上 下
15 / 432
第1章 日常 夢現(ゆめうつつ)

10話 伊佐凪竜一の日常

しおりを挟む
 ――地球の監視者が仕事を放棄するので代わりに旗艦の監視者たるE-12が連合最重要人物となった地球人"伊佐凪竜一"と、ルミナ=AZ1の動向を監視する。

 ※※※

 連合標準時刻 火の節 2日

 伊佐凪竜一がツクヨミと半ば強制的に合同生活を営むようになってから幾分か経過した頃、今日も今日とて彼は起きている時間の大半を訓練に費やす日々を送っていた。
 
 旗艦アマテラスという超々巨大な航宙艦”旗艦アマテラス”には、随伴する小型艦アメノトリフネが100近く存在する。今、彼が居るこの場所はその小型艦の1つ、第5番艦内に存在する訓練施設。カグツチという粒子を自在に操るスサノヲの為に用意された特殊な訓練施設は、その重要性と危険性故に旗艦内には作られず、更に念のために旗艦に随伴すると言いつつも数光年程度離れた場所を航行する。

 そうしなければならない理由はただ一つ、カグツチ濃度が高まるとマガツヒに襲撃されてしまうからであり、物理法則を完全に無視する化け物による際限ない襲撃から旗艦を守る為の止むを得ない処置でもある。

 超広大な施設内にはビル群から森林砂漠など、あらゆる戦闘を想定した様々な建造物や環境が再現されているが、その一角、無造作に林立するビルの1つは今、非常に活気に満ちている。

 数十人以上は居る誰もが精粋な表情に幾つもの傷を刻んだ生粋の兵士だが、全員が全員旗艦アマテラスの最精鋭たるスサノヲの兵士という訳ではない。ココに集まった大半はヤタガラスの中から選抜された精鋭。彼等が来た理由は昇進試験の為。先の戦いでスサノヲはその数を減らしてしまったが為、補充の必要性が生じたからだ。

「では1番から10番、準備を始めろ」

 やがて一人の老兵……スサノヲ最強と目されるスクナが指示を出すと、呼ばれた何名かが人だかりから離れあちこちに散会していった。老兵は次に真後ろを向くと一人の青年に目配せをした。その視線を受ける形で青年が老兵の前へと出ると、その場の全員視線が青年へと集まる。
 
「改めて説明する。試験内容はあくまで戦闘内容の評価であって勝敗は関係ない。無論、無関係とは言わんが一番評価すべきはどれだけ冷静であるか、だ。各自、ソレを肝に銘じて試験に当たるよう。特にタガミ」

 老兵は通信を通し、改めてここで行われるのが試験であると伝え、更に殊更に注意するよう1人を名指しした。

「俺はもう合格してるだろ!!」

 すぐさまそんな声が聞こえてきた。今、必死で反論するスキンヘッドの男がそのタガミ。彼は地球という惑星と旗艦アマテラスとの全面衝突しかねない事態を察知した旗艦アマテラスの神、超高性能演算システム”アマテラスオオカミ”の命を受ける形で戦いを主導したアラハバキなる政治組織へと潜り込み、神と共に可能な限り犠牲を最小限に食い止める為に奔走していた。

 時は流れ終戦後。その功績を理由に彼はスサノヲへと昇進を果たしたのだが、しかしそれ以前から昇進試験に何度も落ちていたという事実から最終的に暫定という形での昇進に留まっており、自らの優位性を常に証明し続けなければその座から簡単に降ろされてしまう位置にいる。

「神からの伝言でな。駄目なら落としても構わんとさ」
 
「ひでぇ。何とかしてよ?俺、凄い頑張ったじゃない?」
 
「駄目だ」
 
 一生懸命に頑張ったのに、そう言いたげなスキンヘッドは必至で上司のスクナに懇願するが、悲しいかなバッサリと一言で斬り捨てられた。

「オイ、お前からも何とか言ってやってくれや。なぁ、親友?」
 
 この男、往生際が悪い。諦めきれないタガミはそう言うと老兵の前で待ちぼうけを食わされた青年に視線を移す。そこに居るのは……

「アレが英雄。地球人、伊佐凪竜一か?」
 
「ううむ。あの時の映像は見ているが、しかし本当に見た目は普通だな」
 
 と、まぁこんな感じで終始値踏みされる英雄"伊佐凪竜一"がいた。地球人である彼は本来ならばカグツチへの適性が低い筈なのだが、しかし半年前の戦いで見せた能力は余りにも桁違いであり常識外でもあった為に誰もが半信半疑でいた。大勢の人間はあの時起きた現象をこう解釈している。"一度きりの奇跡"と。だから奇異の視線を向ける一方でごく普通の何処にでもいる青年であると高を括っている。

「まぁ。その辺は俺も一緒だし、仲良く頑張ろう」
 
「オイオイオイ、そりゃあないぜ」

 一方、タガミは有象無象が向ける視線とは明らかに違う態度を取る。彼にしてみれば伊佐凪竜一は数多くいる友人の1人程度にしか見ておらず、相手が英雄だからと言って物怖じしたりはしないし、ましてや奇妙奇怪な視線を向けるなどあり得ない。だからこそこの男は様々な理由で旗艦アマテラスへと居を移した伊佐凪竜一のメンタルケアを兼任しているのだが。

「ホレ。雑談はそこまでにしておけ。では、試験を始める。各員、平常心を忘れるなよ?」

 スクナは緊張感など皆無なタガミをたしなめつつも試験開始の合図を飛ばした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎
SF
 VRMMORPG『One and only world』。通称ワンオン。唯一無二の世界と称されたこのゲームは、ステータスが隠れた完全スキル制となっている。発表当時から期待が寄せられ、βテストを経て、さらに熱が高まっていた。  βテストの応募に落ち、販売当日にも買えず、お預けを食らっていた結城白(ゆうきしろ)は、姉の結城火蓮(ゆうきかれん)からソフトを貰い、一ヶ月遅れでログインした。ハクと名付けたアバターを設定し、初期武器を剣にして、ランダムで一つ貰えるスキルを楽しみにしていた。  そんなハクが手に入れたのは、不人気スキルの【吸血】だった。有用な一面もあるが、通常のプレイヤーには我慢出来なかったデメリットがあった。だが、ハクは、そのデメリットを受け止めた上で、このスキルを使う事を選ぶ。  吸血少女が織りなすのんびり気ままなVRMMOライフ。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

コスモス・リバイブ・オンライン

hirahara
SF
 ロボットを操縦し、世界を旅しよう! そんなキャッチフレーズで半年前に発売したフルダイブ型VRMMO【コスモス・リバイブ・オンライン】 主人公、柊木燕は念願だったVRマシーンを手に入れて始める。 あと作中の技術は空想なので矛盾していてもこの世界ではそうなんだと納得してください。 twitchにて作業配信をしています。サボり監視員を募集中 ディスコードサーバー作りました。近況ボードに招待コード貼っておきます

【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...