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第3章 邂逅
86話 過去 ~ エクゼスレシア編 其の3
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「実に興味深いな。半年前の神魔戦役とそれに続く楽園崩壊の話は俺も聞いているが……しかしお前がその当人とはなぁ」
「いやいや、アッサリ信じ過ぎですよ評議長!!」
ツクヨミの語りを聞いた反応は予想通りだ。不信、疑惑、猜疑、話を聞いた各々を占めるのは信じられないという一点であり、その心情が冷たい視線という形で表出する。
ただ、全員という訳ではなかった。唯一、評議長と呼ばれた壮年の男だけはツクヨミの言葉を信用する様な素振りを見せつつ、更に未だ不信と疑惑の眼差しで睨む部下を窘めた。しかし、地球と旗艦アマテラスの間で勃発した戦いとその結果はそれ程に信じ難い内容なのだ。事実、私でさえ半信半疑だった。
宇宙に飛び立つことさえ出来ない未開の惑星が、連合最強の実力組織"スサノヲ"擁する旗艦アマテラスを敗北間際まで追い込むなど誰が予想できるものか。半年前の件は連合最強を自負するスサノヲが敗北するなどあり得ないという空気が醸成されきった中で起こった出来事であり、容易く拭いきれない程に深く浸透している為、評議長に食って掛かる部下の反応は至って真面な反応なのだ。
「言いたいことははっきり言え、本音は何だ?」
評議長は食って掛かる部下の態度に半ば呆れがちに尋ねた。
「いや、だってソレが本当ならだって、コイツはスサノヲと連合最新鋭のオートマタが束になって勝てなかった化け物をたった2人で討伐した、その内の1人ですよ?」
「だそうだな」
「それが何でこんな場所うろついてるんですか?流石に不審すぎますよ?」
「ソレはこのオートマタが言った通りだろう?この男、つい最近までタダの一般人で戦闘経験が碌にない。神代三剣を取り込んだだけの一般人に手っ取り早く実戦経験を積ませたいが、旗艦アマテラスの惨状もあり表立った行動が出来ない。だから無礼を承知で、と言う訳らしい。一応、後でスクナから連絡が来るらしいから判断はそれからだな」
「信用するんですか?」
「そう素直にする訳がなかろう」
評議長はそう言うとツクヨミから伊佐凪竜一に視線を移した。顔には僅かながら笑顔が覗き見えるが、その目は酷く冷たい。それは例え元神であるツクヨミであっても油断すれば即座に偽りを見抜く、そう言う目をしている。
「コチラも直ぐに信用して貰えるとは思っていません。ですので後からスクナより連絡が入りますのでそれまで……」
「悪いが待つつもりもない。信用して欲しければ証を立てろ。今すぐにだ」
「今すぐ?何を……」
無茶な要求に伊佐凪竜一が反応したが、それ以上を問いかける前に評議長が強い口調で制した、"その態度だよ"と。
「お前、今連合がどういう時期かまるで理解していないようだな。コイツ等でさえ分かっていることをスサノヲである筈のお前が理解できていないというのだから信用しろなど無理な話だ。しかし、かといってどこぞの誰かが寄越した間者だと仮定すると、どうして此処まで腹芸が苦手な間抜けなのかと言う疑問もある」
「コチラにも時間がある訳ではありませんし、それにアナタの提案に乗る利益もありません」
「早合点するなオートマタ。お前達にとってもそう悪い話じゃない」
ストレートにお前達を信用していないと言い捨てた評議長は言葉の最後にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。まるで何か良からぬ事を考えている、そんな笑い方だ。その表情に部下達は半ば呆れ、対する伊佐凪竜一は真剣そのものの表情で見つめる。
「評議長、まさか……」
「そのまさかだ。運がいいぞお前、今ヴォルカノで開催中の武術大会に飛び入りで参加しろ。スサノヲと最新鋭のオートマタが勝てなかった化け物を討伐したと言うなら優勝くらい簡単だろう?」
評議長なる男は笑顔でそう言ってのけると同時、周囲が喧騒に包まれた。どうやら相当な無茶振りであるようで、驚く声、呆れる声、様々な言葉が飛び交う。一方、無茶振りされた当人は何のことやらサッパリと言った様子で周囲を見回した。
無理もない話だ、地球以外の情報を碌に持たない人間に連合の他惑星の文化文明を正しく理解しろと言うのは不可能。特に彼の現状を考えれば尚の事であり、そんな状況を察したツクヨミは"悪い話ではないと言うのは?"と、彼に代わり質問を投げかけた。
「金だよ。お前等、こんな無計画な位だからどうせ大した額持ってないだろ?勝てば当面遊んで暮らせる程度は手に入るぞ」
「心配には及びません。金ならば私が持っています」
金が手に入る、評議長は2人と1機への利点をそう説明した。確かにこの惑星への転移は事故に近く、故に懐事情については当たらずも遠からず……かと思われたが、ツクヨミは即座に反論した。彼女は伊佐凪竜一に関する世話一切を取り仕切っており、ソレは金銭面の管理も当然含まれている。
旗艦内での生活に困らない様に、出来るだけストレスを軽減して欲しいという医療機関からの要望、加えて地球と旗艦を救った英雄という立場諸々の事情により彼の電子通帳にはべらぼうな額が振り込まれているのだ。一方、そんな事とは知らぬ評議長の部下はツクヨミの回答に怪訝そうな表情を浮かべたが……
「え?いや、そうは見えないんですけど」
「電子マネーだ」
「あ、あぁ!!そうだ、俺達には馴染みがないからすっかり忘れてました」
評議長があっさりと種をばらすと周囲は驚きと共にツクヨミへと視線を移した。確かにこの惑星は連合への加入が比較的最近とはいえ、惑星固有の文化文明を残しつつも積極的に連合の文明を取り入れる柔軟性を発揮して来た。それは今、目の前にいる評議長の手腕の賜物である。
エクゼスレシアの文明レベルは地球で言う近世に位置し、大都市部はレンガ造りの美しい建造物や家屋が整然と並ぶ光景が見られ、都市を離れ郊外へと移るにつれ、石造りや木製の家屋の割合が高くなる。当然、現代風の高層ビルなどある筈も無いし、自動車、携帯端末、映像機器といった文明の利器もまた同じく。
そんな惑星に何故電子マネー電子だけが存在するかと言えば、観光客が落とす外貨獲得の為だ。この惑星に限らず、文明の進みが遅い惑星への旅行を考える富裕層は思いのほか多い。そう言った層を取り込む為、この惑星の大都市部に存在する銀行には電子マネーから現地通貨への両替ができるようなシステムが導入されている。
そしてこの街も銀行はある。彼等は見知らぬ土地に放り出されたとは言え、ツクヨミが管理する電子マネーを現地通貨に交換できる時点で金に困る事態は起こりえないという訳だ。故に評議長の提案は利点にすらならない。
「現時点の正確なレートは不明ですが、暫く滞在する分には問題ない額です」
「ほぅ。だが別にそれだけではないぞ。後は……俺の提案を素直に聞くならば色々と面倒なやり取りをしないでおいてやろう。これでもそれなりの立場でね。余り賢い選択肢ではないが、不可能ではない。どうだ、不服か?」
金では釣れない。そう判断した男が言い放った次の言葉は彼等の置かれた現状を言い当てており、だからこそ伊佐凪竜一はともかくフォルトゥナ姫とツクヨミは言葉を詰まらせた。
"面倒なやり取り"、これが実に厄介だ。伊佐凪竜一はさっぱりわからないという心境をそのままストレートに表情で表し、理由を知るツクヨミとフォルトゥナ姫は評議長の言葉に無言を貫く。
迷いが生じている。評議長が何を考えた末に提案したのか、特にツクヨミは考えあぐねる。言葉通り武術大会で優勝すれば信用してやると言いたいのか、それとも不法に侵入したという言質を取りたいのか。
面倒なやり取りをしないという餌に食いつけば、それは即ち真っ当な方法でこの惑星に転移しなかったと認める事になるからだ。そうなれば即座に拘束、その後どんな理由で裁かれるか分かったものではない。
「そう言えば、今年は丁度重なっていましたね」
「お嬢さん、年の割に詳しいな」
フォルトゥナ姫が唐突に口を開いた。ツクヨミが結論を出す為の時間を少しでも稼ぎたかったのか、それとも単純に知っていたから口を滑らせたのか。何れにせよ、評議長なる男の態度を窺いながら恐る恐る口に出した一言は、何をどうしてか男の琴線に引っかかったようだ。困惑する伊佐凪竜一とその足元で無言を貫くツクヨミを見つめる鋭い視線はフォルトゥナ姫へと向かった。
「い、いえ。あの……」
それまで偽りを見抜こうと睨み付ける鋭い視線が突如として自分へと移った事に姫は困惑し、狼狽し、やがて俯いた。
「すまない。いや、いい傾向だと褒めたくてな。良く学び、その知識を正しく使えるのは優秀な人間の証だ。俺はそう言う人間には年齢性別を問わず礼節を持って接する様にしているし、後ろの連中にもそう教え込んだ。お嬢さんの質問だが……恥ずかしい話で言い辛いのだが、今回の運営委員会は想像以上に無能揃いでな、俺がケツを引っ叩いて漸く今日開催に漕ぎつけたのさ。さて、男。どうする?」
姫の態度にバツを悪くした男は柔和笑みを浮かべつつ、同時にその知識を称賛した。武術大会というおおよそ少女が興味を持たないであろう催しの開催時期を知るとなれば、星外の微細な報道に毎日目を通さねばまず無理だ。
が、少女の知見の広さを評価する評議長の視線が再び伊佐凪竜一へと向かった。その視線はつい先ほど姫に向けられた時に含まれていた穏やかさは一切なく、冷静冷酷に相手を見定めている。答えを誤ればどうなるか分かっているな、その眼差しはまるでそう語り掛けているように見えた。
「いやいや、アッサリ信じ過ぎですよ評議長!!」
ツクヨミの語りを聞いた反応は予想通りだ。不信、疑惑、猜疑、話を聞いた各々を占めるのは信じられないという一点であり、その心情が冷たい視線という形で表出する。
ただ、全員という訳ではなかった。唯一、評議長と呼ばれた壮年の男だけはツクヨミの言葉を信用する様な素振りを見せつつ、更に未だ不信と疑惑の眼差しで睨む部下を窘めた。しかし、地球と旗艦アマテラスの間で勃発した戦いとその結果はそれ程に信じ難い内容なのだ。事実、私でさえ半信半疑だった。
宇宙に飛び立つことさえ出来ない未開の惑星が、連合最強の実力組織"スサノヲ"擁する旗艦アマテラスを敗北間際まで追い込むなど誰が予想できるものか。半年前の件は連合最強を自負するスサノヲが敗北するなどあり得ないという空気が醸成されきった中で起こった出来事であり、容易く拭いきれない程に深く浸透している為、評議長に食って掛かる部下の反応は至って真面な反応なのだ。
「言いたいことははっきり言え、本音は何だ?」
評議長は食って掛かる部下の態度に半ば呆れがちに尋ねた。
「いや、だってソレが本当ならだって、コイツはスサノヲと連合最新鋭のオートマタが束になって勝てなかった化け物をたった2人で討伐した、その内の1人ですよ?」
「だそうだな」
「それが何でこんな場所うろついてるんですか?流石に不審すぎますよ?」
「ソレはこのオートマタが言った通りだろう?この男、つい最近までタダの一般人で戦闘経験が碌にない。神代三剣を取り込んだだけの一般人に手っ取り早く実戦経験を積ませたいが、旗艦アマテラスの惨状もあり表立った行動が出来ない。だから無礼を承知で、と言う訳らしい。一応、後でスクナから連絡が来るらしいから判断はそれからだな」
「信用するんですか?」
「そう素直にする訳がなかろう」
評議長はそう言うとツクヨミから伊佐凪竜一に視線を移した。顔には僅かながら笑顔が覗き見えるが、その目は酷く冷たい。それは例え元神であるツクヨミであっても油断すれば即座に偽りを見抜く、そう言う目をしている。
「コチラも直ぐに信用して貰えるとは思っていません。ですので後からスクナより連絡が入りますのでそれまで……」
「悪いが待つつもりもない。信用して欲しければ証を立てろ。今すぐにだ」
「今すぐ?何を……」
無茶な要求に伊佐凪竜一が反応したが、それ以上を問いかける前に評議長が強い口調で制した、"その態度だよ"と。
「お前、今連合がどういう時期かまるで理解していないようだな。コイツ等でさえ分かっていることをスサノヲである筈のお前が理解できていないというのだから信用しろなど無理な話だ。しかし、かといってどこぞの誰かが寄越した間者だと仮定すると、どうして此処まで腹芸が苦手な間抜けなのかと言う疑問もある」
「コチラにも時間がある訳ではありませんし、それにアナタの提案に乗る利益もありません」
「早合点するなオートマタ。お前達にとってもそう悪い話じゃない」
ストレートにお前達を信用していないと言い捨てた評議長は言葉の最後にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。まるで何か良からぬ事を考えている、そんな笑い方だ。その表情に部下達は半ば呆れ、対する伊佐凪竜一は真剣そのものの表情で見つめる。
「評議長、まさか……」
「そのまさかだ。運がいいぞお前、今ヴォルカノで開催中の武術大会に飛び入りで参加しろ。スサノヲと最新鋭のオートマタが勝てなかった化け物を討伐したと言うなら優勝くらい簡単だろう?」
評議長なる男は笑顔でそう言ってのけると同時、周囲が喧騒に包まれた。どうやら相当な無茶振りであるようで、驚く声、呆れる声、様々な言葉が飛び交う。一方、無茶振りされた当人は何のことやらサッパリと言った様子で周囲を見回した。
無理もない話だ、地球以外の情報を碌に持たない人間に連合の他惑星の文化文明を正しく理解しろと言うのは不可能。特に彼の現状を考えれば尚の事であり、そんな状況を察したツクヨミは"悪い話ではないと言うのは?"と、彼に代わり質問を投げかけた。
「金だよ。お前等、こんな無計画な位だからどうせ大した額持ってないだろ?勝てば当面遊んで暮らせる程度は手に入るぞ」
「心配には及びません。金ならば私が持っています」
金が手に入る、評議長は2人と1機への利点をそう説明した。確かにこの惑星への転移は事故に近く、故に懐事情については当たらずも遠からず……かと思われたが、ツクヨミは即座に反論した。彼女は伊佐凪竜一に関する世話一切を取り仕切っており、ソレは金銭面の管理も当然含まれている。
旗艦内での生活に困らない様に、出来るだけストレスを軽減して欲しいという医療機関からの要望、加えて地球と旗艦を救った英雄という立場諸々の事情により彼の電子通帳にはべらぼうな額が振り込まれているのだ。一方、そんな事とは知らぬ評議長の部下はツクヨミの回答に怪訝そうな表情を浮かべたが……
「え?いや、そうは見えないんですけど」
「電子マネーだ」
「あ、あぁ!!そうだ、俺達には馴染みがないからすっかり忘れてました」
評議長があっさりと種をばらすと周囲は驚きと共にツクヨミへと視線を移した。確かにこの惑星は連合への加入が比較的最近とはいえ、惑星固有の文化文明を残しつつも積極的に連合の文明を取り入れる柔軟性を発揮して来た。それは今、目の前にいる評議長の手腕の賜物である。
エクゼスレシアの文明レベルは地球で言う近世に位置し、大都市部はレンガ造りの美しい建造物や家屋が整然と並ぶ光景が見られ、都市を離れ郊外へと移るにつれ、石造りや木製の家屋の割合が高くなる。当然、現代風の高層ビルなどある筈も無いし、自動車、携帯端末、映像機器といった文明の利器もまた同じく。
そんな惑星に何故電子マネー電子だけが存在するかと言えば、観光客が落とす外貨獲得の為だ。この惑星に限らず、文明の進みが遅い惑星への旅行を考える富裕層は思いのほか多い。そう言った層を取り込む為、この惑星の大都市部に存在する銀行には電子マネーから現地通貨への両替ができるようなシステムが導入されている。
そしてこの街も銀行はある。彼等は見知らぬ土地に放り出されたとは言え、ツクヨミが管理する電子マネーを現地通貨に交換できる時点で金に困る事態は起こりえないという訳だ。故に評議長の提案は利点にすらならない。
「現時点の正確なレートは不明ですが、暫く滞在する分には問題ない額です」
「ほぅ。だが別にそれだけではないぞ。後は……俺の提案を素直に聞くならば色々と面倒なやり取りをしないでおいてやろう。これでもそれなりの立場でね。余り賢い選択肢ではないが、不可能ではない。どうだ、不服か?」
金では釣れない。そう判断した男が言い放った次の言葉は彼等の置かれた現状を言い当てており、だからこそ伊佐凪竜一はともかくフォルトゥナ姫とツクヨミは言葉を詰まらせた。
"面倒なやり取り"、これが実に厄介だ。伊佐凪竜一はさっぱりわからないという心境をそのままストレートに表情で表し、理由を知るツクヨミとフォルトゥナ姫は評議長の言葉に無言を貫く。
迷いが生じている。評議長が何を考えた末に提案したのか、特にツクヨミは考えあぐねる。言葉通り武術大会で優勝すれば信用してやると言いたいのか、それとも不法に侵入したという言質を取りたいのか。
面倒なやり取りをしないという餌に食いつけば、それは即ち真っ当な方法でこの惑星に転移しなかったと認める事になるからだ。そうなれば即座に拘束、その後どんな理由で裁かれるか分かったものではない。
「そう言えば、今年は丁度重なっていましたね」
「お嬢さん、年の割に詳しいな」
フォルトゥナ姫が唐突に口を開いた。ツクヨミが結論を出す為の時間を少しでも稼ぎたかったのか、それとも単純に知っていたから口を滑らせたのか。何れにせよ、評議長なる男の態度を窺いながら恐る恐る口に出した一言は、何をどうしてか男の琴線に引っかかったようだ。困惑する伊佐凪竜一とその足元で無言を貫くツクヨミを見つめる鋭い視線はフォルトゥナ姫へと向かった。
「い、いえ。あの……」
それまで偽りを見抜こうと睨み付ける鋭い視線が突如として自分へと移った事に姫は困惑し、狼狽し、やがて俯いた。
「すまない。いや、いい傾向だと褒めたくてな。良く学び、その知識を正しく使えるのは優秀な人間の証だ。俺はそう言う人間には年齢性別を問わず礼節を持って接する様にしているし、後ろの連中にもそう教え込んだ。お嬢さんの質問だが……恥ずかしい話で言い辛いのだが、今回の運営委員会は想像以上に無能揃いでな、俺がケツを引っ叩いて漸く今日開催に漕ぎつけたのさ。さて、男。どうする?」
姫の態度にバツを悪くした男は柔和笑みを浮かべつつ、同時にその知識を称賛した。武術大会というおおよそ少女が興味を持たないであろう催しの開催時期を知るとなれば、星外の微細な報道に毎日目を通さねばまず無理だ。
が、少女の知見の広さを評価する評議長の視線が再び伊佐凪竜一へと向かった。その視線はつい先ほど姫に向けられた時に含まれていた穏やかさは一切なく、冷静冷酷に相手を見定めている。答えを誤ればどうなるか分かっているな、その眼差しはまるでそう語り掛けているように見えた。
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