93 / 300
番外編 魔王城のとある一日
恋の行方
しおりを挟む
「はぁー…………」
魔王城玉座の間にて、サタニアの深い溜め息が発せられる。
「どうしたの魔王ちゃん?溜め息なんかついて……」
「何か困り事でしょうか?」
「アルシア、シーラ…………ううん、何でも無いよ」
心配するアルシアに気を使って、何事も無い様に振る舞うサタニア。
「何でも無い様には見えないわね」
「私達は魔王様の配下です。主が悩んでいるのを、見て見ぬふりをする訳には行きません」
「アルシア、シーラ…………」
二人の言葉に説得されたサタニアは、自身の悩みを打ち明ける事にした。
「実は…………」
***
「それでですね、そのマオさんという方がそれはもう面白い人でしてね~」
「ふ、ふーん、そうなんだ……」
一週間に一度、エジタスと二人っきりで話し合える貴重な時間。この時間をサタニアはいつも楽しみにしていた。
「いつも一生懸命で張り切る姿が、また何とも愛らしいの何の……」
「そ、それよりさ!僕料理のレパートリーを増やそうと思っているんだけど……」
「待って下さい。ここからが面白くなる所なんですよ」
「ああ…………うん……」
サタニアの言葉を遮り、真緒達の話を続けるエジタス。
「それで私は言ったのですよ『キャーー!!マオさん達のエッチーー!!!』ってね」
「そ、そうなんだそれは大変だったね…………」
「全くマオさん達は、デリカシーが足りないと思うんですよ」
「うん、僕もそう思うよ…………」
エジタスの言葉に、只相槌を打つサタニアの目は既に腐っていた。
「それでその後、私達はヘルマウンテンに行く事になるのですが……そこには……」
「…………」
延々とエジタスは、真緒達との冒険話を聞かせ続けるのであった。
「すると今度は…………おや?もうこんな時間ですか、それでは私はそろそろ失礼させて頂きます。サタニアさん、また一週間後にお会いしましょうね~」
そう言うとエジタスは、パチンと指を鳴らして、その場からいなくなってしまった。
「…………はぁー……」
以上が、ここ最近のエジタスとサタニアの状況である。
***
「もぉー、エジタスちゃんったら乙女心を理解していないのね!」
「魔王様は男の子だから、正確には“男心”と言うのでは無いか?」
「…………そう言う事を言ってるんじゃ無いのよ」
サタニアの悩みを聞いて、エジタスに腹を立てるアルシアと、的外れな回答をするシーラ。
「というより、今の話の何処に悩んでいるんだ?いつも通りの勇者監視報告だろう?」
「……そうね、一般的に見ればそう思うのかも知れないけど、魔王ちゃんはエジタスちゃんに恋しているのよ!愛する人が他の女の話ばかりだと、聞いてる方も気持ちが萎えちゃうでしょ!?」
「ちょ、ちょ、アルシア!!?」
突然エジタスが好きだという事を、アルシアに暴露されてしまったサタニアは、顔を真っ赤にしながら驚きの表情を浮かべていた。
「成る程…………そう言う事か……つまり魔王様は、エジタスの事が好きなんだな?」
「ええ、そう言う事よ」
「ふ、二人供…………」
二人に冷やかされて、あまりの恥ずかしさに、真っ赤に染まった顔から湯気が出そうになる。
「それで…………私達は具体的にどうすればいいんだ?」
「勿論、魔王ちゃんの恋を手助けするのよ!!」
「え…………ええっ!!?」
アルシアのまさかの言葉に臨界点を越え、顔から湯気が出て来た。
「そ、そんな僕は只、もう少しエジタスとお話がしたいなって思っているだけだよ!!」
「それが甘いのよ!!いい?恋愛って言うのはね、奥手になったら負けなの。相手の事を本気で思っているんだったらどんどん攻めないと、その内そのマオちゃんって子に取られてしまうかもしれないわよ!!」
「…………!!」
確かにそうかもしれない。今までずっと、直接エジタスに自分の思いを伝えられていなかった。料理や買い物をしたが、どれもめぼしい結果を得られてはいなかった。
「一人で抱え込まなくてもいいのよ。だって恋愛は、一人で楽しむ物では無いんだから!」
「…………アルシア、シーラ、僕やるよ!今度こそエジタスに、この気持ちを伝えて見せる!!」
サタニアは決意を固め、アルシアとシーラに恋愛の手助けを頼む事にした。
「その意気よ!!じゃあ早速、作戦を練るわよ!三人もいればきっと良いアイデアが生まれる筈よ!行くわよ!!」
「「「おおーーー!!!」」」
サタニア達は、エジタスを落とす作戦を考えるのであった。
***
魔王城廊下。丁度角を曲がる所から少し離れた位置に、サタニアが自慢のワンピースを着て、両手には大量の書類を抱え込んで立っていた。
「魔王ちゃん、準備はいい?」
「う、うん大丈夫だよ」
その場にアルシアとシーラの姿は無かった。サタニアの位置から更に離れた場所にある部屋の中にいて、扉を少しだけ開きその隙間からこちらの様子を伺っていた。何故遠く離れていても会話が可能なのか、それはアルシアが持っている“地獄耳”というスキルのおかげで、遠くにいる相手にも会話が成立させられるのだ。
「でも、本当にこの作戦で大丈夫なのか?」
アルシアの隣にいたシーラが、作戦に不安を抱いていた。
「大丈夫に決まっているじゃない!!……まず、エジタスちゃんをこの部屋に来る様に呼び出す。この部屋に来る為には、あの角を曲がらないといけない。そして角から現れた瞬間、魔王ちゃんがわざとエジタスちゃんにぶつかって、持っている書類をばら蒔く。それを慌てて拾う二人の指と指が触れ合った時、お互い心臓の高鳴りが収まらない事に気がつく。すかさず魔王ちゃんが、愛の告白をする事によって二人は結ばれるという、この完璧な作戦の何処が不安なのよ!?」
「いや、エジタスは転移が使えるから歩いて来ないんじゃないかなって……」
シーラが不安の内容を明かすと、アルシアは得意気になって説明する。
「その点は抜かり無いわ。エジタスちゃんの転移は、一度見ないと発動する事は出来ない。勿論この部屋にあたしはいない事になっているから、エジタスちゃんは歩いて来るしか無いのよ!」
「流石アルシアさん、完璧な作戦ですね」
二人が作戦の出来に喜び合っていると、奥の方から足音が聞こえて来た。
「来たわ!魔王ちゃん用意は良い?」
「は、はい!!」
徐々に足音は大きくなって来た。数秒も経たぬ内に来る事は間違い無い。
「さぁ…………来るわー……今よ!」
エジタスの姿が見えた瞬間、アルシアは合図を送る。それに従う様に、サタニアはエジタスにぶつかろうとする。そして…………。
「おおっと、危ない~」
横に一回転をして、ヒラリと回避した。
「避けんじゃねぇ!!」
「!!ア、アルシアさん!!?」
避けたエジタスに、思わずドスの利いた低い声を出してしまったアルシア。あまりの衝撃的な出来事に、背筋が凍るシーラ。
「あ、あ、ああ!!」
「おや、危ない」
しかし、その声が功を奏したのかはたまたエジタスが避けたせいか、サタニアはバランスを崩し転びそうになったが、素早くエジタスがサタニアを持ち上げ、お姫様抱っこの状態になった。
「エジタス…………」
「こんな大量に持って行こうとするからですよ~、私も一緒に手伝ってあげます」
「あ、ありがとう」
そう言うと、エジタスとサタニアの二人は書類を分け合い、運んで行った。
「…………どうやら、あたし達の手助けは不要だったようね」
「どう言う意味ですか?」
「おほほ、シーラちゃんにはまだ早かったかしらねー」
「???」
サタニア達の光景を見て、手助けは不要だったと微笑むアルシアと、未だに理解が追い付かないシーラであった。
***
「~~~♪~~♪~~~♪」
エジタスは、魔王城のバルコニーで鼻歌混じりに星空を眺めていた。
「あ、エジタスこんな所にいたんだ」
「おや、サタニアさんこそまだ起きていたのですか?夜更かしは美容の大敵ですよ~」
「ちょっと、眠れなくて…………」
真夜中。既にほとんどの者が眠りについている中で、サタニアは起きていてバルコニーにいるエジタスに気が付き、近づいて来た。
「……何だかこうして二人だけでいるの懐かしいね」
「そうですね~、初めてお会いした時以来でしょうか?」
「初めてエジタスに会った時は、凄く驚いたなー。いきなり仮面を被った人が助けに来てくれたと思ったら、茸を取りに来ただけなんだもん」
エジタスとサタニアは、迷いの森で初めて会った時の事を思い出していた。
「それを言うなら私だってビックリしましたよ~。まさか、サタニアさんが男の娘だったなんて……」
「それは……エジタスが勝手に勘違いしただけだよ……」
星空を眺めながら思い出に浸っていると、サタニアが静かに口を開いた。
「あの時、エジタスに会っていなかったら僕は生きる目的も無く、日々を過ごしていたと思う」
「…………」
「でも、今はクロウト、アルシア、シーラ、ゴルガ、そしてエジタスがいる。僕とっても幸せだよ」
「…………」
何を考えているのか、エジタスはサタニアの顔をじっと見つめる。
「……さて、そろそろ行きましょうかね~」
「もう……行っちゃうの?」
「それが私の役目ですからね~」
エジタスは真緒達の場所に戻る為、親指と中指を合わせ、転移の準備をする。
「それではサタニアさん、また一週間後にお会いしましょう」
「…………うん、待ってる」
エジタスはパチンと指を鳴らすと、一瞬で姿を消した。
「ずっと待ってるからね、エジタス」
サタニアは、星空を眺めながら呟くのであった。
同時刻。エジタスも真緒達が寝ている中で、星空を眺めながら語り始める。
「…………幸せとは、一種の感覚です。ある物事に自分が幸せだと感じても、相手が幸せとは限らない。たとえ、百人に聞いて九十九人が幸せだと答えても、必ず一人は幸せでは無いと答える。それは、他の人とは同じ答えになりたくないという思いからなるのでしょう。……サタニアさんの幸せは、私にとって幸せなのか幸せじゃないのか。はてさて、どっちでしょうかね~」
長々と語るエジタスの言葉は、誰の耳にも届く事は無かった。
魔王城玉座の間にて、サタニアの深い溜め息が発せられる。
「どうしたの魔王ちゃん?溜め息なんかついて……」
「何か困り事でしょうか?」
「アルシア、シーラ…………ううん、何でも無いよ」
心配するアルシアに気を使って、何事も無い様に振る舞うサタニア。
「何でも無い様には見えないわね」
「私達は魔王様の配下です。主が悩んでいるのを、見て見ぬふりをする訳には行きません」
「アルシア、シーラ…………」
二人の言葉に説得されたサタニアは、自身の悩みを打ち明ける事にした。
「実は…………」
***
「それでですね、そのマオさんという方がそれはもう面白い人でしてね~」
「ふ、ふーん、そうなんだ……」
一週間に一度、エジタスと二人っきりで話し合える貴重な時間。この時間をサタニアはいつも楽しみにしていた。
「いつも一生懸命で張り切る姿が、また何とも愛らしいの何の……」
「そ、それよりさ!僕料理のレパートリーを増やそうと思っているんだけど……」
「待って下さい。ここからが面白くなる所なんですよ」
「ああ…………うん……」
サタニアの言葉を遮り、真緒達の話を続けるエジタス。
「それで私は言ったのですよ『キャーー!!マオさん達のエッチーー!!!』ってね」
「そ、そうなんだそれは大変だったね…………」
「全くマオさん達は、デリカシーが足りないと思うんですよ」
「うん、僕もそう思うよ…………」
エジタスの言葉に、只相槌を打つサタニアの目は既に腐っていた。
「それでその後、私達はヘルマウンテンに行く事になるのですが……そこには……」
「…………」
延々とエジタスは、真緒達との冒険話を聞かせ続けるのであった。
「すると今度は…………おや?もうこんな時間ですか、それでは私はそろそろ失礼させて頂きます。サタニアさん、また一週間後にお会いしましょうね~」
そう言うとエジタスは、パチンと指を鳴らして、その場からいなくなってしまった。
「…………はぁー……」
以上が、ここ最近のエジタスとサタニアの状況である。
***
「もぉー、エジタスちゃんったら乙女心を理解していないのね!」
「魔王様は男の子だから、正確には“男心”と言うのでは無いか?」
「…………そう言う事を言ってるんじゃ無いのよ」
サタニアの悩みを聞いて、エジタスに腹を立てるアルシアと、的外れな回答をするシーラ。
「というより、今の話の何処に悩んでいるんだ?いつも通りの勇者監視報告だろう?」
「……そうね、一般的に見ればそう思うのかも知れないけど、魔王ちゃんはエジタスちゃんに恋しているのよ!愛する人が他の女の話ばかりだと、聞いてる方も気持ちが萎えちゃうでしょ!?」
「ちょ、ちょ、アルシア!!?」
突然エジタスが好きだという事を、アルシアに暴露されてしまったサタニアは、顔を真っ赤にしながら驚きの表情を浮かべていた。
「成る程…………そう言う事か……つまり魔王様は、エジタスの事が好きなんだな?」
「ええ、そう言う事よ」
「ふ、二人供…………」
二人に冷やかされて、あまりの恥ずかしさに、真っ赤に染まった顔から湯気が出そうになる。
「それで…………私達は具体的にどうすればいいんだ?」
「勿論、魔王ちゃんの恋を手助けするのよ!!」
「え…………ええっ!!?」
アルシアのまさかの言葉に臨界点を越え、顔から湯気が出て来た。
「そ、そんな僕は只、もう少しエジタスとお話がしたいなって思っているだけだよ!!」
「それが甘いのよ!!いい?恋愛って言うのはね、奥手になったら負けなの。相手の事を本気で思っているんだったらどんどん攻めないと、その内そのマオちゃんって子に取られてしまうかもしれないわよ!!」
「…………!!」
確かにそうかもしれない。今までずっと、直接エジタスに自分の思いを伝えられていなかった。料理や買い物をしたが、どれもめぼしい結果を得られてはいなかった。
「一人で抱え込まなくてもいいのよ。だって恋愛は、一人で楽しむ物では無いんだから!」
「…………アルシア、シーラ、僕やるよ!今度こそエジタスに、この気持ちを伝えて見せる!!」
サタニアは決意を固め、アルシアとシーラに恋愛の手助けを頼む事にした。
「その意気よ!!じゃあ早速、作戦を練るわよ!三人もいればきっと良いアイデアが生まれる筈よ!行くわよ!!」
「「「おおーーー!!!」」」
サタニア達は、エジタスを落とす作戦を考えるのであった。
***
魔王城廊下。丁度角を曲がる所から少し離れた位置に、サタニアが自慢のワンピースを着て、両手には大量の書類を抱え込んで立っていた。
「魔王ちゃん、準備はいい?」
「う、うん大丈夫だよ」
その場にアルシアとシーラの姿は無かった。サタニアの位置から更に離れた場所にある部屋の中にいて、扉を少しだけ開きその隙間からこちらの様子を伺っていた。何故遠く離れていても会話が可能なのか、それはアルシアが持っている“地獄耳”というスキルのおかげで、遠くにいる相手にも会話が成立させられるのだ。
「でも、本当にこの作戦で大丈夫なのか?」
アルシアの隣にいたシーラが、作戦に不安を抱いていた。
「大丈夫に決まっているじゃない!!……まず、エジタスちゃんをこの部屋に来る様に呼び出す。この部屋に来る為には、あの角を曲がらないといけない。そして角から現れた瞬間、魔王ちゃんがわざとエジタスちゃんにぶつかって、持っている書類をばら蒔く。それを慌てて拾う二人の指と指が触れ合った時、お互い心臓の高鳴りが収まらない事に気がつく。すかさず魔王ちゃんが、愛の告白をする事によって二人は結ばれるという、この完璧な作戦の何処が不安なのよ!?」
「いや、エジタスは転移が使えるから歩いて来ないんじゃないかなって……」
シーラが不安の内容を明かすと、アルシアは得意気になって説明する。
「その点は抜かり無いわ。エジタスちゃんの転移は、一度見ないと発動する事は出来ない。勿論この部屋にあたしはいない事になっているから、エジタスちゃんは歩いて来るしか無いのよ!」
「流石アルシアさん、完璧な作戦ですね」
二人が作戦の出来に喜び合っていると、奥の方から足音が聞こえて来た。
「来たわ!魔王ちゃん用意は良い?」
「は、はい!!」
徐々に足音は大きくなって来た。数秒も経たぬ内に来る事は間違い無い。
「さぁ…………来るわー……今よ!」
エジタスの姿が見えた瞬間、アルシアは合図を送る。それに従う様に、サタニアはエジタスにぶつかろうとする。そして…………。
「おおっと、危ない~」
横に一回転をして、ヒラリと回避した。
「避けんじゃねぇ!!」
「!!ア、アルシアさん!!?」
避けたエジタスに、思わずドスの利いた低い声を出してしまったアルシア。あまりの衝撃的な出来事に、背筋が凍るシーラ。
「あ、あ、ああ!!」
「おや、危ない」
しかし、その声が功を奏したのかはたまたエジタスが避けたせいか、サタニアはバランスを崩し転びそうになったが、素早くエジタスがサタニアを持ち上げ、お姫様抱っこの状態になった。
「エジタス…………」
「こんな大量に持って行こうとするからですよ~、私も一緒に手伝ってあげます」
「あ、ありがとう」
そう言うと、エジタスとサタニアの二人は書類を分け合い、運んで行った。
「…………どうやら、あたし達の手助けは不要だったようね」
「どう言う意味ですか?」
「おほほ、シーラちゃんにはまだ早かったかしらねー」
「???」
サタニア達の光景を見て、手助けは不要だったと微笑むアルシアと、未だに理解が追い付かないシーラであった。
***
「~~~♪~~♪~~~♪」
エジタスは、魔王城のバルコニーで鼻歌混じりに星空を眺めていた。
「あ、エジタスこんな所にいたんだ」
「おや、サタニアさんこそまだ起きていたのですか?夜更かしは美容の大敵ですよ~」
「ちょっと、眠れなくて…………」
真夜中。既にほとんどの者が眠りについている中で、サタニアは起きていてバルコニーにいるエジタスに気が付き、近づいて来た。
「……何だかこうして二人だけでいるの懐かしいね」
「そうですね~、初めてお会いした時以来でしょうか?」
「初めてエジタスに会った時は、凄く驚いたなー。いきなり仮面を被った人が助けに来てくれたと思ったら、茸を取りに来ただけなんだもん」
エジタスとサタニアは、迷いの森で初めて会った時の事を思い出していた。
「それを言うなら私だってビックリしましたよ~。まさか、サタニアさんが男の娘だったなんて……」
「それは……エジタスが勝手に勘違いしただけだよ……」
星空を眺めながら思い出に浸っていると、サタニアが静かに口を開いた。
「あの時、エジタスに会っていなかったら僕は生きる目的も無く、日々を過ごしていたと思う」
「…………」
「でも、今はクロウト、アルシア、シーラ、ゴルガ、そしてエジタスがいる。僕とっても幸せだよ」
「…………」
何を考えているのか、エジタスはサタニアの顔をじっと見つめる。
「……さて、そろそろ行きましょうかね~」
「もう……行っちゃうの?」
「それが私の役目ですからね~」
エジタスは真緒達の場所に戻る為、親指と中指を合わせ、転移の準備をする。
「それではサタニアさん、また一週間後にお会いしましょう」
「…………うん、待ってる」
エジタスはパチンと指を鳴らすと、一瞬で姿を消した。
「ずっと待ってるからね、エジタス」
サタニアは、星空を眺めながら呟くのであった。
同時刻。エジタスも真緒達が寝ている中で、星空を眺めながら語り始める。
「…………幸せとは、一種の感覚です。ある物事に自分が幸せだと感じても、相手が幸せとは限らない。たとえ、百人に聞いて九十九人が幸せだと答えても、必ず一人は幸せでは無いと答える。それは、他の人とは同じ答えになりたくないという思いからなるのでしょう。……サタニアさんの幸せは、私にとって幸せなのか幸せじゃないのか。はてさて、どっちでしょうかね~」
長々と語るエジタスの言葉は、誰の耳にも届く事は無かった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話
もち
ファンタジー
なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、
だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。
で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。
で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。
「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」
これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、
「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」
などと喚きながら、その百回目に転生した、
『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、
『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、
『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。
『世界が進化(アップデート)しました』
「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」
――みたいな事もあるお話です。
しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。
2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw
投稿ペースだけなら、自信があります!
ちなみに、全1000話以上をめざしています!
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる