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第十章 冒険編 魔王と勇者
ワールドクラウン
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水の都。人魚の町にある城の中では、人魚の女王と海賊のジェドが物資の受け渡しを行っていた。
「こちらが今月分の物資です。受け取って下さい」
「いつも悪いな」
「何を仰りますか。あなた方には定期的に、地上にある商品を売って頂いているのですから、この位は当然の事です」
真緒達と別れを告げた後、ジェドは海賊として、定期的に人魚の女王と会合し、その度に地上から多種多様の商品を売買していた。一方人魚の女王は、ジェド海賊団に毎月の物資を提供する事で、関係を築いていた。
「そう言えばもうすぐだな、ルーとライアさんの結婚式」
「えぇ、ライアったら結婚式の日まで指折り数えているのよ」
互いの想いを告げて、付き合い始めたルーとライアは、遂に結婚する事となった。
「まさか……あの弱気のルーが結婚だなんて……あいつも成長したんだな……」
「ですが聞いた話によると、結婚の話を持ち掛けたのは、ライアの方らしいですよ」
「何?」
「何でもライアが強引に、結婚まで押し切ったらしいですよ」
その話を聞いて、ジェドの脳裏にライアに結婚を迫られるルーの姿が、明確に写し出された。
「はぁー、弱気なのは変わらずか…………」
「ですが、プロポーズ自体は彼の方からしてくれたみたいですよ」
「そりゃあ、プロポーズはこっちから行うべきだろ。そうじゃなければ、海の男が廃るってもんだ」
「…………あー、羨ましいですわねー……私も素敵な海の男の人にプロポーズされてみたいですー…………」
そう言いながら人魚の女王は、横目でジェドをチラチラと見始める。
「ははは、女王様程の美人なら地上に行けばすぐにプロポーズされるよ」
「…………はぁー」
高笑いするジェドを見て、人魚の女王は深い溜め息をついた。そんな女王の気持ちに、ジェドは気づく事は無かった。
「そう言えば、ライアさんが結婚式で“水の王冠”を被るって本当なのか?」
「はい、人魚の町の古くから受け継がれている伝統の一つで、新婦は水の王冠を被る事が義務付けられています」
国宝である水の王冠を、結婚式で新婦が被る事で、新郎は新婦を国宝の様に大切にすると言い伝えられている。その為、結婚式では水の王冠が必要不可欠なのである。
「じょ、女王様!!た、大変です!!」
するとその時、人魚の兵士がジェドと女王の前に慌てて現れた。
「どうしたの、何があったの?」
「じ、実は……み、水の王冠が……無くなりました……」
「「え……えぇーーー!!?」」
先程まで話題となっていた水の王冠。そんな水の王冠が無くなってしまったという報告を受けて、二人は驚きの声をあげた。
「い、いったいどういう事だよ!!?まさか、また誰かに盗まれたのか!!」
「わ、分かりません……突然目の前から“消えて”しまったものですから……その……」
「“消えた”だと……な、何が起こっているんだ…………」
見る限り、人魚の兵士が嘘をついているとは、思えなかったジェド。
「と、取り敢えず手分けして探しましょう!勿論この事は、あの二人には内緒にするのよ!もしも気づかれたら、せっかくの結婚式が中止になってしまう!!」
「わ、分かった!!」
「私も他の兵士達に手伝って貰う様、呼びに行きます!」
そう言うと人魚の兵士は仲間を呼びに行き、その間にもジェドと女王は消えてしまった水の王冠を、探し始めるのであった。
***
鳥人の里。族長の家では現在、トハによる新人教育が行われていた。
「いいかい、このヘルマウンテンでは助走しなくても上昇気流によって、その場で飛ぶ事が出来るけど、それじゃあ万が一上昇気流が無くなってしまったら、飛べなくなってしまう。そうならない為にも、助走してから飛ぶ訓練を行う。分かったかい!!」
「「「「はい!!」」」」
真緒達と別れを告げた後、若かりし頃の思い出を呼び起こしたトハは、率先して若い鳥人の教育をしていた。
「トハさん、精が出ますね」
「歳が歳なんですから、あまり無茶はしないで下さいよ」
「ビントにククか、偵察の帰りかい?」
そんな様子を見掛けて、里周りの偵察を終えて戻って来たビントとククが声を掛けて来た。
「あぁ、トハさんは相変わらず新人の教育をしているんだな?」
「当たり前じゃないか、次にフォルスが帰って来た時に、見違える様に変わったなと思って貰うんだからね」
「ふふふ…………そしたらきっと、あまりの変わり様に、びっくりして腰を抜かすんじゃないかな?」
「「「あはははは!」」」
フォルスが、里帰りした時の驚いた顔を思い浮かべながら、笑い合う三人。
「おーい、トハさん」
そんな妄想を楽しんでいると、家の中から族長が出て来た。
「族長、どうしたんだい?」
「いや、“風の王冠”が見当たらないのだが、何処にあるか知らないか?」
族長は足元を念入りに調べながら、トハに風の王冠の場所を知らないか尋ねた。
「そんなもん、わしが知る訳が無いだろ。自分の持ち物位、何処にしまったのか覚えておくんだね!」
「そうか……トハさんも知らないか……いったい何処にやったのか……」
そう言いながら族長は、頭を掻いて家の中へと戻るのであった。
「やれやれ……それじゃあ、わしはそろそろ訓練指導の方に戻らせて貰うよ」
「俺達も仕事の方に戻るか」
「そうね」
こうして、風の王冠が無くなった事には大して触れずに、各々の作業が再開されるのであった。
***
アンダータウン。雪女であるスゥーが町長として治めるこの町は、昔以上に活気に満ち溢れていた。
「はい、まだここ汚れています。やり直しです」
そんな中、町長の家ではスゥーが家政婦として働き始めたケイに、掃除の仕方を叩き込んでいた。
「えー、またかよー。どうせ掃除したってまた汚れるんだから、別にやらなくてもいいだろ?」
「駄目です。掃除は毎日やるのが基本です。そうじゃないと、とても不衛生ですからね。ほら、イウさんを見習って下さい。普段、目が行き届かない様な部屋の隅など、丁寧に掃除してくれています」
スゥーの目線の先には、ケイの妹であるイウが部屋の隅などを、念入りに掃除していた。
「あいつは昔から綺麗好きだから、こう言った掃除は得意なんだよ。だから…………」
「言い訳しない」
そう言うとスゥーは、ケイの頭をコツンと叩いた。
「痛てて……何も殴る事は無いじゃんかよ…………」
「何言っているんですか、掃除の指摘だけで既に十回以上しているんですよ。いい加減覚えて下さい」
ケイは叩かれた頭を擦りながら、スゥーに抗議するが論破されてしまい、嫌々ながら掃除を再開させた。
「…………スゥーさん、そう言えばさ……」
「何ですか?」
「自室に置いてあった筈の“炎の王冠”が無くなっていたけど、何処かに移したの?」
「えっ?」
ケイの何気無い一言で、スゥーの思考が一時的に停止した。
「お兄ちゃん、何の話をしているの?」
「あぁ、スゥーさんの自室から“炎の王冠”が無くなっていたの、お前も見たよな?」
「うん、スゥーさんにとってとても大切な物だから、おかしいなって思っていたんだけど…………スゥーさん!?」
次の瞬間、スゥーは目にも止まらぬ早さで自室へと駆け込んだ。
「!!…………そ、そんな……!!」
そこにある筈の炎の王冠が、何処にも見当たらなかった。
「何処……何処……いったい何処に……!!」
必死に辺りを探し回るも、炎の王冠は何処にも無かった。
「どうして……そんな……まさか盗まれた?いったい誰に……ケイでは無いとすると……可能性があるのは…………!!」
その時、スゥーの脳裏には人の形をした別の“何か”だと感じた、あの道化師の姿が浮かび上がった。
「やっぱり……あいつは危険な奴だった!!」
炎の王冠を盗み出した犯人に確信を持ったスゥーは、部屋から飛び出した。
「スゥーさん!?どうしたんですか!?」
「ちょっと出掛けて来るわね!!留守番は任せたわ!!」
その途中で、ケイとイウの二人に出会うも特に気には止めず、そのまま家を後にして真緒達を追い掛けて行った。
***
クラウドツリー。その頂上にある小屋の中では、アーメイデが紅茶を飲みながら真緒達が帰って来るのを待っていた。
「…………やっぱり、頼んだのは間違いだったかしら…………」
アーメイデは真緒達に、新しく着任した四天王の調査を依頼したのだが、その四天王もエジタスなのではないかと、薄々感づいていた。
「…………エジタスの計画が上手く行けば……皆幸せになる…………私はまた、選択を間違えてしまったのかな……」
一度はエジタスの考えに同意したものの、心の何処かではやはり間違いだったと思う自分がいる事に、激しく葛藤していた。
「コウスケ…………」
「アーメイデさん、大変です!!」
アーメイデがぶつぶつ独り言を呟いていると、外からエピロが慌てながら入って来た。
「エピロ……そんなに慌てて、いったいどうしたのよ……」
「いいから、早く外まで来て下さい!!」
エピロに誘導され外へと足を運ぶと、そこで信じられない光景を目撃した。
「こ、これは…………!!?」
そこには見渡す限り、草木が腐って黒く変色した光景が広がっていた。
「花に水をやっていたら、突然枯れ始めて…………」
「まさか…………!!」
何かに気がついたアーメイデは、中央にある大きな池へと走り出した。
「アーメイデさん!?どうしたんですか!?」
エピロは、突然走り出したアーメイデを見ると、慌てて後を追い掛ける。
「!!!」
「ここも酷い有り様ですね…………」
アーメイデ達が大きな池に辿り着くと、池の水は完全に干上がっており、底の地面が丸見えになっていた。
「やられた!!」
「アーメイデさん!?ど、どうしたんですか!?」
突然大声を出したアーメイデに、エピロは戸惑いを隠せなかった。
「ここには……“土の王冠”が隠してあったんだよ……」
「えっ!!?土の王冠って……まさか……!!」
伝記にも記されていた土の王冠は、このクラウドツリーに隠されていた。
「このクラウドツリーの頂上で水や植物が育っていたのは、全部土の王冠の力のお陰だったんだよ……」
「そうだったんですか…………」
「誰にも見つからない様に、池の奥底に沈めておいたのに…………こんな事が出来るのは、一人しかいない!!」
アーメイデの脳裏には、エジタスの姿が浮かび上がっていた。
「…………やっぱり……間違っていた……」
「アーメイデさん…………?」
「やっぱり、エジタスの考えは間違ってる!!一方的な幸せの押し付けでは、本当の幸せは得られない!!」
そう言うとアーメイデは、重力魔法で空中に浮かび上がった。
「ア、アーメイデさん!!どちらへ…………!!?」
「決まっているでしょ、魔王城よ!!エジタスの奇行を止めないと!!」
「オ、オイラも一緒に行かせて下さい!!」
「駄目よ!!正直、あなたでは足手まといにしかならない!!大人しく待ってなさい!!」
「そ、そこを何とか!!お願いします!!お願いします!!」
エピロは土下座までして一緒に連れて行って欲しいと、アーメイデに懇願した。
「…………分かったわ。そこまで言うなら、連れて行ってあげる。ただし、私の側から決して離れては駄目よ。いいわね!!」
「あ、ありがとうございます!!」
こうして、アーメイデはエピロと供に真緒達がいる魔王城へと、向かうのであった。
***
魔王城玉座の間。エジタスが指をパチンと鳴らすとその瞬間、光の王冠と闇の王冠の他に四つの王冠が姿を表した。
「炎の王冠、水の王冠、風の王冠、土の王冠、光の王冠、闇の王冠……全ての王冠が出揃った!!!」
六つの王冠は、空中で一つの円を描く様にゆっくりと回り始めた。
「今こそ……“ワールドクラウン”復活の時!!!」
次第に回る速度は早まり、大きな円を描いた。更に少しずつ、王冠同士の幅が狭まり始めた。そして六つの王冠が一つに重なり合ったその瞬間、目が開けられない程の眩い光を放った。
「これで世界は……“平和”になる!!!」
光が収まると、その中心には一際目立つ王冠が存在していた。色は白を基本色としているが、光の角度によっては別の色にも変化していた。それは、今まで見て来た綺麗な景色や物が霞んでしまう位に、その王冠は美しかった。
「ワールドクラウン……あぁ……この王冠を再び手に出来るとは……素晴らしい…………」
エジタスが、ワールドクラウンの美しさに鑑賞していると、突如として玉座の間の扉が勢い良く開かれた。
「エジタス!!!!!」
「はぁ~、全く……あなたはいつもタイミングが悪い時に現れますね~。アーメイデさ~ん?」
そこには、クラウドツリーから急いで駆け付けて来た、アーメイデとエピロの二人が立っていた。
「こちらが今月分の物資です。受け取って下さい」
「いつも悪いな」
「何を仰りますか。あなた方には定期的に、地上にある商品を売って頂いているのですから、この位は当然の事です」
真緒達と別れを告げた後、ジェドは海賊として、定期的に人魚の女王と会合し、その度に地上から多種多様の商品を売買していた。一方人魚の女王は、ジェド海賊団に毎月の物資を提供する事で、関係を築いていた。
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「えぇ、ライアったら結婚式の日まで指折り数えているのよ」
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「ですが聞いた話によると、結婚の話を持ち掛けたのは、ライアの方らしいですよ」
「何?」
「何でもライアが強引に、結婚まで押し切ったらしいですよ」
その話を聞いて、ジェドの脳裏にライアに結婚を迫られるルーの姿が、明確に写し出された。
「はぁー、弱気なのは変わらずか…………」
「ですが、プロポーズ自体は彼の方からしてくれたみたいですよ」
「そりゃあ、プロポーズはこっちから行うべきだろ。そうじゃなければ、海の男が廃るってもんだ」
「…………あー、羨ましいですわねー……私も素敵な海の男の人にプロポーズされてみたいですー…………」
そう言いながら人魚の女王は、横目でジェドをチラチラと見始める。
「ははは、女王様程の美人なら地上に行けばすぐにプロポーズされるよ」
「…………はぁー」
高笑いするジェドを見て、人魚の女王は深い溜め息をついた。そんな女王の気持ちに、ジェドは気づく事は無かった。
「そう言えば、ライアさんが結婚式で“水の王冠”を被るって本当なのか?」
「はい、人魚の町の古くから受け継がれている伝統の一つで、新婦は水の王冠を被る事が義務付けられています」
国宝である水の王冠を、結婚式で新婦が被る事で、新郎は新婦を国宝の様に大切にすると言い伝えられている。その為、結婚式では水の王冠が必要不可欠なのである。
「じょ、女王様!!た、大変です!!」
するとその時、人魚の兵士がジェドと女王の前に慌てて現れた。
「どうしたの、何があったの?」
「じ、実は……み、水の王冠が……無くなりました……」
「「え……えぇーーー!!?」」
先程まで話題となっていた水の王冠。そんな水の王冠が無くなってしまったという報告を受けて、二人は驚きの声をあげた。
「い、いったいどういう事だよ!!?まさか、また誰かに盗まれたのか!!」
「わ、分かりません……突然目の前から“消えて”しまったものですから……その……」
「“消えた”だと……な、何が起こっているんだ…………」
見る限り、人魚の兵士が嘘をついているとは、思えなかったジェド。
「と、取り敢えず手分けして探しましょう!勿論この事は、あの二人には内緒にするのよ!もしも気づかれたら、せっかくの結婚式が中止になってしまう!!」
「わ、分かった!!」
「私も他の兵士達に手伝って貰う様、呼びに行きます!」
そう言うと人魚の兵士は仲間を呼びに行き、その間にもジェドと女王は消えてしまった水の王冠を、探し始めるのであった。
***
鳥人の里。族長の家では現在、トハによる新人教育が行われていた。
「いいかい、このヘルマウンテンでは助走しなくても上昇気流によって、その場で飛ぶ事が出来るけど、それじゃあ万が一上昇気流が無くなってしまったら、飛べなくなってしまう。そうならない為にも、助走してから飛ぶ訓練を行う。分かったかい!!」
「「「「はい!!」」」」
真緒達と別れを告げた後、若かりし頃の思い出を呼び起こしたトハは、率先して若い鳥人の教育をしていた。
「トハさん、精が出ますね」
「歳が歳なんですから、あまり無茶はしないで下さいよ」
「ビントにククか、偵察の帰りかい?」
そんな様子を見掛けて、里周りの偵察を終えて戻って来たビントとククが声を掛けて来た。
「あぁ、トハさんは相変わらず新人の教育をしているんだな?」
「当たり前じゃないか、次にフォルスが帰って来た時に、見違える様に変わったなと思って貰うんだからね」
「ふふふ…………そしたらきっと、あまりの変わり様に、びっくりして腰を抜かすんじゃないかな?」
「「「あはははは!」」」
フォルスが、里帰りした時の驚いた顔を思い浮かべながら、笑い合う三人。
「おーい、トハさん」
そんな妄想を楽しんでいると、家の中から族長が出て来た。
「族長、どうしたんだい?」
「いや、“風の王冠”が見当たらないのだが、何処にあるか知らないか?」
族長は足元を念入りに調べながら、トハに風の王冠の場所を知らないか尋ねた。
「そんなもん、わしが知る訳が無いだろ。自分の持ち物位、何処にしまったのか覚えておくんだね!」
「そうか……トハさんも知らないか……いったい何処にやったのか……」
そう言いながら族長は、頭を掻いて家の中へと戻るのであった。
「やれやれ……それじゃあ、わしはそろそろ訓練指導の方に戻らせて貰うよ」
「俺達も仕事の方に戻るか」
「そうね」
こうして、風の王冠が無くなった事には大して触れずに、各々の作業が再開されるのであった。
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「はい、まだここ汚れています。やり直しです」
そんな中、町長の家ではスゥーが家政婦として働き始めたケイに、掃除の仕方を叩き込んでいた。
「えー、またかよー。どうせ掃除したってまた汚れるんだから、別にやらなくてもいいだろ?」
「駄目です。掃除は毎日やるのが基本です。そうじゃないと、とても不衛生ですからね。ほら、イウさんを見習って下さい。普段、目が行き届かない様な部屋の隅など、丁寧に掃除してくれています」
スゥーの目線の先には、ケイの妹であるイウが部屋の隅などを、念入りに掃除していた。
「あいつは昔から綺麗好きだから、こう言った掃除は得意なんだよ。だから…………」
「言い訳しない」
そう言うとスゥーは、ケイの頭をコツンと叩いた。
「痛てて……何も殴る事は無いじゃんかよ…………」
「何言っているんですか、掃除の指摘だけで既に十回以上しているんですよ。いい加減覚えて下さい」
ケイは叩かれた頭を擦りながら、スゥーに抗議するが論破されてしまい、嫌々ながら掃除を再開させた。
「…………スゥーさん、そう言えばさ……」
「何ですか?」
「自室に置いてあった筈の“炎の王冠”が無くなっていたけど、何処かに移したの?」
「えっ?」
ケイの何気無い一言で、スゥーの思考が一時的に停止した。
「お兄ちゃん、何の話をしているの?」
「あぁ、スゥーさんの自室から“炎の王冠”が無くなっていたの、お前も見たよな?」
「うん、スゥーさんにとってとても大切な物だから、おかしいなって思っていたんだけど…………スゥーさん!?」
次の瞬間、スゥーは目にも止まらぬ早さで自室へと駆け込んだ。
「!!…………そ、そんな……!!」
そこにある筈の炎の王冠が、何処にも見当たらなかった。
「何処……何処……いったい何処に……!!」
必死に辺りを探し回るも、炎の王冠は何処にも無かった。
「どうして……そんな……まさか盗まれた?いったい誰に……ケイでは無いとすると……可能性があるのは…………!!」
その時、スゥーの脳裏には人の形をした別の“何か”だと感じた、あの道化師の姿が浮かび上がった。
「やっぱり……あいつは危険な奴だった!!」
炎の王冠を盗み出した犯人に確信を持ったスゥーは、部屋から飛び出した。
「スゥーさん!?どうしたんですか!?」
「ちょっと出掛けて来るわね!!留守番は任せたわ!!」
その途中で、ケイとイウの二人に出会うも特に気には止めず、そのまま家を後にして真緒達を追い掛けて行った。
***
クラウドツリー。その頂上にある小屋の中では、アーメイデが紅茶を飲みながら真緒達が帰って来るのを待っていた。
「…………やっぱり、頼んだのは間違いだったかしら…………」
アーメイデは真緒達に、新しく着任した四天王の調査を依頼したのだが、その四天王もエジタスなのではないかと、薄々感づいていた。
「…………エジタスの計画が上手く行けば……皆幸せになる…………私はまた、選択を間違えてしまったのかな……」
一度はエジタスの考えに同意したものの、心の何処かではやはり間違いだったと思う自分がいる事に、激しく葛藤していた。
「コウスケ…………」
「アーメイデさん、大変です!!」
アーメイデがぶつぶつ独り言を呟いていると、外からエピロが慌てながら入って来た。
「エピロ……そんなに慌てて、いったいどうしたのよ……」
「いいから、早く外まで来て下さい!!」
エピロに誘導され外へと足を運ぶと、そこで信じられない光景を目撃した。
「こ、これは…………!!?」
そこには見渡す限り、草木が腐って黒く変色した光景が広がっていた。
「花に水をやっていたら、突然枯れ始めて…………」
「まさか…………!!」
何かに気がついたアーメイデは、中央にある大きな池へと走り出した。
「アーメイデさん!?どうしたんですか!?」
エピロは、突然走り出したアーメイデを見ると、慌てて後を追い掛ける。
「!!!」
「ここも酷い有り様ですね…………」
アーメイデ達が大きな池に辿り着くと、池の水は完全に干上がっており、底の地面が丸見えになっていた。
「やられた!!」
「アーメイデさん!?ど、どうしたんですか!?」
突然大声を出したアーメイデに、エピロは戸惑いを隠せなかった。
「ここには……“土の王冠”が隠してあったんだよ……」
「えっ!!?土の王冠って……まさか……!!」
伝記にも記されていた土の王冠は、このクラウドツリーに隠されていた。
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「そうだったんですか…………」
「誰にも見つからない様に、池の奥底に沈めておいたのに…………こんな事が出来るのは、一人しかいない!!」
アーメイデの脳裏には、エジタスの姿が浮かび上がっていた。
「…………やっぱり……間違っていた……」
「アーメイデさん…………?」
「やっぱり、エジタスの考えは間違ってる!!一方的な幸せの押し付けでは、本当の幸せは得られない!!」
そう言うとアーメイデは、重力魔法で空中に浮かび上がった。
「ア、アーメイデさん!!どちらへ…………!!?」
「決まっているでしょ、魔王城よ!!エジタスの奇行を止めないと!!」
「オ、オイラも一緒に行かせて下さい!!」
「駄目よ!!正直、あなたでは足手まといにしかならない!!大人しく待ってなさい!!」
「そ、そこを何とか!!お願いします!!お願いします!!」
エピロは土下座までして一緒に連れて行って欲しいと、アーメイデに懇願した。
「…………分かったわ。そこまで言うなら、連れて行ってあげる。ただし、私の側から決して離れては駄目よ。いいわね!!」
「あ、ありがとうございます!!」
こうして、アーメイデはエピロと供に真緒達がいる魔王城へと、向かうのであった。
***
魔王城玉座の間。エジタスが指をパチンと鳴らすとその瞬間、光の王冠と闇の王冠の他に四つの王冠が姿を表した。
「炎の王冠、水の王冠、風の王冠、土の王冠、光の王冠、闇の王冠……全ての王冠が出揃った!!!」
六つの王冠は、空中で一つの円を描く様にゆっくりと回り始めた。
「今こそ……“ワールドクラウン”復活の時!!!」
次第に回る速度は早まり、大きな円を描いた。更に少しずつ、王冠同士の幅が狭まり始めた。そして六つの王冠が一つに重なり合ったその瞬間、目が開けられない程の眩い光を放った。
「これで世界は……“平和”になる!!!」
光が収まると、その中心には一際目立つ王冠が存在していた。色は白を基本色としているが、光の角度によっては別の色にも変化していた。それは、今まで見て来た綺麗な景色や物が霞んでしまう位に、その王冠は美しかった。
「ワールドクラウン……あぁ……この王冠を再び手に出来るとは……素晴らしい…………」
エジタスが、ワールドクラウンの美しさに鑑賞していると、突如として玉座の間の扉が勢い良く開かれた。
「エジタス!!!!!」
「はぁ~、全く……あなたはいつもタイミングが悪い時に現れますね~。アーメイデさ~ん?」
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父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
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