魔法の鏡の秘密

つなざきえいじ

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魔法の鏡の秘密

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ミララ姫は、魔法の鏡を持っています。
質問すると答えを返してくれる不思議な鏡。
幼い頃、王妃様がプレゼントしてくれた大きな姿見です。

これが魔法の鏡だと知ったのは、王妃様が亡くなった日の夜…。
ミララ姫が、鏡の前で王妃様を想い泣いていた時です。

「お母様…、どうして死んでしまったの?」

何気なく口にした疑問…。
この疑問に鏡が反応しました。

『お答えします。
王妃様は、心臓の病で亡くなりました。』

驚いたミララ姫の涙が止まります。

「鏡さんが、話してるんですか?」

『はい、鏡が話しています。』

この時、ミララ姫は、鏡がどんな質問にも答えてくれる魔法の鏡だと知りました。

でも、魔法の鏡の事は、誰にも秘密です。
母がくれた鏡だから…。
王妃様とミララ姫、2人だけの秘密と思ったのです。

ミララ姫は、鏡に色々な事を尋ねました。

父と母の子供の頃…。
出会いからプロポーズ…。
自分が生まれた日…。

鏡は、全て教えてくれました。
鏡は、母を亡くしたミララ姫にとって、寂しさを埋めてくれる大切な宝物になったのです。


数年の月日が流れ、ミララ姫は美しく成長しました。
結婚の申し込みも引っ切り無しです。

そんな、ある夏…。
王国は、水不足で苦しんでいました。

この数ヶ月、雨が降っていないのです。

ため池は干上がり、井戸は枯れ…。
このまま雨が降らないと、国を捨てなければなりません。

王様と大臣達は、毎日会議を開いていましたが、原因が天気な事もあり、解決策は何も見つからないのでした…。


その頃、ミララ姫は部屋の窓から雲一つ無い青空を眺めていました。

(何で雨が降らないのかな~…?
何が原因なのかな~…?)

ミララ姫は首を傾げると、う~んう~んと、腕を組んで考えます…。

(あっ! そうだ!!)

ミララ姫は、分からないことは鏡に聞けば良いと考え、鏡の前へ向かいます。

「鏡さん、どうして雨が降らないの?」

『お答えします。
この国の北西より流れて来る雨雲が、北の山を越えることなく消滅している為です。』

(雨雲が消える…?)

ミララ姫は、首を傾げると続けて質問します。

「鏡さん、どうして雨雲が消えるの?」

『お答えします。
北の山に天空竜が棲み付いたせいです。
天空竜が、流れて来る雨雲全てを食べつくしている為です。』

「えっ!?」

鏡の答えに驚いたミララ姫。
少し考えると部屋を出て、会議室へと走ります。


バターン!

勢い良く扉が開き、ミララ姫が会議室に飛び込んで来ました。

「何事だ!?」

驚いた王様が、ミララ姫に問います。

「お父様!
雨が降らない原因は、北の山に天空竜が棲み付いたせいです。
天空竜が、雨雲を食べているのです!!」

「何だと!?」

会議室に居た全員が顔を見合わせザワつきます。

「なぜ、お前がそんな事を知っている!」

王様は、強い口調でミララ姫に問いました。
瞬間、ミララ姫は悩みます…。

(鏡の事を話す…?
どうしよう……。)

その時、大臣達が声を上げます。

「王様!
竜の目撃情報は、確かにあります。」

「王様!
三百年前の大干ばつでも竜が目撃されたと歴史書に記されています。」

「なに!?」

王様の興味は、ミララ姫から大臣達の方へ移ります。

“ミララ姫の話は、真実なのでは?”
との空気が会議室に漂い始めました。

その間にミララ姫は、会議室から逃げ出しました。


翌日、北の山へ調査隊が派遣されました。

会議で、
“本当に竜が雨雲を食べるのか?”
を確認する必要があると話し合われたのです。

なぜミララ姫が、竜の事を知っていたのかについては、
“歴史書を見たのでは?”
との話になりました。


その日の夕方、調査隊が早馬を飛ばして帰って来ました。

「報告します!
竜が雨雲を食べる事を確認しました。
この国に流れてくる雨雲は、全て竜が食らっていました。」

報告を受け、王様と大臣達は対策を考えますが、相手は竜…。
何も良い考えは浮びません。

「…。」

会議室に重い空気が漂います。

「そう言えば…。」

その時、ひとりの大臣が思い出します。

「ミララ姫様は、竜を“天空竜”と呼んでおられました。
また“竜が雨雲を食べる”事も知っておられました。
もしかすると、ミララ姫様がお持ちの歴史書に、何か対策が書かれているのではないでしょうか?」

「おお! そうだ!!」

大臣の言葉に王様が声を上げます。
そして控えていた執事に、ミララ姫を呼び出すよう命じました。


しばらくして、ミララ姫が会議室へ遣って来ました。
何だか少し困った顔をしています。

「ミララ、お前が読んだ歴史書は何処に有る?」

王様が尋ねます。

「えっと~…。」

ミララ姫は、鏡の事を話そうか迷います。

「ミララ、王国の危機なんだ早く教えてくれないか。」

王様の言葉にミララ姫は、観念して魔法の鏡の事を話しました。


「何をバカな!」

王様は、呆れた顔を見せます。
信じてもらえなかったミララ姫は、頬を膨らませると執事に鏡を持ってくるようお願いしました。


会議室に鏡が運ばれてきました。
ミララ姫は、小さな声で鏡に質問します。

「鏡さん、お父様のプロポーズの言葉は何ですか?」

『お答えします…。』

「おお…!」

鏡が喋ったと、会議室は驚きに包まれます。

『王様のプロポーズの言葉は、
“君は天空に輝く太陽のようだ。 どうか僕の…”。』

「うあぁあぁぁ…!」

王様は、真っ赤な顔で大声を上げると鏡の言葉を遮ります。
ミララ姫は、ニコニコ顔です。


鏡が、魔法の鏡だと知り、湧き立つ大臣達。
王様は、ばつの悪そうな顔をしています。
会議の結果、鏡の力を使って問題を解決する事になりました。

「鏡よ!
天空竜を退治するには、どうすれば良い?」

王様の問いに鏡は答えます。

『お答えします。
ゲンガゴンガの槍を使えば、天空竜を殺すことが出来ます。』

「おお…!」

会議室は、沸き立ちます。

「鏡よ!
ゲンガゴンガの槍は何処に有る?」

『お答えします。
ゲンガゴンガの槍は、ここより西へ三千キロ。
ゴギャナンテの森の中、ギャギャゾッテ遺跡の中に有ります。』

「…。」

会議室は、落胆の色に包まれます。

誰も知らない地名…、とんでもない距離…。
時間が掛かりすぎるのです。

王様は質問を変えます。

「鏡よ!
天空竜をこの国から追い出すには、どうすれば良い?」

『お答えします。
北の山の麓から北西へ5キロの場所に在るシャミの森を焼けば、天空竜は逃げ出します。』

「おお…!」

会議室は、沸き立ちます。

さっそく兵士に指示を出します。
夜のうちに部隊をシャミの森へ向わせ、明日の早朝から作戦を開始することに決まりました。

(??)

話を聞いていたミララ姫は、首を傾げると鏡に問いかけました。

「ねえ、鏡さん。
どうして森を焼くと天空竜が逃げ出すの?」

『お答えします。
シャミの木を焼いた煙が空に上がり、その煙が雨雲に混じることで、天空竜が嫌う雨雲に変わる為です。』

「ふーん…。」

ミララ姫が鏡と会話をしていると、王様が話しかけてきました。

「ミララ、天空竜の件が片付くまで、鏡は会議室に置いておく。
すまんが、それで良いな?」

王国の危機に我がままは言えないと、ミララ姫は渋々承知しました。


翌日、昼…。
兵士が早馬を飛ばして帰って来ました。

「報告します!
雨雲を食べた天空竜が、東へ逃げていきました。
作戦は成功したと思われます!!」

「おお…!」

会議室は、安堵に包まれます。

ポツポツポツ…。
その時、雨が降り始めました。

ザーザーザー…。
雨は勢いを増して、乾いた大地を潤します。

(良かった。
これで鏡を返して貰えるわ。)

ミララ姫は、鏡を部屋に運ぶよう執事にお願いします。
その時…、

「お待ちください! 姫様!!」

と、一人の大臣が、鏡の運搬を止めました。
ミララ姫は、何事かと大臣を見ます。
大臣は、王様に訴えます。

「王様!
この鏡の力を使えば、隣国を征服することも可能でしょう!!
今、我が国は、干ばつにより食料が不足しております。
この鏡の力を使わせて下さい。
必ずや隣国を落として見せます!!」

大臣の言葉に、他の大臣達も同調します。

「そうか!
敵の戦略や兵力が分かるから、裏をかくことが出来る訳だ!!」

「敵城への抜け道や隠し通路も分かるとしたら…、奇襲で城を落とす事も可能です!」

大臣達の言葉に、王様も心が動いているようでした。

ミララ姫は、悲しくなりました。
母のプレゼントが、戦争に使われる…。
何とかしないといけないと、小声で鏡に尋ねます。

「このままでは、あなたが戦争の道具になってしまうの…。
教えて、鏡さん。
あなたが戦争に使われないようにするには、どうすれば良いの?」

『…キスして…。』

ミララ姫は、意外な答えに驚きましたが、ニッコリ笑うと鏡に映る自分に向ってキスをします。

すると、鏡が光に包まれます。
そして、光の中から若く美しい青年が現れました。

「ミララ姫様、ありがとうございます。
あなたのおかげで魔法が解けました。」

そこに居た全ての人々が驚きの余り声が出ません。
ミララ姫は、キスしたことを思い出してか、顔が真っ赤です。


若者は、百年前、魔女によって鏡に封印された賢者でした。
賢者は、王様に強く訴えます。

「王様、私をこの国で雇って頂けないでしょうか?
私には、鏡の中で蓄えた知識があります。
戦うことなく、食糧難を解消して見せます。
必ずやこの国をより良い国に…、より発展した国にして見せます!!」

賢者の言葉で、我に返った王様は大臣達と相談を始めます。

「よし、貴君を我が国に迎え入れよう。
存分にその力を発揮してくれ!」

「はっ! 必ずや!!」

2人のやり取りを聞いていたミララ姫は、何だか嬉しそうです。
賢者は、ミララ姫に向き直り…。

「ミララ姫様…。
この先も、どうかよろしくお願い致します。」

と、照れ笑いを浮かべます。
ミララ姫は、賢者を見つめ…。

「こちらこそ、よろしくお願いします…。」

と、頬を染めるのでした…。


この後、この国はかつて無い繁栄のときを迎えます。

王様は、繁栄をもたらした賢者を高く評価し、出会いから2年後、賢者とミララ姫は結婚しました。
その後、王位を継いだ賢者は、ミララ姫と2人、この国をますます発展させていったのでした……。



昔々、とても勉強熱心な若い賢者が、知識を求めて世界中を旅していました。

ありとあらゆる物を見聞きして、ありとあらゆる書物を読み…。
そんな生活を続けるうち、生きている間に知りたい知識の全てを得る事は出来ないだろうと思うようになりました。

そんな時、賢者は魔女に出会います。

「世界の全てを知るすべをお前に与えよう。
その代わりに、お前の知識を私の為に役立てておくれ。」

魔女の申し出を賢者は受けました。

魔法薬を飲んで魔法陣に寝かされ…。
目覚めた時、賢者は自分が鏡の中に封印されたことに気付きます。
賢者は騙されたと嘆き悲しみましたが、魔女は嘘をついていませんでした。
鏡の世界では、賢者は年を取ることなく、ありとあらゆる人、場所、物…、全ての知識を得ることが出来たのです。

賢者は、貪る様に知識を吸収しました。
ときおり、魔女が質問を投げかけてきます。
賢者は、自分の意思とは無関係に答えを返していました。

やがて、賢者は知識の吸収に疲れ眠りにつきます。
眠っている間も無意識に知識を得ては、質問された事柄に対する答えを返していました。

数年後、魔女が亡くなり、賢者は質問に答えることもなくなります。
賢者は、眠りながら知識の吸収を続けるのでした…。


魔女が亡くなって、半世紀以上の時が過ぎました…。
訪れる人の無い魔女の館は、ボロボロに朽ち果てています。

ある日、森の奥へ遣って来た狩人が、偶然、魔女の館を見つけました。
狩人は、好奇心から館の中を探索します。

家具、食器、書物…、全てボロボロで使い物になりません。
と、クモの巣にまみれた大きな姿見を見つけました。
枠に綺麗な装飾が施された豪勢な作りの鏡…。
磨けば高値で売れそうだと、狩人は鏡を持ち帰りました。


ある日、王妃様は、街でミララ姫の誕生日プレゼントを探していました。

(可愛いミララが、美しく育ちますように…。)

そんな事を思いながら、探していた王妃様の目に豪勢な姿見が映ります。

(大人になるミララには、鏡が必要だわ!)

王妃様は、鏡を気に入りミララ姫の誕生日プレゼントにしました。
ミララ姫は大喜び。


王妃様が亡くなった日の夜…。

(泣いている…?
女の子…?)

数十年ぶりの質問…。

質問者が気になった賢者が、目を覚まします。

(ミララ姫…。)

賢者は、鏡の外で泣いている小さな女の子を守ってあげたいと思いました。


そして、今日…。

「…あなたが戦争に使われないようにするには、どうすれば良いの?」

と、ミララ姫が尋ねてくれました。
封印解除の知識を得ていた賢者は、涙ながらに質問に答えたのでした……。
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