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19 悲しい唄を追って
しおりを挟む(そんなはずない……。)
容姿も声も話し方も……そして、世界すらも全然違うのに、どこかあの人に似ている。
吸い込まれそうな強い瞳を見つめかえしながら、確かに高鳴る鼓動を感じた。
それが遠い昔に感じたあの胸の高鳴りと、同じようで…………
(違う……違う。気のせいよ。こんなの……ありえない。)
必死に自分の中で否定し、その視線から逃れるように顔を伏せ、その思いもそっと心に閉じ込めた。
___________
百合香は顔を伏せたまま、言葉を告げれないでいた。
アレンの強い視線をまだ額に感じる。話をきくまではアレンも譲るつもりはないのだろう。そう、ひしひしと感じた。
この人が敵か味方かも分からない。それに、彼は王家の人間で…………。
そう分かっているのに、先程感じた想いのせいか百合香はアレンに少しだけ気を許しかけている自分がいることに気づいていた。
『……アレン様は、女神様をどう思いますか。』
「……………………この国を造り出した素晴らしい方。そして…………遠い昔の先祖であるとしか。」
『フフッ素直ですね。 では、もうひとつのおとぎ話で連れ去られた女神様はどうなったと思いますか。』
「……………………………………。過程として、女神様に寿命というものがないのなら、いまもこの地のどこかに………………まさ……か………………。」
次第に青ざめていくアレン。
その表情でアレンは何もしなかったのだと確信するとともに、百合香は安堵していた。
「女神様は…………まさか、教会で囚われているのですか?」
嘘であってほしいと、その瞳が訴えている。
『はい……囚われています。いいえ……いました。昨日までは。』
何かを耐えるように、眉間を抑えるアレン。
百合香もそんなアレンにどこまで話すべきか考えこんでいた。そうしてまたしばらく沈黙が続いた。
「やはり、女神様だったのですね…………。
幼い頃から……時々、悲しげな唄が聴こえてくるのです。誰か私をみつけて。愛しいあの人に会いにいきたい。そんな……唄でした。
けれど、誰に聞いてもそんな唄は聞こえないと。みなが私を可笑しな子を見るような目で見始めて……わたしはそれを隠すことにした。
けれど、亡くなった母は……きっとそれは女神様の声よ。きっといつか貴方は女神様に会えるかもしれないわね。そう言って悲しげに笑ってくれた。
女神様がいまも助けを求めているかもしれないと私はいろんな地に赴き、女神様を探していました。教会にも訪れましたが、女神様を見つけることはできなかった。
けれど……やはり、教会で囚われていたのですね。本当に…………よかった。女神様もようやく天へと帰れたのですね。」
綺麗な涙を流しながら、アレンは初めて晴れやかな笑顔を見せた。
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