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――屋敷、裏庭。
「ここの辺り、だったよな」
「いた?」
「……いねえ。……おーい、奈都~!」
気持ち腹から声出しつつ辺りを探索する。
明かりのない樹海の中、肌にまとわりつく生暖かな空気が気持ち悪かった。
手入れする者がいなくなった裏庭には風に飛ばされてやってきた落ち葉が溜まり、雑草もすくすくと育っているようだ。
いつも花鶏が育てては荒らされていたガーデニングエリアの花たちも、幅を利かせ始めていた雑草に栄養を吸われて弱ってきている。そんな様子を見て、なんとなく薄暗い気持ちになった。
「……荒れてるな」
「そう? 別にいつも通りだろ」
幸喜に同意を求めようとした俺が悪かった。
「雑草抜きしといてやるか~」と普通の花をひっこ抜こうとしていた幸喜を止めながらも、俺たちは奈都らしき人影を探す。
そんなときだった。
「あ……?」
どこかからがさりと草むらを掻き分けるような音が聞こえてきた、ような気がした。
「どした~準一」
「いや、なんか今がさりって……」
「なんだまたか? 俺には聞こえなかったけどな」
「……」
もしかして俺だけに聞こえてるってことか?それとも、単なる空耳なのか?
「気のせいじゃね?」とすっかり探すのにも飽きてきたらしい幸喜に、こいつ、と思いながらも俺は本当に空耳かどうか確かめるべく音の聞こえた方へと近付いた。
「あ、こら準一! 勝手にうろちょろすんなよ、また迷子になるだろ?」
「そんなにうろちょろしてないだろ。……ならお前も一緒に来いよ」
迷子扱いされるのは不本意ではあるが、確かに幸喜を一人にするのも心配だ。提案すれば、「んー」と面倒臭そうな顔していた幸喜はにっと笑うのだ。
「行く」
来んのかよ。思わず突っ込んでしまっただろ。
なら最初からついてきてくれよ、とは思いながらも俺は樹海の方へと幸喜と突き進んでいくのだ。
樹海の奥はどこまでも静かだった。
風が吹く度に木の葉の音が聞こえてくる。やはり、もしかして俺の気のせいか?なんて思いながらも突き進んでいたとき。
――まただ、また音が聞こえてきた。
「どうした準一、急に立ち止まって」
「……こっちだ」
「んえ?」
「こっちから聞こえた」
「本当に? 俺、準一より耳いい自信あったんだけど全然聞こえなかったけど?」
そう言われると自身なくなってきたが、少しでも手がかりがほしい今だ。つべこべ言ってる暇はないのだ。
「着いて来るんじゃなかったのか?」と幸喜を見れば、「行く」と背中にくっついてくる幸喜。それを慌てて引き剥がしながら、俺たちは更に樹海を進んでいくのだ。
ガサガサと草むらを掻き分けていく。
最早道ではない。自分がなにかに誘導されているのではないかとも思い始めていた。
――それでもいい、少なくともそれは俺になにか伝えたいことがあるってことだろ。
そう半ば無理矢理納得させながらも荒い山道を抜けて辿り着いたその先、そこには真っ黒な空が広がってた。――いや、違う、これは。
「ここは、確か……」
「共同墓地じゃん。なんだ準一、墓参りに来たかったのか?」
真っ黒な空と思っていたのは何層にもなった樹海の木陰のせいのようだ。
その一部分だけ木が切り倒されたような中、そこに佇む影を見て息を飲む。
「なあなあ、準一?」とまとわりついてくる幸喜の腕を掴み、止めた。
「……お前、あれが見えないのか?」
「え?」
「……」
何もない墓地の上、なにもない場所に蹲って手を合わせるその影に俺は思わず息を飲んだ。
その風景から明らかにもその影は浮いていた。もやがかったようなその人影はただ俺たちに気付いていないのか、じっと蹲ったまま動かない。
背格好からして男のように見えた。が、顔や髪、服装までも鮮明に分かるようなものではない。明らかに人ではない。
けれど、俺たち以外に亡霊がいる?
――それも、幸喜には見えていない。
今の今まで隠されていた凛太郎という存在や、義人のような存在もいる。
ならば、これはなんなのだ。
「ここの辺り、だったよな」
「いた?」
「……いねえ。……おーい、奈都~!」
気持ち腹から声出しつつ辺りを探索する。
明かりのない樹海の中、肌にまとわりつく生暖かな空気が気持ち悪かった。
手入れする者がいなくなった裏庭には風に飛ばされてやってきた落ち葉が溜まり、雑草もすくすくと育っているようだ。
いつも花鶏が育てては荒らされていたガーデニングエリアの花たちも、幅を利かせ始めていた雑草に栄養を吸われて弱ってきている。そんな様子を見て、なんとなく薄暗い気持ちになった。
「……荒れてるな」
「そう? 別にいつも通りだろ」
幸喜に同意を求めようとした俺が悪かった。
「雑草抜きしといてやるか~」と普通の花をひっこ抜こうとしていた幸喜を止めながらも、俺たちは奈都らしき人影を探す。
そんなときだった。
「あ……?」
どこかからがさりと草むらを掻き分けるような音が聞こえてきた、ような気がした。
「どした~準一」
「いや、なんか今がさりって……」
「なんだまたか? 俺には聞こえなかったけどな」
「……」
もしかして俺だけに聞こえてるってことか?それとも、単なる空耳なのか?
「気のせいじゃね?」とすっかり探すのにも飽きてきたらしい幸喜に、こいつ、と思いながらも俺は本当に空耳かどうか確かめるべく音の聞こえた方へと近付いた。
「あ、こら準一! 勝手にうろちょろすんなよ、また迷子になるだろ?」
「そんなにうろちょろしてないだろ。……ならお前も一緒に来いよ」
迷子扱いされるのは不本意ではあるが、確かに幸喜を一人にするのも心配だ。提案すれば、「んー」と面倒臭そうな顔していた幸喜はにっと笑うのだ。
「行く」
来んのかよ。思わず突っ込んでしまっただろ。
なら最初からついてきてくれよ、とは思いながらも俺は樹海の方へと幸喜と突き進んでいくのだ。
樹海の奥はどこまでも静かだった。
風が吹く度に木の葉の音が聞こえてくる。やはり、もしかして俺の気のせいか?なんて思いながらも突き進んでいたとき。
――まただ、また音が聞こえてきた。
「どうした準一、急に立ち止まって」
「……こっちだ」
「んえ?」
「こっちから聞こえた」
「本当に? 俺、準一より耳いい自信あったんだけど全然聞こえなかったけど?」
そう言われると自身なくなってきたが、少しでも手がかりがほしい今だ。つべこべ言ってる暇はないのだ。
「着いて来るんじゃなかったのか?」と幸喜を見れば、「行く」と背中にくっついてくる幸喜。それを慌てて引き剥がしながら、俺たちは更に樹海を進んでいくのだ。
ガサガサと草むらを掻き分けていく。
最早道ではない。自分がなにかに誘導されているのではないかとも思い始めていた。
――それでもいい、少なくともそれは俺になにか伝えたいことがあるってことだろ。
そう半ば無理矢理納得させながらも荒い山道を抜けて辿り着いたその先、そこには真っ黒な空が広がってた。――いや、違う、これは。
「ここは、確か……」
「共同墓地じゃん。なんだ準一、墓参りに来たかったのか?」
真っ黒な空と思っていたのは何層にもなった樹海の木陰のせいのようだ。
その一部分だけ木が切り倒されたような中、そこに佇む影を見て息を飲む。
「なあなあ、準一?」とまとわりついてくる幸喜の腕を掴み、止めた。
「……お前、あれが見えないのか?」
「え?」
「……」
何もない墓地の上、なにもない場所に蹲って手を合わせるその影に俺は思わず息を飲んだ。
その風景から明らかにもその影は浮いていた。もやがかったようなその人影はただ俺たちに気付いていないのか、じっと蹲ったまま動かない。
背格好からして男のように見えた。が、顔や髪、服装までも鮮明に分かるようなものではない。明らかに人ではない。
けれど、俺たち以外に亡霊がいる?
――それも、幸喜には見えていない。
今の今まで隠されていた凛太郎という存在や、義人のような存在もいる。
ならば、これはなんなのだ。
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