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番外編 魔王城のとある一日

魔王城への帰還

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 これは、真緒達の冒険の途中エジタスが、魔王であるサタニアと一週間に一度会いに行くという約束の時に起こった、様々な出来事である。



 「~~~♪~~♪~~~♪」



 魔王城自室。サタニアは鼻歌を歌いながら、楽しそうに今日着る服を選んでいた。



 「エジタスは、どんな服が好きなのかな?」



 サタニアの目の前には、幾つかの種類に分けられた色とりどりの服が揃えられていた。



 「やっぱり、赤かな?」



 そう言うとサタニアは、その中でも一際目立つ赤を基調とした、赤と黒の二色を使った服を手に取った。



 「うーん、少し派手かもしれないな?」



 「あらー、そう?あたしはその色、好きよ」



 「…………うわぁあああ!!アルシア、いつの間に!」



 声がすると思った矢先、サタニアの背後から覗く形でアルシアが立っていた。



 「おほほほ、何だか今日魔王ちゃんはやけにめかし込んでいる様じゃない?いつもは、おしゃれになんて興味すら無いのに……」



 「…………だ、だって」



 「?」



 「だって今日はエジタスが帰ってくる日だから、どうせならちゃんとした格好でお迎えしたいなって思って…………」



 サタニアはまるで恋する乙女の様に、指をもじもじとさせる。しかし、忘れてはいけないが、サタニアは“男”だ。



 「分かるわー!その気持ち!!好きな人の前では、いつも以上の姿で会いたい…………魔王ちゃんは、本当にエジタスちゃんが好きなのね」



 「そ、そんな僕は只少しでもエジタスが喜んでくれたら良いなって…………それにやっぱり間違ってるよ、男なのに男が好きだなんて…………」



 「…………」



 俯き、思い詰めてしまったサタニアを見かねて、アルシアがサタニアの両肩に手を乗せた。そして、骸骨で目は無いがしっかりと見つめ合い、話始める。



 「魔王ちゃん…………前にも言ったと思うけど、恋をするのに年齢や種族や性別は関係ないわ。だって、恋愛は自由なんですもの!年齢が離れすぎてるから駄目、種族が違うから駄目、性別が同じだから駄目、そんな考え誰が決めたの?皆がそうだから、自分もそうしなくてはならない。そんなの不公平じゃない!!周りに合わせなくていい、魔王ちゃんは魔王ちゃん自身の心に正直になれば良いのよ」



 「アルシア…………」



 長々と語ったアルシアの言葉は、サタニアの心に染み込んだ。今まで縛り付けていた恋愛という名の鎖が解かれた瞬間である。



 「まぁあたしの場合、男か女かは分からないのよねー。だってスケルトンだから!」



 「…………ぷっ、あはははは」



 アルシアのちょっとした冗談に、思わず笑ってしまうサタニア。



 「それで…………どう?魔王ちゃんは、エジタスちゃんの事が好き?」



 「…………うん、僕やっぱりエジタスが好き。この気持ちをエジタスに伝えたい!」



 サタニアは両手を胸に当て、自身の思いを口にした。



 「それなら、やる事は一つ……告白よ」



 「え…………ええーーー!!」



 まさかの言葉に、サタニアの顔は赤く染まった。暑すぎるのか、頭から湯気が見える程であった。



 「そそ、そんなき、急にこ、告白って言われても…………」



 「勿論、今すぐなんて野暮な事は言わないわ。恋愛に最も大切なのはね、“時間”なのよ」



 「時間…………?」



 いまいちピンときていないサタニアに、アルシアが分かりやすく教える。



 「時間があれば、好きな人の事を知る事が出来る。時間があれば、告白の言葉も考えられる。時間があれば、今日着ていく服も決められる。つまり時間は、恋愛においての下準備という事よ」



 「時間があれば…………」



 「ゆっくりでいい、魔王ちゃんの恋愛は始まったばかりなんだから」



 恋愛は、どれだけ相手と距離を縮められるのかが重要である。その為、それに費やす時間は最も大切なのだ。



 「ありがとうアルシア。僕、頑張ってみるよ!」



 「その意気よ魔王ちゃん!あと、微力ながらあたしも手伝うわ。こう見えても、おしゃれにはうるさいのよ!」



 そう言うとアルシアは指をパチンと鳴らした。すると、何処からともなく数匹のスケルトンが現れ、その手には多種多様な服が握られていた。



 「さぁ、エジタスちゃんが帰ってくるまでそんなに時間が無いわ!急いで今日着ていく服を選びましょう!」



 「うん!」



 こうして、エジタスが帰ってくるまでの短い間、アルシアによるサタニア大変身プログラムは執り行われたのである。







***







 魔王城玉座の間。玉座の前では、服選びを終えたサタニアとアルシア、四天王であるシーラとゴルガ、そしてクロウトの五人が集まっていた。



 「…………ねぇ、アルシア?」



 「どうしたの魔王ちゃん?」



 「この服…………変じゃないかな?」



 アルシアが選び出したサタニアの服装は、薄い黄緑色のワンピース、その下から白いレーススカートが見え隠れする。はっきり言おう、完全に女の子の格好である。



 「そんな事無いわよー、とっても似合っているわ。ねぇ、皆?」



 「ああ、良く似合っていると思います」



 「ニアッテイマス」



 「とても綺麗ですよ魔王様、“あの男”には勿体無い位…………」



 シーラとゴルガは好意的な返事をするが、クロウトだけは何処か不機嫌な様子が見てとれた。



 「そっか、それなら良かった」



 「(…………正直な所、まさかここまで似合うだなんて思っても見なかった。流石は魔王ちゃんね……)」



 女子顔負けのその格好は、長年おしゃれについて研究してきたアルシアを唸らせる程であった。



 「…………そろそろの筈です」



 クロウトは、地平線の向こうからゆっくりと顔を出す太陽を見ながら、呟いた。



 「それにしても、エジタスちゃんも律儀よね。日の出と共に帰ってくるなんて言うんだから…………」



 「けっ、カッコつけやがって……」



 「センセイハ、ロマンチスト」



 「ゴルガ様、そんな言葉何処で覚えたんですか?」



 「私が教えたんですよ~、もっと流暢に話せたら良いな~って思って教えました~」



 「「「「「!!?」」」」」



 声のする方向を見ると、そこにはいつもと変わらない姿のエジタスが立っていた。



 「あら、お帰りなさいエジタスちゃん」



 「いつもながら、卑怯じみた能力してるな」



 「サスガハ、センセイ…………」



 「エジタス様、今度からは背後に立つのは控えて頂けますか?こちらもびっくりしてしまうので……」



 「いや~すみません、つい驚かしたくなってしまって…………おや?」



 帰ってきたエジタスが早々に怒られていると、アルシアの後ろに隠れるサタニアが視界に入った。



 「ほら…………魔王ちゃん……」



 アルシアが小声でサタニアに声を掛けると、エジタスの前へと押し出した。



 「あ、あ……ひ、久しぶりだねエジタス…………」



 「おお~これはこれは、サタニアさん。久しぶりと言っても、一週間振りなのでそこまで久しぶりではありませんよ。それよりも、いつもより可愛らしい服装で私驚きましたよ~!」



 「!!ほ、ほんと!?」



 「勿論ですとも~」



 エジタスから服装の事を誉めて貰い、嬉しいサタニアは手伝ってくれたアルシアに目を向ける。アルシアは、親指をグッと立て意思表示をした。



 「エジタス…………おかえりなさい!」



 「はい、ただいま帰りましたよ~」



 サタニアとアルシアのエジタスを出迎えるおしゃれ大作戦は、見事成功を納めたのであった。
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