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第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト

真緒 VS ハナコ(前編)

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 「ハナちゃん…………」



 真緒は困惑していた。何故こんな事になってしまったのか。何処で何を間違えてしまったのか。出来る事なら、過去へと戻りやり直したい。そんな事を考える真緒の目の前にはハナコがいた。今までずっと捜し続けていた存在。だがしかし、真緒の目の前にいるハナコは前のハナコとは余りにもかけ離れていた。



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 歯茎を剥き出しにして、泡と涎が滴り落ちる。もはや面影は残っておらず、完全な獣と化していた。



 「感動の再会……実に素晴らしい……」



 「いったいハナちゃんに何をしたんですか!!?」



 真緒は、嘲笑ってくるヴァルベルトに激しい剣幕で問い掛ける。



 「いや何、思った以上に君達があのゾンビ達を早く倒してしまうものだからな……万が一に備えて、取り戻されない様に我の力で“眷属”にしたのだよ……」



 「眷属……そんな!?」



 ハナコを見つめると、確かにあのゾンビ達と同じ目が赤く光っていた。



 「本来なら、自我を持たせて眷属にするのだが……今回は君達の仲間という訳だから、自我を持たせない方が扱い易いと思ったのだよ」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「ハナちゃん……」



 確かに見た限りでは、まともに会話すら成り立たないだろう。



 「ハナちゃん!私だよ!!」



 「無駄だ、自我の無い者に言葉が通じる訳が無いだろう」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 変わり果てたハナコは、真緒に向かってその肥大した腕を振り下ろすが、速度が遅いのか容易く避ける事が出来た。



 「ハナちゃん!止めて!!私はハナちゃんと戦いたく無い!!」



 「諦めるのだな。そこにいるのは君の知っている彼女では無い。我の新しい眷属であり、君にとって最強の敵だ」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 ハナコは、間髪入れずに真緒に向かって両腕を交互に振り回し、攻撃を仕掛ける。



 「くっ……このままじゃ…………」



 真緒の初めての仲間にして、今まで供に様々な場所を巡って来たハナコ。そんな大切な友達を傷つけるなど、真緒に出来る筈が無く一方的に攻められる。



 「ほらほら、そちらも攻撃をしないと殺られてしまうぞ?」



 「卑怯者…………!!」



 だがしかし、ヴァルベルトの言い分も最もだった。只こうして避けるだけでは何の解決策にもならない。



 「……ハナちゃん、ごめん!!」



 真緒は剣を抜き、ハナコに向けて構える。



 「しばらくの間、気絶して貰うよ!!」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 傷つける事が出来ない。それならば、気絶させる他無い。真緒はハナコの後ろに回り込み、跳んだ。そして抜き取った剣でハナコの首を叩きつける様に衝撃を与えた。



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「!!そ、そんな!?」



 しかし、ハナコは気絶する事無く平然とした様子で素早く真緒に反撃を加えた。



 「きゃあああ!!!」



 真緒は勢いよく吹き飛び、壁へと激突した。そのあまりに強い衝撃にめり込んでしまった。



 「つ、強い…………」



 「当たり前だ。我の“眷属化”は只配下に加えるだけじゃない。その者の本来得るべき力を引き出させるのだ。つまり、君の目の前にいる彼女は未来の姿なのだよ」



 「ハナちゃんの……未来の姿……」



 その言葉を聞いた真緒は、ハナコに“鑑定”を唱える。







ハナコ Lv50

種族 熊人

年齢 16

性別 女

職業 ブラッドグリズリー



HP 480/480

MP 0/0



STR 1080

DEX 200

VIT 800

AGI 50

INT 0

MND 165

LUK 120



スキル

熊の一撃 インパクト・ベア 鋼鉄化 絶望の爪



魔法

なし



称号

破壊者 大食い 眷属







 「まぁ……多少その力を制御する為に、見た目は醜悪なものとなってしまうがな……」



 STRとVITに特化した好戦的なステータス。代わりにMP、INTを失っていたが、それでも脅威には間違い無かった。



 「ハナちゃんがこんなに強く……」



 「だが、その力を望んだのは彼女だがな……」



 「どう言う事ですか!!?」



 ヴァルベルトから発せられた驚きの真実。ハナコは、望んでこの姿になったのだと言う。



 「そのままの意味だよ。彼女は望んでこの姿になったのだよ」



 「嘘だ!!!」



 「嘘では無い。事実、彼女は強さを君達の誰よりも求めていた。君は知っているかね?彼女が悩んでいたのを……」



 「ハナちゃんが悩んでいた?」



 何も事情を知らない真緒にとって、ヴァルベルトの話は隠されていた真実を紐解いて行く。そんな感覚だった。



 「彼女は君達のパーティーで、自分だけ成長が遅れている事に不安を覚えていた。皆の役に立てていないんじゃないかと、酷く苦しみ悩んでいた」



 「そんな!?ハナちゃんは仲間の一人として、充分活躍しています!!」



 「彼女自身は、そう感じてはいなかったのだろう。いつまで経っても魔法の一つや、新しいスキルを覚えられない。それに引き換え、他の仲間達はメキメキと成長を見せる。そんな光景を見て、不安を抱かない者などいないのだよ……」



 「そんな…………ハナちゃんが成長で悩んでいたなんて、私……全く気づかなかった……」



 真緒は異世界人。自分が成長すればそれに合わせて、ゲームの様に他の仲間も成長すると思い込んでいた。しかし、これは現実……それぞれの成長はバラバラで全く芽が出ない者もいるのだ。それこそが、真緒が見落としてしまった大事な事……人は等しい様で平等では無いのだ。



 「…………原理は分からないが、我の“眷属化”はその者が強さを望めば望む程、それに比例して強くなる。その結果、彼女は我の今まで作った眷属の中で最も強い!!」



 「私は……何も気づけなかった。ハナちゃんが苦しんでいたのに、自分が強くなれば皆も強くなるって楽観的に考えて…………これじゃあリーダー失格だ……」



 既にヴァルベルトの声は真緒に届いてはいなかった。膝を付き、自分の不甲斐なさを呪い、責め立てていた。



 「哀れだな……仲間を重んじている筈が、仲間の心の不安にも気づけぬとは……」



 「私は……私は……」



 まるで魂が抜けた様に、真緒は同じ言葉を繰り返し呟いていた。



 「これ以上は君も辛いだろう。すぐに楽にしてあげよう…………殺れ」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 ヴァルベルトの命令で、地響きを立てながら膝を付く真緒の目の前に立つハナコ。



 「…………ハナちゃん……」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 ぶつぶつと呟いていた真緒は、ハナコの目線に合わせる様に顔を上げる。一方ハナコは両腕を引き、少し溜めると勢いよく真緒目掛けて突き出した。



 「……ごめんね…………」



 インパクト・ベア。ハナコの新たなスキルは凄まじい爆音と共に、真緒に叩きつけられるのであった。
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