モノマニア

田原摩耶

文字の大きさ
上 下
20 / 85
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。

風紀室の鬼 *風紀室side

しおりを挟む
【side:風紀】

 ――風紀室。
 鬼ごっこのコース外である風紀室のある棟は他の棟と比べ酷くひっそりとしていた。それは風紀室内も同じだ。
 そんな静まり返った風紀室内、風紀委員長である敦賀真言はいた。窓の外、騒がしい校舎を傍観する敦賀の背後に影が一つ、歩み寄る。

「なんだ、あんたは不参加か」

 聞こえてきたのは聞きたくもない男の声だった。
 背後を振り向かずとも、それが誰かは安易に想像つく。

「勝手に入ってくるな」
「俺がいつどこへ行こうと自由だろ?あんたも、興味ないはずだ」
「ああ、そうだな」

 近くの棚の上に置かれたボードを手に取った敦賀。
 それを、顔を守るように盾にすれば、次の瞬間、べこりとボードが凹む。

「俺の視界に入らない限りは、だが」

 使い物にならなくなったボードをゆっくりと下ろし、その向こう側にいた男に目を向ける。
 赤みを帯びた短い髪。生徒会長、玉城由良は顔色一つ変えない敦賀に苦笑した。その笑い方が気にくわず、敦賀は一層顔をしかめる。

「なんの用だ。遊びに付き合っている暇はない」
「…はっ、わかってるくせに。お前の恋人のことだよ。血眼になって探してるだろうからわざわざアドバイスしにきてやったってのに」

 恋人という単語に、一人の生徒の顔が浮かんだ。しかし、込み上げてきたのはその生徒の愛しさよりも玉城の軽薄さに対する不快感だった。

「お前から聞くアドバイスなんてない」
「そうつれないこというなよ。……そういや、あいつは変わった癖を持ってるらしいな」

 思い出したように、白々しく言葉を紡ぐ玉城。奴の口から出た『癖』という単語に反応する敦賀。目が合えば、玉城は笑う。

「性恐怖症」
「…!」

 全身が緊張する。
 なぜ、玉城がそんなことを知っているのか。嫌な予感に、全身の血液が熱く煮えたぎるのを感じる。目の色を変える敦賀に怯むわけでもなく、寧ろ楽しそうに玉城は続けた。

「おっかしいよなぁ、あんな遊んでそうな顔してヤるのが怖いとか。ああ、違うな。ヤラれるのが、か」

 言い終わると同時に、痺れを切らした敦賀が玉城の胸倉を掴んだ。

「お前、京になにをした」
「人聞き悪いな。なんにもしてねえよ、俺はな」

 ――俺は。
 含んだ物言いをする玉城に嫌な予感を覚えた敦賀は携帯を取り出す。連絡先から呼び出したのは、現在鬼ごっこに参加しているであろう風紀委員だ。

「至急、総員校内のパトロールに回れ!いいか、至急だ!」

 端末に向かって声を上げる。狼狽えるような委員の声を最後まで聞くことをせず、敦賀は一方的に通話を終了させる。
 そして、余裕を無くす敦賀をにやにやと眺めていた玉城に目を向ける。

「…玉城、お前はなにがしたいんだ。何が目的だ。…何故、あいつに関わろうとする」
「そうだな、強いて言うなら…好きな子は虐めたくなる質なもんで」
「貴様は一度痛い目を見た方がよさそうだな」

 冗談でも、聞き捨てることはできなかった。風紀室入り口扉が開き、風紀の腕章をつけた数人の生徒が風紀室へと入ってくる。

「おい、なにするつもりだよ。俺はまだ何もしていない」
「俺の気分が害された。お前みたいなクズを処分するのには、それだけで充分だ」

 感情のない目で相手を見据える敦賀を合図に、委員たちに周囲を取り囲まれる。それでも愉快でたまらなくて、玉城は笑う。優等生の皮を剥がされ、現れたかつての悪友の顔に玉城は喜んだ。

「それでこそ、マコトだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...