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メンヘラ
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「もう、怒んないでよ。愛斗に捨てられたらお祝いしてやるからさー相馬も呼んでパーティーしようね」
「……」
――相馬。
ぴく、と反応しそうになるのを誤魔化してスマホを取り出した。もうこいつと話してたら脳細胞が一本ずつ死んでいく。しらね。相手にしねえからなという体で無視しようとしたら、「ごめんてば」って今度は抱きついてきた。重い。
「冗談だって。ほらほら、愛斗追いかけなくていいの? 置いてかれちゃうよ~」
「置いてかれただろ、今見てたろ」
「まだ間に合うって。ほら、ごめんなさいしてきなよ」
「俺が謝る側前提かよ」
「え? 違うの?」
違わねえから癪なんだよな。
無言で岸本の頭に肘を置けば、「それやだ!」と岸本に噛み付かれた。それから岸本にほらほらと背中を押されるようにして半ば無理矢理足を進まされる。
どうせもう先に行ったろ、と思ったが、思ったよりすぐ愛斗に追いついた。
――駅前、横断歩道前。
律儀に赤信号を待ってた愛斗。その隣に並べば、愛斗はちらりとこちらを見て無言で顔を逸らす。なんだよその反応は。
「てか愛斗、そーいや相馬は? 一緒じゃないの?」
人を挟んで愛斗に絡んでいく岸本。どうやら最初から見てたというわけではないらしい。
愛斗は岸本の方に目もくれず、「先に行かせた」とだけ返す。百点満点の無愛想さだ。
けどそれくらいの反応は愛斗の周囲の人間は慣れてる。俺含めて。
「へえ、珍しいねー。喧嘩でもしたの?」
喧嘩、と岸本が口にした瞬間、ぴくりと愛斗の肩が反応するのが見えた。それを誤魔化すように愛斗はふい、と更に顔を逸らす。
「……別に、どうでもいいだろ」
「もー愛斗つめたーい! そんなんだから大地に浮気ばっかされ――」
俺は光の速さで岸本の口を塞いだ。こいつを自由に話させていたらどうなるかくらい生まれてから長い間付き合っているこちらは把握はしている。こいつは進んで触れられたくない部分に敢えて塩瓶片手に腕を突っ込んでいくようなやつだと。
「んご……むぐぐ!」
でも、もし愛斗と相馬が喧嘩してたとしても一緒に登校してたし、見た感じ露骨に喧嘩してるようには見えなかった。
と、人が真面目に考えてるところ、ガリ、と思いっきり岸本に手の甲を引っ掛かれる。つか、爪が刺さってる。
「葵衣ちゃん凶器持ち歩いてんのやばいって」
「あ、これ対痴漢暴漢対策。便利でしょ?」
「もしかして俺のこと言ってる?」
「違うの?」と悪意100%の笑顔で俺の手を振り払う岸本。本当、可愛くねえな。こいつのことを可愛い~と声揃える女子たちに見せたいくらいだ。
しっかり血が滲んでる手の甲をスラックスで拭ってると丁度信号が青に変わる。
「……おい、あんまでかい声で騒ぐなよ」
信号機の下に取り付けられたスピーカーから流れ出す音楽。一斉に信号を渡り出すその他大勢に混ざり、それだけを言い残して愛斗は歩き出す。
もしかして俺と岸本が仲良くしてんの見て妬いたのか。いや別に仲良くしてねえけど。
「はーい」と適当に返しつつ、俺たちも歩き出す。
「ほら、大地の声でかいから怒られたじゃん」
「ちげーよ。あれはヤキモチな。あと葵衣ちゃんがキャンキャンうるせえって言ってんだよ」
「自分に都合いいところしか見てないじゃん。僕好きだよ、大地のその無駄な自己肯定感」
「貶すか褒めるかどっちかにしろ」
「褒めてんだよ、羨ましい脳味噌だなって。悩みがなさそう」
なんだとこのチビ。
睨み返せば岸本は楽しそうに笑いながら横断歩道を小走りで走っていく。
まあ。日頃から数多くの女子たちに相談されたり泣き付かれてる岸本に比べたらそりゃ俺の悩みなんて可愛らしいかもしんねーけど。
なんだかスッキリしないままさっさと歩いていく愛斗目指して岸本について歩く。
やっぱよく考えても褒められた気はしなかった。
「……」
――相馬。
ぴく、と反応しそうになるのを誤魔化してスマホを取り出した。もうこいつと話してたら脳細胞が一本ずつ死んでいく。しらね。相手にしねえからなという体で無視しようとしたら、「ごめんてば」って今度は抱きついてきた。重い。
「冗談だって。ほらほら、愛斗追いかけなくていいの? 置いてかれちゃうよ~」
「置いてかれただろ、今見てたろ」
「まだ間に合うって。ほら、ごめんなさいしてきなよ」
「俺が謝る側前提かよ」
「え? 違うの?」
違わねえから癪なんだよな。
無言で岸本の頭に肘を置けば、「それやだ!」と岸本に噛み付かれた。それから岸本にほらほらと背中を押されるようにして半ば無理矢理足を進まされる。
どうせもう先に行ったろ、と思ったが、思ったよりすぐ愛斗に追いついた。
――駅前、横断歩道前。
律儀に赤信号を待ってた愛斗。その隣に並べば、愛斗はちらりとこちらを見て無言で顔を逸らす。なんだよその反応は。
「てか愛斗、そーいや相馬は? 一緒じゃないの?」
人を挟んで愛斗に絡んでいく岸本。どうやら最初から見てたというわけではないらしい。
愛斗は岸本の方に目もくれず、「先に行かせた」とだけ返す。百点満点の無愛想さだ。
けどそれくらいの反応は愛斗の周囲の人間は慣れてる。俺含めて。
「へえ、珍しいねー。喧嘩でもしたの?」
喧嘩、と岸本が口にした瞬間、ぴくりと愛斗の肩が反応するのが見えた。それを誤魔化すように愛斗はふい、と更に顔を逸らす。
「……別に、どうでもいいだろ」
「もー愛斗つめたーい! そんなんだから大地に浮気ばっかされ――」
俺は光の速さで岸本の口を塞いだ。こいつを自由に話させていたらどうなるかくらい生まれてから長い間付き合っているこちらは把握はしている。こいつは進んで触れられたくない部分に敢えて塩瓶片手に腕を突っ込んでいくようなやつだと。
「んご……むぐぐ!」
でも、もし愛斗と相馬が喧嘩してたとしても一緒に登校してたし、見た感じ露骨に喧嘩してるようには見えなかった。
と、人が真面目に考えてるところ、ガリ、と思いっきり岸本に手の甲を引っ掛かれる。つか、爪が刺さってる。
「葵衣ちゃん凶器持ち歩いてんのやばいって」
「あ、これ対痴漢暴漢対策。便利でしょ?」
「もしかして俺のこと言ってる?」
「違うの?」と悪意100%の笑顔で俺の手を振り払う岸本。本当、可愛くねえな。こいつのことを可愛い~と声揃える女子たちに見せたいくらいだ。
しっかり血が滲んでる手の甲をスラックスで拭ってると丁度信号が青に変わる。
「……おい、あんまでかい声で騒ぐなよ」
信号機の下に取り付けられたスピーカーから流れ出す音楽。一斉に信号を渡り出すその他大勢に混ざり、それだけを言い残して愛斗は歩き出す。
もしかして俺と岸本が仲良くしてんの見て妬いたのか。いや別に仲良くしてねえけど。
「はーい」と適当に返しつつ、俺たちも歩き出す。
「ほら、大地の声でかいから怒られたじゃん」
「ちげーよ。あれはヤキモチな。あと葵衣ちゃんがキャンキャンうるせえって言ってんだよ」
「自分に都合いいところしか見てないじゃん。僕好きだよ、大地のその無駄な自己肯定感」
「貶すか褒めるかどっちかにしろ」
「褒めてんだよ、羨ましい脳味噌だなって。悩みがなさそう」
なんだとこのチビ。
睨み返せば岸本は楽しそうに笑いながら横断歩道を小走りで走っていく。
まあ。日頃から数多くの女子たちに相談されたり泣き付かれてる岸本に比べたらそりゃ俺の悩みなんて可愛らしいかもしんねーけど。
なんだかスッキリしないままさっさと歩いていく愛斗目指して岸本について歩く。
やっぱよく考えても褒められた気はしなかった。
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