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第4章 凶兆
119話 魔女と神父 ~ 秘匿資料
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私の手元には地球人類の全個人情報を集積管理した人類管理部門-秘匿情報管理課が厳重管理していたファイルがある。全人類の情報が可能な限り子細に記されたソレには、渦中の人物である魔女と神父の情報も当然ながら含まれている。
魔女。本名はミルヴァ=ウィチェット。
アメリカ出身の20歳女性でブラジルとフィンランドの二重国籍者。健康診断の結果は特に問題なしの健康体であり、モデル顔負けの高身長とプロポーションの持ち主とデータに記録されている。が、それは表層に過ぎない。彼女にはもっと異常な点がある。常人を凌駕する異常な身体能力という特徴だ。
生まれと育ちは南米区域の1つ、ブラジル。何らかの理由でその場所に引っ越してきた彼女の母が現地人と婚姻、生まれたのがミルヴァ。父親は彼女が生まれて程なく蒸発。
男手不在の中、出稼ぎに出る母親に代わる形で彼女を育てた祖父母の教えを守り物静かに過ごしていた彼女だが、周囲よりも少しだけ薄い肌の色と余所者という出自を理由に虐めを受け始める。彼女が高校に上がった頃の話だ。
当初こそ教えを守り黙って耐えていた彼女だったが、祖父母が巻き込まれた事で虐めた連中全員を半殺しにした。この時点で既に真面じゃないが、コレはまだマシな方。
虐めた連中は当然の如く報復行動に出たが、彼女はソレを苦も無く1人で返り討ちにした。最初は10人以上、次はその倍、返り討ちされる度に数を増やす報復の連鎖は遂にギャングの介入にまで発展した。
が、彼女は銃器で武装したギャング達さえも容易く返り討ちにした。この時、若干17歳。しかも全くの無傷で、挙句に使用する武器は何処で買ったのか護身用のトンファー2本だけというから異常極まりない。
基本的に専守防衛、攻撃された場合にのみ反撃するという信条故に自ら進んで他者を傷つける事はただの一度も無かったそうだが、それでも度重なる報復を無傷でしのぎ続け、必ず勝利しするミルヴァの返り血に染まる姿を見た誰もがデモニオ(※ポルトガル語で悪魔)と呼ぶようになり、彼女が通う学区とその周囲の貧民街を根城にする悪童やギャングは勿論、警察でさえも彼女を畏怖の対象とした。
一方、ギャングすら黙らせる出鱈目な強さは治安情勢に強い不満を持つ市民の崇敬を集め、誰もがイアンサン(※現地の民間信仰に登場する戦の神)と呼び慕った。ただ本人はもう少し可愛い名前が良いらしく、灰色の雲結成時に伴い魔女と名乗った。が、近場で彼女をそう呼ぶのは神父だけだという。可哀そう……
母親との仲は一時期は良くなかったようだが、手塩にかけた娘が武装したギャング1人で返り討ちにし続けた挙句に駄目押しで周囲から悪魔って渾名付けられたらそりゃそうなるでしょうよ、とはA-24の談。だが、よくよく考えてみれば彼女の力を危惧していたのかも知れない。
その特異且つ異常な力の源泉は、最も特筆すべき項目として秘匿資料の最上段にこう記されている。
魔女の血族。
彼女はその渾名通り、正真正銘の魔女だ。数百年前に絶滅したと思われる魔女の力は、彼女の祖母から母親を経由しミルヴァ=ウィチェットの中にも宿り、相棒であるアイビス=ローウェイの助力が加わった彼女を単独で止め得る人間はホムラとマジンを操る"現人偽神"以外に存在しないとA-24は評価、その常識を置き去りにする強さへの危険性から地球上で唯一の"危険度ゼロ"に認定した。
魔女の歴史を紐解けば、元々は迫害からの救済を目的に監視者が持つ知識を与えた事が起源と記されている……何してんだアイツ。
そんな魔女達だが、知識と力の貸与の対価である契約の破棄を反故にし、以後も密かに力の源と契約を続けた。だが未成熟な文明に降って湧いた奇跡の力は恐怖、畏怖の対象でしかない。やがて時の権力者に騙され、迫害され、絶滅した……筈だったが、どうにか生き残ったのがウィチェット家。
彼女の身体能力は契約という形で齎される魔力を転換した結果であり、更に視線を媒介とした魔術による幻覚を組み合わせた事で度重なる襲撃を無傷で凌いだと分析している。
ふとしたきっかけで自らのルーツと迫害された過去を知ったミルヴァは、ツクヨミ清雅による支配体制とそれに反抗できない世界と自らのルーツを重ねた事で増幅した清雅への憎しみを理由に赤い太陽へと参画したが、腐敗した内情への幻滅と絶望から程なく離反した。
灰色の雲において、桁違いに高い頭脳と引き換えに壊滅的なレベルで生活能力が無い神父の代わり雑事一切を取り仕切る。類稀な戦闘能力を生かした荒事の解決こそが本来の役割なのだが、肝心の神父に改善の兆しが微塵も見られない為に止む無くと言う話だそうだ。
一方で神父の才能には敬意を払っており、現状の役割分担には不満を漏らしていない。当初は無神論者だったが、とある出来事を切っ掛けにツクヨミへの信仰に目覚めた。またこの時から力による解決を極力封印すると同時に勉学に努める様にもなった。
本質的には物静かで心優しく日本かぶれで大和撫子に憧れる、本人曰く"清雅が嫌いなだけで日本は好き"な性格だが、口下手でぶっきらぼうで不器用な言動とワイルドな見た目と燦々たる経歴が災いして誰一人そう思ってくれないらしい。
……私、少し同情しました。
※※※
続いて神父。本名はアイビス=ローウェイ、現在はウィチェット姓を名乗っている。
ドイツと香港の二重国籍者の男性で年齢は16歳。健康診断の結果は軒並み低レベルで身長体重も平均より下であると記録されているが、対照的に地球に並ぶ者はいない程に高い頭脳を持つ。
色白でひ弱な印象がぬぐえない極端に無口な少年は、その後の検査で自閉症、且つサヴァン症候群であると診断された。
その圧倒的な頭脳を常人が理解するのは困難だったのか、それとも両親の教育方針かは定かではないが、極普通の学校へと進学したアイビスはその性格と特徴故に瞬く間にいじめの対象となり、程なく引き籠った。
無理解な両親は少年の行動を酷く咎めつつも暇つぶしにとPCを買い与えたが、この一連が彼の命運を大きく変えた。
PCというツールに驚異的な速度で順応した少年は、桁違いの頭脳を用いて瞬く間にハッキングに関する知識を会得するや、虐めた全員の個人情報を纏めて晒し上げ再起不能にしたが、この件を機に両親はアイビスを厄介者と認識するようになり、真面に会話すらしない様になった。
両親から見放された影響から塞ぎがちになったアイビスはますますハッキングにのめり込み、短時間で世界最高レベルにまでのし上がった。この時、僅か14歳。
遊び半分か、それとも電脳世界意外に居場所を見つけられなかった故か、色々な場所を攻撃し、その全てを成功させたアイビスはツクヨミ清雅を標的とするも敢え無く敗北、たちどころに居場所を特定されてしまった。
しかし神の思惑は別にあった。無論、死蔵させるには余りにも惜しい才能と考えたのは事実だが、確保に乗り出した真の理由は保護だ。アイビスは売られていた。子供が原因で離婚危機にまで発展した父親が、金と厄介者の放逐を兼ね赤い太陽に売り渡していた。
様々な情報網からその事実を知ったツクヨミは実働部隊に指示を出したが……まさか魔女1人にしてやられるとは思っていなかったようだ。A-24は、この件を切っ掛けに魔女の血脈の存在を認知出来たのが不幸中の幸い、ミスではないと述懐しているが、果たしてどうだか。
一方、救出に来た魔女を父親の仲間と誤認し敵意を向けていたアイビスは、程なく彼女と和解した。自力で親元まで帰そうと奮闘する姿勢への感銘に加え、表向き誘拐であると周囲に喧伝し自身を死亡扱いにして保険金をせしめようと試みた両親との決別、互いに口下手な性格という共通点。幾つもの出来事と共通点は打ち解け理解し合う土壌を育み、やがて両者は同じ道を歩み始めた。
赤い太陽から離反した後、魔女の故郷に戻った2人は地元からほど近いファヴェーラでギャングに匿われながら、今度は赤い太陽に反旗を翻した。
同時期、戸籍上では死亡している為に公的補助が受けられない現状を知った魔女の母親が神父を引き取った事で2人は義姉弟となったが、それではやがて立ち行かなくなるだろうと考えた魔女は真っ当な戸籍を与える機会を探していた。
素性の知れない"依頼人"からの依頼により戦禍に包まれる清雅市に侵入した魔女と神父は、その時手に入れた情報をアメリカ大統領に渡す交換条件に国家連合との交渉の場を用意してもらい、以後の協力と引き換えに犯歴全ての抹消、更に神父用のクリーンな戸籍を獲得した。
こうして魔女の義兄弟となった少年は、その類稀な能力と悲惨な出自が知れ渡るに従い彼自作の模擬人格IFである"神父"と呼び慕われるようになった。
現在の灰色の雲は、その高い能力を国家連合直轄組織に提供しているのだが、コレは特に神父の強い意向が働いている。過去の贖罪と罪の精算を行う為の司法取引に際し自ら提示した条件であり、現在は国家連合お抱えのホワイトハッカーとして辣腕をふるっている。
信じ難い事実ではあるが、その類稀な頭脳でウィチェット家に残る文献を読み解き、得意とするプログラミングを駆使して複雑な儀式の全てと詠唱の一部を機械に代行させるという形で失伝した技術……黒魔術を現代に復活させた。その頭脳は極めて危険と判断したA-24により、危険度を"一"に引き上げられた。
その魔術は専ら魔女の戦闘を補助する目的に使用される。機械代行による黒魔術の補佐を受けた魔女の戦闘能力は、完成に手段を厭わなかった"現人偽神"に匹敵しているというから驚きだが、一方で文献に記録された補助魔術に魔女自身のスペック(体内に蓄積出来る魔力量や、カグツチの魔力への変換能力)が追い付いておらず、実質的な稼働時間はさほど長くはないとも記録されている。
……成程。半年前、彼女達を清雅市に呼んだ本当の理由はコレか。と、なるとこの取って付けたような最後の一文は嘘だろう。魔女だけならばさしたることは無いが、この神父という少年も大概な能力をしているようだ。
が、そんな彼はハッキング以外の全てが壊滅的に駄目という"一芸に秀でる者は多芸に通ず"が誤りである事を証明する駄目人間だそうで、魔女の助けがなければ生きていけないと憚らず公言しているそうだ。A-24は本来ならば親元で過ごす年齢、もしかしたら年上の大人に甘えたいのかも知れないと分析している。
んが!!確かに歳相応ではあるのだが、それでもそんな事を堂々と言うなと、私はそう言いたい。
魔女。本名はミルヴァ=ウィチェット。
アメリカ出身の20歳女性でブラジルとフィンランドの二重国籍者。健康診断の結果は特に問題なしの健康体であり、モデル顔負けの高身長とプロポーションの持ち主とデータに記録されている。が、それは表層に過ぎない。彼女にはもっと異常な点がある。常人を凌駕する異常な身体能力という特徴だ。
生まれと育ちは南米区域の1つ、ブラジル。何らかの理由でその場所に引っ越してきた彼女の母が現地人と婚姻、生まれたのがミルヴァ。父親は彼女が生まれて程なく蒸発。
男手不在の中、出稼ぎに出る母親に代わる形で彼女を育てた祖父母の教えを守り物静かに過ごしていた彼女だが、周囲よりも少しだけ薄い肌の色と余所者という出自を理由に虐めを受け始める。彼女が高校に上がった頃の話だ。
当初こそ教えを守り黙って耐えていた彼女だったが、祖父母が巻き込まれた事で虐めた連中全員を半殺しにした。この時点で既に真面じゃないが、コレはまだマシな方。
虐めた連中は当然の如く報復行動に出たが、彼女はソレを苦も無く1人で返り討ちにした。最初は10人以上、次はその倍、返り討ちされる度に数を増やす報復の連鎖は遂にギャングの介入にまで発展した。
が、彼女は銃器で武装したギャング達さえも容易く返り討ちにした。この時、若干17歳。しかも全くの無傷で、挙句に使用する武器は何処で買ったのか護身用のトンファー2本だけというから異常極まりない。
基本的に専守防衛、攻撃された場合にのみ反撃するという信条故に自ら進んで他者を傷つける事はただの一度も無かったそうだが、それでも度重なる報復を無傷でしのぎ続け、必ず勝利しするミルヴァの返り血に染まる姿を見た誰もがデモニオ(※ポルトガル語で悪魔)と呼ぶようになり、彼女が通う学区とその周囲の貧民街を根城にする悪童やギャングは勿論、警察でさえも彼女を畏怖の対象とした。
一方、ギャングすら黙らせる出鱈目な強さは治安情勢に強い不満を持つ市民の崇敬を集め、誰もがイアンサン(※現地の民間信仰に登場する戦の神)と呼び慕った。ただ本人はもう少し可愛い名前が良いらしく、灰色の雲結成時に伴い魔女と名乗った。が、近場で彼女をそう呼ぶのは神父だけだという。可哀そう……
母親との仲は一時期は良くなかったようだが、手塩にかけた娘が武装したギャング1人で返り討ちにし続けた挙句に駄目押しで周囲から悪魔って渾名付けられたらそりゃそうなるでしょうよ、とはA-24の談。だが、よくよく考えてみれば彼女の力を危惧していたのかも知れない。
その特異且つ異常な力の源泉は、最も特筆すべき項目として秘匿資料の最上段にこう記されている。
魔女の血族。
彼女はその渾名通り、正真正銘の魔女だ。数百年前に絶滅したと思われる魔女の力は、彼女の祖母から母親を経由しミルヴァ=ウィチェットの中にも宿り、相棒であるアイビス=ローウェイの助力が加わった彼女を単独で止め得る人間はホムラとマジンを操る"現人偽神"以外に存在しないとA-24は評価、その常識を置き去りにする強さへの危険性から地球上で唯一の"危険度ゼロ"に認定した。
魔女の歴史を紐解けば、元々は迫害からの救済を目的に監視者が持つ知識を与えた事が起源と記されている……何してんだアイツ。
そんな魔女達だが、知識と力の貸与の対価である契約の破棄を反故にし、以後も密かに力の源と契約を続けた。だが未成熟な文明に降って湧いた奇跡の力は恐怖、畏怖の対象でしかない。やがて時の権力者に騙され、迫害され、絶滅した……筈だったが、どうにか生き残ったのがウィチェット家。
彼女の身体能力は契約という形で齎される魔力を転換した結果であり、更に視線を媒介とした魔術による幻覚を組み合わせた事で度重なる襲撃を無傷で凌いだと分析している。
ふとしたきっかけで自らのルーツと迫害された過去を知ったミルヴァは、ツクヨミ清雅による支配体制とそれに反抗できない世界と自らのルーツを重ねた事で増幅した清雅への憎しみを理由に赤い太陽へと参画したが、腐敗した内情への幻滅と絶望から程なく離反した。
灰色の雲において、桁違いに高い頭脳と引き換えに壊滅的なレベルで生活能力が無い神父の代わり雑事一切を取り仕切る。類稀な戦闘能力を生かした荒事の解決こそが本来の役割なのだが、肝心の神父に改善の兆しが微塵も見られない為に止む無くと言う話だそうだ。
一方で神父の才能には敬意を払っており、現状の役割分担には不満を漏らしていない。当初は無神論者だったが、とある出来事を切っ掛けにツクヨミへの信仰に目覚めた。またこの時から力による解決を極力封印すると同時に勉学に努める様にもなった。
本質的には物静かで心優しく日本かぶれで大和撫子に憧れる、本人曰く"清雅が嫌いなだけで日本は好き"な性格だが、口下手でぶっきらぼうで不器用な言動とワイルドな見た目と燦々たる経歴が災いして誰一人そう思ってくれないらしい。
……私、少し同情しました。
※※※
続いて神父。本名はアイビス=ローウェイ、現在はウィチェット姓を名乗っている。
ドイツと香港の二重国籍者の男性で年齢は16歳。健康診断の結果は軒並み低レベルで身長体重も平均より下であると記録されているが、対照的に地球に並ぶ者はいない程に高い頭脳を持つ。
色白でひ弱な印象がぬぐえない極端に無口な少年は、その後の検査で自閉症、且つサヴァン症候群であると診断された。
その圧倒的な頭脳を常人が理解するのは困難だったのか、それとも両親の教育方針かは定かではないが、極普通の学校へと進学したアイビスはその性格と特徴故に瞬く間にいじめの対象となり、程なく引き籠った。
無理解な両親は少年の行動を酷く咎めつつも暇つぶしにとPCを買い与えたが、この一連が彼の命運を大きく変えた。
PCというツールに驚異的な速度で順応した少年は、桁違いの頭脳を用いて瞬く間にハッキングに関する知識を会得するや、虐めた全員の個人情報を纏めて晒し上げ再起不能にしたが、この件を機に両親はアイビスを厄介者と認識するようになり、真面に会話すらしない様になった。
両親から見放された影響から塞ぎがちになったアイビスはますますハッキングにのめり込み、短時間で世界最高レベルにまでのし上がった。この時、僅か14歳。
遊び半分か、それとも電脳世界意外に居場所を見つけられなかった故か、色々な場所を攻撃し、その全てを成功させたアイビスはツクヨミ清雅を標的とするも敢え無く敗北、たちどころに居場所を特定されてしまった。
しかし神の思惑は別にあった。無論、死蔵させるには余りにも惜しい才能と考えたのは事実だが、確保に乗り出した真の理由は保護だ。アイビスは売られていた。子供が原因で離婚危機にまで発展した父親が、金と厄介者の放逐を兼ね赤い太陽に売り渡していた。
様々な情報網からその事実を知ったツクヨミは実働部隊に指示を出したが……まさか魔女1人にしてやられるとは思っていなかったようだ。A-24は、この件を切っ掛けに魔女の血脈の存在を認知出来たのが不幸中の幸い、ミスではないと述懐しているが、果たしてどうだか。
一方、救出に来た魔女を父親の仲間と誤認し敵意を向けていたアイビスは、程なく彼女と和解した。自力で親元まで帰そうと奮闘する姿勢への感銘に加え、表向き誘拐であると周囲に喧伝し自身を死亡扱いにして保険金をせしめようと試みた両親との決別、互いに口下手な性格という共通点。幾つもの出来事と共通点は打ち解け理解し合う土壌を育み、やがて両者は同じ道を歩み始めた。
赤い太陽から離反した後、魔女の故郷に戻った2人は地元からほど近いファヴェーラでギャングに匿われながら、今度は赤い太陽に反旗を翻した。
同時期、戸籍上では死亡している為に公的補助が受けられない現状を知った魔女の母親が神父を引き取った事で2人は義姉弟となったが、それではやがて立ち行かなくなるだろうと考えた魔女は真っ当な戸籍を与える機会を探していた。
素性の知れない"依頼人"からの依頼により戦禍に包まれる清雅市に侵入した魔女と神父は、その時手に入れた情報をアメリカ大統領に渡す交換条件に国家連合との交渉の場を用意してもらい、以後の協力と引き換えに犯歴全ての抹消、更に神父用のクリーンな戸籍を獲得した。
こうして魔女の義兄弟となった少年は、その類稀な能力と悲惨な出自が知れ渡るに従い彼自作の模擬人格IFである"神父"と呼び慕われるようになった。
現在の灰色の雲は、その高い能力を国家連合直轄組織に提供しているのだが、コレは特に神父の強い意向が働いている。過去の贖罪と罪の精算を行う為の司法取引に際し自ら提示した条件であり、現在は国家連合お抱えのホワイトハッカーとして辣腕をふるっている。
信じ難い事実ではあるが、その類稀な頭脳でウィチェット家に残る文献を読み解き、得意とするプログラミングを駆使して複雑な儀式の全てと詠唱の一部を機械に代行させるという形で失伝した技術……黒魔術を現代に復活させた。その頭脳は極めて危険と判断したA-24により、危険度を"一"に引き上げられた。
その魔術は専ら魔女の戦闘を補助する目的に使用される。機械代行による黒魔術の補佐を受けた魔女の戦闘能力は、完成に手段を厭わなかった"現人偽神"に匹敵しているというから驚きだが、一方で文献に記録された補助魔術に魔女自身のスペック(体内に蓄積出来る魔力量や、カグツチの魔力への変換能力)が追い付いておらず、実質的な稼働時間はさほど長くはないとも記録されている。
……成程。半年前、彼女達を清雅市に呼んだ本当の理由はコレか。と、なるとこの取って付けたような最後の一文は嘘だろう。魔女だけならばさしたることは無いが、この神父という少年も大概な能力をしているようだ。
が、そんな彼はハッキング以外の全てが壊滅的に駄目という"一芸に秀でる者は多芸に通ず"が誤りである事を証明する駄目人間だそうで、魔女の助けがなければ生きていけないと憚らず公言しているそうだ。A-24は本来ならば親元で過ごす年齢、もしかしたら年上の大人に甘えたいのかも知れないと分析している。
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