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第十章 冒険編 魔王と勇者

勇者 VS 魔王(前編)

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 「うぐぐぐ…………!!」



 「ぬぐぐぐ…………!!」



 真緒の純白の剣とサタニアのティルスレイブ。両者の剣がぶつかり合い、相手を押し出そうとするも同じ力で押し返され、互いに押しつ押されつの膠着状態が続く。



 「「くっ……!!」」



 同じ事を考えていたのか、真緒とサタニアは押し出すのを早々に諦めて、その場から同時に離れた。



 「「うぉおおおおお!!!」」



 そして再び、真緒とサタニアの剣がぶつかり合い、今度は互いに剣を何度も交わらせる。



 「エジタスの仇!!!」



 「それはこっちのセリフだよ!!!」



 「「やぁあああああ!!!」」



 互いの剣が何度もぶつかり合い、その度に火花を散らした。



 「(これが魔王……幼い見た目からは想像もつかない程の力を、剣越しからでも十分に感じる……!!)」



 「(これが勇者……異世界から転移して、剣の扱いなんて素人同然の筈なのにここまで強いだなんて……!!)」



 剣を交わらせながら、真緒とサタニアは各々の印象を感じ取っていた。別の事を思考しながらも、体は無意識の内に動いている。勇者と魔王の二人だからこそ、出来る芸当である。



 「(剣の腕は殆ど互角…………)」



 「(戦いの命運を分けるとすれば……それは…………)」



 真緒とサタニアは、剣を交わらせるのを止めてその場から離れた。



 「「(スキルだ!!!)」」



 同じ事を考えていた真緒とサタニア。各々が、自身の剣を握り締め直す。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 真緒がスキルを唱えた瞬間、真緒の持つ純白の剣が白く輝き始める。



 「スキル“闇からの一撃”!!」



 サタニアがスキルを唱えた瞬間、サタニアの持つティルスレイブが黒く輝き始める。



 「「はぁあああああ!!!」」



 両者が放ったスキルがぶつかり合う。この時の光景はまるで、光と闇の衝突その物であった。



 「くっ…………!!」



 「うぅ…………!!」



 互いのスキルがぶつかり合い、その衝撃から皮膚や肉が裂けていく。



 「スキル“乱激斬”!!」



 すると真緒は、間髪いれず続けてスキルを発動した。目にも止まらぬ早い斬激がサタニアを襲う。



 「スキル“ブラックタワー”!!」



 しかしここでサタニアは、両手を床に勢い良く突ける。その瞬間、真緒の目の前に黒く巨大な円形型のタワーが出現した。



 「こ、これは!?」



 真緒の乱激斬は、サタニアが出現させた黒く巨大なタワーによって受け止められた。そしてタワーが崩れた瞬間、奥にいたサタニアが真緒に襲い掛かって来た。



 「!!!」



 タワーに気を取られていた真緒だったが、咄嗟に生け贄の盾に“MND”魔法防御に影響するステータスを捧げて、サタニアの攻撃を弾いた。



 「今だ!!」



 攻撃を弾いた事により、無防備になったサタニアを狙って、真緒が純白の剣で突き刺す。しかし、純白の剣を前に突き出した瞬間、何故か真緒の顔が真上を向いていた。



 「えっ…………?」



 一瞬、何が起こったのか理解出来なかった真緒。その原因を確かめようと、前方に目を向ける。



 「あ、あれは…………!!」



 そこには攻撃を弾かれ、無防備になっていた筈のサタニアが宙返りをしていた。縦に回転する事でその回転した際の右足を真緒の顎に叩き込んでいたのだ。属に言う“サマーソルトキック”の様だった。



 「まだ攻撃は終わらないよ!!」



 「し、しまっ……!!」



 サマーソルトキックを叩き込んだサタニアは、宙返りを終えると同時に後ろ蹴りで真緒を追撃する。



 「げぼぉ!!!」



 顎を蹴られた事により、脳が揺れてちゃんとした思考が出来なかった。その為、避けられずにサタニアの重たい蹴りが腹部へと叩き込まれる。そのあまりの威力から、真緒は数十メートル先まで吹き飛ばされて、仰向けのまま床に倒れてしまった。



 「(顎と腹の二ヶ所を蹴られただけなのに…………このダメージは不味い!!)」



 あばら骨の何本かは折れており、顎の骨にはひびが入っている。



 「(何とか……体制を立て直さない……と!!?)」



 そんな事を考えていると、倒れた真緒を狙ってサタニアがティルスレイブを片手に追撃を仕掛けて来た。



 「これで終わりだよ!!」



 「(不味い不味い不味い!!このままじゃ、確実に殺られる!!ステータスを捧げた生け贄の盾なら防げる?いや!!例え防げたとしても、またさっきの様に蹴られるのが関の山!!ここは……目を眩ませるしかない!!!)」



 窮地に立たされた真緒は、生き残る為に最善の方法を導き出した。襲い掛かるサタニア目掛けて、真緒は右手の掌を突き出し魔法を唱えた。



 「“ライト”!!!」



 「うっ!?」



 真緒の右手の掌から、目が眩む程の強烈な光の玉が形成された。そのあまりの眩しさに、サタニアは思わず目を瞑ってしまった。



 「い、今の内に…………!!」



 その隙に痛みに耐えながら急いで立ち上がり、体制を立て直す真緒。



 「…………“光魔法”による目眩まし……エジタスが以前話してくれていたのに……これほどの光とは思っていなかったよ……」



 「!!……そうか……師匠から事前に情報を得ていたという訳か…………」



 正確にはエジタスが、一方的にサタニアに話していた。真緒達のスキルや魔法、性格までもサタニアは事細かに覚えていた。しかし、真緒の魔法がここまでの光を放つとは思っておらず、油断して思わず目を瞑ってしまったのだ。



 「……でも、もう大丈夫……“ダークフィルター”」



 するとサタニアの目に、暗く薄い膜の様な物が張られた。



 「“闇魔法”、光魔法と相反する魔法。これで強い光が来たとしても、目を瞑ってしまう事は無い」



 「はぁ……はぁ……」



 この時、真緒は非常に焦っていた。サタニアはこちらの事を知り尽くしているのに対して、こちらはサタニアの事を何も知らない。戦略的にも危機的状況に追い込まれている。



 「(光魔法はもう効かない……“ロストブレイク”や“乱激斬”と言ったスキルも通用しない……この状況を打開する為には……新しいスキルを編み出さないといけない……だけど、いったいどんなスキルだったら通用するんだ…………)」



 「(圧倒的……事前に情報を得ていたお陰で、勇者がどう行動して来るのかが手に取る様に分かる……本当はエジタスの仇として、もっと痛い目に遭わせたかったけど……エジタスが以前言っていた、勇者の底力が出て来てしまうかもしれない。少し不安だけど、僕の魔力を一気に譲渡して破裂させる)」



 “魔力譲渡”それは以前サタニアが使っていた、自身の魔力を相手に譲渡する事で魔力の容量の限界値を越えさせて、内部から破裂させるという応用系の魔法である。そして、この魔法の一番恐ろしい点はスキルや他の魔法の様に、声に出さなくても大丈夫という所だ。それほど、この魔力譲渡は基本的な魔法なのである。しかしだからこそ、大量の魔力を保有するサタニアにとって、これほど都合の良い魔法は他に無いのだ。



 「(さようならだ……勇者マオ……これでエジタスの仇を討つ事が出来る!!)」



 そう思いながらサタニアは、何も知らない真緒を睨み付けるのであった。
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