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真欺君と叶え屋さん

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「三全」
「なんだ?」
「この学校に叶え屋を呼ぶことはできないのか?」

 ふと、頭の中に浮かんだ疑問をそのまま口に出せば三全は口角を持ち上げる。目が笑っていないせいでバランスの笑い笑顔だ。

「そうだな、試してみる価値はありそうだ」
「因みに呼び方は知らんが、願いを持った相手の前に現れる……らしい」
「なるほど、だとしても俺の前に現れても良さそうなものだが」

 確かに。三全は『この学校を平和にする』という願いを持っていたはずだ。願いにも優先順位が存在するのか、はたまた客を選んでるのかは不明だが妙に引っかかる。

「まあいい。こちらでも叶え屋については調べてみよう。また夜に来い」
「……俺も?」
「気になるという顔をしてる」
「別にしてないが」
「まあそういうな。何かあったときの保険だ」

 俺がいたってどうしようもないだろう。
 面倒臭くはあったが、叶え屋なるものが一体どんな物好きなのかは気になった。
「気が向いたらな」とだけ言っておけば、三全は声も上げずに笑みを深くするのだ。それから、視線を宙へと向けた後じっと三全はこちらを見る。

「そういえば、外にいるアレのことだが」 
「アレ?」
「黒い影の怪異。……あれはお前の仲間か?」

 不意に最近ついてくるあの黒いストーカーを思い出す。仲間、と言われたらまだしっくりと来ないが、一応言葉にするのならば。

「……友達、らしい」
「ふうん」

 自分から聞いてきた割にあまりにも三全の反応は薄い。疑ってるわけではなさそうだが、なんとなくその目は冷たい。

「どうやらここまでは入ってこないらしいな。アンタが足止めでもしてるのか?」
「俺は関与してない。所詮この地に取り残されたただの地縛霊だからな。……この学校にいるやつらは思い入れの強いやつらばかりだ。部外者がやってくるのを拒む愛校心強い者たちが多い。そいつらの仕業かもな」
「愛校心……」
「ここへと招き入れたいのか?」
「違う」

 思いの外その言葉はすんなりと出てきた。校内へと招き入れられてみろ、それこそ四六時中べったりと付き纏われることは目に見えてる。それに、あくまで俺には無害ではあるが第三者は不明だ。
 そう考えると今の状況は丁度いいのかもしれない。

「そうか。それにしても、……」
「……? なんだ?」
「随分と懐かれているな」
「……成り行きだ」
「ふうん。敵を作るよりかはいいが、味方を選ぶ必要もある。……ああいう赤子は特に育ち方で変わる」
「赤子?」
「ああ、見たところ産まれたての雛のようだ。吸収も早く成長も目覚ましい。あんたの気を吸って育ってるのだろうな、見たところ安定はしているが……」
「……」
「人の気を吸って育つ者は外部の刺激に敏感だ。かといって音質で育てると少しの刺激で爆発する可能性もある。……子飼いにするのなら慎重になった方がいい。お前に耐性はないようだからな」
「……ご忠告どうも」

 聞きたくもない話を聞かされた気がする。
 要するに、どうしようもできない爆弾を掴まされたも同然だ。忠告の意味はあったのか。

「余計なお世話だったな。許せ。どうやら俺は俺が思ってたよりも人間の話し相手に飢えていたようだ」
「……まあ、気持ちは分からなくもない」
「は、そうか。……変な子供だな」

 俺と同じ制服を身に纏った姿のアンタに言われたくないが、ここはありがたく頂戴しておく。
 世間話もほどほどに踊り場から立ち去ろうとすれば、背後から声がかかった。

「夜、また人が去った後に来い。準備は済ませておく」

 期待しておく、という返事の代わりに軽く手を挙げ、そのままの足取りで教室へと戻ることにした。

 教室に戻れば今世がいた。珍しく今度は一人だ。
 教室に足を踏み入れるなり、はっとした顔の今世がこちらへと駆け寄ってくる。

「真欺、どこに居たんだ?」
「便所」
「嘘吐け、居なかっただろ。探しに行ったんだからな」
「……」
「まさかまた変なことに巻き込まれたとかじゃ……ねーよな?」

 不安そうな顔。心配しすぎじゃないかとも思ったが、悪い気はしなかった。
 ……一応、今世には説明しておくか。
 この間も邪魔が入って結局まともに話すことができなかったし。
 一先ず、今自分が何に巻き込まれているのか、何について調べているのかを今世に伝えることにする。

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