上 下
204 / 300
第十章 冒険編 魔王と勇者

真実

しおりを挟む
 「し、師匠?」



 「エ、エジタス?」



 死んだと思われていたエジタスは、生きていた。それだけでも驚きの出来事なのだが、真緒とサタニアを強く抱き締めたと思った瞬間、真緒とサタニアのそれぞれの背中に、戦闘用ナイフが深く突き刺さっていた。



 「「…………あ」」



 するとエジタスは、先程まで強く抱き締めた真緒とサタニアを、体から引き剥がして床へと突き飛ばした。真緒とサタニアは、体の自由が何故か効かずそのまま横になって、倒れてしまった。



 「師匠……こ、これは……」



 「エジタス……何なのこれ……」



 突然の出来事に、理性が追い付かない真緒とサタニアは、口と目線だけでエジタスに問い掛ける。



 「“何”と言いますと……あぁ!!その刺さっているナイフについて、伺っているのですね~。そのナイフは元々“コピス”と呼ばれる剣でしてね~。この剣の特徴は、歴史ある剣の中でも最も古いという事で大きさは70㎝~80㎝なのですが、私がナイフサイズまでの大きさに改良を加えたのですよ~」



 しかしエジタスは、真緒とサタニアが問い掛けたナイフを刺した事では無く、そのナイフ自体について答えた。



 「あ……れ……?」



 「口が……上手く……動……か……ない……」



 次第に口が痙攣を起こし始め、まともな会話は出来なくなって来た。



 「ふふふ…………実はそのナイフには、麻痺する薬が塗ってあったのですよ~。覚えていますかサタニアさん?私とあなたが初めて会った時、あの時使用した痺れ茸を材料にしているのです」



 「「あ……あ……」」



 やがて痺れは、完全に体に回った。真緒とサタニアは、瞬きすら出来なくなってしまった。



 「~~~♪~~♪~~♪“すり抜け”」



 エジタスは、鼻唄交じりに倒れている二人の側に近づくと、両手を真緒とサタニアそれぞれの腹部へと突き刺した。



 「「あ……がぁ……!!」」



 しかし出血はしていなかった。まるで皮膚をすり抜けて、直接内蔵を触られている様に感じた。



 「…………よっと!!」



 ある程度内蔵をこねくり回した後、エジタスはゆっくりと両手を真緒とサタニアの体から、引き抜いて行く。すると引き抜かれた両手にはそれぞれ、白く輝く王冠と黒く輝く王冠が握られていた。



 「おぉ~!!漸く、漸く手に入れました!!“光の王冠”と“闇の王冠”!!」



 真緒とサタニアの体から、引き抜いた二つの王冠を掲げて喜ぶエジタス。



 「マオさん!!」



 「マオウサマ!!」



 「エジタスさん、これはいったいどういう事ですか!!」



 「エジタス……てめぇ、いったい何してやがる!!」



 「マオぢゃん!!エジタスざん、どうじでナイフを刺じだんだぁ!!?」



 「答えなさいエジタスちゃん……返答によっては、あなたを殺すわよ……」



 そんな一連の出来事を、目の当たりにしてしまった事で理解が追い付かず、動けなかった六人はエジタスを問い詰める。



 「はぁ~、外野がワー、キャー、やかましいですね~」



 それに対してエジタスは、呆れた様に深い溜め息をついた。



 「分かりました……そこまでお聞きになるのであれば、お答えしましょう~。全ての真実という物を…………」



 “真実”その言葉に、全員が口を閉じて耳を傾ける。



 「私にはね、ある目的があったのですよ…………」



 「目的…………?」



 「この世界を、“笑顔の絶えない世界”にする事です」



 エジタスは、光の王冠と闇の王冠をそれぞれ親指で優しく撫でながら、問い掛けに答える。



 「この世界はもはや、修復不可能な程に病んでいるのですよ。戦争、貧困、いじめ、差別、いちいち数えていたら切りがありません……そこで私は考えました。そうだ!世界中の人が笑顔になれば、全て解決するとね~」



 「そんな……突拍子も無い事が、出来る訳が無いだろう!!」



 「エジタスさんの言葉は、確かにとても理想的だ。だが、皆が笑顔になるだけで全てが解決するとは思えない」



 「もし…………仮にそれが本当だとしも、いったいどうやって、笑顔の絶えない世界を実現させようとしているの?」



 エジタスの言葉にシーラが怒鳴り声をあげて、それに賛同するかの様にフォルスがエジタスの言葉を否定する。そして、アルシアがそのやり方について問い掛けて来た。



 「それは出来ませんね~。こんな所で、計画についての全貌を教えるのは野暮って物ですよ~。ですがそうですね、マオさんとサタニアさんを刺した理由位なら、教えて差し上げましょうかね~」



 それは願ってもない事だった。六人にとって、エジタスの目的よりも真緒とサタニアを刺した理由の方が、気になっていた。



 「それはですね…………私の計画には“ワールドクラウン”が、必須だったからですよ」



 「“ワールドクラウン”?」



 「ぞれっで、アーメイデざんの所で読んだ伝記に出で来る、伝説の王冠の事だがぁ?」



 「えぇ、あのお話に記されていた双子の姉妹『長女はこの世界とは別の世界へ、次女は魔族達が住むとされる暗い森の中へ、それぞれ姿を眩ますのだった』この姉妹の意思を受け継いだ者こそ、マオさん、サタニアさん、あなた達二人なのですよ!!」



 「「「「「「「「!!」」」」」」」」



 エジタスの口から告げられた、衝撃の真実にその場にいる全員が、驚きの表情を隠せなかった。



 「それってつまり……マオさんと魔王は……姉妹?」



 「いえ、それは違いますね。伝記によれば『二つの王冠を体に取り込んだ』とあります。これを元に、分かりやすく説明するのであれば、双子の姉妹が死んだ後も王冠その物は消滅せずに、所有者である双子の姉妹と同じ意思を持つ者の体の中へと、自動的に移るという訳です」



 「それじゃあ……魔王様と勇者は……」



 「双子の姉妹と同じ意思を抱く者。つまり、光の王冠と闇の王冠を所有出来る人物だったのですよ~!!」



 双子の姉妹と同じ意思を持つ人物が、両方揃う事など、こんな偶然が本当にあるのだろうか。



 「そもそも、私がサタニアさんに近づいた理由は、闇の王冠を持つ可能性が一番高いと思ったからなんですよね~」



 「…………えっ?」



 「伝記には、『次女は魔族達が住むとされる暗い森の中へ』と記されています。これを察するに、闇の王冠は魔族の誰かが持っていると確信し、伝記に記されている次女の性格と照らし合わせた所、見事サタニアさんが最も近しい性格の持ち主だったのです!!」



 サタニアは信じられなかった。あのエジタスが、魔族である自分に優しく接してくれたエジタスが、最初から闇の王冠が目当てで近づいて来ただなんて、信じられなかった。いや、信じたくなかった。



 「でも問題は、そこからでした。闇の王冠を見つけたは良い物の、肝心の光の王冠が見つからなかった……伝記には、『長女はこの世界とは別の世界へ』と記されています。私は、異世界の事だとすぐに分かりました。しかし、異世界からの転移をさせられるのは、カルド王国の王家だけ……どうすれば意図的に異世界から、転移させられるだろうかと思った矢先、都合良くカルド王国の王女が、異世界から転移させて来たではありませんか~!」



 エジタスが、試行錯誤を重ねているその最悪のタイミングで、シーリャは異世界転移を行ってしまったのだ。



 「そこで私はチャンスだと思い、偵察と言って転移者を下見に行きました。しかし、見たらがっかり……長女の性格に近しい人物はいませんでした……皆傲慢で自分中心の人しかおりませんでした。諦めて魔王城に帰ろうとした瞬間、出会ったのです……そう、マオさん……あなたにね!あなたこそが、長女の性格に最も近しい存在だったのです!!」



 「……えっ……?」



 「しかし、悲しい事にマオさんは心に深い傷を負っていた。このまま心が衰弱した状態で光の王冠を取り出しても、本来の力を発揮出来ないのではないか……そう思った私は、マオさんを鍛え上げる事にしたのですよ~」



 「そん……な……」



 全て、光の王冠を正常に取り出す為の芝居だった。そんな受け入れがたい真実に、真緒の心は押し潰されてしまった。



 「おや~、お二人ともどうしたのですか~?そんなに落ち込まないで下さいよ~。まぁでも、私がこの世界を“笑顔の絶えない世界”にすれば、すぐに幸せな気分になると思…………!!」



 エジタスが次の言葉を話そうとするが、フォルスの矢とシーラの槍に遮られてしまった。



 「もういい……それ以上、口を開くな……」



 「これ以上、マオの事を傷つける様なら、エジタスさんでも容赦はしませんよ…………」



 「…………全く……短気は損気……という言葉を知らないのですか……それとも、早く殺されたい人達なのかな?」



 真緒とサタニアの心を守る鳥人と竜人、そしてそんな心を壊そうとする一人の道化師。戦いの火蓋が切って落とされる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...