20 / 21
真欺君と叶え屋さん
11
しおりを挟む「三全」
「なんだ?」
「この学校に叶え屋を呼ぶことはできないのか?」
ふと、頭の中に浮かんだ疑問をそのまま口に出せば三全は口角を持ち上げる。目が笑っていないせいでバランスの笑い笑顔だ。
「そうだな、試してみる価値はありそうだ」
「因みに呼び方は知らんが、願いを持った相手の前に現れる……らしい」
「なるほど、だとしても俺の前に現れても良さそうなものだが」
確かに。三全は『この学校を平和にする』という願いを持っていたはずだ。願いにも優先順位が存在するのか、はたまた客を選んでるのかは不明だが妙に引っかかる。
「まあいい。こちらでも叶え屋については調べてみよう。また夜に来い」
「……俺も?」
「気になるという顔をしてる」
「別にしてないが」
「まあそういうな。何かあったときの保険だ」
俺がいたってどうしようもないだろう。
面倒臭くはあったが、叶え屋なるものが一体どんな物好きなのかは気になった。
「気が向いたらな」とだけ言っておけば、三全は声も上げずに笑みを深くするのだ。それから、視線を宙へと向けた後じっと三全はこちらを見る。
「そういえば、外にいるアレのことだが」
「アレ?」
「黒い影の怪異。……あれはお前の仲間か?」
不意に最近ついてくるあの黒いストーカーを思い出す。仲間、と言われたらまだしっくりと来ないが、一応言葉にするのならば。
「……友達、らしい」
「ふうん」
自分から聞いてきた割にあまりにも三全の反応は薄い。疑ってるわけではなさそうだが、なんとなくその目は冷たい。
「どうやらここまでは入ってこないらしいな。アンタが足止めでもしてるのか?」
「俺は関与してない。所詮この地に取り残されたただの地縛霊だからな。……この学校にいるやつらは思い入れの強いやつらばかりだ。部外者がやってくるのを拒む愛校心強い者たちが多い。そいつらの仕業かもな」
「愛校心……」
「ここへと招き入れたいのか?」
「違う」
思いの外その言葉はすんなりと出てきた。校内へと招き入れられてみろ、それこそ四六時中べったりと付き纏われることは目に見えてる。それに、あくまで俺には無害ではあるが第三者は不明だ。
そう考えると今の状況は丁度いいのかもしれない。
「そうか。それにしても、……」
「……? なんだ?」
「随分と懐かれているな」
「……成り行きだ」
「ふうん。敵を作るよりかはいいが、味方を選ぶ必要もある。……ああいう赤子は特に育ち方で変わる」
「赤子?」
「ああ、見たところ産まれたての雛のようだ。吸収も早く成長も目覚ましい。あんたの気を吸って育ってるのだろうな、見たところ安定はしているが……」
「……」
「人の気を吸って育つ者は外部の刺激に敏感だ。かといって音質で育てると少しの刺激で爆発する可能性もある。……子飼いにするのなら慎重になった方がいい。お前に耐性はないようだからな」
「……ご忠告どうも」
聞きたくもない話を聞かされた気がする。
要するに、どうしようもできない爆弾を掴まされたも同然だ。忠告の意味はあったのか。
「余計なお世話だったな。許せ。どうやら俺は俺が思ってたよりも人間の話し相手に飢えていたようだ」
「……まあ、気持ちは分からなくもない」
「は、そうか。……変な子供だな」
俺と同じ制服を身に纏った姿のアンタに言われたくないが、ここはありがたく頂戴しておく。
世間話もほどほどに踊り場から立ち去ろうとすれば、背後から声がかかった。
「夜、また人が去った後に来い。準備は済ませておく」
期待しておく、という返事の代わりに軽く手を挙げ、そのままの足取りで教室へと戻ることにした。
教室に戻れば今世がいた。珍しく今度は一人だ。
教室に足を踏み入れるなり、はっとした顔の今世がこちらへと駆け寄ってくる。
「真欺、どこに居たんだ?」
「便所」
「嘘吐け、居なかっただろ。探しに行ったんだからな」
「……」
「まさかまた変なことに巻き込まれたとかじゃ……ねーよな?」
不安そうな顔。心配しすぎじゃないかとも思ったが、悪い気はしなかった。
……一応、今世には説明しておくか。
この間も邪魔が入って結局まともに話すことができなかったし。
一先ず、今自分が何に巻き込まれているのか、何について調べているのかを今世に伝えることにする。
85
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
テニサーに入ったら肉便器になった男の話
鳫葉あん
BL
大学のテニサーに入った新入生が先輩達三人の肉便器に仕立て上げられつつも関係性を変化させようとする総受け話。
始まりは酷いけどハッピーエンドになってると思われます。
※FANBOXで公開してましたが諸事情によりこちらで公開します
※淫語・モロ語・NTR的描写などあります
※ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿します
掃除中に、公爵様に襲われました。
天災
BL
掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。
すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。
泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。
すると、その「何者か」は公爵であったのだ。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる