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第五章 冒険編 海の男

海の男

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 「皆、ごめんなさい!!」



 「ライアさん?いったい……どうしたんですか?」



 クラーケンとの戦いを終え、休息を取っていた真緒達とジェドに対して、頭を下げて謝罪するライア。



 「やっぱり、皆にはきちんと話すべきだったと思う。私達人魚族の真実を……」



 「真実?」



 思い詰めた表情をするライアは、覚悟を決め話始める。



 「実は、私達は人魚じゃないの」



 「えっ…………それってどういう……」



 真緒達が不思議に思っていると、ライアが下半身の尾びれに手を掛けた。



 「この尾びれは偽物……只の装備品です」



 そう言うとライアは、手を掛けた尾びれを下に降ろし脱いで見せた。



 「「「「「「えぇぇーー!!?」」」」」」



 尾びれを脱ぐと、短パンを履いた白い綺麗な肌をした足が出てきた。



 「これ……え……うそ………え?」



 あまりの衝撃の出来事に、思考が追い付かない真緒達。



 「今まで騙していましたが、私達は皆と何も変わらない人間なんです」



 「……その尾びれはいったい……」



 「その事も踏まえて、ご説明します。まずは何故、水の都が生まれたのかお話しましょう……」



 ライアは海の遠くを眺めながら、語りだした。



 「あれは、今から約千年前の事です。私達の祖先は、他の村からの侵略で心体共に困り果てていました。そんなある日、ある高名な魔法使いが村にやって来ました。事情を聴き終わると、魔法使いは海の方へと向かい、魔法の実験を行いました。海の中でも呼吸が出来るのではないか……。そうして生まれたのが水の都なんです」



 「そんな出来事が……因みにその魔法使いというのは……」



 「詳しい事は分かりません。しかし、その魔法使いは“アーメイデ”と名乗っていたらしいです」



 「アーメイデ様!!?本当ですかそれ!!?」



 “アーメイデ”の名前に一番反応を示したのは、勿論リーマであった。



 「はい、アーメイデ様は私達の祖先に、自身の実験メモを託しました」



 「実験メモ?」



 「水の都の空気を循環させる方法や、空中に浮かび上がる方法が記されていました」



 「そうだ、その事を聞こうと思っていましたが……何故空中に浮く事が出来たのですか?」



 ジェドは、クラーケンとの一戦での出来事を思い出し、聞いてきた。



 「アーメイデ様の実験メモに風魔法の応用で、自分の体を空中に浮かび上がらせる為の技術があり、その空中で自由に動きやすくする為に考案されたのが、この尾びれなんです」



 「そうか……だから海の中でも呼吸ができ、人魚だけが泳げて俺達は走ってた訳だな」



 水の都で呼吸が出来たのは、そこに空気が存在し、そしてその時もライア達人魚は、空中を泳いでいたのだ。



 「でも、何でそんな紛らわしい真似をしていたんですか?」



 「それは、私達の祖先がある日、尾びれを着けた状態で地上の人に見つかってしまい、勘違いした人々が崇め奉り始め、お供え物として農作物を献上する様になりました……その事に味をしめた祖先が人魚の町を築き、常に尾びれを着けなければならない……という掟を定めたのです」



 「そんな事が……」



 「でもやっぱり、私は耐えられなかった。たとえ一族が生き残る為だとしても、人を……特に他人である私達を助けてくれた皆を、ずっと騙すなんて出来ない」



 ライアは、下唇を噛みながら俯いてしまった。



 「本当にごめんなさい……」



 「…………」



 真緒達は謝るライアを見ていたが、返す言葉は既に決まっていた。



 「別に気にしてないよ」



 「えっ……」



 「だって、ライアさんが騙そうと思った訳じゃないでしょ。だったら、私達が怒る理由は存在しないよ」



 真緒の言葉に同調して頷く仲間達。



 「マオさん……皆、ありがとう……」



 この時、ライアの罪の意識は解放されたのだ。



 「…………ライアさん、実は私も黙っていた事があるのです」



 ライアの告白に触発され、ジェドの口が開いた。



 「何が?」



 「私は……商人ではなく海賊なんです!」



 「あ、知ってたよ」



 「へぇ?」



 覚悟を決めて発したのだが、軽く流される返答をされた。



 「え!?し、知っていたんですか!?」



 「うん、だって商人なのに服装は海賊そのもので、口調も無理してる感じ、そして何よりも、船に海賊旗が付けっぱなしだよ」



 「え、あ!ほ、本当だ……」



 ジェドが見上げると、優雅で力強い旗が揺らめいていた。



 「だから、お互い様という事だよ」



 「そうだったのか……緊張して損した……でも、なら言える筈だ。ライア!!」



 「どうしたの?」



 「私……いや、俺……ライアの事が好きだ!付き合ってくれ!!!」



 お互い腹を割って話したお陰で、ジェドは勢いに任せてライアに愛の告白をした。



 「…………ごめんなさい、私他に好きな人がいるの」



 「そ、そんな…………」



 玉砕。ジェドの心はバキバキにへし折られてしまった。



 「その人はいつも臆病だけど、とても優しくて、一生懸命な人なんだ……」



 「臆病……まさか……」







***







 「はぁー、ジェド船長遅いなー。いつ帰って来るのかな……」



 水の都の船が停泊していた場所で、ルーはジェド達の帰りを待っていた。



 「…………あ、帰って来た!!」



 ルーがジェド達の帰りを待っていると、海の上から降りてくる船を見つけた。



 「ジェド船長!!ご無事ですか!?」



 船が停まると、ルーは急いで板を掛けて、甲板へと上がっていった。



 「せ、船長…………?」



 甲板の上にはジェドがいたが、その顔はいつもと違い険しく、片手にはカットラスが握られていた。そして、ルーが来たのを確認すると、予備のカットラスをルーの目の前に放った。



 「剣を取れ」



 「船長……いったいどういう事ですか?」



 「いいから早く取れ!!」



 ジェドの怒鳴り声で反射的に拾い上げる。



 「構えろ」



 「船長、本当にどうしたんですか!?」



 「いくぞ!!」



 「うわぁ!せ、船長止めてください!」



 突然切りかかるジェド。それを何とか避けたルーは、側にいたライアと真緒達を発見する。



 「皆さん、ジェド船長を止めてください!!」



 「それは出来ないよ……」



 「えっ……」



 必死の懇願に、否定的な態度を取る真緒達。



 「ど、どうして……」



 「オラッ!余所見してる場合か!!」



 「うわあああ!!!」



 ルーは、ジェドの斬撃から逃げ回る。



 「ルー…………」



 その光景を見ているライアだが、何故こんな事になってしまったのか。話はジェドの愛の告白に遡る。







***







 「……その好きな人ってルーの事か?」



 「えっ!?いや、ち、違うよ!な、何でわ、私がルーのこ、事を!」



 「冗談半分のつもりだったんだが……そうか、そうだったのか……」



 ルーの事を突然聞かれ、戸惑いを見せるライア。



 「あいつの事は、いつから好きになったんだ?」



 「…………初めて会った時から……」



 「!!……成る程、ルーが羨ましいぜ」



 ルーへの思いが、想像以上である事に驚きを隠せないジェド。



 「……だが俺は、ルーがライアに相応しいか不安が残る。そこで、アイツが本当に相応しい男か確かめさせて貰う」



 「えっ、なんでそんな……」



 「惚れた女には幸せになってほしいと思うのが、海の男の性ってもんだ……」



 ジェドは何かを悟った様な目をしていた。



 「ルーとは、一対一の決闘方式で見極める。真緒達は手出しをしないでくれよ」



 「……分かりました。ジェドさんの覚悟、見届けさせて頂きます」



 「すまない……ありがとう」







***







 「逃げるな!海の男らしく戦え!!」



 「うわぁ!」



 ジェドの凄まじい猛攻に、逃げる事しか出来ない、ルー。しかし、それも終わりの時が近づいている。闇雲に逃げ回ったせいで壁に追い詰められてしまった。



 「もう逃げ場は無いぜ……」



 「あ……あ……」



 「死にたくなかったら、戦うんだ!」



 「や、止めてください船長……」



 「チッ、やっぱりお前は相応しくねぇ!!!」



 ジェドはカットラスを振り上げ、ルーに斬りかかろうとしたその時!



 「待って!!」



 「!!……何のつもりだライア」



 「ライアさん……?」



 二人の間に両手を拡げ、割って入ってきたライア。



 「もう……もう十分ですから……

 だから……」



 ライアの声は弱々しく、震えていた。



 「……そうか、分かった。ルー、ライアに感謝するんだな」



 そう言うとジェドは、背中を向け歩き出した。呆気に取られていたルーは、確かに見た。ライアの頬に涙が伝うのを……そして同時に初めて会った時の記憶が蘇る。







***







 「ううっ……」



 人魚の町の外れには、大きな岩が置かれている。その後ろで隠れるように少女が泣いていた。



 「どうしたの?」



 「きゃあ!だ、誰!?」



 「あ、ああごめんなさい!脅かすつもりはなかったんだけど……泣いている声が聞こえてきたから……どうして泣いているの?」



 少女が泣いていると、ある一人の少年が声を掛けてきた。



 「……私、他の人より頭が良くないんだ。考えもせずに行動しちゃうし、周りが見えてないから皆に、迷惑ばかり掛けちゃうの……」



 「そっか、それで泣いていたんだね」



 「私なんか生まれて来なきゃ良かったのかな……」



 「そんな事ないよ!!!」



 少女の暗い言葉に、少年が大声で叫んだ。



 「生まれて来ない方がいい人なんて、この世には存在しないよ。皆、何かしらの意味があって生まれてきたんだ!!それは、その人にしか出来ない事なんだと僕は思う!」



 「私にしか出来ない事……」



 「そうだよ!それに、考えずに行動するって事は、誰よりも行動力があるから、怪我や病気の人を早く助けられるって事だよ。君の様な人、僕はとても素敵だと想うな」



 「!!」



 顔が熱くなるのを感じる。海中である筈なのに、どんどん顔が赤く染まっていく。



 「あ、ありがとう……私、ライア。あなたは?」



 「僕はルー、ライアさんって言うんだ。これからも仲良くしようね」



 「う、うん!!」







***







 「ジェドーーー!!!」



 「!!?」



 ルーは、去っていくジェドに駆け寄り、剣を構えた。



 「ぼ、僕と戦え!!」



 「……ほぅ」



 「ちょっと!!何やってるのよ!?止めてよ!!危ない事はしないで!」



 ライアは、横からルーに声を掛け、説得してきた。



 「僕は……最低な男だ。ここまでされないと、君の気持ちに気づく事が出来なかった。でも、だからこそ確信した!僕はライアが好きだ!!」



 「!!」



 「臆病な僕をライアはいつも励ましてくれていた。それなのに僕は、弱い事を言い訳にして……だけど、この戦いだけは退く訳にはいかない!もうこれ以上ライアを悲しませたりしない為にも、絶対に負けない!!」



 「いいぞ!!それでこそ海の男だ!!愛する者の為、戦え!そしてその覚悟を俺に見せてみろ!!」



 「うおおおおお!!!ジェドーーー!!!」



 「来い!ルー!!!」



 一人の女に惚れた男と、惚れられた男。両者の剣がぶつかり合う。結果は……。



 「うっ……」



 「ルー!!!」



 ルーが膝を付いてしまった。



 「ふふ、どうやらこの戦い…………お前の勝ち……だな」



 ジェドのカットラスの刃にひびが入り、粉々に砕け散った。そしてそのまま仰向けに倒れた。



 「ジェドさんが負けた……」



 戦いの一部始終を見ていた真緒達は、驚きの表情を浮かべていた。



 「あのカットラスは、クラーケンとの戦いでかなりのダメージが蓄積していたからな……仕方の無い事だと言いたいが、それでも勝つとは思わなかった」



 フォルスが冷静に分析するが、勝つ事までは予想していなかった。



 「ライア……どう……だった、僕の覚悟は?」



 「バカよ、あんたは本当に大バカよ」



 「あはは、ライアに言われたらおしまいかな」



 「ちょっと、どういう意味!?」



 「ごめん、ごめん」



 そんな楽しそうな会話を、仰向けで聞いていたジェド。



 「大丈夫ですか、ジェドさん」



 そんなジェドを心配して、歩み寄ってきた真緒達。



 「ああ、体は何ともねぇ……けど心がな…………なぁ?」



 「どうしました?」



 「海の男が泣くのは、可笑しい事だと思うか?」



 「いえ、何も可笑しくありませんよ」



 「そうか……ならちょっとだけ泣いてもいいか?」



 「はい、いいですよ」



 「……ありがとう」



 ジェドは、片腕で目を覆い隠すように泣き始める。その泣き声はとても弱々しく、哀愁に満ち溢れていた。
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