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It becomes it if it does.
02
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屋敷前。
「……っ、やっぱり、俺が運ぶ」
藤也の腕を掴み、無理矢理引き留める。
いきなり掴まれたのにビックリしたのか、藤也は少し驚いたような顔をして、そして無言で俺から目を逸らした。
そのままなにもいわずに男から手を離す藤也。
「おわっ、ちょ……っ! もっと優しくしてやれよ……!」
「……どうせ気絶してる」
「そういう問題かよ……」
なんとか男の体を支えた俺は、そのまま背負う。
然程重たくは感じなかったが、この状況で男に目を覚まされたら面倒だな。
……それにしても、と俺は空を見上げた。
頭上から降り注ぐ真夏の陽射し。四方から聞こえてくる蝉の鳴き声がやけに煩く聞こえる。……日陰に入りたい。
「なあ、この人ってどこに連れて行ったらいいんだ?」
「……着いてきて」
……一応は案内してくれるらしい。
悪いやつではない……のだろうが、やはりいまいち掴めない。戸惑いながらも、俺はさっさと先を歩いていく藤也の後を追いかけた。
樹海の中、無数の木が無造作に生えたそこは屋敷前よりもいくらか暗く、少しだけ空気が重く感じた。恐らく、いくつもの葉が重なり濃い影ができているせいだろう。ひんやりとした空気が今はありがたい。
それからどれくらい経っただろうか。歩いても歩いても変わらない景色。おまけに、藤也は終始黙りこくったままだ。俺も俺でやつの話しかけるなオーラに屈して何も話しかけられない。
……幸喜のようにお喋りでも疲れるが、まさかここまで沈黙が苦痛になるとは。
勇気を振り絞って、俺は先を歩く藤也の背中に声をかけた。
「……なあ、どこまで行くんだよ」
なんだか酷く久しぶりに言葉を発したような気がする。
前を歩いていた藤也はちらりとこちらを振り返り俺に目を向ければ、再び前を向いた。
「……もう少しだから」
「そうか、もう少しか……遠いな」
「……変わろうか、運ぶの」
「いや、大丈夫……だ」
藤也は、そう、とだけ小さくつぶやき、再び前を向いた。
……無視するかなと思ったけど、案外、素直に返してくれるんだよな。
それからまた暫く俺たちの間には沈黙が続いた。
背負う男の体を抱え直しながらも、ただ俺は先を歩く藤也についていく。
そのときだった。不意に、林の奥の方から複数の声が聞こえてくる。
遠くから聞こえてる喧騒に、俺はふと立ち止まった。
声の内容までは聞こえなかったが、どうやらあまり穏やかな雰囲気ではなさそうだ。場所が場所なだけに人の声が聞こえてくることに酷い違和感を覚えたが、もしかしたらこの男の仲間なのかもしれない。
とにかく、この男のためにも早く帰した方がいいだろう。
「……なにしてんの?」
不意に、前を歩いていたはずの藤也は足を止めこちらを振り返った。どうやら、ついてきていない俺を不審に思ったようだ。喧騒に気を取られていた俺は、慌てて藤也の元まで足を進めた。
林の中。傍までやってきた俺を確認した藤也は、背後の山肌に目を向ける。そこは緑色の草が生えた急な坂になっていて、斜面に生えた無数の歪な木がなかなか危なっかしい。
……どうやら、この先は行き止まりのようだ。
ここに男を下ろしていくのだろうか。そう、俺は辺りに視線を巡らせる。
そのとき、なにを思ったのか藤也は斜面に生えた近くの木に手をかけそのまま急な斜面を登り出した。軽々とした身のこなしに感心するのも束の間。
……まさか、ここを進んで行くってことか。
背中の男と、目の前の草だらけのほぼ壁の斜面を交互に見る。無造作に生えた雑草のお陰で終わりは見えなかったが、かなりの高さがあるように見えた。
「……なにやってんの?」
不意に、頭上から藤也の声が聞こえてくる。
「登れないの?」
「……いや、大丈夫だ」
正直あまり、高いところは苦手だった。仕事のときは足場や手すりがあるのでまだ耐えられたが、このような不安定な場所となると話は別だ。
けれど、ここまで来て弱音を吐いてる場合ではない。
すると、無言でこちらを見下ろしていた藤也はなにも言わずにその場にしゃがみ込み、膝を抱え始める。……どうやら、俺が上がってくるまで待ってるということらしい。
……やるしかないようだ。
近くに生えた木を掴み、そのまま急な坂の斜面に足をかけた。木の根っこの凸に足をかけ、太い木の幹を使い坂を登りながら片腕で気絶した男を支える。坂を上がっていけばいくほど全身から血の気が引いていき、自然と呼吸が乱れた。
下は絶対みるな、下は絶対みるな。
そう自分に暗示をかけながら坂を上がること数十分、うっかり手を滑らせて気絶した男を下へ落とすなどということもなく、俺はあと少しで藤也のいる地上まで辿り着くことができる距離まで登り詰めた。
自分よりも先に、抱えていた男の体を持ち上げた。片腕で持ち上げるのは少し辛かったが、先に地上へ上がっていた藤也がそれを手伝ってくれたおかげで放り投げることにならずに済んだ。そして、そのまま一気に坂を上がりきる。
無事急な斜面を登りきった俺は、その場でへたり込んだ。
「……お疲れ様」
「……どうも」
俺から男を受け取った藤也はそう呟けば、男の体を引き摺り、近くの木の根本に寝かせた。
ようやく落ち着いた俺は、あたりを見渡した。
そして思い出す。そこが俺が幸喜に突き飛ばされたあの崖だと。
「戻るよ」
それだけを言えば来た道をさっさと歩いて戻ろうとする藤也に「またあそこ通るのか」と血の気が引いた。
藤也はそのまま崖のふちに立つ。先を行こうとする藤也の後を追い、坂のふちまでやってきたときだった。
『また転落事故か』
ふとそう遠くないところから嗄れた老人の声が聞こえてくる。
草むらの木の影、進入禁止のテープが貼られたそこにこの近隣の住民たちが野次馬として集まっているようだ。
俺と藤也は立ち止まる。
『さっきうちに警察が来た』
『あの旅館に泊まってたらしい』
『連れの方が通報しただとか』
『死体は?』
『ついさっき運ばれていた』
『まだ若いのに可哀想』
どうやら、ただの野次馬のようだ。集団の話を聞く限り、どうやら俺の体はもうここにもないらしい。いまから俺の体は実家の両親のもとに連れていかれて焼かれたりするのだろうか。自分のことなのにまるで他人事のような気持ちで俺はその会話を聞いていた。
『ここ数年、こんな事故ばっかりじゃないか。どうせまた、肝試しにきた馬鹿が立て札無視して入って死んだんだろ』
不意に、集団の一人がやけに冷めた口調でそんなことを口にした。
ごもっともだった。ぐうの音すらでない。
というか、どうせまたって……。確か仲吉も、事故が多いとかなんか言ってたな。
思いながら、俺は隣に立つ藤也に目を向けた。
まさかこいつらが俺にしたときみたいにやらかしたんじゃないだろうな。
思いながら藤也の横顔を眺めていると、不意に藤也の目がこちらに向くものだから俺は慌てて視線を外した。
『そうなのか?それなら罰が当たったんだろうな』集団の一人がそう頷く。
『やっぱり呪われてるのよ、この場所』集団の一人が青い顔をして辺りに目を向ける。
『……なんだか気持ち悪い。さっさと封鎖したらいいのに』集団の一人は言いながら自分の肩を撫でる。
呪われてるっていうか、やんちゃな霊がはしゃいでるだけだけどな。思いながら、俺は木の影から集団の様子を伺っていた。
「……そろそろ戻るか」
これ以上はなんも情報は得られなさそうだ。
同じことを考えたのだろう、藤也は無言で頷いた。
それから、崖の淵までやってきた俺は、なるべく下を見ないように目を細める。本当なら崖下を見たくないが、見なければ降りるものも降りれない。
「そんなに怖いの?」
「……別に」
「嘘つき。……顔色が悪い。高いところが苦手なんだろ」
……気付かれていたのか。
何も考えていなさそうで鋭い指摘に俺は観念することにした。上りはなんとかいけたが、下りはそう簡単にいくことできないと自分でもわかったからだ。
「なあ、ここ以外に降りる場所はないのか? なるべく緩やかな坂みたいなので」
自分でも情けないことを言ってると思う。けれど、藤也は笑うわけでもなくただ少しだけ考えるように視線を彷徨わせ、そしてぽつりと呟いた。
「階段なら、確かそこにあった気がする」
「ほ、本当か!」
「探してくるから、待ってて」
本当に幸喜と血が繋がってるのかと思うほど、いいやつだった。
そして藤也のいう階段は、さほど離れていないその場所にあった。その斜面に生えた樹の太い根っこが絡み合い、周りに比べて僅かに斜面がゆるやかになっている。
どうやら、藤也はこれのことを言っているようだ。
……悪いが、とてもじゃないけど階段には見えない。先ほどの崖よりかはまだましだが、それでもかなりの高さはある。
「降りないの」
「……降りる、降りれる」
こんなのも降りれないのかと呆れたような顔をする藤也の視線が突き刺さり、俺はそう自分に言い聞かせるように呟く。
「じゃあ……俺、先に下にいるから」
「え……」
「……なに?」
「い、いや……なんでもない……」
そうだ、いくらなんでも一緒にいてくれなんて……流石に、年下であろう藤也に頼むことなんてできない。
わかっていた。ここは正念場だと。男だろ、準一。頑張れ、たださっと降りればいいだけだ。
そう言い聞かせていたとき、そのまま俺よりも先に降りようとしていた藤也を見て、咄嗟に俺はやつの足首を掴んだ。……完全に無意識での行動だった。
「……」
「……」
「……なに」
藤也は足首を掴んでくる俺を見下ろし、そう問い掛けてくる。その顔に僅かに動揺の色が滲んでいるのは俺の気のせいではないようだ。
「いや、つい……」
言いながら、そう俺は慌てて藤也から手を離す。
まさか手摺代わりにしようと思ったなんて言えるわけがなく、俺はただそう口ごもった。
終始呆れたような顔をして俺を見下ろしていた藤也だったが、やがてなにも言わずに視線を逸らす。
……絶対引かれてる。
正直、情けなさでいっぱいだがこればかりは苦手なのだからどうしようもない。けれどこれ以上引かれるわけにもいかない、俺はぐっと決意し、一歩、足を踏み出した。
そして、恐る恐る、確実に手摺と足場を確保しながら降りていこうとしたときだった。
「……手、貸そうか?」
そしていつの間にかに真後ろに立っていた藤也に驚いた俺は、苔がびっしりと生えた階段で足を滑らせた。
あとはもう言うまでもない。途中木の枝に刺さりながらも、俺は目的地である地面へと辿り着くことに成功した。
地面直下。全身にあのときと同じ衝撃が走る。
……痛みはなかったが、暫くの間鉛のように体が動かなかった。
「……」
「……大丈夫?」
地面の上、仰向けに倒れたまま動かない俺の目の前に、音もなく藤也は現れる。
「……大丈夫、じゃ、ない」
俺の前に屈み込んだ藤也は俺の腕を掴みそのまま起こしてくれた。藤也に引っ張られるがまま俺はフラフラと立ち上がった。
……また同じ場所で落ちるとは。しかし、これでわかった。亡霊の体がどういうものか。衝撃はあるものの、痛みはない。……本当なら、どっかの骨が折れてもおかしくないのに。
ーー例えば、右腕とか。
着地に失敗して体の下敷きにしてしまった右腕に目を向けたときだ。藤也に掴まれていた腕がボキリと嫌な音を立てる。
「……え?」
体内に響く歪な音に、一瞬何が起きたのか理解できなかった。袖の下、露出した自分の腕に目を向けた俺は目を疑った。
芯を失ったようにぐにゃりと垂れるように曲がった腕は、みるみるうちに不自然に腫れていく。
「っ、え、は……? な、なんだよ、これ……っ」
まるで骨がなくなったかのようにぐにゃりとしなだれる腕だったそこは青黒く変色する。痛みはない。痛みはないが、明らかになにかがおかしい。
耳の奥で、ポキポキと嫌な音は響き続ける。手首から肘、そして肩にかけて見えない何かに内側から骨を砕かれていくような感覚に血の気が引いた。
「う……嘘、なんだよこれ」
「……準一さん、落ち着いて」
「っ、でも、藤也っ、おかしいだろっ、だって、骨が……っ」
いきなりの出来事に混乱した俺は、辛うじて形を保っている左腕を伸ばし目の前の青年にしがみつく。
対する藤也は相変わらずの仏頂面のまま、掴んでいた俺の右腕を優しく撫でる。そして「大丈夫」と、小さく呟いた。
「……俺たちは死なないし、臓器も機能していない。もちろん骨も折れないし、痛みも感じない」
空いた手を俺の背中に回した藤也は、そう子供でも宥めるかのように背中を撫でた。
「俺たちは崖から落ちても骨は折れない。……だって俺たちに骨はないから」
「っ、藤也……」
骨がないならなんで俺の腕がこんな風になるんだ。矛盾している。おかしい。あり得ない。
ぐちゃぐちゃになった頭の中、俺は耳から流れ込んでくる藤也の声に反論する。
「……準一さん、よく聞いて。体がない俺たちは思念だけでできてる。準一さんの考えてることや思い込みが、準一さん自身に影響が出てくる」
「この腕みたいに」骨が砕かれ、醜く腫れ上がった右腕を撫でた藤也は、そう俺の目をじっと覗き込んでくる。
藤也の言葉は俺の頭で理解するには少し無理があるような内容だった。俺が骨が折れると思ったから、折れたってことか。それって。
混乱する頭の中、俺はこんな異様な事態になる前まで考えていたことを思い出す。
──本当なら、どっかの骨が折れてもおかしくないのに。
──例えば、右腕とか。
そこまで考えて、俺はようやくこの状況が飲み込めてきた。藤也がいうことが本当なら、俺のこの腕は俺の意思によって砕けてしまったことになる。
「わ……わかった。わかったけど、これ、どうすりゃいいんだよ」
「……思い込むだけでいい」
「骨は折れない。もし折れても、すぐに元に戻る。いくらあり得なくても、俺たちは幽霊だからあり得ないこともこなせる」そう静かに呟いた藤也は、言いながら俺から体を離す。
藤也からの返事はかなりシンプルなものだった。
「それだけでいい」と、そう短く答える藤也に、俺は自分の右腕から目を逸らし、言われた通りに頭の中で呟く……が、変化はない。
「お、おい、藤也……」
「……あんた、俺の言うこと信じてないだろ」
まさか嘘ついたんじゃないだろうなと藤也に目を向けるが、藤也も藤也で俺を睨んでくる。そう面白くなさそうに呟く藤也に、俺は内心冷や汗を滲ませた。もしかしてこれ、半信半疑じゃ通用しないのか。
「石頭、現実主義、頑固。……想像力ないんだな、あんた」
なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。
自分が信用されていないということがそんなにムカついたのか、藤也は不機嫌そうな顔をして吐き捨てる。グサグサと突き刺さる言葉のナイフに、俺の心は砕けそうになった。
「……悪い。苦手なんだ、考えるのは」
いまこの場で頼れるのが藤也しかいないからだろうか。嫌でも弱気になってしまう。暫くむっとしていた藤也だったが、やがて諦めたように俺に目を向けた。
「苦手なら思い出したらいい。……折れてなかったときの状態を思い浮かべれば多分、治る」
ぶっきらぼうながらもアドバイスをくれる藤也に、俺は「わかった」と慌てて頷く。
なかなかアバウトなアドバイスだったが、俺は言われた通りに先ほどまでの自分の腕を頭の中に思い浮かべた。
集中すること自体が苦手な俺の頭の中に所々雑念が入り雑じり、慌てて俺はそれを振り払う。
「うーん……」
唸りながら元の腕の姿を思い浮かべた。
なかなかなにも起きない腕に、まさかまた騙されたんじゃなかろうかと疑念を抱きかけたが、慌てて俺はそれを振り払う。くそっ、さっさと治れって。
次第にイラつきを覚えた俺がそう口の中で吐き捨てるように呟いたときだった。
腕一本分の骨が砕け、先ほどまでピクリともしなかった右腕に違和感が走る。
「藤也……っ」
「……大丈夫だから、余計なこと考えないで」
皮膚の下を蠢く骨片の感覚はあまり気持ちがいいものではなく、顔をしかめた俺は藤也の腕を強く掴んだ。
そして、藤也はそれを振り払うどころか逆の手で握り返してくれる。俺を宥めさせるためだとはわかっていたが、涼しい顔して俺の手を握る藤也に内心驚いた。
けれど、お陰であれほど混乱していた心が次第に落ち着いていくのがわかった。骨が粉砕したときと同様か、それ以上の早さで形を戻していく腕の骨。
そして、暫くもしないうちに、右腕の嫌な疼きは止んだ。
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた俺は、自分の右腕に目を向ける。そこには、いつもと変わらない俺の腕がついていた。
先程までの異様な腫れも引いている。軽く腕を動かした俺は、手のひらを開いたり閉じたりしてみた。……異常はない、五本の指もそれぞれ動く。
「……戻った……っ!」
いつも通りの右腕に、俺はそう呟けば全身の力が抜けるくらいの安堵に襲われる。ほっとして、自然と涙腺が緩んだ。少し情けなかったが、仕方ない。ここまでわけのわからない恐怖心を感じたのは数年ぶりなのだから。
「……」
安心して喜びに浸る俺を一瞥した藤也は、そのまま何も言わずに俺から手を離し、そして立ち上がった。
そのまま歩き出す藤也に置いていかれないよう、俺は慌てて藤也の後を追い掛けた。
「と、藤也……っ」
「……なに?」
てっきり無視されると思っていたが、藤也はちゃんと返事をしてくれる。……やっぱり、いいやつだ。変なやつだと、ちょっと怖そうなやつだと思っていたけど、ただ不器用なだけなのかもしれない。
「……いや、さっきはその、助かった。ありがとう」
改めてお礼を口にするのはなんだかくすぐったかったが、言わずにはいられなかった。藤也は相変わらず何考えてるかわからないような目で俺を見ていたが、やがて、ふい、とそっぽ向いた。
「……別に、ほっといたら俺まで巻き込まれそうだっただけだから」
それだけ言って、そのままズカズカと森の中を歩いていく。巻き込まれる。妙な言い回しをする藤也になんとなく引っ掛かったものの、藤也の言葉に棘はない。
もし、藤也がいなかったらと思うとゾッとしない。
そこまで考えて、慌ててマイナス思考を振り払った俺は藤也に置いていかれないようにその後を追いかけた。
「……っ、やっぱり、俺が運ぶ」
藤也の腕を掴み、無理矢理引き留める。
いきなり掴まれたのにビックリしたのか、藤也は少し驚いたような顔をして、そして無言で俺から目を逸らした。
そのままなにもいわずに男から手を離す藤也。
「おわっ、ちょ……っ! もっと優しくしてやれよ……!」
「……どうせ気絶してる」
「そういう問題かよ……」
なんとか男の体を支えた俺は、そのまま背負う。
然程重たくは感じなかったが、この状況で男に目を覚まされたら面倒だな。
……それにしても、と俺は空を見上げた。
頭上から降り注ぐ真夏の陽射し。四方から聞こえてくる蝉の鳴き声がやけに煩く聞こえる。……日陰に入りたい。
「なあ、この人ってどこに連れて行ったらいいんだ?」
「……着いてきて」
……一応は案内してくれるらしい。
悪いやつではない……のだろうが、やはりいまいち掴めない。戸惑いながらも、俺はさっさと先を歩いていく藤也の後を追いかけた。
樹海の中、無数の木が無造作に生えたそこは屋敷前よりもいくらか暗く、少しだけ空気が重く感じた。恐らく、いくつもの葉が重なり濃い影ができているせいだろう。ひんやりとした空気が今はありがたい。
それからどれくらい経っただろうか。歩いても歩いても変わらない景色。おまけに、藤也は終始黙りこくったままだ。俺も俺でやつの話しかけるなオーラに屈して何も話しかけられない。
……幸喜のようにお喋りでも疲れるが、まさかここまで沈黙が苦痛になるとは。
勇気を振り絞って、俺は先を歩く藤也の背中に声をかけた。
「……なあ、どこまで行くんだよ」
なんだか酷く久しぶりに言葉を発したような気がする。
前を歩いていた藤也はちらりとこちらを振り返り俺に目を向ければ、再び前を向いた。
「……もう少しだから」
「そうか、もう少しか……遠いな」
「……変わろうか、運ぶの」
「いや、大丈夫……だ」
藤也は、そう、とだけ小さくつぶやき、再び前を向いた。
……無視するかなと思ったけど、案外、素直に返してくれるんだよな。
それからまた暫く俺たちの間には沈黙が続いた。
背負う男の体を抱え直しながらも、ただ俺は先を歩く藤也についていく。
そのときだった。不意に、林の奥の方から複数の声が聞こえてくる。
遠くから聞こえてる喧騒に、俺はふと立ち止まった。
声の内容までは聞こえなかったが、どうやらあまり穏やかな雰囲気ではなさそうだ。場所が場所なだけに人の声が聞こえてくることに酷い違和感を覚えたが、もしかしたらこの男の仲間なのかもしれない。
とにかく、この男のためにも早く帰した方がいいだろう。
「……なにしてんの?」
不意に、前を歩いていたはずの藤也は足を止めこちらを振り返った。どうやら、ついてきていない俺を不審に思ったようだ。喧騒に気を取られていた俺は、慌てて藤也の元まで足を進めた。
林の中。傍までやってきた俺を確認した藤也は、背後の山肌に目を向ける。そこは緑色の草が生えた急な坂になっていて、斜面に生えた無数の歪な木がなかなか危なっかしい。
……どうやら、この先は行き止まりのようだ。
ここに男を下ろしていくのだろうか。そう、俺は辺りに視線を巡らせる。
そのとき、なにを思ったのか藤也は斜面に生えた近くの木に手をかけそのまま急な斜面を登り出した。軽々とした身のこなしに感心するのも束の間。
……まさか、ここを進んで行くってことか。
背中の男と、目の前の草だらけのほぼ壁の斜面を交互に見る。無造作に生えた雑草のお陰で終わりは見えなかったが、かなりの高さがあるように見えた。
「……なにやってんの?」
不意に、頭上から藤也の声が聞こえてくる。
「登れないの?」
「……いや、大丈夫だ」
正直あまり、高いところは苦手だった。仕事のときは足場や手すりがあるのでまだ耐えられたが、このような不安定な場所となると話は別だ。
けれど、ここまで来て弱音を吐いてる場合ではない。
すると、無言でこちらを見下ろしていた藤也はなにも言わずにその場にしゃがみ込み、膝を抱え始める。……どうやら、俺が上がってくるまで待ってるということらしい。
……やるしかないようだ。
近くに生えた木を掴み、そのまま急な坂の斜面に足をかけた。木の根っこの凸に足をかけ、太い木の幹を使い坂を登りながら片腕で気絶した男を支える。坂を上がっていけばいくほど全身から血の気が引いていき、自然と呼吸が乱れた。
下は絶対みるな、下は絶対みるな。
そう自分に暗示をかけながら坂を上がること数十分、うっかり手を滑らせて気絶した男を下へ落とすなどということもなく、俺はあと少しで藤也のいる地上まで辿り着くことができる距離まで登り詰めた。
自分よりも先に、抱えていた男の体を持ち上げた。片腕で持ち上げるのは少し辛かったが、先に地上へ上がっていた藤也がそれを手伝ってくれたおかげで放り投げることにならずに済んだ。そして、そのまま一気に坂を上がりきる。
無事急な斜面を登りきった俺は、その場でへたり込んだ。
「……お疲れ様」
「……どうも」
俺から男を受け取った藤也はそう呟けば、男の体を引き摺り、近くの木の根本に寝かせた。
ようやく落ち着いた俺は、あたりを見渡した。
そして思い出す。そこが俺が幸喜に突き飛ばされたあの崖だと。
「戻るよ」
それだけを言えば来た道をさっさと歩いて戻ろうとする藤也に「またあそこ通るのか」と血の気が引いた。
藤也はそのまま崖のふちに立つ。先を行こうとする藤也の後を追い、坂のふちまでやってきたときだった。
『また転落事故か』
ふとそう遠くないところから嗄れた老人の声が聞こえてくる。
草むらの木の影、進入禁止のテープが貼られたそこにこの近隣の住民たちが野次馬として集まっているようだ。
俺と藤也は立ち止まる。
『さっきうちに警察が来た』
『あの旅館に泊まってたらしい』
『連れの方が通報しただとか』
『死体は?』
『ついさっき運ばれていた』
『まだ若いのに可哀想』
どうやら、ただの野次馬のようだ。集団の話を聞く限り、どうやら俺の体はもうここにもないらしい。いまから俺の体は実家の両親のもとに連れていかれて焼かれたりするのだろうか。自分のことなのにまるで他人事のような気持ちで俺はその会話を聞いていた。
『ここ数年、こんな事故ばっかりじゃないか。どうせまた、肝試しにきた馬鹿が立て札無視して入って死んだんだろ』
不意に、集団の一人がやけに冷めた口調でそんなことを口にした。
ごもっともだった。ぐうの音すらでない。
というか、どうせまたって……。確か仲吉も、事故が多いとかなんか言ってたな。
思いながら、俺は隣に立つ藤也に目を向けた。
まさかこいつらが俺にしたときみたいにやらかしたんじゃないだろうな。
思いながら藤也の横顔を眺めていると、不意に藤也の目がこちらに向くものだから俺は慌てて視線を外した。
『そうなのか?それなら罰が当たったんだろうな』集団の一人がそう頷く。
『やっぱり呪われてるのよ、この場所』集団の一人が青い顔をして辺りに目を向ける。
『……なんだか気持ち悪い。さっさと封鎖したらいいのに』集団の一人は言いながら自分の肩を撫でる。
呪われてるっていうか、やんちゃな霊がはしゃいでるだけだけどな。思いながら、俺は木の影から集団の様子を伺っていた。
「……そろそろ戻るか」
これ以上はなんも情報は得られなさそうだ。
同じことを考えたのだろう、藤也は無言で頷いた。
それから、崖の淵までやってきた俺は、なるべく下を見ないように目を細める。本当なら崖下を見たくないが、見なければ降りるものも降りれない。
「そんなに怖いの?」
「……別に」
「嘘つき。……顔色が悪い。高いところが苦手なんだろ」
……気付かれていたのか。
何も考えていなさそうで鋭い指摘に俺は観念することにした。上りはなんとかいけたが、下りはそう簡単にいくことできないと自分でもわかったからだ。
「なあ、ここ以外に降りる場所はないのか? なるべく緩やかな坂みたいなので」
自分でも情けないことを言ってると思う。けれど、藤也は笑うわけでもなくただ少しだけ考えるように視線を彷徨わせ、そしてぽつりと呟いた。
「階段なら、確かそこにあった気がする」
「ほ、本当か!」
「探してくるから、待ってて」
本当に幸喜と血が繋がってるのかと思うほど、いいやつだった。
そして藤也のいう階段は、さほど離れていないその場所にあった。その斜面に生えた樹の太い根っこが絡み合い、周りに比べて僅かに斜面がゆるやかになっている。
どうやら、藤也はこれのことを言っているようだ。
……悪いが、とてもじゃないけど階段には見えない。先ほどの崖よりかはまだましだが、それでもかなりの高さはある。
「降りないの」
「……降りる、降りれる」
こんなのも降りれないのかと呆れたような顔をする藤也の視線が突き刺さり、俺はそう自分に言い聞かせるように呟く。
「じゃあ……俺、先に下にいるから」
「え……」
「……なに?」
「い、いや……なんでもない……」
そうだ、いくらなんでも一緒にいてくれなんて……流石に、年下であろう藤也に頼むことなんてできない。
わかっていた。ここは正念場だと。男だろ、準一。頑張れ、たださっと降りればいいだけだ。
そう言い聞かせていたとき、そのまま俺よりも先に降りようとしていた藤也を見て、咄嗟に俺はやつの足首を掴んだ。……完全に無意識での行動だった。
「……」
「……」
「……なに」
藤也は足首を掴んでくる俺を見下ろし、そう問い掛けてくる。その顔に僅かに動揺の色が滲んでいるのは俺の気のせいではないようだ。
「いや、つい……」
言いながら、そう俺は慌てて藤也から手を離す。
まさか手摺代わりにしようと思ったなんて言えるわけがなく、俺はただそう口ごもった。
終始呆れたような顔をして俺を見下ろしていた藤也だったが、やがてなにも言わずに視線を逸らす。
……絶対引かれてる。
正直、情けなさでいっぱいだがこればかりは苦手なのだからどうしようもない。けれどこれ以上引かれるわけにもいかない、俺はぐっと決意し、一歩、足を踏み出した。
そして、恐る恐る、確実に手摺と足場を確保しながら降りていこうとしたときだった。
「……手、貸そうか?」
そしていつの間にかに真後ろに立っていた藤也に驚いた俺は、苔がびっしりと生えた階段で足を滑らせた。
あとはもう言うまでもない。途中木の枝に刺さりながらも、俺は目的地である地面へと辿り着くことに成功した。
地面直下。全身にあのときと同じ衝撃が走る。
……痛みはなかったが、暫くの間鉛のように体が動かなかった。
「……」
「……大丈夫?」
地面の上、仰向けに倒れたまま動かない俺の目の前に、音もなく藤也は現れる。
「……大丈夫、じゃ、ない」
俺の前に屈み込んだ藤也は俺の腕を掴みそのまま起こしてくれた。藤也に引っ張られるがまま俺はフラフラと立ち上がった。
……また同じ場所で落ちるとは。しかし、これでわかった。亡霊の体がどういうものか。衝撃はあるものの、痛みはない。……本当なら、どっかの骨が折れてもおかしくないのに。
ーー例えば、右腕とか。
着地に失敗して体の下敷きにしてしまった右腕に目を向けたときだ。藤也に掴まれていた腕がボキリと嫌な音を立てる。
「……え?」
体内に響く歪な音に、一瞬何が起きたのか理解できなかった。袖の下、露出した自分の腕に目を向けた俺は目を疑った。
芯を失ったようにぐにゃりと垂れるように曲がった腕は、みるみるうちに不自然に腫れていく。
「っ、え、は……? な、なんだよ、これ……っ」
まるで骨がなくなったかのようにぐにゃりとしなだれる腕だったそこは青黒く変色する。痛みはない。痛みはないが、明らかになにかがおかしい。
耳の奥で、ポキポキと嫌な音は響き続ける。手首から肘、そして肩にかけて見えない何かに内側から骨を砕かれていくような感覚に血の気が引いた。
「う……嘘、なんだよこれ」
「……準一さん、落ち着いて」
「っ、でも、藤也っ、おかしいだろっ、だって、骨が……っ」
いきなりの出来事に混乱した俺は、辛うじて形を保っている左腕を伸ばし目の前の青年にしがみつく。
対する藤也は相変わらずの仏頂面のまま、掴んでいた俺の右腕を優しく撫でる。そして「大丈夫」と、小さく呟いた。
「……俺たちは死なないし、臓器も機能していない。もちろん骨も折れないし、痛みも感じない」
空いた手を俺の背中に回した藤也は、そう子供でも宥めるかのように背中を撫でた。
「俺たちは崖から落ちても骨は折れない。……だって俺たちに骨はないから」
「っ、藤也……」
骨がないならなんで俺の腕がこんな風になるんだ。矛盾している。おかしい。あり得ない。
ぐちゃぐちゃになった頭の中、俺は耳から流れ込んでくる藤也の声に反論する。
「……準一さん、よく聞いて。体がない俺たちは思念だけでできてる。準一さんの考えてることや思い込みが、準一さん自身に影響が出てくる」
「この腕みたいに」骨が砕かれ、醜く腫れ上がった右腕を撫でた藤也は、そう俺の目をじっと覗き込んでくる。
藤也の言葉は俺の頭で理解するには少し無理があるような内容だった。俺が骨が折れると思ったから、折れたってことか。それって。
混乱する頭の中、俺はこんな異様な事態になる前まで考えていたことを思い出す。
──本当なら、どっかの骨が折れてもおかしくないのに。
──例えば、右腕とか。
そこまで考えて、俺はようやくこの状況が飲み込めてきた。藤也がいうことが本当なら、俺のこの腕は俺の意思によって砕けてしまったことになる。
「わ……わかった。わかったけど、これ、どうすりゃいいんだよ」
「……思い込むだけでいい」
「骨は折れない。もし折れても、すぐに元に戻る。いくらあり得なくても、俺たちは幽霊だからあり得ないこともこなせる」そう静かに呟いた藤也は、言いながら俺から体を離す。
藤也からの返事はかなりシンプルなものだった。
「それだけでいい」と、そう短く答える藤也に、俺は自分の右腕から目を逸らし、言われた通りに頭の中で呟く……が、変化はない。
「お、おい、藤也……」
「……あんた、俺の言うこと信じてないだろ」
まさか嘘ついたんじゃないだろうなと藤也に目を向けるが、藤也も藤也で俺を睨んでくる。そう面白くなさそうに呟く藤也に、俺は内心冷や汗を滲ませた。もしかしてこれ、半信半疑じゃ通用しないのか。
「石頭、現実主義、頑固。……想像力ないんだな、あんた」
なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。
自分が信用されていないということがそんなにムカついたのか、藤也は不機嫌そうな顔をして吐き捨てる。グサグサと突き刺さる言葉のナイフに、俺の心は砕けそうになった。
「……悪い。苦手なんだ、考えるのは」
いまこの場で頼れるのが藤也しかいないからだろうか。嫌でも弱気になってしまう。暫くむっとしていた藤也だったが、やがて諦めたように俺に目を向けた。
「苦手なら思い出したらいい。……折れてなかったときの状態を思い浮かべれば多分、治る」
ぶっきらぼうながらもアドバイスをくれる藤也に、俺は「わかった」と慌てて頷く。
なかなかアバウトなアドバイスだったが、俺は言われた通りに先ほどまでの自分の腕を頭の中に思い浮かべた。
集中すること自体が苦手な俺の頭の中に所々雑念が入り雑じり、慌てて俺はそれを振り払う。
「うーん……」
唸りながら元の腕の姿を思い浮かべた。
なかなかなにも起きない腕に、まさかまた騙されたんじゃなかろうかと疑念を抱きかけたが、慌てて俺はそれを振り払う。くそっ、さっさと治れって。
次第にイラつきを覚えた俺がそう口の中で吐き捨てるように呟いたときだった。
腕一本分の骨が砕け、先ほどまでピクリともしなかった右腕に違和感が走る。
「藤也……っ」
「……大丈夫だから、余計なこと考えないで」
皮膚の下を蠢く骨片の感覚はあまり気持ちがいいものではなく、顔をしかめた俺は藤也の腕を強く掴んだ。
そして、藤也はそれを振り払うどころか逆の手で握り返してくれる。俺を宥めさせるためだとはわかっていたが、涼しい顔して俺の手を握る藤也に内心驚いた。
けれど、お陰であれほど混乱していた心が次第に落ち着いていくのがわかった。骨が粉砕したときと同様か、それ以上の早さで形を戻していく腕の骨。
そして、暫くもしないうちに、右腕の嫌な疼きは止んだ。
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた俺は、自分の右腕に目を向ける。そこには、いつもと変わらない俺の腕がついていた。
先程までの異様な腫れも引いている。軽く腕を動かした俺は、手のひらを開いたり閉じたりしてみた。……異常はない、五本の指もそれぞれ動く。
「……戻った……っ!」
いつも通りの右腕に、俺はそう呟けば全身の力が抜けるくらいの安堵に襲われる。ほっとして、自然と涙腺が緩んだ。少し情けなかったが、仕方ない。ここまでわけのわからない恐怖心を感じたのは数年ぶりなのだから。
「……」
安心して喜びに浸る俺を一瞥した藤也は、そのまま何も言わずに俺から手を離し、そして立ち上がった。
そのまま歩き出す藤也に置いていかれないよう、俺は慌てて藤也の後を追い掛けた。
「と、藤也……っ」
「……なに?」
てっきり無視されると思っていたが、藤也はちゃんと返事をしてくれる。……やっぱり、いいやつだ。変なやつだと、ちょっと怖そうなやつだと思っていたけど、ただ不器用なだけなのかもしれない。
「……いや、さっきはその、助かった。ありがとう」
改めてお礼を口にするのはなんだかくすぐったかったが、言わずにはいられなかった。藤也は相変わらず何考えてるかわからないような目で俺を見ていたが、やがて、ふい、とそっぽ向いた。
「……別に、ほっといたら俺まで巻き込まれそうだっただけだから」
それだけ言って、そのままズカズカと森の中を歩いていく。巻き込まれる。妙な言い回しをする藤也になんとなく引っ掛かったものの、藤也の言葉に棘はない。
もし、藤也がいなかったらと思うとゾッとしない。
そこまで考えて、慌ててマイナス思考を振り払った俺は藤也に置いていかれないようにその後を追いかけた。
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