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第1章 日常 夢現(ゆめうつつ)

6話 夢  連合標準時刻:水の節 91日目 病室

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 夢を見た。酷く非現実的な夢の中の俺は、会社までの道路と行きつけの店とか、そんな見飽きた景色の中で戦っていた。夢の中で拳を振りぬけば周囲のビル諸共に青い竜を薙ぎ倒し、力一杯に地面を蹴れば次の瞬間には地面が遥か遠くに見える程に飛び上がり、空を蹴れば空中なのにまるで地面と同じく加速する。攻撃を受けても全く痛くなく、まるでそよ風程度の感触しか感じない。

 だけど、ビルの窓に一瞬だけ映った自分の姿は酷くボロボロだった。擦り傷切り傷は当たり前、服のアチコチに血がべっとりとついている。そんな有様なのに、目だけは酷くギラついていた。

「止めよう。一緒に」

 声が聞こえた。女の声、そして俺に向けている事だけは分かる。もやが掛かったかのように顔も名前も思い出せない誰かの声は酷く俺を安心させ、だから戦い続けた。

「私がァ、私こそがァァァ!!」
(そうだ。私が、私が救わねば誰が彼女を救えるというのだ)

 男の叫びに重なる様に、小さな声が聞こえる。
 
「我が神に救済を!!我が神を解放するッ!!そして宇宙へ・・・・・・いやそれだけでは足りん、それ以外の全てを消してやる!!彼女を傷つけた者、絶望させた者などこの世に要らん、一人残らず死ねばいいのだッ!!」
(だが本当にコレでよかったのか?コレは彼女の願いなのか?)
 
「私がッ、私こそが誰よりも彼女を理解しているのだ!!だからそんな必要など無いッ!!・・・・・・彼女は誰にも渡さんッ!!」
(違う。これは……コレは私の願いでは……私はただ……)

 ただ助けたい、そう願っていながらもどうやって助ければ良いか分からない。進むと決めた道が間違っていると分かっていても止まれない。分かっていても自分で自分を止める術を知らない。ならば、俺達が止める!!

 ※※※

 ここ最近は何時もこんな調子だ。記憶にない景色の中で記憶にない行動を取る夢を見る。その夢は決まって同じ男と戦っていて、俺の隣には誰かが居て……だがソレが誰だかどうしても思い出せない。

 目が覚める。白い天井、白い壁。そして赤い髪の医者らしき女の笑顔。これもいつも見る景色だ。彼女は何時も当たり障りのない会話をしながら手際よく触診を行い、最後に決まって注射を打つ。これも見慣れた風景。

 そうして彼女が去れば部屋には1人っきり。誰の要望か知らないが暇つぶし用の本が山積みになっている。女医曰く"ここでこれだけそろえるのは苦労する"らしい。言葉の多くに疑問符が付き、当然質問してみるが返答はいつも決まって"落ち着いてから"。
 
 俺が落ち着くのは何時だろうか。身体の方は特に問題ない様に思える。説明によれば半分以上が機械と話していたけど、でも何処をどう見てもそうは思えない。手首を触れば血管が脈打ち、何処を触ってもその感触が皮膚を伝い脳に伝わる。どれだけ食べても飲んでもなにも違和感はなく、食べる物を食べれば出る物も出る。

 となれば頭の方なのだろう。言葉も覚えていれば物の名前も大体言えるし、ココに運び込まれてからの事ははっきりと覚えている。物心ついた頃からのいい思い出も悪い思い出も粗方思い出せる。自分が誰で、どういう人間でどんな人生を歩んできたのも同じく。

 だけど、ここ数日の記憶だけが酷く曖昧で、そこだけがゴッソリと抜け落ちている。何か大切な事が抜け落ちてて、そしてそれは確実に忘れた記憶の中にある。とても重要で……でも何を忘れているんだっけ?と何度も思い出そうとしてももやがかかったみたいに手ごたえを感じない。
 
 ここ最近は何時もこんな感じだ。自問自答を繰り返し、結局何が何だか分からないまま1日が終わる。
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