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第十章 冒険編 魔王と勇者

ハナコ VS アルシア(後編)

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 ある所に、名の知れた両刀の使い手がいた。そのあまりの強さゆえ、誰も歯が立たなかった。そしてその者は、更に強さを求めた。圧倒的な強さを求めた者の行き着く先、それは剣を扱う者であれば誰もが一度は夢見る、“八大地獄”であった。



 八大地獄は、剣技の中でも最高峰と名高い代物だった。しかし、その八大地獄の内容が記された書物は、地下深くに保管されていた。そんな中、両刀の使い手はその書物を見つけ出したのだ。これで更なる強さを手に入れられる。そう、思っていた。



 八大地獄の内容が記された書物。それは決して人が触れてはいけない代物だった。内容を読み終えた両刀の使い手は一瞬で全身が燃え上がり、白骨のスケルトンになってしまった。そして同時に名前と記憶を失ってしまったのだ。



 スケルトンとなった両刀の使い手は、自分が何者であったのか全く思い出せず、この世界をずっとさまよっていた。そんな道中、魔王城を訪れた両刀の使い手は魔王であるサタニアと対面する。そしてそこで配下に加わる様に説得され、特にやる事も無かった両刀の使い手は配下になった。するとその時、サタニアが両刀の使い手に名前が無い事を知り、サタニア自らが名前をつけてくれた。



 “それじゃあ……君は今日からアルシアだ!!…………えっ、意味?そんなのは無いよ。だって意味のある名前を付けたとしても、その人がそんな風に成長するとは限らないからね。それに、名前って言うのは意味があるとか無いとかで決めるんじゃ無くて、付けられたその人が気に入るか気に入らないかで決める物じゃないかな?少なくとも、僕はそう思うよ”



 この日を境に、両刀の使い手は“アルシア”と名乗る様になった。意味など無くていい、自身の敬愛する人が付けてくれたこの名前を、とても気に入っているのだから。これはそんなある両刀の使い手の他愛ない話である。







***







  「スキル“鋼鉄化”!!」



 ハナコは全身を銀色に変色させ、アルシア目掛けて体当たりを試みる。



 「ほぅ……防御系の魔法を攻撃に転換するとは……確かにその攻撃方法なら、傷を負うこと無く戦えるだろう……だが、遅すぎるのが致命的だ」



 ハナコの体当たりを、アルシアは難なく避けて見せた。



 「まだまだぁ!!」



 ハナコはアルシアの横を通り過ぎると、その先でUターンをして再びアルシア目掛けて体当たりを試みる。



 「バカの一つ覚え、そんな単調な攻撃が俺に効く訳無いだろう!!」



 アルシアは、ハナコの体当たりを再び避けると、ハナコの頭部に持っていた二刀の柄で強く殴り付けた。



 「がぁあああ!!!」



 「いくら鋼鉄に変化しようが、変わるのは外側だけ……中身までは変えられないという事だ」



 鉄の箱に入った豆腐の様に、外側がどんなに硬いとしても強い衝撃が加われば、中身は崩れてしまう。それと同じ様にアルシアがハナコの鋼鉄に変化した頭を殴り付け、中身である脳みそにダメージを与えたのだ。



 「諦めろ、もうお前に勝ち目は残されていない…………」



 「ぐっ…………うぉおおお!!!」



 しかしハナコは、それでも諦めずにアルシア目掛けて、体当たりを試みる。



 「懲りないな……それなら、次の攻撃でお前の脳みそを粉々に崩してやる!!」



 アルシアはハナコの体当たりを避け、通り過ぎようとするハナコの頭目掛けて、二刀の柄で殴り付け様とする。



 「スキル“鋼鉄化(腕)”!!」



 「!!?」



 するとハナコは全身の鋼鉄化を解き、右腕だけを銀色に変色させた。それによって元の重さに戻り、アルシアの攻撃を回避した。そしてハナコはその一瞬の隙を狙って、アルシアの顔面に鋼鉄に変化した右腕を叩き込んだ。



 「がはぁ!!」



 アルシアはハナコに殴られるが、倒れずに何とか持ちこたえた。



 「やるな!!それなら、俺のスキルも見せてやるよ!!スキル“等活地獄”!!」



 「!!!」



 その瞬間、アルシアの刀が鈍く光輝く。アルシアのスキルに危険を察し、ハナコは咄嗟に後ろへと跳んで回避する事で、薄皮を斬られる程度に済んだ。



 「危ながっ……ああああ!!!」



 しかし、安心したのも束の間。薄皮を斬られたと思った瞬間、全身に激しい痛みが伝わって来た。



 「“等活地獄”は、相手の痛覚神経を狂わせるスキル……薄皮だろうが、少しでも斬られれば激痛に変わる」



 「う……うぅ……!!」



 激しい痛みに、思わず気が遠くなりそうなハナコ。それでも何とか立ち上がる事が出来た。



 「ほぅ……“等活地獄”を受けて尚、立ち上がるとは……中々の精神力だ」



 「はぁ……はぁ……」



 だがしかし、ハナコの体力は限界に近かった。未だに全身が激しく痛む。少しでも気が緩めば、気を失ってしまうだろう。



 「(ど、どうずればいいだぁ……相手は刀……ごっぢは拳……相性が悪いだぁ…………始めがら、勝負はづいでいだ……ぞういう事なんだろうがぁ……オラ……がなり強ぐなっだど思っでいだげど……上には上がいるんだなぁ…………)」



 この絶望的状況、そして自身の実力不足に、ハナコの心は折れ掛ける。



 「…………いや、まだ終わっでねぇ……まだ負げでねぇ……いづもごうじだ絶望的状況でも、最後まで諦めずに戦い……勝っで来だんだぁ……だがらオラは、最後まで諦めないだぁ!!!」



 しかしそこはハナコ、これまでの旅の経験から最後の最後まで、戦う事を決意した。



 「だぁあああ!!!」



 「まさか……正面から突っ込んで来るとは…………ヤケになったのか?」



 ヤケになった訳では無い。小細工は通じないと悟り、正面から挑む事で無駄な動きを減らして、攻撃だけに集中する事が出来る。



 「せめてもの情けだ。一瞬で終わらせてやる…………スキル“大炎熱地獄”」



 それはかつて、ヴァルベルトが四天王を裏切った時に使っていたスキルである。MPを媒介にして、対象が消し炭になるまで燃え続ける。そんなスキルを唱えると、二本の刀から真っ赤な炎が生み出され、ハナコに向かって襲い掛かる。



 「MPもろとも、消し炭になりな」



 アルシアのスキルによって、真っ赤な炎がつくかと思われた瞬間、ハナコの体には特に変化は起こらなかった。



 「な、何!?どうして燃えないんだ!?」



 「MPもろども……オラは……MPを持ぢ合わぜでいないだぁ!!!」



 「な、何だと!!!そんな生物が、この世にいるのか!?」



 ハナコはMPを持っていなかった。火種となる物が最初から存在しなければ、燃える事など皆無である。



 「隙ありだぁ!!!」



 「し、しまった!!」



 ハナコのステータスの事実に動揺を隠せず、隙を見せてしまったアルシア。目の前では、ハナコが大きく両手を振り上げていた。



 「くそっ!!」



 しかしそこは四天王、咄嗟の判断で持っていた二本の刀を、自身の胸の前で交差させて防御の構えを取る。こうする事で、ハナコの放つであろうと予測するインパクト・ベアの威力を、和らげようとする。



 「ふん!!」



 「な、何!?」



 だが、その予測は外れた。ここに来てハナコは、アルシアの両肩を強く掴んだのだ。そしてその状態のまま、ハナコは限界まで仰け反った。



 「うぉおおおお!!!」



 「ま、まさか!!!」



 人は生死の淵に立たされると、自分でも驚く程の力を発揮する事がある。その中でもハナコはずば抜けていた。諦めないという執念、勝利への渇望、そして仲間達への想い。それら全てが重なった事で、ハナコはこの逆境の中で新たなスキルを習得した。ハナコは限界まで仰け反り、そして勢い良くアルシアの頭に自身の頭をぶつけた。



 「スキル“フル・インパクト”!!!」



 「!!!」



 ハナコが出せる全力の一撃。アルシアの頭とハナコの頭、両者の頭がぶつかり合い、そこを中心として凄まじい衝撃波が生まれた。



 「…………」



 「…………」



 アルシアの頭蓋骨にひびが入った。そして同じ様に、ハナコの頭蓋骨にもひびが入った。



 「あ……あ……あ……」



 アルシアの両肩から手を離したハナコは、ふらふらになりながら仰向けに倒れて気絶してしまった。



 「…………もしも、俺が常人よりも骨の硬いスケルトンじゃ無かったら……もしも、二刀の柄で頭を攻撃していなかったら……結末は変わっていたのかもしれないな……」



 脳震盪を起こし、倒れて気絶してしまったハナコ。そんなハナコの側にアルシアが歩み寄る。



 「だがこれも一つの結果、甘んじて受け入れるがいい……」



 アルシアは、一本の刀を振り上げてハナコの首に狙いを定める。



 「俺の……勝ちだ……」



 そして勢い良く、ハナコの首目掛けて刀を振り下ろした。



 「…………」



 しかしハナコの首には当たらず、僅か数ミリ隣の床に当たりひびを入れた。



 「…………本当に綺麗で真っ直ぐな瞳だったわ……“あたし”もまだまだね……敵であるこの子の成長を、見てみたいと思ってしまう……」



 アルシアはそれぞれの刀を鞘に納めると、その場に座り込みハナコの頭を撫でる。頭はアルシアの頭とぶつかった事で、少し赤く腫れていた。



 「……あなたの成長……心から楽しみにしているわ…………でも、今はゆっくりお休み……」



 武闘家ハナコ VS 両刀のアルシア



 勝者 両刀のアルシア
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