モノマニア

田原摩耶

文字の大きさ
上 下
15 / 88
出揃った役者、逃亡する主役。

王子様の企み

しおりを挟む
 ――学生寮内、食堂前。

「珍しいですね、仙道が僕を食事に誘うなんて」
「ちーちゃんこそ、珍しーじゃん。親衛隊は?」

 まだ制服のままのちーちゃんの周りにはいつものちっこい親衛隊たちの姿はなく、何なんとなく気になって尋ねてみたらちーちゃんは控えめに笑った。

「あれ、仙道は聞いてなかったのですかね」
「なにが?」
「昨日、親衛隊を解散させたんですよ」
「へー解散ねぇ」

 そりゃどうりでいないわけだ。
 ……って、解散?

「え、何、解散て」

 ありえない。あんなに親衛隊をかわいがっていたちーちゃんが親衛隊を解散させるなんて。初耳だ。とりくろう余裕すらなくて、思わず素で動揺する俺にちーちゃんはクスクスと上品に笑う。

「仙道、酷い顔になってますよ」
「だって、普通にびびんだけど」
「でしょうね、だって嘘ですから」

 ケロリとした顔で続けるちーちゃん。これほどまでにこの男をはっ倒したくなったことはないだろう。
 色々なことが重なってナイーブになっていただけにちーちゃんのいらぬお茶目にまんまと引っ掛けられた俺は何だから居た堪れなくなる。

「……もうちーちゃんのこと信じない」
「元から信じてないくせに面白いことを言いますね。可愛かったですよ、ショック受けた貴方の顔」

 そんなに僕の事が好きですか、なんてまた頭の湧いたようなことを言い出すちーちゃん。

「親衛隊の子たちが気になっただけだし。解散の腹いせでさらに暴走すんじゃないかって」
「貴方が心配してくれるなんて珍しいじゃないですか」

 心配というか、これ以上仕事が増えたらやなだけなんだけど。
 敢えて口には出さないが、俺の性格を把握しているちーちゃんにはバレているかもしれない。

「でもまあ、解散されそうなのは本当なんですけどね」

 俺にだけ聞こえる声でポツリとつぶやかれたその一言にどういう意味だとちーちゃんを見上げる。目あってちーちゃんは笑った。

「立ち話も何ですし、食堂へと行きましょうか。今ならきっと、そう混んでないはずですし」


 というわけでちーちゃんと一緒に食堂までやってきた俺。
 行くまでの間なんかちっちゃくてやかましいちーちゃんの親衛隊らしき子達が石動様石動様うるさかったから俺達は食堂の個室借りて二人きりになることにする。
 生徒会役員の特権だ。せっかく役員になったんだから利用しないとね。

「ちーちゃんの親衛隊ってさ、可愛い顔してる割に怖いよね」
「やはり愛の大きさでしょうか。やぁ、愛されてるって恐ろしいですねぇ」

 ふふふ、と笑いながら分厚いステーキを一切パクリ。
 昼間っぱらからそんな胃もたれしそうなもんよく食えるなーなんて思いながら俺は目の前のちーちゃんを眺める。ご丁寧にナプキンで口周りを拭ったちーちゃんはゆっくりと俺を見た。

「あなたのところはどうなんですか」
「どうって、何が」
「佐倉君、親衛隊結成したそうじゃないですか」

 全く、どいつもこいつも情報が早い。もしかして純のやつが言いふらしてるんじゃないのかと疑いたくなる。

「親衛隊っつーか、あれ非公認だから」
「またそんな事言って。いいじゃないですか、佐倉君に任せといたほうが貴方も楽になるんじゃないですか?実際、僕も親衛隊に助けられてますから」
「夜、寂しい時とか?」

 そう軽口叩けば、小さく笑ったちーちゃんは「秘密です」と呟く。いつもなら聞いてもいない下半身の事情までくっちゃべるちーちゃんがはぐらかすのが珍しく感じたが、詳しく追求する気にもならなかった。
 俺は手元のサラダにフォークを立てた。サクリと音を立て、葉物野菜に刃先が突き刺さる。
 ちーちゃんは、俺と純の関係に薄々気が付いているようだ。ただの先輩後輩ではないと。それでも何も言ってこないのはこの学園にとって然程珍しいことではないからだろうか。
 たまに気持ちが悪いけど話が通じるちーちゃんは俺にとっていい話し相手だった。……恋の相談相手としても。

「んで、さっきの話なんだけど」
「ああ、僕の親衛隊のことでしょう」
「なんで、解散の話なんか出てんの」
「そりゃ勿論、ここ最近の騒動が原因でしょうね」
「誰が言ってんの?」
「うちの会長以外誰がいるんですか」

 まあ、なんとなく想像はついていた。
 ――生徒会会長、玉城由良。
 またあの男か、と舌打ちをせずにはいられなかった。

「ほんと、あの人何考えてんだろーね」

 悪趣味なのには変わりないのだろうけど。俺が言いたいことが分かったらしい。ちーちゃんは笑う。

「さぁ、僕にもあの人のことはわかりません」
「仲いいんじゃねーの?」
「そりゃまぁ役職上顔を合わせる機会も多いですが、だからといって会長のことをなんでも知ってるわけではないので」
「ふーん」

 なんとなく腑に落ちないが、ちーちゃんにあたっても仕方がない。

「しかしまぁ、新歓のこともですがまた良からぬことを企んでいなければいいのですが」

 また、という単語が喉に引っかかる。またってことは、前にも何かあったということだろうか。

「とにかく、あなたもくれぐれも気をつけたほうがいいですよ。あまり、食えない相手ですからね」
「確かに。腹壊しそーだね」
「下品な方ですね。食事中にそういうことを言うのはやめてください」

 お前にだけは言われたくない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ちょろぽよくんはお友達が欲しい

日月ゆの
BL
ふわふわ栗毛色の髪にどんぐりお目々に小さいお鼻と小さいお口。 おまけに性格は皆が心配になるほどぽよぽよしている。 詩音くん。 「えっ?僕とお友達になってくれるのぉ?」 「えへっ!うれしいっ!」 『黒もじゃアフロに瓶底メガネ』と明らかなアンチ系転入生と隣の席になったちょろぽよくんのお友達いっぱいつくりたい高校生活はどうなる?! 「いや……、俺はちょろくねぇよ?ケツの穴なんか掘らせる訳ないだろ。こんなくそガキ共によ!」 表紙はPicrewの「こあくまめーかー😈2nd」で作成しました。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...