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第2章 日常の終わり 大乱の始まり

22話 終わりの始まり 其の6

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 連合標準時刻:木の節 70日目

 ヤハタの突飛な告白騒動から約半月ほどが過ぎた。アレ以降で目立った出来事と言えば、何時の間にか旗艦中に広まった告白騒動を知った連合各惑星のトップスター達が高天原に大挙して押し寄せた程度だった。一体誰が流したのかは分からないこの非常に痛い事態、最終的にはヤタガラスによる警護をより厳重にすることで対処した。

 結果、それまで発生していたイザコザはぱったりと止まった。ルミナが面倒に見舞われる心配が無くなったのは朗報ではあるが、そうするとスター達は"会えないならば旗艦に来る必要が無いから帰ってしまう"と言う別の問題が生じる。

 それはつまり、彼等の表向きの来艦理由である慰問やファンサービスが無くなってしまう訳で、そうなれば市民の感情が再び悪化する訳だが、かと言って現状を維持すればルミナの安全確保と精神面への負担というリスクを背負う事になる。何方を優先すべきか悩ましいこの問いだが、よりにもよって各部門により意見は真っ二つに分かれた。

 真っ先に意見表明したのは警備の厳重化に反対したヤタガラス。旗艦内の治安維持を担当する彼等は市民感情の悪化による犯罪件数の増加を抑止したいが為にルミナとスター達との交流を強く望んだ。

 対して、彼女の治療を担当する"医療機関サクヤ"側はそんなヤタガラスの意見に猛反発した。調整は大いに難航したが、最終的にスサノヲがサクヤに追従した事によりルミナと連合各惑星との面会は謝絶され、スター達の慰問については彼等の自主的且つ打算的な判断に委ねるという何とも曖昧な結論に決着した。

 一方、各方面による喧々囂々けんけんごうごうの攻防を知らないルミナは与えられた仕事を黙々とこなし続け、その影響により旗艦の監視システムは全てではないにせよ復旧を遂げた。最もこの件についてはヒルメがルミナの補助を行うと言う名目で復旧作業に加わった影響が大きい。

 以前と何ら遜色が無いどころか格段に強化された監視網は、実を言えばヒルメが自らだけでは足りないと強引にツクヨミをも手伝わせた結果でもあった。旗艦の"元"神と地球の"元"神という二柱の神によって新たに構築された監視網と聞けばさぞ仰々しい代物を想像するが、実を言えば単純明快であり、要は就業人口調整用に一時停止処置を受けた式守の機能を一部改修して監視に回しただけだ。

 とは言ってもその効果は覿面てきめん。更に早急に且つ物資を損耗させる事なく監視網を強化するという条件をクリアしており、困窮した旗艦アマテラスの現状から判断すればこれ以上の案は無いと誰もが太鼓判を押す位だ。

 この成果は表向きルミナの手柄となった他、彼女の知名度を一層引き上げると共に幸か不幸か艦長就任を後押しする事にも繋がった。が、当の本人はそんな事など露も知らず、碌に何もしていないのに手柄だけ貰ってしまった罪悪感に頭を痛めていた。真面目だなこの子、と思うと同時にちょっとだけ彼女が可愛いと思ったのは内緒の話だ。

「今日は少し早いが上がらせて貰う」

 どんな形にせよ割り振られた"監視システムの復旧"という仕事を終えたルミナに仕事はない。艦橋にいても手持無沙汰。彼女は周囲のオペレーター達に退勤を告げると席を立ちあがった。

「はーい、お疲れ様でした」
 
「アレ?何か用件でもあるんですか?」
 
「バッカ、アレでしょアレ。伊佐凪竜一のところに決まってんじゃない!!」
 
「あー、最近会ってないって話してましたねぇ。羨ましい……」

 また始まった。ルミナの同行が気になるのはココに居る連中も同じようで、今日も今日とてああだこうだと飽きもせず勝手に推測を立て、ルミナはその光景に慣れたとばかりに肩を落としながら部屋を後にする。過去何日も繰り返され、多少話題を変えながら今日も同じように繰り返し、恐らく明日も繰り返されるであろうその光景は、過去の例をなぞるならばルミナが視界から消えたと同時に爆発的に広まり暫く収拾がつかなくなる筈……なのだが、今日は少しばかり様子が違った。
 
 彼女が何時も通りに部屋を後にしようとしたその時、緊急事態を告げる警報が鳴り響いた。

 誰もが何時もとは違うその様子にそれまでの和やかな雰囲気を惜しみながら業務へと向かう。そんな中、艦橋の中央に巨大な映像が浮かび上がった。そこには異常事態の元凶と思われる一人の女の姿が映し出されていた。いや、女ではない……何方かと言えば少女という方が正しい。
 
 何故、どうしてか分からないが、少なくとも旗艦アマテラスでは見られない不思議な純白の民族衣装を纏った少女がビルの屋上に立つ光景が緊急警報と共に流された。目の前の事態に面食らったオペレーター達は奇異に思いながらも映像が何処から送られているのか、映っているのは誰かを調査し始める。

「何処だ?いやそれよりもココに映っているのは!!」
 
「「久那麗華」」

 一足早く少女の正体に気づいたルミナと足元に転がるヒルメは映像に仲良く女の名を呟いた。そう、ソコに映っているのはスサノヲとヤタガラスが躍起になって行方を捜していた地球の少女だ。

 且つて起きた戦いの最中、地球側の戦力の1人として旗艦アマテラスに潜入した少女。その能力を最大限に利用すれば、相応以上の被害を与えるだろうと予測されたが、伊佐凪竜一とルミナが桁違いのカグツチを地球に引き寄せ、更に切り札であった清雅源蔵を討伐するという想定外に次ぐ想定外が発生した事でその能力を十全に生かす前に戦いが終了した。

 その後、少女は何故か投降を拒否すると旗艦内を逃げ続け、一度はヤタガラスに確保寸前にまで追い込まれた。

 だが少女は土壇場でその能力を大きく開花させ、第5居住区域の住民を操りながら逃走を繰り返し、何処かへと消え去った。神たるアマテラスオオカミがその能力を十全に使える状態ならば労せず発見できただろうが、残念ながら機能の大半は封印されており、更に間の悪い事に地球との戦いで監視システム自体も損害を被った。

 少女が逃げおおせたのは幾つかの幸運が重なった為。だが、完全に行方を眩ませた少女は幸運を投げ捨て衆目に己の姿を曝した。スサノヲもヤタガラスも懸命にその行方を追い続けたにも関わらず、遂にその姿を捉える事すら叶わなかった少女が視界に映れば誰もが考える事は1つしかない。こんなド派手に目立つ形で登場するのだから、何かを画策している事は明白だ。

「恐らく誰かが匿っていたのだろうな。そして、準備が整ったから表に出てきた」

 ルミナの予測は、既に多くの者が辿り着いている。如何に神の支配に頼り切ったとは言え、異物である地球人1人を探すのにこうまで時間が掛かる訳が無い。何より少女は一度は旗艦アマテラスを恐怖の底に突き落とした清雅と言う組織の人間、真っ当な神経を持つならば先ず庇うような真似はせず、見かければ即座に通報する。少女は誰かに匿われていた。つまり、艦内に裏切者がいる。

「あ、あのルミナ=AZ1に通信が入っています。ヤタガラスからですがどうしましょう?」
 
「随分と早いな、頼む」
 
「はい、今映像に……」

 オペレーターの1人はそう言ってヤタガラスと通信を繋いだところでその動きを止めた。それが何故かはこの時点ではその人物以外の誰にも理解出来なかったが、しかしルミナの眼前に現れたディスプレイに映った女を見れば、誰もが容易に理解した。ソコに映っていたのは……
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