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第6章 運命の時は近い
184話 激闘 其の1
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戦技という技術がある。習得に必要な要素は2つ。
1つ、魔法陣。スサノヲが使用する武器や彼等の肉体に刻まれている特殊な紋様。その出自は名前が指す通り一部惑星に伝承された魔導、あるいは魔術や魔法などと呼称される戦闘技術を解析したもの。
2つ、言霊。先の魔法陣を起動させる為の特殊な発声方法。より正確には生み出された固有振動の方を指す。
スサノヲ達は言霊により生み出した固有振動により魔法陣を起動、同時に周辺のカグツチをソレに流し込む事で物理法則を曲げる人工の奇跡を起こす。勿論、魔導士達も同じ真似が行えるが、旗艦の戦技は特兵研の解析により洗練された結果、相当少ないどころか効率的な振動圧縮技術による驚異的な短縮、及び自動詠唱にも成功しており、故に秘匿技術としてごく一部にしか供与されない。
戦技発動に必要な言霊の数は1から始まり、現状の最大は4。文字が1つ上がるのに比例して制御困難となるが、その代わりに幅広い性質の付与や絶大な能力向上が可能となる。極論すれば彼等は戦技に使用する文字数を増やす為に血反吐を吐いているともいえる。1文字から2文字の間には大きな隔たりがあり、2文字から3文字も同様であるが、3文字から4文字ともなるとその差はより顕著となる。
全ては連合全体を安定させる為だったのだが、突出した力は共有する事は勿論、独占しても方々に多くの犠牲を出した。絶大な能力を行使する戦技という技術があれば、当然その入手を目論むか、あるいは非合法的な手段で再現を試みた。前者は戦い、後者は出生前の胎児を使用した非人道的な人体実験。
やがて連合を支える神達は幾つかの決断を下した。技術漏洩の防止を目的に技術開発を徹底した管理及び監視体制が敷かれる旗艦アマテラスに集約し、同時に連合戦力を均質化させるという名目で元々は対マガツヒを想定した機動兵器"黒雷"の技術の一部を特例として各惑星に供与した。戦技を持たぬ惑星はその代わりに黒雷と関連技術を独自改良する事で戦力増強を果たした。
そして……忌々しく、実に厄介なことに戦技と黒雷を両方持つのが守護者という組織。黒雷関連技術の各惑星への供与自体もなし崩しだったのだが、戦技もその道を免れなかった。
「紫電!!」
タガミが発した2文字の言霊がミハシラの退避用エリアに反響する。直後、周囲に光が満ちると魔法陣が刻まれた武器に光が集い、更にソレを通し男の身体に吸い込まれる。大量のカグツチを吸収したタガミは先程までの動きが緩慢と思える程に驚異的な加速と共にオレステスを強襲する。
「雑魚が!!」
言霊の数にオレステスが吐き捨てると……
「まだわからねぇだろ!!」
挑発的な言動にタガミが反応、両手に持った銃剣を乱射する。カグツチを吸収した弾丸は凄まじい速度でオレステスに誘導されるが、しかしその全ては容易く回避されるか、さもなくば剣で叩き落とされた。
余裕。タガミを見るオレステスの態度は余裕に満ちており、戦技発動に対する動揺はゼロ。相手は暫定とは言えスサノヲに昇格したタガミであると言うのに、この男は微塵も意に介さない。
「韋駄天!!」
今度は男の視界外から別の声が聞こえ、同時に目にも止まらぬ速さで何かが強襲した。クシナダだ。
「独自の言霊か?フン……見た目によらずそこそこ使えるな女ァ!!」
「そうやって舐めてると怪我するよ!!」
「ソレは俺に触れてから言えよッ!!」
昂り、感情を露わにするオレステスは未だ余裕の態度を崩さない。
しかし、視界外からの強襲を間一髪で回避したは良かったが、振り向いた先にクシナダの影は既になく、忌々しそうに周囲を眺める。彼女が得意とする戦技は単純な移動速度向上と空気抵抗の低減。単純だが効果は絶大で、事実オレステスは彼女を捉えられない。
予測を遥かに上回る速度で出鱈目に飛び回りながらクシナダは正確に銃撃を見舞う。四方八方、跳弾も含めればほぼ360度全方位からの攻撃。
が、無数の銃撃もオレステスにはやはり届かず。只の一撃さえもかすりもせず、床と壁に大きな穴を穿つだけに終わった。
「明鏡止水」
クシナダの実力を前に表情から余裕の色を消したオレステスは、端整な顔を取り戻すと同時にそう呟いた。4文字の言葉に剣が共鳴すると周囲の光を一気に引き寄せ、剣から手を通し全身の隅々に行き渡る。
「アンだとッ!?」
「やっぱり……思った以上にッ」
「馬鹿が貴様等だけの専売特許とでも思ったかッ、この程度どうと言う事はない!!」
オレステスはそのままタガミとクシナダ目掛けて突き進む。その速度は桁外れており、常人が視認する事さえ困難な程だ。
戦技と呼ばれる技術において、武器や肉体に刻まれた紋様を励起させ爆発的な戦闘能力を実現する言霊の数はそのまま実力を反映するのだが、3文字と4文字の間に横たわる差は言葉以上に大きい。
1文字は普通、良く鍛えて2文字、3文字になると膨大な時間の鍛錬に加えた特殊な出自(※出生時にカグツチとの親和性を高くするための処置などの特殊な環境)が必要になり、4文字以上となれば出自、あるいは天与の才を持って生まれた者が更に努力を重ねてようやく辿り着く境地と言われる。
どれだけ努力しようが文字数3を突破出来る者は限られ、諦める者などそれこそ履いて捨てるほどに存在した。文字数にしてみればたった1つだが、3と4の間には越える事が不可能な程に巨大な壁が横たわっており、それは実力差を測る明確な指標となる。
現戦力内で4文字の戦技を発動できるのは部隊長であるクシナダだけ。つまりこの男の実力は少なくとも彼女以外を大きく引き離しているという事になる。
明鏡止水。オレステスが唱えた言霊の効果は反射神経や身体能力といった肉体の持つ基礎能力を限界以上に引き上げる効果。男は凄まじい速度で動き回るクシナダの足を掴むと、力任せに床目掛け叩きつけた。くぐもった声が退避エリア内に小さく反響する。先程まで彼女の機動性に反応すら出来な勝った男はあっと言う間に形成を逆転させた。
「野郎ッ!!」
その光景にタガミが反射的に叫び、同時に猛然とオレステス目掛けて飛びかかる。外見だけならば身長も体重も筋力も全てタガミが勝っている様に見えるが、しかし戦技を発動した今となっては体格や筋肉や体重に始まり、果ては種族や性別といった致命的なアドバンテージに至る全ては何の役にも立たなくなるし、ソレが天与の才を持つ人間ならば絶望的だ。
クシナダから手を離したオレステスはタガミの視界から一瞬で消え去り、次の瞬間には彼の頭を手で鷲掴むとクシナダと同じく力任せに床に叩きつけた。大きな振動とドシンという音、そしてソレに掻き消される様なタガミの呻き声が響いた。
優勢は瞬く間に崩された。
時折、ああいった人間が世に現れるという。持って生まれた才能に努力を惜しむ精神性を持ち合わせる、正に天が人を超える為に生み出したような特異で特別な存在。幾つかの惑星ではそう言った人間をこんな風に呼称する。天に愛されし者、選ばれし者、勇敢なる者……勇者、と。今、その男が目の前にいる。
1つ、魔法陣。スサノヲが使用する武器や彼等の肉体に刻まれている特殊な紋様。その出自は名前が指す通り一部惑星に伝承された魔導、あるいは魔術や魔法などと呼称される戦闘技術を解析したもの。
2つ、言霊。先の魔法陣を起動させる為の特殊な発声方法。より正確には生み出された固有振動の方を指す。
スサノヲ達は言霊により生み出した固有振動により魔法陣を起動、同時に周辺のカグツチをソレに流し込む事で物理法則を曲げる人工の奇跡を起こす。勿論、魔導士達も同じ真似が行えるが、旗艦の戦技は特兵研の解析により洗練された結果、相当少ないどころか効率的な振動圧縮技術による驚異的な短縮、及び自動詠唱にも成功しており、故に秘匿技術としてごく一部にしか供与されない。
戦技発動に必要な言霊の数は1から始まり、現状の最大は4。文字が1つ上がるのに比例して制御困難となるが、その代わりに幅広い性質の付与や絶大な能力向上が可能となる。極論すれば彼等は戦技に使用する文字数を増やす為に血反吐を吐いているともいえる。1文字から2文字の間には大きな隔たりがあり、2文字から3文字も同様であるが、3文字から4文字ともなるとその差はより顕著となる。
全ては連合全体を安定させる為だったのだが、突出した力は共有する事は勿論、独占しても方々に多くの犠牲を出した。絶大な能力を行使する戦技という技術があれば、当然その入手を目論むか、あるいは非合法的な手段で再現を試みた。前者は戦い、後者は出生前の胎児を使用した非人道的な人体実験。
やがて連合を支える神達は幾つかの決断を下した。技術漏洩の防止を目的に技術開発を徹底した管理及び監視体制が敷かれる旗艦アマテラスに集約し、同時に連合戦力を均質化させるという名目で元々は対マガツヒを想定した機動兵器"黒雷"の技術の一部を特例として各惑星に供与した。戦技を持たぬ惑星はその代わりに黒雷と関連技術を独自改良する事で戦力増強を果たした。
そして……忌々しく、実に厄介なことに戦技と黒雷を両方持つのが守護者という組織。黒雷関連技術の各惑星への供与自体もなし崩しだったのだが、戦技もその道を免れなかった。
「紫電!!」
タガミが発した2文字の言霊がミハシラの退避用エリアに反響する。直後、周囲に光が満ちると魔法陣が刻まれた武器に光が集い、更にソレを通し男の身体に吸い込まれる。大量のカグツチを吸収したタガミは先程までの動きが緩慢と思える程に驚異的な加速と共にオレステスを強襲する。
「雑魚が!!」
言霊の数にオレステスが吐き捨てると……
「まだわからねぇだろ!!」
挑発的な言動にタガミが反応、両手に持った銃剣を乱射する。カグツチを吸収した弾丸は凄まじい速度でオレステスに誘導されるが、しかしその全ては容易く回避されるか、さもなくば剣で叩き落とされた。
余裕。タガミを見るオレステスの態度は余裕に満ちており、戦技発動に対する動揺はゼロ。相手は暫定とは言えスサノヲに昇格したタガミであると言うのに、この男は微塵も意に介さない。
「韋駄天!!」
今度は男の視界外から別の声が聞こえ、同時に目にも止まらぬ速さで何かが強襲した。クシナダだ。
「独自の言霊か?フン……見た目によらずそこそこ使えるな女ァ!!」
「そうやって舐めてると怪我するよ!!」
「ソレは俺に触れてから言えよッ!!」
昂り、感情を露わにするオレステスは未だ余裕の態度を崩さない。
しかし、視界外からの強襲を間一髪で回避したは良かったが、振り向いた先にクシナダの影は既になく、忌々しそうに周囲を眺める。彼女が得意とする戦技は単純な移動速度向上と空気抵抗の低減。単純だが効果は絶大で、事実オレステスは彼女を捉えられない。
予測を遥かに上回る速度で出鱈目に飛び回りながらクシナダは正確に銃撃を見舞う。四方八方、跳弾も含めればほぼ360度全方位からの攻撃。
が、無数の銃撃もオレステスにはやはり届かず。只の一撃さえもかすりもせず、床と壁に大きな穴を穿つだけに終わった。
「明鏡止水」
クシナダの実力を前に表情から余裕の色を消したオレステスは、端整な顔を取り戻すと同時にそう呟いた。4文字の言葉に剣が共鳴すると周囲の光を一気に引き寄せ、剣から手を通し全身の隅々に行き渡る。
「アンだとッ!?」
「やっぱり……思った以上にッ」
「馬鹿が貴様等だけの専売特許とでも思ったかッ、この程度どうと言う事はない!!」
オレステスはそのままタガミとクシナダ目掛けて突き進む。その速度は桁外れており、常人が視認する事さえ困難な程だ。
戦技と呼ばれる技術において、武器や肉体に刻まれた紋様を励起させ爆発的な戦闘能力を実現する言霊の数はそのまま実力を反映するのだが、3文字と4文字の間に横たわる差は言葉以上に大きい。
1文字は普通、良く鍛えて2文字、3文字になると膨大な時間の鍛錬に加えた特殊な出自(※出生時にカグツチとの親和性を高くするための処置などの特殊な環境)が必要になり、4文字以上となれば出自、あるいは天与の才を持って生まれた者が更に努力を重ねてようやく辿り着く境地と言われる。
どれだけ努力しようが文字数3を突破出来る者は限られ、諦める者などそれこそ履いて捨てるほどに存在した。文字数にしてみればたった1つだが、3と4の間には越える事が不可能な程に巨大な壁が横たわっており、それは実力差を測る明確な指標となる。
現戦力内で4文字の戦技を発動できるのは部隊長であるクシナダだけ。つまりこの男の実力は少なくとも彼女以外を大きく引き離しているという事になる。
明鏡止水。オレステスが唱えた言霊の効果は反射神経や身体能力といった肉体の持つ基礎能力を限界以上に引き上げる効果。男は凄まじい速度で動き回るクシナダの足を掴むと、力任せに床目掛け叩きつけた。くぐもった声が退避エリア内に小さく反響する。先程まで彼女の機動性に反応すら出来な勝った男はあっと言う間に形成を逆転させた。
「野郎ッ!!」
その光景にタガミが反射的に叫び、同時に猛然とオレステス目掛けて飛びかかる。外見だけならば身長も体重も筋力も全てタガミが勝っている様に見えるが、しかし戦技を発動した今となっては体格や筋肉や体重に始まり、果ては種族や性別といった致命的なアドバンテージに至る全ては何の役にも立たなくなるし、ソレが天与の才を持つ人間ならば絶望的だ。
クシナダから手を離したオレステスはタガミの視界から一瞬で消え去り、次の瞬間には彼の頭を手で鷲掴むとクシナダと同じく力任せに床に叩きつけた。大きな振動とドシンという音、そしてソレに掻き消される様なタガミの呻き声が響いた。
優勢は瞬く間に崩された。
時折、ああいった人間が世に現れるという。持って生まれた才能に努力を惜しむ精神性を持ち合わせる、正に天が人を超える為に生み出したような特異で特別な存在。幾つかの惑星ではそう言った人間をこんな風に呼称する。天に愛されし者、選ばれし者、勇敢なる者……勇者、と。今、その男が目の前にいる。
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