結晶体は脆く崩れ落ちた。



 「…………今だけは……好きなだけ泣いたらいい……涙を流せるのは、生きている証拠だ…………」



 コウスケは、自分の胸元に顔を埋めて泣くアーメイデに対して、優しく頭を撫でるのであった。







***







 「…………恥ずかしい所を見せちゃったわね……」



 一通り泣き終わったアーメイデ。改めて考えると、とても恥ずかしい事をしていたのだと、あまりの恥ずかしさから顔が真っ赤に染まっていた。



 「そんな事は無いさ。俺は心の底から泣ける人を、恥ずかしいとは思わない」



 「!!……そ、それよりコウスケ達が助けてくれたんでしょ…………その……ありがとう……」



 自身の普段見せない姿を他人に見られてしまい、少し恥ずかしく感じるがそれでも助けて貰った事に対して、ちゃんとお礼をするアーメイデ。



 「そのお礼は、素直に受け取る事にするよ。どういたしまして」



 「…………それで……コウスケ達に頼みがあるんだけど…………」



 「「??」」



 先程まで、恥ずかしがっていたアーメイデだが、急に改まって面と向かって話し掛けて来た。



 「私を…………コウスケ達のパーティーに加えてくれないかな!!?」



 「「えっ!?」」



 アーメイデの突然の申し出に、コウスケとエジタスは終始戸惑いを隠せなかった。



 「コウスケ……言ったよね……パパとママの最後の願いは、私に生きていて欲しい事だって……だから出来る限り遠くへと逃がしたんだって…………」



 「う、うん…………」



 確実な証拠は何処にも無い。只アーメイデの両親の性格から見て、コウスケはそれっぽい言葉を言っただけである。



 「だから私決めたの……パパとママが安心出来る位、最高の人生を歩んでやる!!その為にも、コウスケ達のパーティーに加えて欲しいの。コウスケ達のパーティーに加えてくれれば、今より魔法の扱い方も上手くなると思うし、必ず役に立つ。それに私にはもう、帰る場所なんか何処にも無いからさ…………」



 「アーメイデさん…………エジタスさん…………」



 アーメイデはパーティーに加えて貰う為、魅力と同情を上手く使い分けて来た。その効果により、コウスケはアーメイデをパーティーに加えるか加えないか、エジタスに意見を求める程に迷っていた。



 「はぁ~、好きにしたら良いじゃないですか~?」



 それに対してエジタスは深い溜め息をついた後、コウスケの好きにしたら良いと言った。



 「やった!!」



 「これからよろしくね、アーメイデ!!」



 「えぇ、絶対に後悔はさせない。必ずパパやママ、そしてコウスケ達が驚く程の魔法使いになってやるわ!!」



 こうしてアーメイデは、両親の死を乗り越えてコウスケ達のパーティーに加わる事となったのだ。そしてこのコウスケとアーメイデの二人こそが、二千年後にも語り継がれる事となる。伝説の初代勇者パーティーになるのであった。
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