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大陸編

城郭都市 ~ 絶望終焉

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 我武者羅に戦った。誰かを助けたい、ソレだけを理由に無茶をした。だけどココまでかな、とそう覚悟を決めた瞬間……

『アナタぁ、大丈夫ですかー?』

『ご無事で何よりですわ、ご主人様。』

 なんか……あの、嫌な声が聞こえたんですよ。聞きたくないというか、ココで聞こえたら絶対にマズイという声。でも死の間際に見る走馬灯と同じで、死ぬ間際に良く知った人の声が聞こえる可能性もあるんじゃないのかなと、最初はそう思っていたんです。でも全員が仲良く同じ場所見て絶句している訳で、嫌な予感がするけど俺も同じ方向を見た訳ですよ。

「うわぁ……」

 思わず本音が声に出てしまった。いるよ、いたよ。アメジストとローズがいるよ。いや、理由はどうでも良いし、寧ろこの状況に限れば幸運で奇跡だ。彼女達の力があればこの状況くらい簡単に収められる。助か……

『『ネェ。ソノ女、誰?』』

 助かってねぇよ。ぬか喜びだったよ。2人の目が完全に据わってるよ睨んでるよ濁ってるよ。いや、ソレ以前にこの状況で確認必要?聞く必要ある?どう控えめに見ても敵だよね?俺、殺されかかってるよね?節穴?その目、節穴なの?

「いや……あの、敵です。」

 待っていても微塵も理解してくれそうにないので正直に答えました。えぇ、答えましたよ。

『へぇ。』

『てっきり現地妻でも作ったのかと……私という良妻がいながら何てことを、と思いましたわ。』

「この状況で何をどうしてそうなるの?あと良妻は止めろ訂正しろ。」

『ンー。ま、今は置いておきましょう。じゃあお掃除しちゃいますね。』

 オイオイ、後に持ち越すのかよこの話。後、だから訂正しろって。

『ふざけんなよテメェ等ッ。アタシを差し置いてごちゃごちゃ駄弁りやがって!!』

 それまでとは違う緩い空気とガン無視される状況にフォシルがキレた。

『あら、申し訳ございません。』

『でもぉ、私達アナタに用ありませんから。』

『コッチにゃああるんだよ独立種クソヤロウ共!!丁度いい、ここで死んでけよ!!ゴーレ……』

 フォシルは俺の首を掴みながらゴーレムに命令しようとしたが、全てを言い終わる前に通り過ぎた何かが生んだ突風により言葉を中断し……その後に見た信じ難い光景に俺を掴んでいた手を力なく手放した。

 ゴーレムの姿が消えていた。より正確には腕部と脚部の一部が残っていた位で、胴体部分がぽっかりと消滅していた。この出鱈目な威力は恐らくアメジストの攻撃だろう。消滅したゴーレムの後ろに建っていた建物の残骸を見れば、何か途轍もないエネルギーが抉り取ったような円形の跡がはっきりと残っていた。

『え?く……クソッ、それでもまだ私にはッ!!』

『私には、何?』

 未だ諦めない女の言葉に今度はローズが反応した。淡々と、まるで興味が無いと言わんばかりの態度はフォシルの神経を大いに逆なでしたようだ。

『この都市に入った時点でお前等全員詰んでいるんだよボケがッ!!』

『それはこの魔法陣?』

『そうだッ、まだ私は負けていないッ!!』

『そう?これでも?』

 だが相変わらず余裕のローズはそう言いながら魔法陣の光を一瞥した。直後、先ほどまで不気味に光っていた魔法陣の光が消失した。それはもう電池が切れたみたいに、フッと光が消えてしまった。不気味な青い輝きの代わりに戦場を照らすのは、満天の星空の光と魔力に反応する石畳の残骸が放つ淡い輝き。

『は?え?』

『ごめんなさいね。もう私が支配しちゃった。』

 ローズはにこやかにそう言ってのけた。星空の光を受けたその姿は出鱈目な容貌と相まってとても神秘的に映るが、言っていることは相当に出鱈目だ。

『は?何が?』

『ソレ、もう使えませんよ。そうそう、ついでに記憶も全部戻しておきましたから。』

『は?』

 フォシルは壊れた様に"は?"とか"え?"を繰り返すばかりでそれ以外の語彙を完全に失い……

『な、なら死霊……』

 辛うじて、漸くと言った様子でその一言を絞り出したが……

『もう全部倒したぞ。』

『流石に魔法陣が無ければこの程度は造作ない。』

 思考が追い付かないフォシルにさらに追い打ちが掛かる。虚ろな目をした女がアイオライトとジルコンの方を見れば、2人の周辺には破壊され尽くしてピクリとも動かない鎧騎士があちこちに散乱していた。その言葉と光景に切り札含め諸々全部を一気に失ったと知ったフォシルは膝から崩れ落ち、動かなくなった。

 この人の動機にも行動にも同情の余地は無い。周囲を見渡せば家屋も施設も道路も何もかもが破壊し尽くされていて見る影もなく、可哀そうという感情を持つには余りにも酷い。どれだけ派手に暴れんだ。が、何にせよ終わって良かった。長いようで短かったが、これで漸く休める……

『アナタぁー!!』

 と思いきやだ。甘ったるい声が聞こえた直後、柔らかい感触が俺の身体を押し倒した。お前ホント……後、しれっと夫婦にするな。訂正しろ。

『大丈夫ですか?怪我は……あぁ大変、コレは直ぐに手厚い看病しませんと。なので私の部屋に行きましょうねー。』

『姉さま。ソコは2人で仲良くという話でしたよね?あ……コホン、大丈夫ですか、ご主人様?』

 君もさぁ、凄い良い笑顔で恐ろしい台詞吐かないでもらえるかな?と言うかですね、君達の記憶どうなってるの?なんでちょっと会わない間に妻だのご主人様だのになってるの?そうやって自分に都合の良い関係性に上書きしちゃ駄目でしょ?そもそもご主人様ってなんや……ってよく見たらローズの服、城で働く給仕さんになってるよ。もう本格的だよ、修正させる気もする気もゼロじゃないか。頭痛くなってきた……

『アメジスト、ローズ。助かったよ。』

『はい。良かったですね。』

『その辺り、実は私じゃなくてルチル姉さまのお陰なんですけども。』

『だろうな。まぁ何にせよ、人類統一連合ヤツラがここまで入念な下準備整えているのは予想外だった。しかも会議があるこの都市で、だ。要職の方は入念なチェックが入るが、この分だと秘書とかのチェックは雑だったんだろうな。』

『無理もないでしょう。で、その当人は?ご主人様を傷つけた代償をその身と命で償わせないといけませんので。』

 また物騒な台詞を……そいつはいけませんよ。人道に反してるよね?人の道は大事だからちゃんと前向いて道踏み外さないよう注意しよう?ね?

『ちゃんと拘束してる。後、そう言ったのは全部終わってからにしろ。』

 アイオライトさん、終わってからも駄目だよね?と、言おうと思ったが今回の件に相当参っているようだ。たった数時間の出来事だったのに、今まで見たことが無い位に疲弊している。身体もだけど、心の方も相当だ。だけどとりあえずコレでひと段落……

『あ、兄貴ィ!!』

 まだしないみたいだ。多分、あの女がまだ抵抗しているんだろう。アレだけ必死な様子を見れば切り札全部失った程度で諦めるとも思えない。

『まだ……終わっていない。』

 振り返った直後に聞こえてきたのはドスの効いた女の声、そして浮遊するゴーレムの両腕部。片方はローブの女の傍、もう片方はジャスパーを握りしめている。どうやら人質のつもりらしい。

『フフ、さぞ気分が良いでしょうね。負けは認めてあげるわ。だけど今日のところは、よ。』

『止めといた方が良いですよ?』

 確かにローズの言葉通りかもしれない。逃げても良いことは無い。

『私はぁ、もう会いたくないですけどねー。』

 お前はもうちょっと危機感持てよ……

『何処までも舐めた口を。まぁ良いわ、また何時の日にか会いましょう。』

 女はそう言うと傍に浮遊させていたゴーレムの腕から魔法陣を生み出すとその中に消えていった。あれ程俺達を仕留める事に執着していたのに、引き上げるのは意外とあっさりなん……

『っぺぶべらぁばおあああーーーーー!!』

 ……戻って来たよ。ローブの女は確かに魔法陣で逃げた筈だったのだけど、ソレが消失した直後、空中に同じ魔法陣がフッと生まれたかと思いきやソコから吹っ飛ばされてきた。が、それだけじゃなく、更にソコから別の誰かが勢いよく蹴り飛ばすポーズのまま飛び出て来た。

 で、飛び出て来たのはルチルだった。しかし、妙に機嫌が悪いのが鋭い目つきから伝わる。

『よぉし、アメジストさんばんローズよんばんいるなァ?強くて格好良くてよく気が回るお姉さんに何か言うことあるよなァ?』

 チンピラじゃねぇか。開口一番の彼女は見た目とは真逆、想像できない程度にドスの効いた言葉と共にアメジストとローズを睨みつけた。こっちもこっちで眼が据わっているが、原因はどうやら彼女達らしい。

『えーと……勝手に研究室に入ってホレ薬の材料持ち出した件ならごめんなさい。』

『よーし謝罪案件一つ増やしやがったなこのアホゥ。それからホレ薬なんて都合の良いモンは無い!!』

 まーた勝手なことしてるよ。いい加減に懲りろ。

『酷いですわ、私達に内緒でご主人様のところに向かおうなんて。せめて一言……』

『よーしお前も理解してないなスットコドッコイ。お前が勝手に使ったのアタシの魔法陣、作ったのもアタシ。ナギが危機になったら分かる様に人工妖精エアリー調整したのもアタシ。後、給仕の服を勝手に持っていくな。無い無いって困ってたぞ!!』

 ソレ、盗んできたのか。そりゃ駄目だわ。そんなやり取りを見ていたら、そりゃあ怒る筈だと納得した。好き放題やる2人の面倒見ていれば機嫌が悪くなるのは当たり前の話だった。

『お?よう、ナギ。無事か?結構酷い目にあったみたいだな、後で手当てしてやるよ。』

 姉妹2人の言動に頭を痛めていたルチルだが、流石に俺には怒る要素が無いらしく、寧ろ気遣ってくれた。本当に有難い。混じりっけなしのストレートな優しさが心と目に染みる。

『ルチルの姉さん。俺もお願いしまっス!!』

『よう、久しぶりだな。ついでに俺も頼めるか。』

 ジャスパーとジルコンが割って入って来た。話しぶりからどうやら彼女と知り合いの様で、それなら医療方面の知識が豊富だと知っているのも納得だ。

『頑丈なのが取り柄のオークが2人揃ってなに弱気になってんだ?見たところ軽い打撲と切り傷くらいじゃねーか、市販の薬草で十分だっつーの。頼るならせめて傷口化膿してから来い。』

『『酷いなぁ。』』

 が、オークへの扱いが雑過ぎる。いや、アレは信頼度の裏返しか?というかあの2人、この状況でそんな程度の怪我で済んでるの?おかしくない?

『それよりお前、人工妖精エアリーの反応が消えたから急いで来てみたら案の定だった訳だが、あんまり無茶するなよ?人助けも結構だけど、たまには自分大事にしないとそのうち壊れるぞ。』

 ごもっともです。面目ない。

『で、何があったの?』

 アンタ……何も知らんとその女ぶっ飛ばしたんですか?

『あ?敵って事位は知ってるぞ?聞いてたからな。』

 聞いてた……?確か使用方法は聞いた記憶があるんですけど、そっちは聞いてないなァ。因みに使用方法は小瓶を割る事。で、図らずもフォシルが勝手に条件満たしてくれた訳だけども。

『そいつが危機と判断したら私のところに情報が飛ぶようになってた。あ?言わなかった理由?隠すの下手だろ?』

 ごもっともです。ぐうの音も出ません。やはり4姉妹の常識枠は頼りになる。という訳で君達、もう少し真面目に生きてみてはどうです?と、アメジストとローズを見れば……何か言いたげな表情を浮かべながら俺とルチルの顔を交互に見つめている。

『あのーぉ。』

『お姉さま。彼の手当てを一緒に……』

『復興支援。』

 妹達の要望をルチルは一言でバッサリと切り捨てた。怒りを通り越して呆れているのだろう。

『あの……』

『行け。』

『『はい……』』

 有無を言わさぬルチルの雰囲気にアメジストとローズはすごすごと引き下がっていった。やったぜ。
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